今日たまたま生徒から「"不惑"って何ですか?」っていう質問を受けました。どうやらスポーツ新聞に「不惑の投球術!」っていうタイトルで贔屓チームの投手の記事が載っていたらしいのです。「不惑」…そういえば普段はあまり使わない言葉ですよね。

この「不惑」というのは、ズバリ「四十歳」という意味です。「え、何で?」と思った人も多いかもしれませんね。

よって、今回はこの「不惑」について語源や類義語まで含めて院卒日本語教師の筆者が解説していきます。

ライター/むかいひろき

ロシアの大学に再就職した、日本で大学院修士課程修了の日本語教師。その経験を武器に「言葉」について分かりやすく解説していく。

「不惑」の意味や語源は?

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「不惑(ふわく)」という言葉、若い世代の人はあまり聞いたことがないという人が多いのではないでしょうか。実は意外とスポーツなどで使用されることがある言葉です。まずは、その「不惑」の意味と語源について確認していきましょう。

「不惑」の意味は「四十歳」

最初に、「不惑」の辞書での意味を確認していきましょう。「不惑」は、国語辞典には次のような意味が掲載されています。

四〇歳のこと。

出典:明鏡国語辞典 第二版(大修館書店)「ふ-わく【不惑】」

「不惑」は、辞書にある通り「四十歳」という意味の言葉です。ちなみに「不惑」の大元の意味は、文字通りに「惑わない」という意味になります。では、なぜ「不惑」が「四十歳」という意味になるのか、それは語源を知らなければなりません。次の語源のコーナーを見てみましょう。

「不惑」の語源は孔子の『論語』にあり!

この「不惑」が「四十歳」を意味する由来は、中国古代の思想家、孔子が記した『論語』の記述にあります。この『論語』の「為政」という部分の中で、孔子は「四十而不惑(四十にして惑わず)」と述べました。これは、「四十歳の時には物事を決断するにあたり迷うことがなくなった」という意味です。

孔子にとって四十歳は、物事の決断に迷いがなくなった「不惑」の年。このことから「不惑」が「四十歳」の言いかえとして古くから用いられるようになりました。『論語』はかなり古い時代から日本に流入しているので、日本語で「不惑」が「四十歳」を表すことの歴史も長いと考えられますね。

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「不惑」の使い方を例文とともに確認!

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続いて、「不惑」の使い方を確認していきましょう。「不惑」が文中に含まれている例文を3つ用意しました。どのような場合や文脈で「不惑」が使用されているか、見ていきましょう。

1.私は先日不惑の年齢に達したが、未だにいろいろなことで悩んでばかりだ。
2.四十歳を迎えた田中課長は決断にキレが増している。まさに不惑
3.石川投手は、不惑の投球術で相手打線を翻弄した。

例文1では、「私は40歳に達したが、未だにいろいろなことで悩んでばかり」という文脈で「不惑」が使用されています。実際には「不惑」の年齢である40歳になっても、惑い続ける人の方が圧倒的に多いのではないでしょうか。

例文2では、「四十歳を迎えた田中課長は決断にキレが増している。まさに惑いや迷いのない40歳だ」という文脈で「不惑」が使用されています。例文2のように、40歳を迎えた人が決断場面で素晴らしい力を発揮している場合に、「不惑」を使用して称賛することがありますね。

例文3は、スポーツで「不惑」が使用されている例です。40歳の選手が素晴らしいパフォーマンスを見せた場合に、「不惑の○○」という形で使用されることがあります

「不惑」の類義語は?

次に、「不惑」の類義語を確認していきましょう。「不惑」の類義語は「四十路」です。読み方は分かりますか?「よんじゅうろ」や「しじゅうろ」ではありませんよ。詳しく見ていきましょう。

「四十路」:四十歳

「四十路(よそじ)」は「四十歳」という意味の表現です。意味は「不惑」と同じですが、「惑わない」というニュアンスは「四十路」にはありません「四十路」はあくまで「四十歳」という年齢を示すだけの表現です。

かつて古語では、10を1つの単位として数えることがあり、その際に生まれたのが「二十路(ふたそじ)」「三十路(みそじ)」「四十路(よそじ)」「五十路(いそじ)」「六十路(むそじ)」「七十路(ななそじ)」「八十路(やそじ)」「九十路(ここのそじ)」という単語でした。現在では20歳、30歳、40歳、50歳、60歳、70歳、80歳、90歳の年齢を示す表現として使用されています。

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年齢を表すその他の漢字表現を紹介!

