みんなは誰かの「逆鱗に触れた」ことはありますか?私は結構あるんですね…。

この「逆鱗に触れる」という言葉、シンプルに言えば「人を怒らせる」という意味なのですが、実は使い方に少し注意が必要です。使っていい相手が限られるんです。

今回はその「逆鱗に触れる」の意味や使い方、類義語などについて、大学院卒の日本語教師の筆者が解説していきます。

ライター/むかいひろき

ロシアの大学で2年間働き、日本で大学院修了の日本語教師。その経験を武器に「言葉」について分かりやすく解説していく。

「逆鱗に触れる」の意味や語源は?

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「逆鱗に触れる(げきりんにふれる)」という言葉は聞いたことがある人が多いでしょう。実際に誰かの「逆鱗に触れた」経験がある人もいるかもしれませんね。ただ、この「逆鱗に触れる」という言葉、使い方では注意が必要な点もあります。

まずは、その「逆鱗に触れる」の意味と語源について確認していきましょう。

「逆鱗に触れる」の意味は「目上の人を激怒させる」

最初に、「逆鱗に触れる」の意味について辞書の記述を元に確認していきましょう。国語辞典では「逆鱗に触れる」は次のような意味が掲載されています。

天子の怒りに触れる。また、目上の人を激しく怒らせる。
「彼の発言が師の―」

出典:明鏡国語辞典 第二版(大修館書店)「◆逆鱗に触(ふ)・れる」

「逆鱗に触れる」は2つの意味が辞書には掲載されていますね。ただ、1番目の「天子(天=神の命令を受けて国を治める人、つまり皇帝や天皇)の怒りに触れる」はもともとの意味で、現代語では2番目の「目上の人を激怒させる」という意味で使用されることが一般的です。

注意が必要な点は、激怒させる対象は目上の人であるということですね。対等やそれ以下の立場の人間に対しては使用できません。また、「私の逆鱗に触れた」というように、自分の怒りについて述べる場合も使用不可です。気をつけましょう。

「逆鱗に触れる」の語源は?

「逆鱗に触れる」の語源は何でしょうか。「逆鱗に触れる」の語源は、古代中国の『韓非子』という書物にある「説難」という話の一節です。

竜の顎の下(のど元のあたり)には逆さまに生えたうろこ(つまり「逆鱗」)が1枚あり、それに触ると竜は怒ってその人を殺す…という伝説が「説難」に記されています。この伝説から、竜を天子、つまりは皇帝にたとえてかつては使用していました。「皇帝や天皇の怒りに触れる」ことを、当初は意味していたのですね。そこから意味が少しずつ広がり、現代のように「目上の人を激怒させる」という意味で使用されるようになりました。

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「逆鱗に触れる」の使い方を例文とともに確認!

では、続いて「逆鱗に触れる」の使い方を例文とともに確認していきましょう。意味の所でも述べたように、対等やそれ以下の人間の怒りに対して、自身の怒りに対しては「逆鱗に触れる」は使用できません目上の相手の怒りのみに使用できます。ここは基本ですので、例文を読む前におさえておいてくださいね。

1.仕事でミスを続けた田中君はとうとう社長の逆鱗に触れることとなり、最近解雇されたようだ。
2.研究不正を内部告発したことが教授の逆鱗に触れ、私は大学院を退学させられた。
3.幕末の元治元年に発生した禁門の変にて、御所に向けて発砲した長州藩は孝明天皇の逆鱗に触れることとなり、その結果第1次長州征討が行われた。

例文1と例文2では、社長や教授といった目上の人を激怒させたことが「逆鱗に触れる」で表されています。例文1では、田中君は仕事でミスを続けてしまったため激怒されて当然ですが、例文2の「研究不正を告発したら、そのことで教授に激怒された」のように、理不尽な怒りに対しても「逆鱗に触れる」は使用可能です。

例文3はもともとの「天子(天=神の命令を受けて国を治める人、つまり皇帝や天皇)の怒りに触れる」という意味で使用されている例ですね。特に歴史関係の記述では、もともとの意味で使用されることも多いです。

そして、「逆鱗に触れる」を使用する上で大切な点が1つあります。それは必ず怒りの理由があることです。何も理由なく怒っている場合には「逆鱗に触れる」は使用できません。怒りの理由については、例文2のように「相手の触れてほしくないことに触れた」という場合が多いですね。

「逆鱗に触れる」の類義語は?

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次に、「逆鱗に触れる」の類義語を見ていきましょう。「逆鱗に触れる」の類義語は「勘気に触れる」「不興を買う」「地雷を踏む」の3つです。それぞれ少しずつ「逆鱗に触れる」と意味やニュアンスが異なる部分があります。

「勘気に触れる」目上の人からとがめを受ける

「勘気に触れる(かんきにふれる)」は、「目上の人の怒りにふれ、とがめを受ける」という意味の慣用句です。「勘気」はもともとは「主君や父からのとがめ」という意味でしたが、現在では広く「目上の人からのとがめ」という意味で使用されるようになりました。

「逆鱗に触れる」との違いは、「勘気に触れる」の場合、怒りに触れた後で非難されたり罰を受けたりする…というニュアンスが含まれている点です。怒りに触れた後のその後についても言葉のニュアンスの中に含まれているかが、「逆鱗に触れる」と「勘気に触れる」の違いですね。

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「不興を買う」目上の人の機嫌を損ねる

「不興を買う(ふきょうをかう)」は、「目上の人の機嫌を損ねる」という意味の慣用句です。何か言ってはいけないことを言って、目上の人の機嫌が悪くなってしまった場合などに、よく使用されます。

