「一朝一夕」という言葉、ちゃんと読めるか?「いっちょういっせき」と読む。聞いたことがある人は多いんじゃないかな。意味は分かるでしょうか。

この「一朝一夕」の意味は、簡単に言えば「わずかな期間」です。ただ、使われる文脈には少し注意が必要です。「わずかな期間」という意味でいつでもどこでも使える表現ではないからな。

今回はその「一朝一夕」の意味や語源、使い方などを、大学院卒の日本語教師・むかいひろきに解説してもらうぞ。

ライター/すけろく

ロシアの大学で2年間働き、日本で大学院修了の日本語教師。その経験を武器に「言葉」について分かりやすく解説していく。

「一朝一夕」の意味と語源は?

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「一朝一夕(いっちょういっせき)」という言葉、見たり聞いたりしたことはあっても、正確な意味を問われると悩んでしまう人も多いかもしれません。まずはその「一朝一夕」の意味と語源を、辞書を参考に見ていきましょう。

「一朝一夕」の意味は「わずかな期間」

国語辞典には「一朝一夕」は次のような意味が掲載されています。

《一日か一晩か、の意から》わずかな期間。短い時日。「これほどの大事業は―には成就しない」

出典:デジタル大辞泉(小学館)「いっちょう‐いっせき〔イツテウ‐〕【一朝一夕】」

「一朝一夕」は「わずかな期間」という意味の四字熟語です。現代語では打消しの表現とともに用いて、「わずかな期間で~しない」という意味を表すのが原則となっています。あくまでも「わずかな期間」であり、「わずかな時間」でないことに注意が必要です。使い方の章で説明しますが、「わずかな期間」が1日未満であることは原則ありません。

古代中国の書物『易経』から誕生

日本語の「一朝一夕」の語源は、古代中国の書物『易経』にある「臣弑其君、子弑其父、非一朝一夕之故」という一節です。この一節は「臣下が主君を殺したり、子どもが親を殺したりするようなことは、ある日突然起こるのではない」という意味になります。

この『易経』は簡潔に言うと占いのための書物です。古代は中国でも日本でも占いが政治において大きな役割を果たしていました。中国から文化や技術が日本に流入するなかで、この『易経』も日本に入り、「一朝一夕」という言葉も定着していったのでしょう。

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「一朝一夕」の使い方!打消しと一緒が原則!

続いて、「一朝一夕」の使い方を解説します。現代語では、「一朝一夕」は「~ない」などの打消しの表現と一緒に使うことが原則です。例文を確認してみましょう。

1.たとえ小さな大会でも優勝するには一朝一夕の努力では足りないよ。みんな辛い練習を長い期間頑張っているんだ。
2.部長から再来週のプレゼンの資料作成と上層部への提出を急に頼まれたが、これは一朝一夕で作ることができる内容ではない…。
3.一朝一夕の勉強で東大合格なんかできるわけがない

例文1では、”小さな大会でも優勝するにはわずかな期間の努力では足りない。もっと努力が必要だ”という文脈で「一朝一夕」が使用されています。たとえ小さな大会であっても、優勝する人は一定の期間以上の努力を積んだ人だけでしょう。

例文2では、”このプレゼン資料は短期間で作成できる内容ではない”という文脈で「一朝一夕」が使用されています。1日や2日で作成できるものではないというのがここでの意味ですね。

例文3では、”わずかな期間の勉強で東大合格はできない”という文脈で「一朝一夕」が使用されています。たった1か月や2か月の勉強だけで東京大学に合格できることは、まずありえないでしょう。

ここで注意が必要なのは、「一朝一夕」が示す「わずかな期間」は文脈に依存する点です。例文2は、文脈から1日~2日が「わずかな期間」と推測できますが、例文3では「わずかな期間」は1か月~半年程度でしょう。ただ、「一朝一夕」は示す「わずかな期間」が1日未満であることはほぼありません。

「一朝一夕」の類義語は?

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次に、「一朝一夕」の類義語を確認していきましょう。「一朝一夕」の類義語には、「わずかな時間、短い時間」を表すもの(パターン1)と、「少しの期間でできるものではない」という意味を表すもの(パターン2)があります。

「片時」ほんのわずかな間(パターン1)

「片時(かたとき)」は「ほんのしばらくの間」という意味の言葉です。「片時も目が離せない」といったように一瞬のようなごくわずかな時間に対して使うことが多い表現ですが、「ほんのしばらくの間」の具体的な長さは文脈に依存します。「一朝一夕」と異なり、打消しの言葉と一緒に用いない場合も多いです。

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「須臾」ほんの少しの間(パターン1)

