この記事では「十人十色」について解説する。

端的に言えば、「十人十色」の意味は「人それぞれ」です。最近の時代に当てはまる言葉のような気もしますが、いつからある言葉か知っているか?「十人十色」の意味やニュアンスを理解し、語源も探っていくとおもしろい事実が分かってくるぞ。

小学校教諭として言葉の授業を何度もしてきた「こと」と一緒に、「十人十色」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/こと

元小学校教諭のwebライター。先生や子どもたちから「授業が分かりやすい!」との定評があった教育のプロだ。豊富な経験を活かし、どんな言葉も分かりやすく解説していく。

「十人十色」の意味と使い方は?

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それでは早速、「十人十色(じゅうにんといろ)」の意味と使い方を解説します。「十人十色」は四字熟語の中でも、漢字も簡単で意味がイメージしやすく、日常でも使いやすい言葉です。今の時代にもぴったりの言葉なので、覚えておくといいですよ。

みんなちがってみんないい!?「十人十色」の意味

まずは「十人十色」の意味を辞書でみてみましょう。

考え方や好みなどが各人それぞれに違っていること。

出典:デジタル大辞泉(小学館)

ズバリ「人それぞれ」ということですね。詳しく言うと「好み・考え・性格などが、人によってそれぞれ違うこと」。人が十人いたら、十通りの好み・考え・性格がある。それを、十色の色に例えているんですね。もちろん、実際に十人でなくてもOK!人の数だけ、好み・考え・性格があるということです。

単に「人それぞれ」というだけでなく、「それぞれ違ってそれぞれいい」というプラスのニュアンスを含んでいる場合もあります。金子みすずの詩「私と小鳥とすずと」の一節である「みんなちがってみんないい」を表したような四字熟語と言えますね。

しかし、良いか悪いかではなく多様性についてシンプルに説明する時や、場合によってはマイナス表現で使われる時もあります。

「十人十色」の使い時を例文で紹介

次に「十人十色」の例文を紹介します。それぞれどのような意味で使われているのか、考えてみてください。

A:どの子どもたちも自由に絵を描き、出来上がった作品はまさに十人十色だった。
B:最近ではテレワークが推奨され、働き方も十人十色の世の中だ。
C:人の好みは十人十色だから、彼がこのお店を気に入るとは限らないよ。

さて、どうでしょうか。どれも「好み・考え・性格などが、人によってそれぞれ違うこと」を、端的に言い表しているのは同じです。しかし、その裏にある使い手の意図が違いますね

Aは、それぞれの違いは素晴らしい個性だとプラスの意味で使われています。Bは、働き方という視点から人の多様性を単に言い表しているだけです。Cは、人はそれぞれ好みが違うからあれこれ考えても仕方がないと諦めすら感じられるネガティブな表現になっています。

このように、「十人十色」はいい意味のイメージが強いかもしれませんが、必ずしもそうとは限りません。

「十人十色」の語源は夏目漱石と正岡子規?

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「十人十色」の語源を探ると、夏目漱石と正岡子規に出会います。二人は同じ慶応3年(1867年)に誕生しました。東大予備門の同窓生として出会い、生涯にわたり交流のあった親友であったと言われています。

\次のページで「「吾輩は猫である」と「くだもの」に「十人十色」が登場」を解説!/

「吾輩は猫である」と「くだもの」に「十人十色」が登場

「十人十色」という言葉は、夏目漱石の小説「吾輩は猫である」の一文に登場します。

よそ目には一列一体、平等無差別、どの猫も自家固有の特色などはないようであるが、猫の社会にはいってみるとなかなか複雑なもので十人十色という人間界のことばはそのままここにも応用ができるのである。

また、正岡子規の短編作品「くだもの」の中にも次のような一文があります。

それらは十人十色であるが、誰れも嫌わぬもので最も普通なものは蜜柑である。

明治を代表する小説家の夏目漱石と俳人の正岡子規。同じ時代を生きた二人の作品のどちらにも「十人十色」が登場するのは、大変興味深いですよね。

正確な語源は謎のまま

しかし、正確な語源は明らかではありません。いまだ謎に包まれたままなのです。

もっと古い用例をたどると、江戸後期の戯作者、曲山人(きょくさんじん)が書いた人情本「清談若緑」に「十人十色」が出てきます。そのため、この時代にはすでに一般的な言葉になっていたということです。

