この記事では「火中の栗を拾う」について解説する。

端的に言えば火中の栗を拾うの意味は「自分の利益とならないにも関わらず、他人のために危険を冒すこと」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

営業マネージャーとして勤務し、カナダでの留学を経てライターとして活動中のナガタナミキを呼んです。一緒に「火中の栗を拾う」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/ナガタ ナミキ

外資企業の営業マネージャーとして勤務し、相手に伝わる会話表現やコーチングスキルについて学ぶ。カナダでの留学を経て、言葉の持つニュアンスや響きを大切にするライターとして現在活動中。

「火中の栗を拾う」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「火中の栗を拾う(かちゅうのくりをひろう)」の意味や語源・使い方を確認していきましょう。

「火中の栗を拾う」の意味は?

「火中の栗を拾う」には、次のような意味があります。

《猿におだてられた猫が、いろりの中の栗を拾って大やけどをしたという、ラ・フォンテーヌの寓話 (ぐうわ) から》
自分の利益にならないのに、他人のために危険を冒すたとえ。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「火中の栗を拾う」

「火中の栗を拾う」と聞くと、焼いている栗を拾う様子がイメージできるかもしれません。しかしそれではこの言葉の本質を掴んだとは言えません。なぜなら「火中の栗を拾う」はフランスの寓話を元に生まれたことわざであり、それが日本語に訳されて伝わったものであるからです。つまり、正しい意味を知るためには物語を知る必要があります。

また、寓話での本来の意味と日本語で使われる意味がやや異なる場合もあるので、次項で説明しますね。物語の内容に触れながら、どのような心情やニュアンスをもって用いられるのかを一緒に確認していきましょう。

みなさんは寓話(ぐうわ)とは何か知っていますか?

寓話とは、動物や自然現象などが登場人物となり、まるで人間のように話したり考えたりする物語です。擬人化した彼らを通して教訓や風刺を伝えるものが一般的で、その多くはユーモアに富んでいます。代表的な作品には『アリとキリギリス』『ウサギとカメ』『北風と太陽』などがあり、ご存知の方も多いのではないでしょうか。

\次のページで「「火中の栗を拾う」の語源は?」を解説!/

「火中の栗を拾う」の語源は?

次に「火中の栗を拾う」の語源についてです。

フランスの詩人、ラ・フォンテーヌ(1621-1695)が残した寓話『猿と猫』が「火中の栗を拾う」の語源となっています。簡単にそのあらすじを確認しましょう。

ある日、同じ主人のもとで暮らす猿と猫が、暖炉で栗が焼かれているのを見ていました。
ずる賢い猿は猫に「君なら上手に栗を取り出せるよ」とそそのかします。
おだてられた猫はその気になり、何とか火の中から栗を取り出しました。
しかし、猫は大やけどを負い、何もしなかった猿に栗をすべて食べられてしまいます。

猫は猿におだてられて危険な行動をとりますが、最終的には大やけどを負った上、栗を一つも食べることができませんでした。何とも悲しい結果となるわけですが、この寓話の言葉から「火中の栗を拾う」とは「自分の利益にはならないことなのに、他人のために危険を冒す」ことのたとえとして使われるようになりました。

ただし、「他人のために危険を冒すとはなんて勇敢なんだ」という意味は誤りなので注意が必要です。寓話を知らないために誤用されることがしばしばありますが、物語では最終的に火中の栗を拾った猫が痛い目に合うのですから、ネガティブな意味合いで使われるのが正しい形となります。このニュアンスをしっかり覚えておきましょう。

「火中の栗を拾う」の使い方・例文

「火中の栗を拾う」の使い方を例文を使って確認していきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

1.火中の栗を拾うような自己犠牲の考え方はやめた方がいい。

2.社員を大切にしない会社にサービス残業で貢献するという、火中の栗を拾うような彼の働き方は馬鹿げている。

3.怪我をしているのにあのチームのために試合に出るだなんて、火中の栗を拾うようなものだ。無理をしてはいけない。

4.
A「彼ら、最近また喧嘩したらしい」
B「やっぱり?どうりで近寄りがたい雰囲気だと思ったよ」
A「仲裁に入ろうかなあ」
B「いや、その必要はないよ。それじゃまるで火中の栗を拾うようなもので、君が疲れて損するだけだよ」

自分の利益とならないことなのに危険を冒すという、ハイリスク・ロー(ノー)リターンの精神が「火中の栗を拾う」には含まれています。行う必要がないのに敢えて困難に立ち向かおうとするのなら、それは火中の栗を拾いにいくような状態なのです。例文のように、メリットがなく将来性を見込めないことに対しても使うことができます。

\次のページで「「火中の栗を拾う」の類義語は?違いは?」を解説!/

「火中の栗を拾う」の類義語は?違いは?

