この記事では「人海戦術」について解説する。

人海戦術には「損害を出してでも数で敵を圧倒する戦い方」と「大勢の人を動員して物事を行うこと」の2つの意味がありますが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

元塾講師で、解説のわかりやすさに定評のあるgekcoを呼んです。一緒に「人海戦術」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/gekco

本業では出版物の校正も手がけ、一般教養に強い。豊富な知識と分かりやすい解説で好評を博している。

「人海戦術」の意味や語源・使い方まとめ

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人海戦術は「じんかいせんじゅつ」と読みます。それでは早速、「人海戦術」の意味や由来・使い方について見ていきましょう。

「人海戦術」の意味は?

人海戦術には、次のような意味があります。

1 損害は覚悟のうえで、大兵力を動員して、数の力で敵を圧倒する戦法。人海作戦。

2 機械力などを使わず、多数の人員を投入して事を行うこと。

出典:大辞林 第三版(三省堂)「人海戦術」

一般的には2の意味で使われることの多い四字熟語ですが、文字から想像がつく通り、本来は軍事用語に近い言葉です。そういう内容をテーマにした場面では、1の意味で使われる場合があります。

「人海戦術」の由来は?

先に触れた通り、人海戦術は軍事作戦で使われる戦法がもとになった言葉です。

人海」は、多数の人々を形容した表現となっています。

戦術」は戦い方という意味です。

人海戦術とは、敵軍の数を圧倒する数の兵士を投入することで、戦いを有利に進めることをいいます。これが、先に説明した1の意味です。

この意味に関連して、機械による効率化などを行わず、多くの人数を動かすことで作業や物事を進める場合にも人海戦術という表現が使われるようになりました。これが、先に説明した2の由来です。

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「人海戦術」の使い方・例文

それでは実際に、人海戦術を使った例文を見ていきましょう。

兵士のレベルではスパルタ軍が勝っていたものの、人海戦術によりペルシア軍は勝利を収めた。

ノルマンディ上陸作戦はドイツ軍が地形で優位に立っていたが、連合軍の人海戦術が功を奏した。

この例文は、人海戦術を1の意味で用いた例です。

1つめの例文は「テルモピュライの戦い」という史実が元になっています。紀元前480年、アケメネス朝ペルシアは勢力を拡大し、近隣諸国を飲み込んで巨大な帝国を築いていました。その遠征軍がギリシャに迫ったとき、迎え撃ったのが有名なスパルタ軍です。諸説あるものの兵力差は圧倒的で、ペルシア軍が10万人だったのに対し、スパルタ軍はわずか300人で奮戦しました。この戦いでは、スパルタ軍は善戦したものの最終的にはペルシア軍に全滅させられています。

2つめの例文で題材にしたノルマンディ上陸作戦は、「史上最大の作戦」と呼ばれる第二次世界大戦中の作戦です。ナチス・ドイツとの本土決戦に向け、アメリカとイギリスを主体とする連合国軍がフランスのノルマンディ地方に上陸、最終的に200万人を超える連合国軍兵士が、ドイツ軍の防衛網を突破して上陸に成功しました。苦戦を強いられた上陸地点では多数の連合国軍兵士が犠牲になりましたが、次から次へと上陸する連合国軍を抑えきることができず、ドイツ軍は連合国軍の侵攻を許してしまいます。

この2つの例文のように、多くの犠牲を払いながらも戦いを押し進めるのが1の意味の人海戦術です。

人海戦術で団地じゅうにチラシを配ったおかげで、開店初日から売り上げは快調だった。

落選しそうな候補のため、運動員を集中させて人海戦術で票差を埋める。

こちらは2つめの意味での例文です。

1つめの例文では、何かのお店を新しく開いた状況について述べられています。開店初日の売り上げを確保するため、とにかく大量のチラシを配るのに、たくさんの人に手伝ってもらったようです。

2つ目の例文では、選挙運動を題材にしています。落選してしまいそうな候補のため、応援してくれる人をたくさん集めて、みんなで支援者を増やそうとしている状況です。

このように、とにかくたくさんの人を動かして何かの物事を成し遂げるのが、2の意味の人海戦術になります。軍事作戦としての意味よりも用途が多く、仕事や学校など様々な場面で使われる言葉です。

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「人海戦術」の対義語は?

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それでは、「人海戦術」の対義語となる言葉を見ていきましょう。対義語を知ることで、「人海戦術」の意味がより理解しやすくなります。

「少数精鋭」

少数精鋭は「しょうすうせいえい」と読み、次のような意味の熟語です。

少ない人数ではあるが、よりすぐられていて、寄せ集めの大人数より、手ごわいこと。 

出典:大辞林 第三版(三省堂)「少数精鋭」

精鋭」とは、えり抜きの優れた人物などのことを指します。

少数精鋭とは、選びぬかれた少数の人員、ということです。こちらは軍事作戦でも一般用語としても、意味はそう変わりません。

救出作戦は極秘に行う必要があったため、少数精鋭の特殊部隊によって行われた。

その会社の研究開発部門はエキスパートばかりを集めた少数精鋭の部署だ。

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自然界にもある「人海戦術」と「少数精鋭」

人海戦術と少数精鋭は意味が正反対に近い対義語になります。基本的には、人海戦術も少数精鋭も、人間に対して使われる言葉です。しかし、身近な自然界にも、この2つはみることができます。

