「朝令暮改」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。学校や会社で行われる”朝礼”とは漢字も違うので勘違いしないように。

「朝令暮改」とはずばり「方針がハッキリしない」という意味の四字熟語です。「朝」の命「令」を夕「暮」れには「改」める…と覚えるといいでしょう。

今回はその「朝令暮改」の意味や使い方、類義語などを、大学院卒の日本語教師の筆者が解説していきます。

ライター/むかいひろき

ロシアの大学で2年間働き、日本で大学院修了の日本語教師。その経験を武器に「言葉」について分かりやすく解説していく。

「朝令暮改」の意味と語源は?

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「朝令暮改」という言葉、新聞での政治批判の記事などで見たことがある人、会社で聞いたことがある人、いるかもしれません。ただ、詳細な意味を問われると、「…。」となってしまう人も多いのではないでしょうか。ちなみに”朝礼”とは関係はありません。まず、その「朝令暮改」の意味や語源を、国語辞典を参考に見ていきましょう。

「朝令暮改」の意味は「方針がハッキリしない」

国語辞典では、「朝令暮改」は次のように掲載されています。

朝に出した命令を夕方にはもう改めること。方針などが絶えず変わって定まらないこと。朝改暮変。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「ちょうれい‐ぼかい〔テウレイ‐〕【朝令暮改】」

「朝令暮改」は「方針が絶えず変わってハッキリしない」という意味の四字熟語です。”「朝」に出た命「令」が夕「暮」れには「改」められる”と覚えるとよいでしょう。政治批判で使われることも多く、元々はネガティブな意味の表現でした。ただ、最近はポジティブな意味でも使われるようになってきています。

古代中国の政治家が生んだ言葉だった!?

この「朝令暮改」は、古代中国の政治家が書いた文書が由来となっています。

前漢の時代の政治家・晁錯(ちょうそ)は、役人の横暴により庶民が疲弊してしまっていることを、当時の皇帝・文帝に上奏しました。その上奏文の中に「急政暴虐、賦斂不時、朝令而暮改」という一節があります。この一節は「過重な税を性急に求められ、しかもそれは頻繁であり、朝に出された命令が夜には変更されている」という意味です。この上奏文に登場した「朝令而暮改」がまずは中国で広まり、その後他の文物とともに日本に流入してきたのでしょう。

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「朝令暮改」の使い方は?2つのパターン

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「朝令暮改」は元々はネガティブな意味を持った言葉でした。ただ、最近ではポジティブな文脈で用いられることも増えてきています。ここでは例文と一緒に両者の使い方を見ていきましょう。

ネガティブなパターン

まずはネガティブな文脈で使われる場合です。例文を見てみましょう。

1.田中部長の指示はいつも朝令暮改で、部下である私たちはとても苦労している。
2.日本は2日前にA国への経済制裁を決めたが、経済界からの批判を受け、朝令暮改で制裁の発動を今日取り消した。

例文1では、「田中部長の指示はいつもすぐに方針が変わってハッキリしないので、部下が苦労している」という文脈で「朝令暮改」が使用されています。すぐに指示の内容が変わってしまう上司のもとでは、部下はとても働きづらいでしょう。

例文2では、「2日前に決めた経済制裁を、反発を受け急遽発動を中止した」という文脈で「朝令暮改」が使用されています。政治の世界では、一度決まったことを取り消すととても大きな混乱が発生し、その影響も大きいです。

2つの例文のように、”方針などがすぐに変わってハッキリしない場合””決定事項を急遽変更した場合”に、「朝令暮改」は使用されます。

ポジティブなパターン

続いて、ポジティブな文脈で用いられる場合です。こちらは本来の使われ方とは違うという点は留意しておきましょう

\次のページで「「朝令暮改」の類義語は?」を解説!/

3.市場の状況が急変したため、急遽アメリカ株の購入を止めさせた。これぞ朝令暮改の対応だ。
4.方針通りに行動するのは基本だが、状況が変わった場合は朝令暮改で指示を出すことも大切だ。

例文3、4ともに、「状況の変化に応じて従来の方針を急遽改め、別の対応をとること」に対して「朝令暮改」を使用しています。一度方針を決めたら、その方針通りに動くことが望ましいですが、状況次第では方針を変更した方が良い場合もあるでしょう。

このように、急な方針変更を肯定的に捉える場合でも、最近は「朝令暮改」の使用が許容されつつあります。ただ、「朝令暮改」は元々がネガティブな意味を持つ表現であるため、類義語の章で紹介する「臨機応変」を使用する方が誤解を回避できるでしょう。

「朝令暮改」の類義語は?

