一般的に「胡蝶之夢」とは「人生のはかなさ」を表す言葉として広く知られている。「胡蝶」とはつまり「蝶」のこと。蝶といえば、美しく儚いイメージで漫画や小説、アニメ、映画などいろいろな創作物にも登場しているな。「胡蝶之夢」も蝶がひらひらと飛ぶ夢を見た荘子の逸話が元になっている。一体どんな逸話なのか、また意味や使い方を正しく学ぶことで、各所に登場する蝶の表現をさらに興味深く考えるきっかけになるでしょう。
元塾講師で普段から言葉の意味についてこだわって暮らしているというカワナミを呼んです。「胡蝶之夢」について丁寧に解説していく。
ライター/カワナミ
国語を愛する元塾講師。言葉を知れば知るほど、世界が面白くなるということを広めたい。モットーは「読む人にわかりやすく」。
「胡蝶之夢」の意味と由来
「胡蝶之夢」は人生のはかなさを表す言葉として広く知られていますが、詳しくひも解くとその意味はもうひとつあります。
夢か現かはっきりわからないさま。また、人の世がはかないこと、人生がはかないことのたとえ。
出典:四字熟語辞典(学研)「胡蝶之夢」
「胡蝶之夢」の意味として広く知られているのは「人の世がはかないこと、人生がはかないことのたとえ」という部分です。ほかにも「夢か現かはっきりわからないさま」という部分もありますね。
「胡蝶之夢」という言葉がなぜこのような意味を持つようになったのかは、元になった荘子の逸話を知ることが理解への一番の近道です。次の由来についての項目で詳しく解説していますので、ぜひ一緒に見ていきましょう。
「胡蝶之夢」の由来は荘子の夢
「胡蝶之夢」は中国の宋の時代の思想家である荘子による説話から成る故事成語です。「斉物論」(せいぶつろん)の中に収められています。以下は原文です。
昔者荘周夢為胡蝶。栩栩然胡蝶也。
自喩適志与。不知周也。俄然覚、則蘧蘧然周也。
不知、周之夢為胡蝶与、胡蝶之夢為周与。
周与胡蝶、則必有分矣。此之謂物化。
出典:荘子「斉物論」
意訳すると、次のようなことが書かれています。
あるとき、荘子は自分が蝶になっている夢を見た。ひらひらと飛び、まさしく蝶そのものだった。
そうしていることはとても楽しくて、思いのままだった。自分が荘子という人間であることを忘れるほどだった。
ところが急に目が覚めて、我に返ると自分は荘子であった。
今見たのは、人間の荘子が蝶になる夢だったか、それとも蝶がこうして人間になる夢だったか、どちらが夢で現実なのかわからない。
人間である荘子と蝶とでは姿かたちにはっきりと違いがあるはずだ。しかしどちらであっても、感覚として自分であることには変わりがない。どんな物にもなれるのだ。
つまり「胡蝶之夢」の意味にある「夢か現かはっきりわからないさま」とは、蝶としてリアルな夢を見た荘子が、蝶と人間の姿のどちらが夢で現実なのかわからなくなってしまったことを指しています。そして末文の「此之謂物化」にも注目してください。この夢のように蝶にも人間にもなれることを物化という、と言っています。「物化」とは荘子の思想のひとつで、「この世のものはすべてが一体であり、何物にも変化する」という考えでした。
しかし「物化」の部分よりも、思い通りに蝶として過ごしていた夢が一瞬にしてはかなく覚めてしまったという部分の方がより有名になりました。そのため「胡蝶之夢」は「人の世がはかないこと、人生がはかないことのたとえ」として広く知られることになったのです。
蝶は何を表しているのか?
なぜ荘子が見たのは、蝶の夢だったのでしょうか?ただの偶然でしょうか。私は荘子がこの説話に蝶を登場させたことに、おそらく意図があったのだと思っています。
蝶は古来より、世界各地で人の死や魂に関連する観念として扱われてきました。荘子のいた中国でも、蝶は長寿という魂と関わりのあるシンボルとなっています。おそらく荘子は物化という自らの思想に基づき、蝶=魂が自由で何物にも変化できるということを伝えるために、あえて蝶を登場させたのでしょう。
「胡蝶之夢」の使い方は大きく2つ!
「胡蝶之夢」の意味は大きく2つありました。そこで、使い方も同様に2パターンに分かれます。あらためて確認しておきましょう。
1夢か現かはっきりわからないさま
2人の世がはかないこと、人生がはかないことのたとえ
こういった状態や出来事を荘子の「胡蝶之夢」になぞらえて表現します。
\次のページで「「胡蝶之夢」を使った例文」を解説!/