月下美人は年に一度しか咲かない?
儚い花、というイメージが強いせいか、月下美人は年に一度しか咲かないと思われていることが多いようです。
花期は数ヶ月と長く、日本では6~11月が月下美人の花期となっていて、この期間に、開花に必要な栄養を十分に吸収することができていれば、再び開花することがあります。もちろん、栄養状態が悪ければ年に一度しか開花しなかったり、場合によってはまったく開花しないこともあるようです。開花の回数が年に〇回、と決まっているわけではなく、その株の栄養状態によって左右されるということですね。
「月下美人」の生態
それでは、月下美人はなぜ夜にしか咲かないのでしょうか。
これには、月下美人の受粉の仕組みが関係しているのです。
植物の多くは、他の株の花粉が自分の花に受粉することで種をつくって殖えることができます。月下美人もそのひとつです。
そのため、いかに効率よく花粉を運び、他の株と受粉できるかが、植物にとっては死活問題となります。
スギのように風で花粉を撒き散らすタイプの植物もありますが、他の生き物を花粉の運び屋に使うケースも多く見られ、ミツバチなどは有名な例のひとつです。
こういった花は、できるだけ自分の花に生き物がやってくるよう、目立つ色の花を咲かせたり、蜜を増やしたり、香りを強めたりしていますが、どの植物も同じような戦略をとっているので、どうしても競争率が高くなります。
そこで、月下美人は夜行性の生き物を利用する方向に進化しました。
夜間は暗くて色が見えないので、派手な色彩を持つ必要はありません。むしろ、白い色は月明かりや星明りを反射し、暗闇の中で少しでも見えやすくなる機能を果たしています。その代わり、暗闇でもはっきりと自己主張できるよう強い香りを放ち、少しでも生き物がとまりやすいよう花を大きくしたのです。
月下美人と同じように夜間しか咲かないことで知られる烏瓜も、似たような生態をもっています。月下美人と同様に、白い花で少しでも夜間の視認性を高め、強い香りで虫などの生き物を引きつけるのです。花は月下美人ほど大きくはありませんが、白い糸のような花びらが複雑に広がり、飛んでいるガなどがとまりやすくなっています。
原産地であるメキシコで、月下美人の花粉を運んでいるのは、主にコウモリです。コウモリがとまっても壊れないよう、大きく丈夫な花を咲かせているのですね。
これだけ大きな花を長期間咲かせ続けるのは大変なので、一晩だけ咲いたら散ってしまう仕組みなのです。
美しくも儚い不思議な花ですが、そこにはちゃんと生きるための工夫がかくされています。
「月下美人」に詳しくなろう
この記事では、「月下美人」とは何か、多角的に見てきました。月下美人そのものは植物の名前ですが、月下美人を知ることで、他の言葉や文化を知っていく手がかりがあったはずです。
月下美人が登場する文学作品も多いので、教養としてぜひ、覚えておきましょう。