続いて、「朝令暮改」の類義語を紹介していきます。本来のネガティブな意味としての類義語は「朝改暮変」「二転三転」です。また、ポジティブな文脈で用いられる「朝令暮改」の類義語として、「臨機応変」もご紹介します。

「朝改暮変」誤字ではなく“朝令暮改”と同じ意味

「朝改暮変(ちょうかいぼへん)」は「方針が絶えず変わってハッキリしない」という意味の四字熟語です。意味は「朝令暮改」と変わりません。「朝令暮改」と「朝改暮変」、漢字が少しずつ違うだけで意味は同一なため誤字かと思われるかもしれませんが、こちらも辞書に掲載されている立派な四字熟語です。

なお、「朝令暮改」は最近ではポジティブな文脈でも使用されるようになりましたが、「朝改暮変」はポジティブな文脈では通常は使用されません

「二転三転」何度も成り行きが変わること

「二転三転(にてんさんてん)」は「物事の内容・状態・成り行きなどが、何度も変わること」という意味の四字熟語です。「朝令暮改」とほぼ意味は同じですが、「二転三転」の場合、方針の転換が2回も3回も続くことを強調する場合に使用されます。「朝令暮改」は方針変更の回数は特に強調していませんが、「二転三転」の場合、”何回も”というニュアンスがより強く出てくると言えるでしょう。

\次のページで「「臨機応変」その場その場で最適解を」を解説!/

「臨機応変」その場その場で最適解を

「臨機応変(りんきおうへん)」は「その時その場に応じて、適切な手段をとること。また、そのさま」という意味の四字熟語です。”状況が急変した際に、状況に合わせて方針を適切な方向に転換する場合”に使用されます。「臨機応変」はポジティブなニュアンスを持った表現であるため、ネガティブな意味で使用されることは通常ありません。

「朝令暮改」の英語表現は?

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最後に、「朝令暮改」の英語表現を見ていきましょう。残念ながら、「朝令暮改」と同じ意味を表す英語の熟語やことわざは存在しません。よって、近い意味を表す表現で「朝令暮改」を表すことになります。

例えば、「一貫性がない」という意味の「inconsistent」という単語は、文によっては「朝令暮改」の訳がぴったり当てはまることがありますね。同様に、「変わりやすい、移り気な」という意味の「changeable」という単語も、文によっては「朝令暮改」の訳がぴったり当てはまります。例文を見てみましょう。

1.Her behavior is always inconsistent. 彼女の行動はいつも朝令暮改だ。
2.Mr. Tanaka's instructions are troublesome because they are changeable. 田中さんの指示は朝令暮改なので困る。

元々はネガティブ。現在はポジティブな意味でも。

「朝令暮改」は「方針が絶えず変わってハッキリしない」という意味の四字熟語で、本来はネガティブな意味を表す表現です。ただ、最近では「状況の変化に応じて従来の方針を急遽改め、別の対応をとること」という意味で、ポジティブな文脈で使用されることも増えてきています。ただ、元々がネガティブな意味の表現であるため、誤解を避けるためには「臨機応変」などの言葉を使った方が良いでしょう。

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国語言葉の意味

ネガティブ?ポジティブ?「朝令暮改」 の意味や使い方、類義語を院卒日本語教師がわかりやすく解説

「朝令暮改」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。学校や会社で行われる”朝礼”とは漢字も違うので勘違いしないように。

「朝令暮改」とはずばり「方針がハッキリしない」という意味の四字熟語です。「朝」の命「令」を夕「暮」れには「改」める…と覚えるといいでしょう。

今回はその「朝令暮改」の意味や使い方、類義語などを、大学院卒の日本語教師の筆者が解説していきます。

ライター/むかいひろき

ロシアの大学で2年間働き、日本で大学院修了の日本語教師。その経験を武器に「言葉」について分かりやすく解説していく。

「朝令暮改」の意味と語源は?

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「朝令暮改」という言葉、新聞での政治批判の記事などで見たことがある人、会社で聞いたことがある人、いるかもしれません。ただ、詳細な意味を問われると、「…。」となってしまう人も多いのではないでしょうか。ちなみに”朝礼”とは関係はありません。まず、その「朝令暮改」の意味や語源を、国語辞典を参考に見ていきましょう。

「朝令暮改」の意味は「方針がハッキリしない」

国語辞典では、「朝令暮改」は次のように掲載されています。

朝に出した命令を夕方にはもう改めること。方針などが絶えず変わって定まらないこと。朝改暮変。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「ちょうれい‐ぼかい〔テウレイ‐〕【朝令暮改】」

「朝令暮改」は「方針が絶えず変わってハッキリしない」という意味の四字熟語です。”「朝」に出た命「令」が夕「暮」れには「改」められる”と覚えるとよいでしょう。政治批判で使われることも多く、元々はネガティブな意味の表現でした。ただ、最近はポジティブな意味でも使われるようになってきています。

古代中国の政治家が生んだ言葉だった!?

この「朝令暮改」は、古代中国の政治家が書いた文書が由来となっています。

前漢の時代の政治家・晁錯(ちょうそ)は、役人の横暴により庶民が疲弊してしまっていることを、当時の皇帝・文帝に上奏しました。その上奏文の中に「急政暴虐、賦斂不時、朝令而暮改」という一節があります。この一節は「過重な税を性急に求められ、しかもそれは頻繁であり、朝に出された命令が夜には変更されている」という意味です。この上奏文に登場した「朝令而暮改」がまずは中国で広まり、その後他の文物とともに日本に流入してきたのでしょう。

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