物理は決して暗記科目とは言えないが、基本的な定義は覚えるしかない。そして中には、その定義をした明確な理由がないものもいくつかある。「便宜上そう決めた」というパターン。例えば電流の向き。プラス→マイナスの向きも便宜上そう決めたもの。力=質量×加速度なのも、力をそういうものとして決めたから。

実は、右ねじの法則もこのパターンで、まるまる覚える系の内容なのです。しかし、右手や右ねじを使えば大して苦にはならない。理系ライターのR175と解説していく。

ライター/R175

関西のとある理系国立大出身。エンジニアの経験があり、身近な現象と理科の教科書の内容をむずびつけるのが趣味。教科書の内容をかみ砕いて説明していく。

1.電流と磁界の関係

image by iStockphoto

電流を流すと、その周りに磁界出来るということを、19世紀にマイケルファラデーが発見しました。

電流の向きを逆にすると磁界の向きも逆向きに、そして電流に近ければ近いほど磁界が強い。
磁界の強さは電流からの距離に反比例。

ここまで実験で明らかになります。

2.磁界の向き

電流の周りに磁界が発生。電流の向きを逆向きにすると磁界の向きも逆向き。さて、磁界の向きはどう定義しようか。

極論どっち向きでもいいわけです。

ただ、どうせ決められるならなるべく使いやすいように定義したいですね。

3.右ねじの法則

3.右ねじの法則

image by Study-Z編集部

磁界の向きは、数学的に扱いやすいような向きで定義されました。その結果こそが右ねじの法則。そう、磁界の向きありきで右ねじの法則が出来たのではなく、右ねじの法則ありきで磁界の向きを決めたが正しいのです。

電流の向きがねじの進む向きとすれば磁界はねじの回る向き。あるいは、右手の親指を電流の向きとすれば他4本の指が磁界の向き(右手の法則)。

また、磁界の向きはN極→S極の向き。N極は矢印と同じ向きでS極は矢印の逆向き。

右ねじ方向が扱いやすい理由

右ねじ方向が扱いやすい理由

image by Study-Z編集部

外積に対応

ベクトルAとベクトルBの外積ベクトルCの向きは、AをBに向かって回転させた時、右ねじが進む方向。数学の外積の定義と統一させておけば何かと便利。

\次のページで「電流と電子の向きは逆」を解説!/

電流と電子の向きは逆

ちなみに、電流の向きと電子の移動する向きは逆向き。電流の向きを扱いやすい向きに定義しちゃっためにこのうよなことに。数字として扱いやすいように電流の向きは+→-と定義しました。
しかし、よくよく観察する中で電子の存在を発生。電子は-電荷だから、-→+の方向に移動、つまり電流とは逆向き。+電荷を帯びた電子のようなものはなく、現象の上では-電荷の電子が移動しています。
しかし、この時の電流の向きは便宜上電子の移動と逆向きに定義されているのです。

4.右ねじの法則を使った問題

4.右ねじの法則を使った問題

image by Study-Z編集部

方位磁石の針はN極の方向を指す仕組みになっているもの。地球の北極付近がN極となっているので方位磁石の針は常に「」を指します。しかし、地球の磁力はそれほど強くないので、方位磁石のそばに磁石を置くと、そっちの影響を受け針は「置いた磁石」のN極の方に向くもの。イラストのように電流を流した時も同様。電流の周りに磁界が発生するので、方位磁石はその磁場のN極方向を指します。

さて、イラストのように電流を下向きに流し、その手前と右側に方位磁石を置いたとき、方位磁石の指す向きが正しいのは(A)~(D)のうちどれでしょうか。

ただし、電流による磁力は地球による磁力に比べて十分大きく電流と方位磁石の間に、磁界を遮る物体はないものとします。

解答

この問題の条件下で右ねじの法則(右手の法則)を適用すれば、正解は(C)
ただし、場合によっては(A)、(B)、(D)の状態を作ることも可能ですよ。どうやって?
電流と方位磁石間に磁界を遮る物があれば(B)と(D)はあり得ます。また、電流による磁力が地球の磁力に比べて十分小さいorそもそも電流を流していなければ(A)もあり得ますね。

5.磁場の大きさの定義

この記事では、直線上を流れる電流の周りの磁場について見てきましょう。磁場の向きは右ねじの法則にしたがいます。では磁場の大きさはどう定義しましょうか。

マイケルファラデーの実験から、磁場の大きさは電流に比例、電流からの距離に反比例することが分かっています。磁場の大きさをHとしたら、電流の大きさIに比例して、電流からの距離rに反比例だから、H=定数 x 電流/距離なる形になることが想像できますね。