「須臾(しゅゆ)」は「ほんの少しの間」という意味の言葉で、「しばらく」とも読みます。「須臾の間も君のそばを離れたくない」といったように、片時と同様に一瞬のようなごくわずかな時間に対して使うことが多い表現です。ただ、その「ほんの少しの間」の長さは文脈に依存します。「一朝一夕」と異なり、打消しの言葉と一緒に用いない場合も多い点も、「片時」と同じですね。

「ローマは一日にして成らず」実現には長期の努力が必要(パターン2)

パターン2は、「一朝一夕」と打消しの表現がセットになったものに対しての類義語ですね。

「ローマは一日にして成らず」は「何事も長期間の努力なしに成しとげることはできない」という意味のことわざです。英語の「Rome was not built in a day」ということわざが翻訳され、日本でも定着したものだとされています。

例文で見た通り、「一朝一夕」は「~ない」などの打消しの表現とセットで使用され、「わずかな期間で~できない」という意味を表すものです。「何事も長期間の努力なしに成しとげることはできない」という意味の「ローマは一日にして成らず」は、似たような意味を表す表現だといっていいでしょう。

「一朝一夕」の英語表現は?

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最後に、「一朝一夕」の英語表現をご紹介します。「一朝一夕」をそのまま訳しても英語ではもちろん通じませんが、似たような意味を表す表現は「overnight」です。確認していきましょう。

「overnight」一夜のうちに

「overnight」は「一夜のうちに」という意味の表現で、「~できる」という文脈で時間を表す場合は、「すぐにできるものではない」「短時間でできるものではない」「1日でできるものではない」という意味を表す場合があります。この場合は「一朝一夕」の意味とほぼ同じと言えるでしょう。

例文を見てみましょう。

1.Translating this book is not something that can be done overnight. この本の翻訳は、一朝一夕でできるものではない。
2.Smith became an astronaut not overnight, but after an extended period of hard work. スミスさんは一朝一夕の努力ではなく、長期間の努力で宇宙飛行士になった。

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大切なのは粘り強い努力「一朝一夕」

今回は「一朝一夕」について解説しました。「一朝一夕」は「わずかな期間」という意味の表現で、現代語では「~ない」などの打消しの言葉とともに使われるのが原則です。あなたは何か人生の目標がありますか?その目標の達成のためには、今日1日だけの一朝一夕の努力では達成できません。粘り強く頑張りましょう!

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国語言葉の意味

打消しと一緒に使う?「一朝一夕」の意味や語源、使い方を院卒日本語教師がわかりやすく解説

「一朝一夕」という言葉、ちゃんと読めるか?「いっちょういっせき」と読む。聞いたことがある人は多いんじゃないかな。意味は分かるでしょうか。

この「一朝一夕」の意味は、簡単に言えば「わずかな期間」です。ただ、使われる文脈には少し注意が必要です。「わずかな期間」という意味でいつでもどこでも使える表現ではないからな。

今回はその「一朝一夕」の意味や語源、使い方などを、大学院卒の日本語教師・むかいひろきに解説してもらうぞ。

ライター/すけろく

ロシアの大学で2年間働き、日本で大学院修了の日本語教師。その経験を武器に「言葉」について分かりやすく解説していく。

「一朝一夕」の意味と語源は?

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「一朝一夕(いっちょういっせき)」という言葉、見たり聞いたりしたことはあっても、正確な意味を問われると悩んでしまう人も多いかもしれません。まずはその「一朝一夕」の意味と語源を、辞書を参考に見ていきましょう。

「一朝一夕」の意味は「わずかな期間」

国語辞典には「一朝一夕」は次のような意味が掲載されています。

《一日か一晩か、の意から》わずかな期間。短い時日。「これほどの大事業は―には成就しない」

出典:デジタル大辞泉(小学館)「いっちょう‐いっせき〔イツテウ‐〕【一朝一夕】」

「一朝一夕」は「わずかな期間」という意味の四字熟語です。現代語では打消しの表現とともに用いて、「わずかな期間で~しない」という意味を表すのが原則となっています。あくまでも「わずかな期間」であり、「わずかな時間」でないことに注意が必要です。使い方の章で説明しますが、「わずかな期間」が1日未満であることは原則ありません。

古代中国の書物『易経』から誕生

日本語の「一朝一夕」の語源は、古代中国の書物『易経』にある「臣弑其君、子弑其父、非一朝一夕之故」という一節です。この一節は「臣下が主君を殺したり、子どもが親を殺したりするようなことは、ある日突然起こるのではない」という意味になります。

この『易経』は簡潔に言うと占いのための書物です。古代は中国でも日本でも占いが政治において大きな役割を果たしていました。中国から文化や技術が日本に流入するなかで、この『易経』も日本に入り、「一朝一夕」という言葉も定着していったのでしょう。

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