この記事では「月下美人(ゲッカビジン)」について解説する。

端的に言えば、月下美人は植物の名前ですが、変わった習性から「美人薄命」の由来とも言われているぞ。

元塾講師で、国語だけでなく自然科学全般に造詣の深い「gekco」を呼んです。一緒に「月下美人」について詳しく見ていきます。

ライター/gekco

自然解説の専門家として活動し、出版物の校正も手がける。豊富な知識と分かりやすい解説で好評を博している。

「月下美人」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは、早速「月下美人」について詳しく見ていきましょう。

「月下美人」とは?

月下美人とは、実はサボテン科の植物の名前です。文字からはちょっと想像しにくいのですが、四字熟語というより、生き物としての植物の名前(種名)になります。

サボテン科の着生植物。中南米原産。下部の茎は木質、上部の茎は葉状で良く分枝し、高さ3メートルにまで達する。夏の夜、長さ30センチメートルほどの白色漏斗状の花が咲く。花は芳香を放ち、数時間でしぼむ。クジャクサボテン類の母種の一。〔季〕夏。

出典:大辞林 第三版(三省堂)「月下美人」

熱帯雨林に生育する中南米原産の植物ですが、日本には園芸用として古くから輸入され、親しまれてきました。外国の植物にも関わらず「月下美人」という日本語の名前が与えられているのはそのためです。

あまり見かける機会の多い植物ではありませんが、愛好家の間で趣味として広く栽培されています。

水やりのしすぎとチッソなど肥料の量、置き場所に注意すれば、育て方は難しくありません。

「月下美人」の由来は?

月下美人は、花期になると白くて美しく、香りの強い大きな花を咲かせます。この花が、夜にしか咲かないのです。つぼみは夕方に膨らみながら上を向き始め、夜間に満開となります。そして、受粉しなければ翌朝にはしぼんでしまい、その花が再び咲くことはありません。

一晩しか咲かない儚さと、月明かりに照らされた美しい姿が、月下美人の名前の由来です。

この由来に基づいて、実際に月下美人という名前をつけたのは、昭和天皇ではないか、という説があります。皇太子だった昭和天皇が台湾を訪れた際、美しく咲く花に目を留め、台湾総統だった田氏に名前をたずねたところ、田氏がとっさに答えた名前が「月下美人」だった、というのです。真偽は定かではありませんが、事実だとしたら、田氏の表現は言い得て妙、といったところでしょう。

ちなみに、英名は「Queen of the night」(夜の女王)で、月下美人の大輪の花を女王にたとえています。

\次のページで「「月下美人」にまつわる文化」を解説!/

「月下美人」にまつわる文化

夜、それも一晩しか咲かないという変わった習性から、月下美人は昔から特別な花として扱われてきました。その花言葉も「儚い美」「儚い恋」「あでやかな美人」などで、月下美人の特徴をよく表しています。

言葉の響きや美しさから、いろいろな小説や楽曲などのタイトルに使われることも多く、吉村昭氏の小説「月下美人」はその代表格ともいえるでしょう。

一方、一晩しか咲かない珍しい花であるにも関わらず、その花は食用にされます。一輪が約30センチと大きいことと、開花したあとのしぼんだ花でも食べられることが、食用にされた理由でしょう。私も月下美人のピクルスを食べたことがありますが、歯ごたえが良くなかなか美味しいと思いました。

さらに、実を食用にする「食用月下美人」と言う品種も存在し、栽培されています。流通量は少ないものの、果実はドラゴンフルーツのようで甘いそうです。こちらは残念ながら食べたことがないのですが、機会があれば食べてみたいものですね。

「月下美人」の類義語は?

月下美人はあくまで植物の種名なので類義語はありませんが、月下美人に由来する言葉があります。それが、「美人薄命」です。

美人薄命」は「佳人薄命」と同じ意味の言葉で、どちらも次のような意味となります。

美人には生まれつき病弱であったり、数奇な運命にもてあそばれたりして、不幸な者や命短い者が多いということ。美人薄命。

出典:大辞林 第三版(三省堂)「佳人薄命」

美しい花でありながら一晩で散ってしまう月下美人と、どこか重なる言葉ですね。美人薄命はれっきとした四字熟語なので、意味や使い方をおさらいしておくといいでしょう。美人薄命は次のように使われます。

あのきれいな女優さんが亡くなるなんて、美人薄命とはこのことだ。

美人を自称する母は、美人薄命とは縁のない老後を謳歌している。

月下美人とセットで覚えておけば、使える幅も広がるはずです。

また、月下美人はメキシコ原産の花ですが、日本にも「烏瓜(カラスウリ)」という、同じような花があります。

\次のページで「「月下美人」の都市伝説」を解説!/

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ウリ科のつる性多年草。巻きひげで他物にからみつく。雌雄異株。夏の夕方、縁が糸状に裂けた五弁の白色花を開く。果実は大きな楕円形で赤熟する。根から採ったデンプンは天瓜粉(てんかふん)の代用になる。また、根を黄疸・利尿薬に、種子を催乳に用いる。〔季〕秋。[「烏瓜の花」は〔季〕夏]

出典:大辞林 第三版(三省堂)「烏瓜」

花が白く、夜間にしか咲かないところは月下美人と良く似ています。「烏瓜」は秋の季語、「烏瓜の花」は夏の季語になっているので、この機会に知っておいて損はないでしょう。

行く秋のふらさがりけり烏瓜(正岡子規)

溝川や水に引かかる烏瓜(一茶)

「月下美人」の都市伝説

不思議な花、というイメージが根強い月下美人には、いくつか都市伝説的な情報があります。真偽を確認してみましょう。

月下美人は満月の夜にしか咲かない?

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名前に「月下」と入っているので、まるで満月の夜にしか咲かない花のような印象をがありますね。実際には、夜間に咲くというだけで、満月だろうが新月だろうが関係なく開花します。特に月齢と連動して開花時期が決まっているわけではありません。

\次のページで「月下美人は年に一度しか咲かない?」を解説!/

月下美人は年に一度しか咲かない?

儚い花、というイメージが強いせいか、月下美人は年に一度しか咲かないと思われていることが多いようです。

花期は数ヶ月と長く、日本では6~11月が月下美人の花期となっていて、この期間に、開花に必要な栄養を十分に吸収することができていれば、再び開花することがあります。もちろん、栄養状態が悪ければ年に一度しか開花しなかったり、場合によってはまったく開花しないこともあるようです。開花の回数が年に〇回、と決まっているわけではなく、その株の栄養状態によって左右されるということですね。

「月下美人」の生態

それでは、月下美人はなぜ夜にしか咲かないのでしょうか。

これには、月下美人の受粉の仕組みが関係しているのです。

植物の多くは、他の株の花粉が自分の花に受粉することで種をつくって殖えることができます。月下美人もそのひとつです。

そのため、いかに効率よく花粉を運び、他の株と受粉できるかが、植物にとっては死活問題となります。

スギのように風で花粉を撒き散らすタイプの植物もありますが、他の生き物を花粉の運び屋に使うケースも多く見られ、ミツバチなどは有名な例のひとつです。

こういった花は、できるだけ自分の花に生き物がやってくるよう、目立つ色の花を咲かせたり、蜜を増やしたり、香りを強めたりしていますが、どの植物も同じような戦略をとっているので、どうしても競争率が高くなります。

そこで、月下美人は夜行性の生き物を利用する方向に進化しました。

夜間は暗くて色が見えないので、派手な色彩を持つ必要はありません。むしろ、白い色は月明かりや星明りを反射し、暗闇の中で少しでも見えやすくなる機能を果たしています。その代わり、暗闇でもはっきりと自己主張できるよう強い香りを放ち、少しでも生き物がとまりやすいよう花を大きくしたのです。