聖徳太子もイチローも「十人十色」思想だった

あの聖徳太子、そして元プロ野球選手のイチローも「十人十色」という言葉こそ使っていませんが、「十人十色」の考え方を持ってることが分かります。

人の違(たが)うを怒らざれ。人皆心あり 

出典:十七条憲法

十七条憲法の第十条に出てくる一節です。聖徳太子といえば、十七条憲法といっても過言ではないでしょう。ここには、聖徳太子の思想が強く反映されています。現代の言葉に訳すと「心に憤りを抱いたり、それを顔に表したりすることをやめ、人が自分と違ったことをしても、それを怒らないようにせよ。 人の心はさまざまでお互いに相譲れないものをもっている。」という意味です。こんな昔の時代から、現代の「十人十色」に通じる考え方が人々に示されていたのですね。

また、元プロ野球選手のイチローもこんな発言をしています。

それはそれでいいですよね。でも、ぼくはちがうんです。

出典:未来をかえるイチローの262のNextメッセージ

人それぞれ違うことを認め、その上で自分もまた異なる考えを持っている。「未来をかえるイチローの262のNextメッセージ」は、日本が誇るスーパースターのイチロー選手の発言を集めた書籍です。またこれも、「十人十色」に通じるものがあると言っていいでしょう。

このように「十人十色」は、過去の偉人や現代のスーパースターの思想をも言い表した四字熟語と言えます。

「十人十色」は座右の銘で使える?

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十分にいい意味が含まれ、各時代の影響力を持つ人たちの考え方を表している「十人十色」。自己紹介や面接では座右の銘として使えそうですが、実際はどうなのでしょうか。詳しく見ていきましょう。

座右の銘には実は不向き。理由は?

実は「十人十色」は座右の銘としては不向きです。

座右の銘とは、いつも自分のそばに置いておく重要な言葉で、教訓や戒め、励ましなどの言葉を指します。しかし、「十人十色」は、戒めや教訓となるような意味合いの言葉ではありません。そのため、座右の銘ならもう少し姿勢や信念を表すような言葉がベターといえます。座右の銘は個人の自由で決めるもので、これといった形式がありません。よって、座右の銘で使っても誤りではありませんが、できれば他の言葉を選んだほうがいいでしょう。

これでOK!好きな言葉は「十人十色」です

好きな言葉や好きな四字熟語として「十人十色」を挙げるのは、OKです。「みんなちがってみんないい!」という考えの持ち主であることをアピールでき、高評価を得られそうです。自己紹介や面接などでは、座右の銘としてではなく好きな言葉として使うことをおすすめします。

こんなにある!「十人十色」の類義語&対義語

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「十人十色」の類義語や対義語はたくさんあります。代表的なものをいくつかをご紹介しましょう。

類義語:「三者三様」「千差万別」「蓼食う虫も好き好き」

まずは、類義語です。

三者三様(さんしゃさんよう):考え方ややりかたが人それぞれで違うこと。
百人百様(ひゃくにんひゃくよう):人は、めいめいがそれぞれ違った考え方ややり方をするということ。
千差万別(せんさばんべつ):さまざまに異なって同じでないこと。
多種多様(たしゅたよう):種類や性質、状態、現象などがさまざまであること。
各人各様(かくじんかくよう):人によって、それぞれやり方などが違うこと。人さまざま。

このように「十人十色」の類義語である四字熟語はたくさんあります。どれも漢数字や簡単な漢字が使われていて、覚えやすいですね。また、ことわざでも類義語があります。

蓼食う虫も好き好き(たでくうむしもすきずき):蓼の辛い葉を食う虫もあるように、人の好みはさまざまであるということ。

これも有名なことわざですので、覚えておくといいでしょう。

対義語:「異口同音」「衆目一致」「尋常一様」

次は、対義語を見てみましょう。

異口同音(いくどうおん):多くの人がみな口をそろえて、同じことを言うこと。また、みんなの意見が一致すること。
衆目一致(しゅうもくいっち):ある事柄に関して、多くの人の見方が一致すること。
尋常一様(じんじょういちよう):普通と異なるところのないこと。また、そのさま。なみひととおり。

対義語も、四字熟語で表されるものが多くありますね。

「十人十色」を英語で表現してみよう!

