今回は三次元空間と角運動量ベクトルと外積について解説していきます。

この記事では主に角運動量について説明する。角運動量という言葉は聞いたことがある人もいるかもしれないが、角運動量を正確に扱うためには角運動量ベクトルを考えなければならない。角運動量ベクトルを扱うには外積という演算を、外積を扱うためには三次元空間を扱わなければならない。この記事は物理学の初学者には少し難しいかもしれないが頑張ってみよう。

今回は物理学科出身のライター・トオルさんと解説していきます。

ライター/トオル

物理学科出身のライター。広く科学一般に興味を持つ。初学者でも理解できる記事を目指している。

3次元空間と角運動量ベクトルと外積

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この世界の存在は三次元的に考えるのが一般的です。物理学的には四次元もしくはもっと高次元を考えることもありますが、一般的には三次元として考える事が多いと思います。この記事で三次元とは簡単に位置を表すのに3つの情報、たとえば(x,y,z)が必要な空間としておきましょう。

運動量がベクトル量であるように、角運動量もベクトル量になります。ベクトル量とは大きさだけでなく、向きも持つ量です。角運動量ベクトルを正確に取り扱うには、ベクトルの外積という演算を用いる必要がります。空間は三次元であることを考えると、角運動量ベクトルを正確にとり扱う場合も三次元で考えなければなりません。

角運動量ベクトルが表す実際の運動は、角運動量ベクトルを中心にして反時計回りの運動である、という初学者にとっては違和感のある関係をしています。しかし、これは歴史的に回転を表すのに都合のよい方法を色々を考えた結果生み出されたものですので、回転運動を取り扱うには非常にうまい方法なのです。

人間は三次元的にものを考えるのが苦手ですが、角運動量ベクトルを考えるには三次元的に考える必要があります。角運動量ベクトルを考える事によって三次元的なイメージになれていきましょう。最初は難しくても、常に三次元的イメージを持つことを心掛けてください。

外積について

外積について

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まずは数学的準備として外積について簡単に説明しておきましょう。外積は物理学的に回転運動を分析するときには大抵でてくる演算であり、物理学を学ぶ場合には覚えておく必要がある知識です。上記はaベクトルとbベクトルの外積を図と成分で表した画像になります。外積は四則演算の掛けると同じ記号ですので、間違えないようしましょう。

画像の図を見てください。aベクトルとbベクトルは同一平面上あるとします。aとbの外積は、aにもbにも垂直で、その大きさはaの大きさとbの大きさを掛けたものに間の角のsinを掛けたものです。点線はbとサインシータを掛けたものであり、点線の長さにベクトルaの長さを掛けたものがaとbの外積の大きさになります。aと点線は垂直であることに注意してください。

成分での計算方法は図の右側の真ん中です。これは行列式の計算と同じになるのですが、このパターンをそのまま覚えたほうが速いと思います。まずは図での理解が重要ですので、3つのベクトルの関係性をちゃんと覚えておきましょう。あと、外積は計算の順序を入れ替えたら結果が変わってしまうことにも注意してください。上の図でもしbとaの外積にした場合、大きさは変わらないのですが向きが逆、つまり結果にマイナスがついてしまいます。

力のモーメント

力のモーメント

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駆け足で外積を説明しましたが、次は回転運動を起こす力の表現を見てみましょう。rの位置にある物体mに、Fという力が掛かっているとします。その時、原点の回りの回転運動を起こす力はrとFの外積であるNです。このNを力のモーメントと呼びます。少しわかりにくいですが、それぞれのベクトルの位置関係を表したのが上記の三つの図です。

上の図は斜めからみた図で、左下はrとFを含む平面の真上から見た図、右下はrとFを含む平面の真横から見た図になります。ベクトルは平行移動できることを考え、Fを原点まで平行移動させると、先ほどの外積の画像の位置関係とまったく同じであることがわかるでしょう。重要なのは力のモーメントベクトルはrとFの両方に垂直になっているということです。Nのような力のモーメントベクトルは、Nの周りに反時計回りの回転を生み出す力を表していることを理解してください。

角運動量

角運動量

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次はいよいよ角運動量になります。といっても力のモーメントとほぼ同じで、力Fのところが運動量pに置き換わっているだけです。つまり、位置rと運動量pの外積をLとして、このLが角運動量ベクトルになります。先ほどの力のモーメントと同じで、角運動量ベクトルはrベクトルとpベクトルの両方に垂直であることに注意してください。

力のモーメントベクトルと同様に、重要なのは回転運動の方向とベクトルの方向が違うということです。角運動量ベクトルが表す回転運動は、角運動量ベクトルの真上から見たときに反時計回りの運動になります。最初は非常に作為的なもののように感じますが、回転を表すのにはこのようなベクトルを考えると非常にうまくいくので慣れていきましょう。

\次のページで「回転運動の運動方程式」を解説!/

回転運動の運動方程式

回転運動の運動方程式

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ここまでくれば回転運動の運動方程式が理解できるはずです。Lを角運動量、Nを力のモーメントとすると回転運動の運動方程式は上記画像の一番左上、すなわち角運動量の時間微分が加えられた力のモーメントに等しいという式になります。これはその右の普通の運動方程式を運動量Pで表した式、すなわち運動量Pの時間微分が加えられた力に等しいという式と同じ形です。