月下美人と同じように夜間しか咲かないことで知られる烏瓜も、似たような生態をもっています。月下美人と同様に、白い花で少しでも夜間の視認性を高め、強い香りで虫などの生き物を引きつけるのです。花は月下美人ほど大きくはありませんが、白い糸のような花びらが複雑に広がり、飛んでいるガなどがとまりやすくなっています。

原産地であるメキシコで、月下美人の花粉を運んでいるのは、主にコウモリです。コウモリがとまっても壊れないよう、大きく丈夫な花を咲かせているのですね。

これだけ大きな花を長期間咲かせ続けるのは大変なので、一晩だけ咲いたら散ってしまう仕組みなのです。

美しくも儚い不思議な花ですが、そこにはちゃんと生きるための工夫がかくされています。

「月下美人」に詳しくなろう

この記事では、「月下美人」とは何か、多角的に見てきました。月下美人そのものは植物の名前ですが、月下美人を知ることで、他の言葉や文化を知っていく手がかりがあったはずです。

月下美人が登場する文学作品も多いので、教養としてぜひ、覚えておきましょう。

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国語言葉の意味

「月下美人」の意味や使い方は?例文や類語をWebライターがわかりやすく解説!

月下美人は年に一度しか咲かない?

儚い花、というイメージが強いせいか、月下美人は年に一度しか咲かないと思われていることが多いようです。

花期は数ヶ月と長く、日本では6~11月が月下美人の花期となっていて、この期間に、開花に必要な栄養を十分に吸収することができていれば、再び開花することがあります。もちろん、栄養状態が悪ければ年に一度しか開花しなかったり、場合によってはまったく開花しないこともあるようです。開花の回数が年に〇回、と決まっているわけではなく、その株の栄養状態によって左右されるということですね。

「月下美人」の生態

それでは、月下美人はなぜ夜にしか咲かないのでしょうか。

これには、月下美人の受粉の仕組みが関係しているのです。

植物の多くは、他の株の花粉が自分の花に受粉することで種をつくって殖えることができます。月下美人もそのひとつです。

そのため、いかに効率よく花粉を運び、他の株と受粉できるかが、植物にとっては死活問題となります。

スギのように風で花粉を撒き散らすタイプの植物もありますが、他の生き物を花粉の運び屋に使うケースも多く見られ、ミツバチなどは有名な例のひとつです。

こういった花は、できるだけ自分の花に生き物がやってくるよう、目立つ色の花を咲かせたり、蜜を増やしたり、香りを強めたりしていますが、どの植物も同じような戦略をとっているので、どうしても競争率が高くなります。

そこで、月下美人は夜行性の生き物を利用する方向に進化しました。

夜間は暗くて色が見えないので、派手な色彩を持つ必要はありません。むしろ、白い色は月明かりや星明りを反射し、暗闇の中で少しでも見えやすくなる機能を果たしています。その代わり、暗闇でもはっきりと自己主張できるよう強い香りを放ち、少しでも生き物がとまりやすいよう花を大きくしたのです。

月下美人と同じように夜間しか咲かないことで知られる烏瓜も、似たような生態をもっています。月下美人と同様に、白い花で少しでも夜間の視認性を高め、強い香りで虫などの生き物を引きつけるのです。花は月下美人ほど大きくはありませんが、白い糸のような花びらが複雑に広がり、飛んでいるガなどがとまりやすくなっています。

原産地であるメキシコで、月下美人の花粉を運んでいるのは、主にコウモリです。コウモリがとまっても壊れないよう、大きく丈夫な花を咲かせているのですね。

これだけ大きな花を長期間咲かせ続けるのは大変なので、一晩だけ咲いたら散ってしまう仕組みなのです。

美しくも儚い不思議な花ですが、そこにはちゃんと生きるための工夫がかくされています。

「月下美人」に詳しくなろう

この記事では、「月下美人」とは何か、多角的に見てきました。月下美人そのものは植物の名前ですが、月下美人を知ることで、他の言葉や文化を知っていく手がかりがあったはずです。

月下美人が登場する文学作品も多いので、教養としてぜひ、覚えておきましょう。

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