今回は太陽放射について解説していきます。

我々生物の根本的なエネルギー源は太陽です。その他多くの地球上の現象も太陽からのエネルギーによって駆動されている。地球は太陽からのエネルギーを太陽放射という形で貰っている。太陽放射について学んでみよう。

今回は物理学科出身のライター・トオルさんと解説していくぞ

ライター/トオル

物理学科出身のライター。広く科学一般に興味を持つ。初学者でも理解できる記事を目指している。

太陽放射について

image by iStockphoto

熱の伝わり方には伝導、対流、放射の三つがあります。伝導は鉄棒の片方の端を熱したら、もう片方の端も徐々に熱くなってくる時の伝わり方です。対流は液体を鍋で熱したら、液体が鍋の底から表面に向かってぐるぐると循環する時の伝わり方になります。伝導も対流も物質が存在していなければ伝わりません。宇宙空間はほとんど真空ですので、伝導と対流では熱は伝えられないのです。

そこで、地球が太陽から熱を貰う方法は放射ということになります。地球は太陽から電磁波の形でエネルギーを受け取っていて、それが太陽放射と呼ばれるものです。熱が放射で伝わるというのはなかなかイメージしずらいかもしれませんが、太陽放射を機会に熱放射というものも理解してしまいましょう。

電磁波について

Spectre.svg
Tatoute and Phrood - 不明, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

太陽放射について理解する準備として、まずは電磁波について簡単に説明しておきましょう。電波、光、エックス線、ガンマ線、これらはすべて電磁波と呼ばれる現象であり、ただ波長が違うだけです。電磁波とは簡単に言えば、電場と磁場の形を取りながら進んでいくエネルギーの一種となります。初学者は光は電磁波の一種であることだけ覚えておけばいいでしょう。

我々が普段見ている光は可視光とよばれ、波長がだいだい380nmから760nmあたりの電磁波です。nmとは10億分の1mを表しています。上の図の真ん中が可視光で波長の短いほうが紫、波長の長いほうが赤っぽい色をしているのがわかるでしょう。可視光より波長が短くなると紫外線やエックス線、長くなると赤外線や電波となります。

さらに太陽放射を学ぶ上で重要なのは、原子や分子は特定の電磁波の波長を吸収したり放射したりするということです。これは電子のエネルギー準位の移動など量子スケールの現象が原因なのですが、ここではすべての物質は電磁波を吸収したり放射したりしているという事を知っておいてください。

太陽放射について

MODIS ATM solar irradiance.jpg
パブリック・ドメイン, リンク

先ほども言ったように、太陽放射とは太陽が放射している電磁波のことであり、これによって地球は太陽よりエネルギーをもらい、生物を含め多くの現象が起こっています。太陽から地球全体が受け取るエネルギーは1秒間に約1.8×10の17乗Jです。Jはジュールというエネルギーを表す単位であり、1グラムの水の温度を1度上げるのに必要なエネルギーが約4.2Jになります。

太陽放射のエネルギーの大きさは波長によって変わり、波長ごとに分けた太陽放射の電磁波のエネルギー分布が太陽放射スペクトルとよばれるものです。上記の画像がそれで、縦軸がエネルギー、横軸が波長であり、青い線が地球の大気表面での太陽放射スペクトル、オレンジの線が地表面での太陽放射スペクトルになります。

大気表面でのエネルギーより地表面でエネルギーが小さくなっているのは、その分地球の大気に吸収されているからです。所々に書いてある分子の記号は、その分子がその波長の電磁波を吸収していることを意味しています。あと、可視光領域にある電磁波が、大気表面でも地表面でも高いエネルギーを持っていることがわかるでしょう。

地球放射と熱収支

Keihl and Trenberth (1997)SunClimateSystem.JPG
パブリック・ドメイン, リンク

温度がある物体はすべて電磁波を放射していて、これを熱放射といいます。なので地球も電磁波を放射していて、これが地球放射と呼ばれるものです。ただし、地球放射は太陽放射と波長域が違い、そのほとんどが赤外線の波長域(4~40μm)にあります。μmはマイクロメートルとよみ100万分の1mのことです。さらに、地球放射は8~12μmの範囲以外、ほとんど地球大気に吸収されしまうという特徴もあります。

この地球放射と太陽放射によって基本的に地球の気温は決定されるためもっと詳しくみていきましょう。上の図は太陽放射と地球放射の出入りの様子をまとめたもので、地球の表面積で平均した地球全体のエネルギーの収支図です。単位は1平方メートルあたりのワット数であらわしてあります。

