生物学

「ロベルト・コッホ」って何した人?現役講師がわかりやすく解説

よぉ、桜木建二だ。今回は偉大な科学者の一人であるロベルト・コッホについて学んでいこう。

中学や高校の生物学で彼の名前を聞くことはあまりないかもしれないが、コッホは医学、とくに感染症の分野で必ずといっていいほど登場する人物だ。コッホの研究が人類の歴史を変えたといっても過言ではないほど、重要な成果を残しているぞ。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

解説/桜木建二

「ドラゴン桜」主人公の桜木建二。物語内では落ちこぼれ高校・龍山高校を進学校に立て直した手腕を持つ。学生から社会人まで幅広く、学びのナビゲート役を務める。

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ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

ロベルト・コッホ

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By Unknown authorhttps://ihm.nlm.nih.gov/images/B16691, Public Domain, Link

ハインリヒ・ヘルマン・ロベルト・コッホ(Heinrich Hermann Robert Koch)は19世紀から20世紀の初めにかけて活躍したドイツの細菌学者です。

コッホは、ほぼ同時代に生きたフランスのルイ・パスツールとともに「近代細菌学の開祖」とよばれています。細菌による感染症についての研究などで大きな研究成果を上げ、1905年にはノーベル賞も受賞した超一流の科学者です。

生涯

ロベルト・コッホが生まれたのは1843年12月。当時のハノーファー王国、クラウスタールにて生を受けました。

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ハノーファー王国というのは、現在のドイツ北部ニーダーザクセン州にあった国だ。1866年にプロイセン王国に併合されたぞ。

成長したコッホはゲッティンゲン大学に入学し、物理や数学を学びます。そのうち医師を目指すことを決めたコッホは1868年に医師免許を取得し、1872年に開業。町医者として仕事に励みます。

町医者というと素朴なようですが、彼は顕微鏡を使った細菌の研究を着々と進めていました。1880年から5年間はベルリンで帝国衛生院の研究員としてはたらき、1885年からベルリン大学で勤務。1891年からは感染症の研究所にうつり、細菌の研究をつづけました。

1910年に心臓発作で死去。66歳でした。

コッホの功績

現代社会で暮らす私たちは、自然界に潜む細菌が体内に入ることで引き起こされる感染症があるということをよく知っています。マスクの着用や、消毒・除菌などで細菌の侵入を妨げ、感染症の危険から身を守っていますよね。

ところが、コッホの生きた時代はまだ「細菌(微生物)が原因となる病気がある」ということがはっきりしていませんでした

image by iStockphoto

原因がわからないのだから、それを防ぐことも治療することも困難です。一度感染症が発生すると、不衛生な環境や誤った治療法によって多くの患者が命を落としました。

そんな時代の中、「細菌によっておこる病気がある」ということを世に広めたのが、今回の主役ロベルト・コッホだったのです。

炭疽菌の発見

炭疽菌(たんそきん)は、炭疽症という病気の原因となる細菌です。

ヒトの場合、皮膚の傷ついたところなどから炭疽菌が侵入すると、ちいさな虫刺されのような腫れが現れ、次第にその周囲には水疱が生じます。この部分が炭のように黒いかさぶたになることから、炭疽という病名がついているのです。かさぶたができると、8割ほどの患者はそのあと一週間ほどで治癒。2割ほどは重症化し、死に至ることもあります。

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CDC/ James H. Steele – This media comes from the Centers for Disease Control and Prevention‘s Public Health Image Library (PHIL), with identification number #2033. Note: Not all PHIL images are public domain; be sure to check copyright status and credit authors and content providers., パブリック・ドメイン, リンクによる

また、炭疽菌が肺に入った場合や、食べ物と一緒に消化管に入った場合は、激しい腹痛や吐血といったひどい症状が現れ、より高い致死率になります。

コッホが炭疽症の原因として炭疽菌を見出したのは1876年のことです。一種類の細菌のみを純粋培養する方法を確立していたコッホは、炭疽症にかかった動物から得た炭疽菌を培養し、他の動物にそれを与えることで炭疽症が現れることを確認しました。

これによってはじめて、炭疽菌が炭疽症を引き起こすという因果関係が証明されたのです。

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炭疽菌の存在自体は、コッホより前に確認されていたという情報もある。コッホがなした重要な成果は、炭疽菌と炭疽症を結び付けたことだ。それまで原因不明の謎の病だったんだからな。