代表的な表現は「Several men, several minds」です。「several」というのは「複数の」という意味。「複数の人がいれば、複数の考え方がある」というニュアンスを表現しています。

また、「No two men are alike」でも同じような意味を表現できるようです。「同じ人は2人といない」というニュアンスになります。人には一人一人、個性があるという事を表現できるでしょう。

他にも「Every Man in His Humour」「For each his ownDifferent strokes for different folks 」「Everyone is different」などがあります。

「十人十色」を使いこなして、多様性のある令和を生きよう!

現在は、さまざまな分野で多様性が認められる時代です。「十人十色」という言葉は、これからの時代にますますふさわしく、必要な言葉と言えるのではないでしょうか。

しかし裏を返せば、「十人十色」という言葉が存在する限り、人々の心の中に完全に「人それぞれ」という認識がないとも言えます。わざわざ「十人十色」と言わなくても、誰もが「人それぞれ」が当たり前だと思う世の中になってほしいと思わずにはいられません。この言葉が、令和、そしてその先の時代も残り続けるかは、私たちの意識次第と言ったところでしょうか。

英語の勉強には洋楽の和訳サイトもおすすめです。
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国語言葉の意味

「十人十色」は多様性のある令和にぴったり!?意味や使い方・語源・類語・英語表現など元小学校教諭がわかりやすく解説

この記事では「十人十色」について解説する。

端的に言えば、「十人十色」の意味は「人それぞれ」です。最近の時代に当てはまる言葉のような気もしますが、いつからある言葉か知っているか?「十人十色」の意味やニュアンスを理解し、語源も探っていくとおもしろい事実が分かってくるぞ。

小学校教諭として言葉の授業を何度もしてきた「こと」と一緒に、「十人十色」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/こと

元小学校教諭のwebライター。先生や子どもたちから「授業が分かりやすい!」との定評があった教育のプロだ。豊富な経験を活かし、どんな言葉も分かりやすく解説していく。

「十人十色」の意味と使い方は?

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それでは早速、「十人十色(じゅうにんといろ)」の意味と使い方を解説します。「十人十色」は四字熟語の中でも、漢字も簡単で意味がイメージしやすく、日常でも使いやすい言葉です。今の時代にもぴったりの言葉なので、覚えておくといいですよ。

みんなちがってみんないい!?「十人十色」の意味

まずは「十人十色」の意味を辞書でみてみましょう。

考え方や好みなどが各人それぞれに違っていること。

出典:デジタル大辞泉(小学館)

ズバリ「人それぞれ」ということですね。詳しく言うと「好み・考え・性格などが、人によってそれぞれ違うこと」。人が十人いたら、十通りの好み・考え・性格がある。それを、十色の色に例えているんですね。もちろん、実際に十人でなくてもOK!人の数だけ、好み・考え・性格があるということです。

単に「人それぞれ」というだけでなく、「それぞれ違ってそれぞれいい」というプラスのニュアンスを含んでいる場合もあります。金子みすずの詩「私と小鳥とすずと」の一節である「みんなちがってみんないい」を表したような四字熟語と言えますね。

しかし、良いか悪いかではなく多様性についてシンプルに説明する時や、場合によってはマイナス表現で使われる時もあります。

「十人十色」の使い時を例文で紹介

次に「十人十色」の例文を紹介します。それぞれどのような意味で使われているのか、考えてみてください。

A:どの子どもたちも自由に絵を描き、出来上がった作品はまさに十人十色だった。
B:最近ではテレワークが推奨され、働き方も十人十色の世の中だ。
C:人の好みは十人十色だから、彼がこのお店を気に入るとは限らないよ。

さて、どうでしょうか。どれも「好み・考え・性格などが、人によってそれぞれ違うこと」を、端的に言い表しているのは同じです。しかし、その裏にある使い手の意図が違いますね

Aは、それぞれの違いは素晴らしい個性だとプラスの意味で使われています。Bは、働き方という視点から人の多様性を単に言い表しているだけです。Cは、人はそれぞれ好みが違うからあれこれ考えても仕方がないと諦めすら感じられるネガティブな表現になっています。

このように、「十人十色」はいい意味のイメージが強いかもしれませんが、必ずしもそうとは限りません。

「十人十色」の語源は夏目漱石と正岡子規?

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「十人十色」の語源を探ると、夏目漱石と正岡子規に出会います。二人は同じ慶応3年(1867年)に誕生しました。東大予備門の同窓生として出会い、生涯にわたり交流のあった親友であったと言われています。

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