今回は「毒物」と「劇物」の違いについて勉強していこう。

どちらもヤバそうなもの、というのは何となくわかるよな。じゃあその違いはどこにあるんでしょうか。

毒物劇物取扱責任者の資格を持ち、化学に詳しいライターAyumiと一緒に解説していきます。

ライター/Ayumi

理系出身の元塾講師。わかるから面白い、面白いからもっと知りたくなるのが化学!まずは身近な例を使って楽しみながら考えさせることで、多くの生徒を志望校合格に導いた。

1.「毒〇〇」と「劇〇〇」で考える

「毒物」と「劇物」について考える前に、「毒〇〇」と「劇〇〇」の例をとってイメージを掴んでみましょう。どんなものを思い浮かべますか?

1-1.毒のつく言葉

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毒物、毒薬、有毒、毒きのこ、ふぐ毒など、毒のつく言葉はたくさんありますよね。感覚的に「毒」と聞くと体に悪いどころか「死に至るような身体への悪影響」を想像する人が多いのではないでしょうか。

1-2.劇のつく言葉

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一方で劇のつく字はそれほど多くありません。すぐ思い付くものといえば今回のテーマである劇物、劇薬くらいでしょうか。劇務や劇痛という言葉もありますが、激の字を当てるのが一般的です。いずれにしても、毒がつくものよりも言い方はちょっとアレですが「死にはしない」というイメージがあるかもしれませんね。

2.「毒物」と「劇物」

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それでは「毒物」と「劇物」の定義について見ていきましょう。

実は毒物も劇物も、対象物質が劇物取締法によって指定されています。詳しい一覧はこちらをご覧いただくとして、本記事では毒物劇物の判定基準について読み解いていきましょう。

\次のページで「2-1.表記方法」を解説!/

1.動物実験による検査

(1)急性毒性

 経口 毒物:LD50が 50mg/kg 以下のもの、劇物:50mg/kg を超え300mg/kg以下のもの

 経皮 毒物:LD50が 200mg/kg 以下のもの、劇物:200mg/kg を超え1,000mg/kg以下のもの

(2)皮膚に対する腐食性

 劇物:一定条件において、表皮下の真皮に至る明らかな損傷が見られる場合

(3)眼などの粘膜における重篤な損傷

 劇物:結膜などの損傷、角膜混濁、虹彩炎など

2.ヒトにおける事故等を参考にした検討・判定

3.その他の知見による毒性・刺激性の検討・判定

4.投与経路が限定されるものについて

 上記1~3において、製品の形状や物性から投与経路が限定される場合については、

 想定しがたい状況下での判定を省略するなどして判定する。

5.特定毒物の認定

 毒物の中でも極めて毒性が強く著しい危害発生の恐れがあり、

 一般に使用される(と考えられる)ものは特定毒物とする。

まず、毒物と劇物を定めるのは、半数致死用量 LD50 または半数致死濃度 LC50 といった 投与した動物の50%が死ぬ容量または濃度基準です。この数値が小さいほど少量で死に至ることを意味し、毒性が強いことを表します。これらの値は口からの摂取、皮膚への塗布や注射、ガスや蒸気などの吸入による致死用量を動物実験によって求めたものです。一定基準を設けたうえで、より毒性の強いものを毒物、続いて劇物とします。

つまり、毒物は少量が体内に入っただけでも死に至る(危険性が高い)物質といえるでしょう。その中でもより危険度が高く、一般へに使用されやすい物質については特定毒物とされます。

劇物における致死用量には幅があり、皮膚や粘膜に対するダメージの大きさも考慮しての判定が必要です。肌に触れることで重度の火傷を引き起こすようなものはこれに該当しますね。

2-1.表記方法

2-1.表記方法

image by Study-Z編集部

画像引用:富士フイルム和光純薬株式会社

毒劇物にはそれぞれの表記・表示方法が定められています。一例として、硫酸のボトルに貼られているラベルを見てみましょう。硫酸は触ると化学熱傷(薬品による火傷)を引き起こす劇物です。左列の真ん中に「医薬用外劇物」の表記があるのがわかりますね。このように、劇物には「医薬用外」という文字とともに「劇物」であることを指定の方法で示さなければなりません。毒物に関しても同様です。

2-2.毒劇物は医薬用外

では、この「医薬用外」の言葉の意味を見ていきましょう。毒物・劇物はその表示の通り「医薬用ではない(「医薬品」や医薬品と化粧品の中間の製品である「医薬部外品」ではない)」物質に該当します。