これでようやく、炭疽症を治すためには体内に侵入した炭疽菌を除去すればよい、という治療方針が立てられるようになったんだ。

結核菌の発見

炭疽菌の発見からわずか6年後の1882年。コッホは結核の原因となる結核菌の発見に成功します。これも炭疽菌同様、結核菌の純粋培養をおこない、それを動物に注射して結核が起こることを確認したのです。

結核は肺に結核菌が侵入し症状が現れる肺結核と、それ以外の場所で症状が起きる肺外結核に分けられます。肺結核は、はじめ軽い風邪や肺炎のような症状が生じますが、治療せず症状が進行すると死に至ることもある病気です。感染した患者の咳によって、胚に至結核菌が周囲の人に飛び、感染を広げてしまうことがあります。

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Photo Credit: Janice Carr Content Providers(s): CDC/ Dr. Ray Butler; Janice Carr – This media comes from the Centers for Disease Control and Prevention‘s Public Health Image Library (PHIL), with identification number #8438. Note: Not all PHIL images are public domain; be sure to check copyright status and credit authors and content providers., パブリック・ドメイン, リンクによる

古くから、結核は人類を脅かしてきた感染症です。歴史の授業などで「○○は結核によって命を落とした」などと耳にすることがありますが、この病気は過去のものではありません。2018年でも世界中で1000万人ほどが新規に罹患、160万人が結核によって命を落としています

治療方法が確立した今でもこれほどの被害がある病気です。コッホの生きた時代にはよりたくさんの人が結核に苦しめられていたでしょう。それを考えるとコッホが結核の原因を突き止めたことの偉大さがわかります。

コッホはこの結核菌の発見によって、1905年にノーベル賞を受賞ました。

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なお、コッホが結核菌の発見を演説で発表した3月24日は、世界結核デーという記念日になっている。世界でさまざまな結核に関するイベントが行われているぞ。

ちなみに日本では、結核のことを労咳(ろうがい)やテーベー(TB)とよぶことがあった。

コレラ菌の発見

結核菌発見の翌年である1883年には、インドでコレラ菌を研究し、コレラ菌がコレラの原因であることを突き止めました。1881年からインドで大流行していたコレラの調査をするため、コッホがドイツ代表としてインドに派遣されていたのです。

コレラはコレラ菌に汚染された水や食べ物を取り入れることで起きる病気。激しい下痢や嘔吐により脱水症状がおき、これによって血圧の低下や筋肉のけいれんが引き起こされて、回復できなければ命を落とします。衛生面で問題のある地域では現在でもよく見られ、毎年数万人が犠牲になる感染症です。

「コッホの4原則」

人類を脅かす伝染病の原因となる細菌を相次いて3つも発見したコッホは、細菌と病気の関係を調べることの重要性を知らしめました。炭疽菌を発見したころに、コッホは感染症研究のうえで重要な柱となる「コッホの4原則」(または「コッホの原則」)を提唱します。

「コッホの4原則」は、「感染症の原因が細菌である」ということを証明するために満たされなければいけない4つのポイントをまとめたものです。

image by Study-Z編集部

細菌と病気の間にこの4つの原則が確認できてはじめて、その病気が細菌によるものだということが確実になります。

逆に、「コッホの4原則」が満たされないとき、細菌が原因だと尚早に決めてしまうことは危険です。細菌以外の何かが原因かもしれないのに、細菌への対応ばかりしていては、それが空振りに終わる可能性もあります。

この「コッホの4原則」は現代でも生き続けており、感染症を研究する上では必須の知識です。

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なお、「コッホの4原則」はその一部を変えた「コッホの3原則」として紹介される場合もある。しかしながら、基本的な考え方は「コッホの4原則」と変わらない。

コッホの研究は多くの人類を救った

コッホはその生涯で、人類を長く苦しめてきた感染症の原因をいくつも突き止めました。彼のおかげでそれらの治療方法がわかり、数えきれないほどの人類が救われたのです。

また、コッホの編み出した最近の培養法や実験器具、「コッホの4原則」などは現代にも引き継がれ、細菌学や感染症研究のうえで欠かすことのできないものになっています。功績を知れば知るほど、コッホが偉大な存在であったことを感じずにはいられません。

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