太陽から届くエネルギーは全体で342W(ワット)、そのうち地表や雲などで反射されるのが107W、地表に吸収されるのが168Wで、大気に吸収されるのが68Wです。地表面からの電磁波、つまり地球放射は390Wでそのうち350Wが大気に吸収され、残りの40Wが宇宙へ逃げていきます。さらに、大気や雲などから宇宙に向かって放射される電磁波のエネルギーが195Wになり、宇宙に逃げていくエネルギーが全体で235Wです。

太陽からのエネルギー342W、宇宙にでていくエネルギーが107Wと235Wで342Wになります。つまり太陽から届くエネルギーと、地球から出ていくエネルギーがほぼ等しくなっているということです。これを放射平衡状態と呼びます。

\次のページで「温室効果について」を解説!/

温室効果について

Atmosfaerisk spredning.png
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放射平衡状態では放射エネルギーの大きさだけで温度がきまり、その温度を計算すると約-18度になります。しかし、地球の実際の表面温度は約15度ですので計算が合いません。この差を埋めるのが有名な温室効果と呼ばれるものになります。先の図の一番右を見てみると、大気から地球に1平方メートル当たり324Wものエネネルギーが電磁波として地表に向かって放出されているのがわかるでしょう。

これは太陽から地表に届くエネルギーである168Wの2倍近くもあり、太陽から届く総エネルギー342Wに匹敵します。このことが示すのは、電磁波で主に赤外線領域にあるエネルギーを、大気と地表面の間でやり取りし、閉じ込めているということです。このために、地球は放射平衡の約ー18度という温度からかなり高い温度でいられることになります。これが温室効果と呼ばれるものです。ちなみに、地表から大気へ向かう24Wと78Wは顕熱と潜熱による熱の移動になります。

つまり、温室効果は大気にどれだけ赤外線を放射・吸収する物質が含まれているかで決まることがわかるでしょう。それは水蒸気を除けば二酸化炭素などの微小成分になります。よって、わずかな濃度変化により温室効果が大幅に変わってしまうことが、現在危惧されていることを皆さんもご存じのことでしょう。

上記の画像は縦軸が透過率、横軸が波長のグラフです。下に書いてあるのがその波長を吸収している分子になります。

太陽放射が大気を駆動する

太陽放射が大気を駆動する

image by Study-Z編集部

今回は平均の太陽放射について紹介しましたが、平均しなければ地球の公転や自転などによって大気と地面が受け取るエネルギーは、緯度や季節や時刻によって刻刻と変わります。この理由は、太陽光線が入射する角度によって受け取るエネルギーが変わるからです。例えば、太陽が真上にある時は垂直に太陽光線があたり、このとき単位面積あたりの受け取るエネルギーは最大になります。

しかし、太陽が低い位置になるときは斜めに太陽光線が当たることになり、その分、単位面積あたりの受け取るエネルギーが少なくなるのです。基本的にエネルギーをたくさん受け取る時は暖かくなり、受け取るエネルギーが少なくなるときは寒くなるので、地球の位置や時刻や場所によって温度がかわります。

熱は熱いところから寒いところに移動しますので、この温度の差が大気や海流の活動の主な原動力です。大気や海流の活動というものは熱の輸送であるとも言えます。よって、太陽放射から受け取るエネルギーが時刻や場所で異なることにより、大気や海流は活動しているのです。

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地学宇宙理科

生命のエネルギーの源である「太陽放射」を理系ライターが丁寧にわかりやすく解説

今回は太陽放射について解説していきます。

我々生物の根本的なエネルギー源は太陽です。その他多くの地球上の現象も太陽からのエネルギーによって駆動されている。地球は太陽からのエネルギーを太陽放射という形で貰っている。太陽放射について学んでみよう。

今回は物理学科出身のライター・トオルさんと解説していくぞ

ライター/トオル

物理学科出身のライター。広く科学一般に興味を持つ。初学者でも理解できる記事を目指している。

太陽放射について

image by iStockphoto

熱の伝わり方には伝導、対流、放射の三つがあります。伝導は鉄棒の片方の端を熱したら、もう片方の端も徐々に熱くなってくる時の伝わり方です。対流は液体を鍋で熱したら、液体が鍋の底から表面に向かってぐるぐると循環する時の伝わり方になります。伝導も対流も物質が存在していなければ伝わりません。宇宙空間はほとんど真空ですので、伝導と対流では熱は伝えられないのです。