実際はH=(1/2π)・I/r。

いやいや、磁場の大きさHは自由に定義できるんですよね。それならば、H=I/rにした方が分かりやすくないですか?2πはどこから来たんですか。

アンペールの法則

アンペールの法則

image by Study-Z編集部

電流と磁場を関係付けるのがアンペールの法則。これによると、電流Iの定義は以下の通り

\次のページで「ほぼ暗記の塊」を解説!/

強さ1wbの磁極を電流Iの周り1周させるのに必要なエネルギー(仕事)を電流とする。

「磁極を1周、云々の部分」で磁場Hが出できて、それが=電流Iというところから、HとIの関係式が出てきます。強さ1wbの磁極を電流Iの周り1周させるのに必要なエネルギー(仕事)を電流とする。

突っ込みどころが満載。まず、wbってなに?これは、磁極の強さを表す単位。要するに磁石の強さと考えてOKです。

電流からrだけ離れた地点の磁場の大きさをHとし、そこにに磁石があるとしましょう。その磁石に働く=置いてる磁石の磁極の強さm x 磁場H です。磁場なり、磁極の強さなりがそうなるように定義されています。そのため、これも覚えざるを得ないパターン。

もちろん、置かれている磁石自体も磁場を作ります。その磁場によって、電流たる直線も力を受けますが、その話をするとややこしくなるためここでは割愛。あくまで置いてある方の磁石に働く力を考えます。

さて、強さ1[wb]磁極を電流の周りを1周させる仕事は?

仕事=力x距離

今、電流からの距離rの磁場がHのところに、強さ1[wb]の磁極を置いているとのことで、

=磁極の強さx磁場の強さ=1[wb] x H[N/wb]=H[N]。
距離は半径rの円周上を1周させるので、2πr[m]。

よって仕事はH[N] x 2πr[m]。

アンペールの法則にて、これを=電流Iと定義していますから

H・2πr=I

電場Hと電流Iの関係式が出てきました。2πの正体は「電流回りをぐるっと1周」させていたこと。

ほぼ暗記の塊

残念ながら、電流と磁界の関係「右ねじの法則」は暗記物。

ねじの進む方向が電流の方向、ねじが回る方向が磁場の方向。そう定義するのが色々便利なのでそういう定義になりました。残念ながら、その向きなった理由を現象ベースで説明することは出来ない。

ただし、右ねじの法則は、覚えることが少ない上数学の「外積」に対応するよう定義されているため、覚えておけば物理を飛び越え数学でも役に立つ「横断的な知識」となりますね。

" /> 暗記するしかない?「右ねじの法則」を理系ライターがわかりやすく解説 – Study-Z
物理理科電磁気学・光学・天文学

暗記するしかない?「右ねじの法則」を理系ライターがわかりやすく解説

物理は決して暗記科目とは言えないが、基本的な定義は覚えるしかない。そして中には、その定義をした明確な理由がないものもいくつかある。「便宜上そう決めた」というパターン。例えば電流の向き。プラス→マイナスの向きも便宜上そう決めたもの。力=質量×加速度なのも、力をそういうものとして決めたから。

実は、右ねじの法則もこのパターンで、まるまる覚える系の内容なのです。しかし、右手や右ねじを使えば大して苦にはならない。理系ライターのR175と解説していく。

ライター/R175

関西のとある理系国立大出身。エンジニアの経験があり、身近な現象と理科の教科書の内容をむずびつけるのが趣味。教科書の内容をかみ砕いて説明していく。

1.電流と磁界の関係

image by iStockphoto

電流を流すと、その周りに磁界出来るということを、19世紀にマイケルファラデーが発見しました。

電流の向きを逆にすると磁界の向きも逆向きに、そして電流に近ければ近いほど磁界が強い。
磁界の強さは電流からの距離に反比例。

ここまで実験で明らかになります。

2.磁界の向き

電流の周りに磁界が発生。電流の向きを逆向きにすると磁界の向きも逆向き。さて、磁界の向きはどう定義しようか。

極論どっち向きでもいいわけです。

ただ、どうせ決められるならなるべく使いやすいように定義したいですね。

3.右ねじの法則

3.右ねじの法則

image by Study-Z編集部

磁界の向きは、数学的に扱いやすいような向きで定義されました。その結果こそが右ねじの法則。そう、磁界の向きありきで右ねじの法則が出来たのではなく、右ねじの法則ありきで磁界の向きを決めたが正しいのです。

電流の向きがねじの進む向きとすれば磁界はねじの回る向き。あるいは、右手の親指を電流の向きとすれば他4本の指が磁界の向き(右手の法則)。

また、磁界の向きはN極→S極の向き。N極は矢印と同じ向きでS極は矢印の逆向き。

右ねじ方向が扱いやすい理由

右ねじ方向が扱いやすい理由

image by Study-Z編集部

外積に対応

ベクトルAとベクトルBの外積ベクトルCの向きは、AをBに向かって回転させた時、右ねじが進む方向。数学の外積の定義と統一させておけば何かと便利。

\次のページで「電流と電子の向きは逆」を解説!/

次のページを読む
1 2 3
Share: