そもそも君は「ティンバーゲンの4つのなぜ」について聞いたことがあるでしょうか?生物学の授業ではあまり出てこないキーワードかもしれない。しかしながら、この「4つのなぜ」を知っておくと勉強や研究、仕事など、実生活で問題を解決する際に役立つことがあるんです。
大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。
ライター/小野塚ユウ
生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。
生物学者ティンバーゲン
「4つのなぜ」のお話に入る前に、これを提唱したティンバーゲンという人物についてみておきましょう。
ニコラス・ティンバーゲン(Nikolaas Tinbergen)は著名なオランダの生物学者です。20世紀の動物行動学をリードし、鳥類を動物行動学の分野で大きな成果をあげました。
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ティンバーゲンの実験でよく知られているのが、トゲウオの一種であるイトヨの行動を観察したものです。繁殖期の雄のイトヨの前に、雌のイトヨを模した模型を置き、どのような刺激が雄の繁殖行動を引き起こすのかを明らかにしました。
彼はイトヨ以外にも、カモメやジガバチなどについても研究を行っています。当時の研究者たちと力を合わせ、本能や刺激といった動物の行動の一端を明らかにしていきました。
1973年には「個体的および社会的行動様式の組織化と誘発に関する研究」として、コンラート・ローレンツ、カール・フォン・フリッシュとともにノーベル生理学・医学賞を受賞したほどの研究者です。
「ティンバーゲンの4つのなぜ」
生物学者は地球上のあらゆる生物について研究を行いますが、研究者によってそのアプローチの仕方はさまざまです。
例えば今、「ヒトはなぜ5本指を動かせる手をもっているのか?」というテーマが与えられているとします。この疑問への答えは、以下のようなものが考えられるでしょう。
A. 胎児のときに腕が発達し、指の間の細胞がアポトーシス(細胞死)することで5本の指になる。
B. 手や指には数多くの筋肉が存在し、強靭な腱とともに複雑に配置されることで細かな動作を可能になる。腕から手に向かっては正中神経という太い神経が伸び、指を動かす筋肉を支配している。
C. 魚から両生類への進化の過程で前肢ができ、陸上で体を支える腕になった。哺乳類の中から霊長類が誕生すると、一部に二足歩行をするものが現れ始め、手を自由に使えるようになった。指の数は生き物によって異なる。類人猿も5本の指をもつが、人の手は親指が他の指と対抗しており、物を握ることに長けている。
D. 手のひらと細い5本の指を自在に操ることで、道具をうまく使うことができ、生存に有利に働いた。
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