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今回解説した「不惑」、そして類義語の「四十路」をはじめとした「〇十路」と言った表現は、ある年齢を示す表現でした。実はこれらに関連して、日本語にはこの他にも年齢を示す表現がたくさんあります。見ていきましょう。

「志学」「而立」…:『論語』由来のもの

語源のコーナーで紹介した論語の一節には、実は40歳についてだけではなく、他の年齢についても言及があります。まとめて1つの文となっているので、見てみましょう。

子曰、吾十有五而志乎学、三十而立、四十而不惑、五十而知天命、六十而耳順、七十而従心所欲不踰矩

出典:『論語』「為政」

この原文を書き下すと、「子曰く、吾十有五にして学に志す。三十にして立つ。四十にして惑わず。五十にして天命を知る。六十にして耳順う。七十にして心の欲する所に従えども矩を踰えず」となります。現代語にすると、「私は15歳で学問に志し、30歳で独立し、40歳で迷いがなくなり、50歳で天から与えられた使命を知り、60歳で人の意見を素直に聞けるようになり、70歳で自分の心の欲するままに行動しても人の道を踏み外すことがなくなった」という意味です。

この一文から、15歳を表す「志学」、30歳を表す「而立」、50歳を表す「知命」、60歳を表す「耳順」、70歳を表す「従心」という表現が生まれました

「弱冠」:男の二十歳や年齢の若いことを意味する表現

「弱冠(じゃっかん)」は「男性の二十歳」「年が若いこと」を表す表現です。古代中国では、男性は20歳になると「弱」と称し、元服して冠をかぶりました。このことから生まれた言葉です。

当初は「男性の二十歳」という意味だけでしたが、徐々に意味が広がり、現在では男女関係なく「年が若いこと」を表す表現として、「弱冠18歳のチャンピオン」などのようにも使用されます。

「喜寿」「米寿」…:長寿の祝い表現

最後にご紹介するのは、長寿の祝いの表現です。60歳を表す「還暦」、70歳を表す「古稀」、77歳を表す「喜寿」、88歳を表す「米寿」、99歳を表す「白寿」、100歳を表す「百寿」があります。これらの年齢の誕生日を迎える人が身内にいる場合は、長寿祝いのプレゼントを贈ると良いでしょう。

\次のページで「本当に40歳は「不惑」なのか…」を解説!/

本当に40歳は「不惑」なのか…

今回は「不惑」について解説しました。「不惑」は「四十歳」という意味で、「惑わない」というニュアンスも付随します。ただ、決断時に迷わない「不惑」の40歳の人、とても少ないですよね。40歳という年齢で「不惑」の域に達した孔子のすごさが、改めて感じられる表現でした。

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国語言葉の意味

不惑は四十歳?語源が分かれば簡単に理解!「不惑」の意味や類義語などを院卒日本語教師が分かりやすく解説

今日たまたま生徒から「”不惑”って何ですか?」っていう質問を受けました。どうやらスポーツ新聞に「不惑の投球術!」っていうタイトルで贔屓チームの投手の記事が載っていたらしいのです。「不惑」…そういえば普段はあまり使わない言葉ですよね。

この「不惑」というのは、ズバリ「四十歳」という意味です。「え、何で?」と思った人も多いかもしれませんね。

よって、今回はこの「不惑」について語源や類義語まで含めて院卒日本語教師の筆者が解説していきます。

ライター/むかいひろき

ロシアの大学に再就職した、日本で大学院修士課程修了の日本語教師。その経験を武器に「言葉」について分かりやすく解説していく。

「不惑」の意味や語源は?

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「不惑(ふわく)」という言葉、若い世代の人はあまり聞いたことがないという人が多いのではないでしょうか。実は意外とスポーツなどで使用されることがある言葉です。まずは、その「不惑」の意味と語源について確認していきましょう。

「不惑」の意味は「四十歳」

最初に、「不惑」の辞書での意味を確認していきましょう。「不惑」は、国語辞典には次のような意味が掲載されています。

四〇歳のこと。

出典:明鏡国語辞典 第二版(大修館書店)「ふ-わく【不惑】」

「不惑」は、辞書にある通り「四十歳」という意味の言葉です。ちなみに「不惑」の大元の意味は、文字通りに「惑わない」という意味になります。では、なぜ「不惑」が「四十歳」という意味になるのか、それは語源を知らなければなりません。次の語源のコーナーを見てみましょう。

「不惑」の語源は孔子の『論語』にあり!

この「不惑」が「四十歳」を意味する由来は、中国古代の思想家、孔子が記した『論語』の記述にあります。この『論語』の「為政」という部分の中で、孔子は「四十而不惑(四十にして惑わず)」と述べました。これは、「四十歳の時には物事を決断するにあたり迷うことがなくなった」という意味です。

孔子にとって四十歳は、物事の決断に迷いがなくなった「不惑」の年。このことから「不惑」が「四十歳」の言いかえとして古くから用いられるようになりました。『論語』はかなり古い時代から日本に流入しているので、日本語で「不惑」が「四十歳」を表すことの歴史も長いと考えられますね。

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