「逆鱗に触れる」との違いは、「逆鱗に触れる」の場合は相手が激怒してしまっていますが、「不興を買う」の場合は激怒までは達していませんあくまで機嫌が悪くなったことを表します

「地雷を踏む」他者の触れられたくない話題に触れる

「地雷を踏む」は「他者の触れてほしくない話題に思わず触れる」という意味の慣用句です。地雷は地中に埋められ、埋められた場所を踏むと爆発し、踏んだ人を殺したり、手足を失うような重傷を負わせたりする恐ろしい兵器ですが、触れてほしくない話題を地雷にたとえているわけですね。辞書の意味では「他者の触れてほしくない話題に思わず触れる」までしか書かれていませんが、通常使用する場合は、「相手の怒りに触れた」というニュアンスも入ってきます

「逆鱗に触れる」との違いは、「逆鱗に触れる」は目上の人の怒りにしか使用できませんが、「地雷を踏む」は対等やそれ以下の人の怒りに対しても使用可能です。

「逆鱗に触れる」の英語表現は?

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最後に、「逆鱗に触れる」の英語表現を見ていきましょう。「逆鱗に触れる」の意味にぴったり重なる英語の表現はありませんが、比較的近い意味の表現として「push ○○’s buttons」があります。例文とともに確認していきましょう。

「push ○○’s buttons」

「push ○○’s buttons」は、直訳すると「○○のボタンを押した」となり、「○○の地雷を踏む」という意味の表現です。「○○’s buttons」は「○○の怒りのボタン」…つまりは「○○が触れてほしくないこと」を表します。「逆鱗に触れる」の類義語である「地雷を踏む」にそっくりですね。

○○には、人を表す名詞が入ります。ただ○○に入る名詞は、「地雷を踏む」と同様で、目上の人以外にも対等やそれ以下の人も入りますね。ここが「逆鱗に触れる」とのニュアンスの違いです。よって使用するときは注意しましょう。

1.My thoughtless comment on the professor's article, "Japanese Monarchs," pushed his buttons. 教授が書いた論文「日本の君主」に対する私の軽率なコメントは、教授の逆鱗に触れた
2.The secretary's indiscretion pushed President Johnson's buttons. 秘書の軽率な発言が、ジョンソン大統領の逆鱗に触れた

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触らないようにしましょう…目上の人の“逆鱗”には

今回は「逆鱗に触れる」について解説しました。「逆鱗に触れる」は「目上の人を激怒させる」という意味で使用される慣用句です。古代中国の『韓非子』という書物にある「説難」という故事の一節が由来となっています。もともとは天子、つまり皇帝や天皇の怒りに対して使用していましたが、現在では広く目上の人の怒りに対して使用されますね。

他者の逆鱗にはなるべく触れずに生活したいものです…。

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国語言葉の意味

使っちゃダメな相手も?「逆鱗に触れる」の意味や使い方、類義語を院卒日本語教師がわかりやすく解説

みんなは誰かの「逆鱗に触れた」ことはありますか?私は結構あるんですね…。

この「逆鱗に触れる」という言葉、シンプルに言えば「人を怒らせる」という意味なのですが、実は使い方に少し注意が必要です。使っていい相手が限られるんです。

今回はその「逆鱗に触れる」の意味や使い方、類義語などについて、大学院卒の日本語教師の筆者が解説していきます。

ライター/むかいひろき

ロシアの大学で2年間働き、日本で大学院修了の日本語教師。その経験を武器に「言葉」について分かりやすく解説していく。

「逆鱗に触れる」の意味や語源は?

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「逆鱗に触れる(げきりんにふれる)」という言葉は聞いたことがある人が多いでしょう。実際に誰かの「逆鱗に触れた」経験がある人もいるかもしれませんね。ただ、この「逆鱗に触れる」という言葉、使い方では注意が必要な点もあります。

まずは、その「逆鱗に触れる」の意味と語源について確認していきましょう。

「逆鱗に触れる」の意味は「目上の人を激怒させる」

最初に、「逆鱗に触れる」の意味について辞書の記述を元に確認していきましょう。国語辞典では「逆鱗に触れる」は次のような意味が掲載されています。

天子の怒りに触れる。また、目上の人を激しく怒らせる。
「彼の発言が師の―」

出典:明鏡国語辞典 第二版(大修館書店)「◆逆鱗に触(ふ)・れる」

「逆鱗に触れる」は2つの意味が辞書には掲載されていますね。ただ、1番目の「天子(天=神の命令を受けて国を治める人、つまり皇帝や天皇)の怒りに触れる」はもともとの意味で、現代語では2番目の「目上の人を激怒させる」という意味で使用されることが一般的です。

注意が必要な点は、激怒させる対象は目上の人であるということですね。対等やそれ以下の立場の人間に対しては使用できません。また、「私の逆鱗に触れた」というように、自分の怒りについて述べる場合も使用不可です。気をつけましょう。

「逆鱗に触れる」の語源は?

「逆鱗に触れる」の語源は何でしょうか。「逆鱗に触れる」の語源は、古代中国の『韓非子』という書物にある「説難」という話の一節です。

竜の顎の下(のど元のあたり)には逆さまに生えたうろこ(つまり「逆鱗」)が1枚あり、それに触ると竜は怒ってその人を殺す…という伝説が「説難」に記されています。この伝説から、竜を天子、つまりは皇帝にたとえてかつては使用していました。「皇帝や天皇の怒りに触れる」ことを、当初は意味していたのですね。そこから意味が少しずつ広がり、現代のように「目上の人を激怒させる」という意味で使用されるようになりました。

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