「驚天動地」という四字熟語を聞いたことがあるでしょうか。

意味は文字通りなのでイメージしやすいと思うが、ふだん会話で使う言葉ではないし、類義語もたくさんあるようです。活字系メディアで長年執筆してきたライター・吹雪猛が、驚天動地の雑学を含めて説明します。

ライター/吹雪猛

長年、活字メディアで記事の執筆・編集に携わり、このたびフリーライターに。とことん調べないと気が済まない体質らしい。

「驚天動地」の意味と語源は?

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「驚天動地」という言葉を聞いたことがありますか。読み方は「きょうてんどうち」。日常の会話やテレビ、新聞などではあまり聞かないかもしれませんが、辞書には必ず載っています。いくつか代表的な辞書を調べてみましょう。

意味:世間をひどく驚かすこと

以下の三つの辞書に共通するとおり「驚天動地」の意味は「世間をひどく驚かすこと」を意味する四字熟語です。解釈に違いがなく、意味がはっきりした言葉と言っていいでしょう。

《天を驚かし地を動かす意》世間をひどく驚かすこと。「驚天動地の大事件」

引用:デジタル大辞泉「驚天動地」

〘名〙 (天をおどろかし、地を動かすの意))世間をひどくおどろかすこと。驚地動天。

引用:精選 日本語大辞典「驚天動地」

世間をひどくおどろかすこと。

引用:四字熟語を知る辞典「驚天動地」

語源:中国の詩人・白居易の「李白墓」

では「驚天動地」という四字熟語は、いったいどこから来たのでしょう。「天を驚かし、地を動かす」という読み方で想像がつく通り、語源は漢詩にありました。

中国の詩人・白居易(772〜846年)が作った詩「李白墓(りはくぼ)」にみられる「曾有驚天動地文」という一文から取られたものです。先達詩人・李白の墓を訪ねたときの情景。この墓の下に骨として眠っている人(李白)が「曾(かつ)て驚天動地の文を作ったのだ」という趣旨です。

ちなみに上記の「四字熟語を知る辞典」の[解説]では、白居易ではなく杜甫となっていますが、おそらく誤りかと思われます。

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こんなにあるの?!「驚天動地」の類義語

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「驚天動地」には類義語が多数あります。上で引いた『デジタル大辞泉』には、類語として「驚き・驚愕・驚嘆・愕然・喫驚・驚倒・驚異・驚く」が挙げられていました。つまり「驚天動地」はこのような意味だと考えればわかりやすいでしょう。

さらに「驚天動地」は、同じ四字熟語で同じ意味を持つ言葉が多数あるのが特徴かもしれません。以下にいくつか挙げてみます。

四字熟語の類義語1:天を回す「回天動地」

「回天動地」はweblio類語辞典に「程度が甚だしく、大いに驚くさま」とあります。「驚天動地」が「天を驚かし、地を動かす」ほど「世間を驚かすこと」なので「回天動地」は「天を回し、地を動かす」ほど「世間を驚かすこと」と解釈できますね。

四字熟語の類義語2:地を駭かす「震天駭地」

「震天駭地」は「しんてんがいち」と読みます。「駭」は漢字ペディアによると、「1.おどろく。おどろかす。」「2.みだれる。はげしい。」といった意味のようです。見るからにおどろおどろしい漢字ですね。

解釈はこちらも字の通りで「天を震わし、地を驚かす」ほど「世間を驚かす」となります。いずれにしても、これらの四字熟語は「世間を驚かすこと」。その形容として、天を震わせたり、地を動かしたりという極端な表現をしているわけです。

「驚天動地」はどんな場面で使われるの?

それでは「驚天動地」の用例を見てみましょう。『四字熟語を知る辞典』の「驚天動地」の項には、文芸作品の中で使われている例が多数紹介されています。

スブやんすっかりうろたえて、事実、いったい今の自分に子供でけたらどんな具合になるか、驚天動地の新事態ではあった[野坂昭如*エロ事師たち|1966]

下坂一夫が事件発生の二十日前はおろか、去年も一昨年も九州から一歩も外に出ていないことは越智と門野の現地での裏づけ捜査で判っていた。下坂が戸倉の旅館に居たほうが驚天動地ということになる[松本清張*渡された場面|1976]

八分者は人の家を訪ねられない。まして神聖とされる若衆宿に足を踏み入れるなど、若衆たちにとって驚天動地の凶事であった[司馬遼太郎*菜の花の沖|1982]

引用:四字熟語を知る辞典「驚天動地」

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「驚天動地」のその他の用例

ほかにもこんな使い方が考えられます。

例文その1. すばらしいことに対して
 ・三大ソプラノと呼ばれている歌姫たちの歌唱を聴いた。その声量や声の美しさに心から感動した。まさに驚天動地だ。
 ・二刀流の活躍でさえ驚きだったのに、引退して監督としても大成するとは驚天動地の天才としか思えない。

例文その2. 常識外れのことに対して
 ・新型コロナの感染状況が収まり、2年ぶりに開催されたイベントは参加者10万人と、驚天動地と言える人出だった。
 ・爆弾低気圧の影響で、激しい雨は12時間たっても止む気配がない。50年に一度と言われる驚天動地の大雨を経験した。

「すばらしい」と褒める場合、「常識はずれ」の時代に直面した場合、いずれも尋常ではない驚きを感じたときに使われると言えるでしょう。

「驚天動地」の雑学

では、最後に「驚天動地」にまつわる雑学をいくつか紹介しましょう。

英語でも「大地を揺るがす」ような?

