

今回は「真言宗」について歴史オタクのライターリリー・リリコと一緒に解説していくぞ。

解説/桜木建二
「ドラゴン桜」主人公の桜木建二。物語内では落ちこぼれ高校・龍山高校を進学校に立て直した手腕を持つ。学生から社会人まで幅広く、学びのナビゲート役を務める。

ライター/リリー・リリコ
興味本意でとことん調べつくすおばちゃん。座右の銘は「何歳になっても知識欲は現役」。大学の卒業論文は源義経をテーマに執筆。平安時代は得意分野!
1.そもそも「密教」ってなに?
ちょっと今回は仏教用語が多いので、最初に用語の解説を交えて前提のお話をしますね。
「真言宗」は、「大乗仏教」の宗派のひとつです。「大乗仏教」では、修行した僧侶ひとりだけではなく、生きとし生きるものすべてが救われると教えられます。
仏教には大きく分けて二種類ありまして、「大乗仏教」に対して、戒律を重視し、修行したもののみが悟りを開いて救われるというのが「上座部仏教」でした。
そして、「真言宗」は「密教」のひとつで、「密教」は「秘密仏教」の省略です。
日本人の僧侶「空海」が唐で学び、日本に持ち帰ったことで、平安時代初期の日本、和歌山県の高野山にて「真言宗」が開かれました。
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「密教」と「顕教」の違い

空海は仏教を「顕教」と「密教」の二種類に分類しました。
「顕教」はお釈迦さまが衆生救済のために説き顕した教えで、これは経典を読めば誰にでもわかるとされています。反対に、「密教」は真理そのものの現れとされる大日如来が説いた秘密の教えのこと。
ここでいう「秘密」というのは、人智を越えたあらゆるものごとに作用する奥深い「神秘」のことを指します。たとえば、人間の力ではどうにかすることのできない日々の天候から嵐、病気、そして国家の平穏などですね。「密教」は、段階を経た修行者に少しずつこの「秘密」を公開していくというスタイルです。
また、「顕教」が何度も輪廻転生して長い時間をかけなければ悟りを開けないとされるのに対して、「密教」では生きたまま今世で悟りが開けるとしています。これは「即身成仏」といって、正しい学びと実践をすれば誰でも悟りを開けるという思想でした。
密教で加持祈祷を行う理由
密教の体系的経典に『大日経』というものがあります。正式には『大毘盧遮那成仏神変加持経』といい、「大毘盧遮那」は「光り輝く大きな仏」という意味で、日本では「大日如来」と翻訳されました。
大日如来は天の中心で太陽のように輝いていて、すべてのものは大日如来の神変(不思議な力)によって加持(守護)されていると言われています。大日如来のこのお力を願う一種の儀式として「加持祈祷」が発展しました。
真言密教の修法を「三密加持」といい、三密加持を行うことで「即身成仏」に到達するとされています。「三密」とは「身口意の三業」のことで、これを砕いて簡単に言うと、人間がする体の行動と、口にする言葉、心の意志のことをさしました。だから、「三密加持」では行者が手印を結び、口で真言(呪文)を唱え、心を仏にむけて念じるのです。そうすると、やがて「即身成仏」ができるようになるといわれています。
実際に行われた加持祈祷では、除災招福や、病魔退散、雨乞いなどさまざまな祈りが込められていました。
護摩を焚く修法

坊さんが仏像の前で火をおこして真言を唱えているシーンをテレビなんかで見たことありませんか?
それは「護摩」といって、密教独自の修法のひとつです。燃やしているのは願い事や、先祖の供養を書いた木札で、「護摩木」といいます。
密教の僧侶が、本尊の仏像の前の護摩壇の炉に護摩木をくべながら、不動明王の真言を唱えるのです。
インド生まれの「密教」
インドのヒンドゥー教の一派に呪文や祭文(タントラ)を唱えて神々に祈るタントラ教がありました。タントラ教の儀式と仏教が混ざりあって生まれたのが「密教」です。7世紀に『大日経』と『金剛頂経』の体系的な密教の経典や、多様な仏さまがいる密教の世界観を現した「曼荼羅」が成立したことで完成したとされています。以降、インドの仏教界では「密教」が隆盛していきました。
しかし、5世紀頃から起こっていた仏教弾圧や、12世紀の現在のアフガニスタンにあったゴール朝(イスラム教政権)のインド侵略などがあって、当時のインドは仏教にとって非常に芳しくない状況にあったのです。このために、仏教徒たちはヒンドゥー教かイスラム教への改宗か、あるいは、国外逃亡を余儀なくされてしまいます。それで、インドの仏教は衰退の一途をたどってしまったんですね。
インドは仏教の発祥地ですが、インドよりも他の地域で多く信仰されているのは、こういう歴史的背景があったからです。
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