もっともわかりやすいのが、生き物の繁殖戦略です。

ごく一部の特殊な例を除き、生き物が子孫を残すときは2つのパターンに分かれます。

1つはできるだけたくさんの子孫を産み落とし、その中の一部だけでも生き残るようにするパターン。

もう1つは、少数の子孫を残し、その子孫を確実に生き残らせようとするパターンです。

それぞれ、専門用語で「r戦略」と「K戦略」といいます。

r戦略はまさに人海戦術に近い考え方です。たくさんの子孫のうち生き残るのはほんの一握りで、確率で言えば数パーセントに満たないこともあります。この、数パーセントの生き残りを確実にするため、とにかくたくさんの子孫を残すのです。たとえば、昆虫のカマキリは一度の産卵で300個ほどの卵を産みますが、そのうち成虫になれるのは数匹といわれています。逆にいえば、300個も卵を産めば何匹かは生き残るだろう、という考え方です。

これに対して、K戦略はまさに少数精鋭といえます。生き残る力に優れた子孫を数少なく産み、確実に生き残らせる戦略です。多くの場合、K戦略の生き物は親と同じ姿で産まれてきます。子育てをする生き物も多く、数少ない子孫を確実に生き残らせるための工夫が凝らされた生き物たちです。人間を含めて、哺乳類や鳥類にはK戦略の生き物が多くいます

生物学では、r戦略が有利なのかK戦略が有利なのか、結論は出ていません。進化の過程で、それぞれの生き物が選んで獲得した生き方、とされています。

人間の人海戦術と少数精鋭も歴史上、どちらがいいという傾向や結論はありません

人海戦術の例文で出したテルモピュライの戦いでは、最終的にスパルタ軍はペルシア軍を前に全滅しましたが、ペルシア軍に与えた被害は非常に大きかったことが記録に残されています。ペルシア軍がスパルタ軍兵士との肉弾戦を恐れて弓矢に頼ったことからも、スパルタ軍の強さが伺えますね。スパルタ軍がペルシア軍を撃退した可能性も十分あったのです。

少数精鋭の例文で出した会社の例は、多くの企業で実際に行われているものになります。研究開発商品開発は、その会社の製品を決定するものなので、数が少なくても優れた人材を揃えたいと考えると、おのずと少数精鋭になりますね。しかし、経験や学歴を問わず様々な人が研究開発や商品開発に携れば、経験者なら考えつかないようなアイデアが出てくるかもしれません。そうやって成功したベンチャー企業の例も少なくないのが実情です。

生き物のr-K戦略と同じように、人間社会で人海戦術でいくのか少数精鋭でいくのかも、なかなか結論が出ない難しい判断なのかもしれません。

「人海戦術」を使いこなそう

今回の記事では、「人海戦術」の意味や使い方、例文について説明しました。自分が使用するにも便利ですし、使用された文章を目にする機会も多い熟語です。特に、歴史系の文章やビジネス系の文章で目にすることが多いので、この機会にしっかりと意味を押さえておきましょう。あわせて、対義語である少数精鋭も覚えておくと便利です。

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【四字熟語】「人海戦術」の意味や使い方は?例文や類語をWebライターがわかりやすく解説!

この記事では「人海戦術」について解説する。

人海戦術には「損害を出してでも数で敵を圧倒する戦い方」と「大勢の人を動員して物事を行うこと」の2つの意味がありますが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

元塾講師で、解説のわかりやすさに定評のあるgekcoを呼んです。一緒に「人海戦術」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/gekco

本業では出版物の校正も手がけ、一般教養に強い。豊富な知識と分かりやすい解説で好評を博している。

「人海戦術」の意味や語源・使い方まとめ

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人海戦術は「じんかいせんじゅつ」と読みます。それでは早速、「人海戦術」の意味や由来・使い方について見ていきましょう。

「人海戦術」の意味は?

人海戦術には、次のような意味があります。

1 損害は覚悟のうえで、大兵力を動員して、数の力で敵を圧倒する戦法。人海作戦。

2 機械力などを使わず、多数の人員を投入して事を行うこと。

出典:大辞林 第三版(三省堂)「人海戦術」

一般的には2の意味で使われることの多い四字熟語ですが、文字から想像がつく通り、本来は軍事用語に近い言葉です。そういう内容をテーマにした場面では、1の意味で使われる場合があります。

「人海戦術」の由来は?

先に触れた通り、人海戦術は軍事作戦で使われる戦法がもとになった言葉です。

人海」は、多数の人々を形容した表現となっています。

戦術」は戦い方という意味です。

人海戦術とは、敵軍の数を圧倒する数の兵士を投入することで、戦いを有利に進めることをいいます。これが、先に説明した1の意味です。

この意味に関連して、機械による効率化などを行わず、多くの人数を動かすことで作業や物事を進める場合にも人海戦術という表現が使われるようになりました。これが、先に説明した2の由来です。

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