ただし、角運動量は位置ベクトルrと運動量ベクトルpの外積、力のモーメントNは位置ベクトルrと力ベクトルFの外積であることに注意してください。その右は普通の運動方程式です。最後の少し複雑な式は、回転運動の運動方程式を通常の直交座標系のベクトルの成分で表示した式になります。外積の演算を覚えていれば自動的にでてくるはずです。

運動方程式で力のモーメントをゼロとすると、角運動量の時間変化はゼロ、すなわち角運動量が一定となり角運動量保存則がそのままでてきます。これは普通の運動方程式で力をゼロとすると運動量保存則がでてくるのと同じです。角運動量保存則とは運動量保存則と同様に、力のモーメントが加わらないかぎり物体は同じように回転し続けるという意味になります。

具体的な運動量

具体的な運動量

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簡単な円運動で角運動量を求めてみましょう。左上の図を見てください。簡単のためにx軸上のrの位置に質量mの物体があり、y軸方向にpの運動量を持っているとします。円運動なので力Fは原点方向です。それをベクトル成分で表したのが図の下の式になります。最後は運動量mvを極座標表示に変形しmrωとしました。ωとは角度θを時間で微分したものになります。

このベクトルをそれぞれ一番右の列の式に当てはめてるとでてくるのが一番左下の式です。この式は先ほどの回転運動の運動方程式、つまり角運動量の時間変化は力のモーメントに等しいという式になります。したがって、円運動ではz方向のmr^2ωが角運動量ベクトルで、力のモーメントはゼロという意味です。よって、力のモーメントが加わらない円運動は、角運動量mr^2ωが保存するというよく知られた結果を表しています。

まずは図で理解する

回転運動は素粒子から宇宙空間まで現れる一般的な運動の形態です。それを取り扱うのに角運動量というのは非常に便利な概念になります。この記事で学んだように、角運動量を正確に取り扱うには三次元的に考えなければなりません。そこで出てくるのが外積という演算です。とにかく、まずは図で3つのベクトルの位置関係を理解しすることが重要になります。角運動量ベクトルが理解できれば、外積も十分に使いこなせるはずです。

回転運動の運動方程式は、外積を使うと元のニュートンの運動方程式とまったく同じ形をしています。力をゼロとすれば保存量がでてくることも、直線の運動の場合とまったく同じです。このように外積を使うと、回転の場合のニュートンの運動方程式も綺麗な形でまとめられることを覚えておきましょう。

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物理理科

3次元空間と角運動量ベクトルと外積を理系ライターがわかりやすく解説

回転運動の運動方程式

回転運動の運動方程式

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ここまでくれば回転運動の運動方程式が理解できるはずです。Lを角運動量、Nを力のモーメントとすると回転運動の運動方程式は上記画像の一番左上、すなわち角運動量の時間微分が加えられた力のモーメントに等しいという式になります。これはその右の普通の運動方程式を運動量Pで表した式、すなわち運動量Pの時間微分が加えられた力に等しいという式と同じ形です。

ただし、角運動量は位置ベクトルrと運動量ベクトルpの外積、力のモーメントNは位置ベクトルrと力ベクトルFの外積であることに注意してください。その右は普通の運動方程式です。最後の少し複雑な式は、回転運動の運動方程式を通常の直交座標系のベクトルの成分で表示した式になります。外積の演算を覚えていれば自動的にでてくるはずです。

運動方程式で力のモーメントをゼロとすると、角運動量の時間変化はゼロ、すなわち角運動量が一定となり角運動量保存則がそのままでてきます。これは普通の運動方程式で力をゼロとすると運動量保存則がでてくるのと同じです。角運動量保存則とは運動量保存則と同様に、力のモーメントが加わらないかぎり物体は同じように回転し続けるという意味になります。

具体的な運動量

具体的な運動量

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簡単な円運動で角運動量を求めてみましょう。左上の図を見てください。簡単のためにx軸上のrの位置に質量mの物体があり、y軸方向にpの運動量を持っているとします。円運動なので力Fは原点方向です。それをベクトル成分で表したのが図の下の式になります。最後は運動量mvを極座標表示に変形しmrωとしました。ωとは角度θを時間で微分したものになります。

このベクトルをそれぞれ一番右の列の式に当てはめてるとでてくるのが一番左下の式です。この式は先ほどの回転運動の運動方程式、つまり角運動量の時間変化は力のモーメントに等しいという式になります。したがって、円運動ではz方向のmr^2ωが角運動量ベクトルで、力のモーメントはゼロという意味です。よって、力のモーメントが加わらない円運動は、角運動量mr^2ωが保存するというよく知られた結果を表しています。

まずは図で理解する

回転運動は素粒子から宇宙空間まで現れる一般的な運動の形態です。それを取り扱うのに角運動量というのは非常に便利な概念になります。この記事で学んだように、角運動量を正確に取り扱うには三次元的に考えなければなりません。そこで出てくるのが外積という演算です。とにかく、まずは図で3つのベクトルの位置関係を理解しすることが重要になります。角運動量ベクトルが理解できれば、外積も十分に使いこなせるはずです。

回転運動の運動方程式は、外積を使うと元のニュートンの運動方程式とまったく同じ形をしています。力をゼロとすれば保存量がでてくることも、直線の運動の場合とまったく同じです。このように外積を使うと、回転の場合のニュートンの運動方程式も綺麗な形でまとめられることを覚えておきましょう。

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