そこで、地球が太陽から熱を貰う方法は放射ということになります。地球は太陽から電磁波の形でエネルギーを受け取っていて、それが太陽放射と呼ばれるものです。熱が放射で伝わるというのはなかなかイメージしずらいかもしれませんが、太陽放射を機会に熱放射というものも理解してしまいましょう。

電磁波について

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Tatoute and Phrood不明, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

太陽放射について理解する準備として、まずは電磁波について簡単に説明しておきましょう。電波、光、エックス線、ガンマ線、これらはすべて電磁波と呼ばれる現象であり、ただ波長が違うだけです。電磁波とは簡単に言えば、電場と磁場の形を取りながら進んでいくエネルギーの一種となります。初学者は光は電磁波の一種であることだけ覚えておけばいいでしょう。

我々が普段見ている光は可視光とよばれ、波長がだいだい380nmから760nmあたりの電磁波です。nmとは10億分の1mを表しています。上の図の真ん中が可視光で波長の短いほうが紫、波長の長いほうが赤っぽい色をしているのがわかるでしょう。可視光より波長が短くなると紫外線やエックス線、長くなると赤外線や電波となります。

さらに太陽放射を学ぶ上で重要なのは、原子や分子は特定の電磁波の波長を吸収したり放射したりするということです。これは電子のエネルギー準位の移動など量子スケールの現象が原因なのですが、ここではすべての物質は電磁波を吸収したり放射したりしているという事を知っておいてください。

太陽放射について

MODIS ATM solar irradiance.jpg
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先ほども言ったように、太陽放射とは太陽が放射している電磁波のことであり、これによって地球は太陽よりエネルギーをもらい、生物を含め多くの現象が起こっています。太陽から地球全体が受け取るエネルギーは1秒間に約1.8×10の17乗Jです。Jはジュールというエネルギーを表す単位であり、1グラムの水の温度を1度上げるのに必要なエネルギーが約4.2Jになります。

太陽放射のエネルギーの大きさは波長によって変わり、波長ごとに分けた太陽放射の電磁波のエネルギー分布が太陽放射スペクトルとよばれるものです。上記の画像がそれで、縦軸がエネルギー、横軸が波長であり、青い線が地球の大気表面での太陽放射スペクトル、オレンジの線が地表面での太陽放射スペクトルになります。

大気表面でのエネルギーより地表面でエネルギーが小さくなっているのは、その分地球の大気に吸収されているからです。所々に書いてある分子の記号は、その分子がその波長の電磁波を吸収していることを意味しています。あと、可視光領域にある電磁波が、大気表面でも地表面でも高いエネルギーを持っていることがわかるでしょう。

地球放射と熱収支

Keihl and Trenberth (1997)SunClimateSystem.JPG
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温度がある物体はすべて電磁波を放射していて、これを熱放射といいます。なので地球も電磁波を放射していて、これが地球放射と呼ばれるものです。ただし、地球放射は太陽放射と波長域が違い、そのほとんどが赤外線の波長域(4~40μm)にあります。μmはマイクロメートルとよみ100万分の1mのことです。さらに、地球放射は8~12μmの範囲以外、ほとんど地球大気に吸収されしまうという特徴もあります。

この地球放射と太陽放射によって基本的に地球の気温は決定されるためもっと詳しくみていきましょう。上の図は太陽放射と地球放射の出入りの様子をまとめたもので、地球の表面積で平均した地球全体のエネルギーの収支図です。単位は1平方メートルあたりのワット数であらわしてあります。

太陽から届くエネルギーは全体で342W(ワット)、そのうち地表や雲などで反射されるのが107W、地表に吸収されるのが168Wで、大気に吸収されるのが68Wです。地表面からの電磁波、つまり地球放射は390Wでそのうち350Wが大気に吸収され、残りの40Wが宇宙へ逃げていきます。さらに、大気や雲などから宇宙に向かって放射される電磁波のエネルギーが195Wになり、宇宙に逃げていくエネルギーが全体で235Wです。

太陽からのエネルギー342W、宇宙にでていくエネルギーが107Wと235Wで342Wになります。つまり太陽から届くエネルギーと、地球から出ていくエネルギーがほぼ等しくなっているということです。これを放射平衡状態と呼びます。

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