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それでは「火中の栗を拾う」の類義語を確認しましょう。

「火中之栗」

「火中之栗(かちゅうのくり)」はその漢字からもわかる通り「火中の栗を拾う」が四字熟語になったものです。同じ意味として使うことができるので覚えておきましょう。

「危ない橋を渡る」

「危ない橋を渡る」は危険な手段を取ることを表す慣用句です。特に、法律などのルールを破る可能性があるほど危うい方法を選ぶことをいいます。「火中の栗を拾う」の完全な類義語とはいえませんが、リスクを冒すという点において共通する表現といえるでしょう。

「火中の栗を拾う」の英訳は?

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最後に「火中の栗を拾う」の英語表現を確認しましょう。

「To take a risk for others(someone)」

To take a risk for others(someone) は「火中の栗を拾う」の意味をシンプルに英訳した表現です。他人のためにリスクを冒すという意味合いがあります。

\次のページで「「Pull someone's chestnuts out of the fire」」を解説!/

take a risk:リスクを冒す
for others(someone):他人のために(誰かのために)

「Pull someone's chestnuts out of the fire」

Pull someone's chestnuts out of the fire は「火中の栗を拾う」をそのまま英訳した表現です。英英辞典には以下の意味が掲載されています。

succeed in a hazardous undertaking for someone else's benefit
危険な仕事や事業において、他人の利益のために実行すること(成功させること)

出典:オックスフォード新英英辞典  "pull someone's chestnuts out of the fire"

英語でも同じ寓話『猿と猫』を元にしているため、そのままことわざとして使われているのですね。

「火中の栗を拾う」を使いこなそう

この記事では「火中の栗を拾う」の意味・使い方・類語などを説明しました。

火傷までして結果を出した猫が火中に飛び込んだのは、ずる賢い猿におだてられたからでもありました。正直者が馬鹿を見るとは言ったものですが、相手の褒め言葉を完全に鵜呑みにするのではなく、どこかでその真偽を見極めるアンテナを張っておくことが必要なのかもしれません。とはいえ、互いの心の裏を読み合うような関係は疲れてしまいます。助け合いの精神で、共通の利益のためにリスクを分け合える関係が良いのでしょう。

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国語言葉の意味

【慣用句】「火中の栗を拾う」の意味や使い方は?例文や類語をWebライターがわかりやすく解説!

この記事では「火中の栗を拾う」について解説する。

端的に言えば火中の栗を拾うの意味は「自分の利益とならないにも関わらず、他人のために危険を冒すこと」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

営業マネージャーとして勤務し、カナダでの留学を経てライターとして活動中のナガタナミキを呼んです。一緒に「火中の栗を拾う」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/ナガタ ナミキ

外資企業の営業マネージャーとして勤務し、相手に伝わる会話表現やコーチングスキルについて学ぶ。カナダでの留学を経て、言葉の持つニュアンスや響きを大切にするライターとして現在活動中。

「火中の栗を拾う」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「火中の栗を拾う(かちゅうのくりをひろう)」の意味や語源・使い方を確認していきましょう。

「火中の栗を拾う」の意味は?

「火中の栗を拾う」には、次のような意味があります。

《猿におだてられた猫が、いろりの中の栗を拾って大やけどをしたという、ラ・フォンテーヌの寓話 (ぐうわ) から》
自分の利益にならないのに、他人のために危険を冒すたとえ。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「火中の栗を拾う」

「火中の栗を拾う」と聞くと、焼いている栗を拾う様子がイメージできるかもしれません。しかしそれではこの言葉の本質を掴んだとは言えません。なぜなら「火中の栗を拾う」はフランスの寓話を元に生まれたことわざであり、それが日本語に訳されて伝わったものであるからです。つまり、正しい意味を知るためには物語を知る必要があります。

また、寓話での本来の意味と日本語で使われる意味がやや異なる場合もあるので、次項で説明しますね。物語の内容に触れながら、どのような心情やニュアンスをもって用いられるのかを一緒に確認していきましょう。

みなさんは寓話(ぐうわ)とは何か知っていますか?

寓話とは、動物や自然現象などが登場人物となり、まるで人間のように話したり考えたりする物語です。擬人化した彼らを通して教訓や風刺を伝えるものが一般的で、その多くはユーモアに富んでいます。代表的な作品には『アリとキリギリス』『ウサギとカメ』『北風と太陽』などがあり、ご存知の方も多いのではないでしょうか。

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