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「驚天動地」の意味に該当する英語表現がいくつかあります。『weblio和英辞典・英和辞典』には、下記の5つの表現が掲載されていました。

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・astounding
・startling
・world-shaking
・amazing
・earth-shattering

出典:weblio和英辞典・英和辞典(驚天動地の英語)

また、weblioでは研究社の『新和英中辞典』から引用した用例として「驚天動地の大事件(an earthshaking [astounding] event.)」も紹介しています。「earthshaking」、つまり文字どおり「大地を揺るがすような」の意味ですね。

石原莞爾の『最終戦争論』って?

石原莞爾(いしわらかんじ、1889〜1949年)をご存知でしょうか。旧陸軍の軍人で、満州で関東軍の参謀を務めるなど、中国との戦争に深くかかわりました。

「驚天動地」が出てくるのは、太平洋戦争前夜の1940年に刊行された石原莞爾の『最終戦争論』という著書。すでに著作権が切れており、フリーの「青空文庫」にも収録されています。

「今日までの戦争は主として地上、水上の戦いであった。障害の多い地上戦争の発達が急速に行かないことは常識で考えられるが、それが空中に飛躍するときは、真に驚天動地の大変化を生ずるであろう。」と使われています。

「驚天動地のハハハーマン遊び」って?

スヌーピーやチャーリー・ブラウンが登場する米国の人気漫画「PEANUTS」シリーズに、"Ha, Ha, Herman"という言葉が出てきます。作者はチャールズ・M・シュルツ氏。「ハハハーマン」は日本のかくれんぼのような遊びですが、隠れる人が一人、探す人が大勢というルールらしいです。

『Wiktionary英語版』では、探す人が "ha ha" と呼びかけ、隠れる人がそれに答えて "Herman" と叫ばなければならないそう。

「PEANUTS」シリーズの大半を日本語訳している詩人の谷川俊太郎さんは、「Ha, Ha, Herman」を「驚天動地のハハハーマン遊び」と表現しています。印象的で、一度聞いたら忘れられない訳ですね。

「驚天動地」は天を驚かし地を動かす

これまで見てきたように、驚天動地は漢詩を起源とする四字熟語です。天地がひっくり返るような事態に心底驚き、誰かの群を抜く活躍を率直に讃えるような態度が、その背景にあることがわかります。

多数の類似表現があるということは、多くの文芸作品で使われてきたためでもあるでしょう。私たちのふだんの会話(口語体)には、必ずしもなじまない場合もありますが、心から驚いたら、「驚天動地の○○」と言ってみてはどうでしょう。

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「驚天動地」ってどんな感情?意味や語源・類語・例文も活字系メディア出身ライターがわかりやすく解説

「驚天動地」という四字熟語を聞いたことがあるでしょうか。

意味は文字通りなのでイメージしやすいと思うが、ふだん会話で使う言葉ではないし、類義語もたくさんあるようです。活字系メディアで長年執筆してきたライター・吹雪猛が、驚天動地の雑学を含めて説明します。

ライター/吹雪猛

長年、活字メディアで記事の執筆・編集に携わり、このたびフリーライターに。とことん調べないと気が済まない体質らしい。

「驚天動地」の意味と語源は?

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「驚天動地」という言葉を聞いたことがありますか。読み方は「きょうてんどうち」。日常の会話やテレビ、新聞などではあまり聞かないかもしれませんが、辞書には必ず載っています。いくつか代表的な辞書を調べてみましょう。

意味:世間をひどく驚かすこと

以下の三つの辞書に共通するとおり「驚天動地」の意味は「世間をひどく驚かすこと」を意味する四字熟語です。解釈に違いがなく、意味がはっきりした言葉と言っていいでしょう。

《天を驚かし地を動かす意》世間をひどく驚かすこと。「驚天動地の大事件」

引用:デジタル大辞泉「驚天動地」

〘名〙 (天をおどろかし、地を動かすの意))世間をひどくおどろかすこと。驚地動天。

引用:精選 日本語大辞典「驚天動地」

世間をひどくおどろかすこと。

引用:四字熟語を知る辞典「驚天動地」

語源:中国の詩人・白居易の「李白墓」

では「驚天動地」という四字熟語は、いったいどこから来たのでしょう。「天を驚かし、地を動かす」という読み方で想像がつく通り、語源は漢詩にありました。

中国の詩人・白居易(772〜846年)が作った詩「李白墓(りはくぼ)」にみられる「曾有驚天動地文」という一文から取られたものです。先達詩人・李白の墓を訪ねたときの情景。この墓の下に骨として眠っている人(李白)が「曾(かつ)て驚天動地の文を作ったのだ」という趣旨です。

ちなみに上記の「四字熟語を知る辞典」の[解説]では、白居易ではなく杜甫となっていますが、おそらく誤りかと思われます。

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