一方で毒薬・劇薬は毒性・劇性の強い「医薬品」を意味し、薬事法に基づいて指定されている物質です。毒薬か劇薬かの判定は毒物・劇物同様に判定基準があり、より毒性の強いものを毒薬としています。

\次のページで「3.「毒劇物」の取り扱い」を解説!/

3.「毒劇物」の取り扱い

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すでに述べた通り、毒物・劇物及び毒薬・劇薬というのは少量でも死に至らしめる危険性があったり、身体に重篤な症状をもたらす危険性のある物質です。そのため、取り扱いや保管には厳重な注意を払う必要があります。

基本的には下記の点に注意しなくてはなりません。

鍵のかかる場所に保管し、紛失や盗難等がないように管理を徹底すること。

他の薬品や試薬などと分けて保管すること。

一般の人が容易に近づいたり取り出したり出来ない措置をとること。

使用量や残量、未使用の在庫数を点検し、帳簿に書き示して把握すること。

容器の移し替えは適切に行い、表示を徹底すること。

化学分野いや中和、燃焼等の処理なしに廃棄しないこと。

自己処理できない場合は業者へ処理を委託すること。

流出や盗難、事故等が起こった場合はすみやかな措置を講じること。

基本的なポイントをまとめましたが、要は「管理を徹底して紛失や盗難のリスクをなくす」ことが大切ということですね。事故を防止するという観点からも、取り扱い方法を周知させることも重要でしょう。

販売や製造等の事業にはこれらを管理するための責任者が必要です。病院などでは薬学を学んだ薬剤師、その他の企業では化学を学んだ毒劇物取扱責任者をおくことが必要とされています。

毒物の毒性の強さは劇物の10倍!?

毒物と劇物はある基準によって毒性の強さを判定し、より毒性の強い物質を毒物としています。毒物は毒性が強い、つまり致死量が少ない(少量でも死に至る)物質です。劇物は毒物に比べて毒性は若干弱くなるものの、触れると皮膚や粘膜に深刻なダメージを与える物質であることは変わりありません。

また、毒物の中でも危険度に応じて特定毒物に指定されます。医薬品として用いられるものについては、毒薬・劇薬としての分類となることも覚えておきましょう。こちらも毒性の強い方が毒薬ですね。

どれも工業や医療等様々な場面で正しく使えば有用な物質・薬品です。しかし使用量や取り扱いによっては人体や生命への危険性が増すため、細心の注意が必要でしょう。普段学校で行う実験でも、このような危険なものを扱い場合があります。決してふざけることなく、指示を守って取り扱うようにしたいですね。

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化学

意外と知らない?「毒物」と「 劇物」の違いを元塾講師がわかりやすく解説

今回は「毒物」と「劇物」の違いについて勉強していこう。

どちらもヤバそうなもの、というのは何となくわかるよな。じゃあその違いはどこにあるんでしょうか。

毒物劇物取扱責任者の資格を持ち、化学に詳しいライターAyumiと一緒に解説していきます。

ライター/Ayumi

理系出身の元塾講師。わかるから面白い、面白いからもっと知りたくなるのが化学!まずは身近な例を使って楽しみながら考えさせることで、多くの生徒を志望校合格に導いた。

1.「毒〇〇」と「劇〇〇」で考える

「毒物」と「劇物」について考える前に、「毒〇〇」と「劇〇〇」の例をとってイメージを掴んでみましょう。どんなものを思い浮かべますか?

1-1.毒のつく言葉

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毒物、毒薬、有毒、毒きのこ、ふぐ毒など、毒のつく言葉はたくさんありますよね。感覚的に「毒」と聞くと体に悪いどころか「死に至るような身体への悪影響」を想像する人が多いのではないでしょうか。

1-2.劇のつく言葉

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一方で劇のつく字はそれほど多くありません。すぐ思い付くものといえば今回のテーマである劇物、劇薬くらいでしょうか。劇務や劇痛という言葉もありますが、激の字を当てるのが一般的です。いずれにしても、毒がつくものよりも言い方はちょっとアレですが「死にはしない」というイメージがあるかもしれませんね。

2.「毒物」と「劇物」

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それでは「毒物」と「劇物」の定義について見ていきましょう。

実は毒物も劇物も、対象物質が劇物取締法によって指定されています。詳しい一覧はこちらをご覧いただくとして、本記事では毒物劇物の判定基準について読み解いていきましょう。

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