
リゾチーム
フレミングの研究でもっとも有名なのはペニシリンの発見ですが、それよりも先にリゾチームを発見していることを忘れてはいけません。
リゾチームは細菌(グラム陽性菌)のもつ細胞壁を破壊することができる酵素の一種です。私たち人間の場合は、唾や鼻水、涙などにこのリゾチームが含まれています。これによって口、鼻、眼から侵入しようとする細菌をある程度殺菌することができるのです。
リゾチームが細菌にはたらく際には、その細胞壁が溶かされていくように見えます。そのため、リゾチームのことを溶菌酵素とよぶこともあるんです。また、リゾチームには溶菌作用がある、などということもあります。
リゾチームの発見は全くの“偶然”によるものでした。ある日、細菌を培養したシャーレ(ペトリ皿)を使って作業していた時のことです。シャーレの蓋を開けているとき、フレミングは盛大にくしゃみをしてしまいました。
ところが数日後、そのシャーレをのぞいてみると、フレミングの唾や鼻水がかかったところだけで細菌が死んでいます。これに気づいた彼は、ヒトの唾や鼻水に殺菌効果のある物質=リゾチームがあることを見出したのです。
現代では、リゾチームは卵白から精製され、医薬品や食品添加物として広く利用されています。加工食品に添加すると細菌の繁殖を抑えられるため、保存料の一種として利用されるんですね。
ペニシリン
ペニシリンのように、ある微生物が作り出し、他の微生物の繁殖を抑えるような物質のことを抗生物質といいます。ペニシリンはアオカビという菌類が作り出す抗生物質の一種です。
細菌のもつ細胞壁の主成分はペプチドグリカンという物質。ペニシリンはペプチドグリカンを合成する酵素のはたらきを阻害します。すると、細胞壁がどんどん薄くなり、最終的に細菌が死んでしまうのです。

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このペニシリンの発見にも、“偶然”の力がはたきました。
1928年、フレミングが研究室の片付けをしていた時のことです。彼は、以前にブドウ球菌という細菌を培養していたシャーレを処分しようとしていました。そのシャーレは状態が悪く、ブドウ球菌以外の菌類が入り込んでカビが生えた状態。とても使い物にならなそうなシャーレだったのですが…フレミングはあることに気づきます。そのカビの生えた周囲にだけ、ブドウ球菌が繁殖できていなかったのです。
「ブドウ球菌の増殖を抑える物質をカビがつくっているかもしれない」と勘づいたフレミングがそのカビを液体培養し、その培養液を濾過した液体(=カビの本体が含まれていない液体)を得ました。予感は的中。濾過した液体にも細菌の増殖を抑える同様の効果があることが確かめられたのです。
ブドウ球菌のシャーレに生えていたカビはアオカビであり、濾過した液体の中に含まれていた物質こそペニシリンでした。世界初の抗生物質の発見です。
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