今回は「エイズ(AIDS)」について学んでいきます。

保健体育の授業などでも一度は習う「エイズ」ですが、時間がたつにつれて忘れてしまうことも多いでしょう。どんな病気なのか、感染経路や治療法にはどんなものがあるのか、常識のひとつとして改めて確認したい。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

エイズとは?

エイズ(AIDS)は、「Acquired Immuno-DeficiencySyndrome」の頭文字をとった言葉。日本語では後天性免疫不全症候群(こうてんせいめんえきふぜんしょうこうぐん)と表されます。

“後天性”とつきますので、「生まれつき(先天性)ではなく、あるとき生活の中で生じた」病気です。エイズはHIVというウイルスに感染することによってひきおこされます。

HIV

HIV「Human Immunodeficiency Virus」の略で、日本語に訳したヒト免疫不全ウイルスという名前でもよばれます。遺伝情報のコードされているRNAをもつ、レトロウイルスとよばれるタイプのウイルスです。

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By Thomas Splettstoesser (www.scistyle.com) - Own work, CC BY-SA 4.0, Link

HIVは体内に侵入すると、免疫反応の要となるヘルパーT細胞にとりつきます。ヘルパーT細胞は白血球の一種で、免疫反応の際にとても重要な役割を果たす存在。HIVに感染したヘルパーT細胞細胞は、HIVが増殖する時に破壊されてしまうため、どんどん数を減らしていきます。

すると、免疫反応がうまく進まなくなり、普段めったにかからないような病気になったり、軽く済むはずの症状が重くなったりしてしまうのです。

このような、HIVに感染することが原因でさまざまな疾患が生じる病気をエイズとよんでいます。

患者数

HIVの生態は少しずつ解明されてきましたが、現在でもこのウイルスへの感染者や、エイズを発症する人は増え続けています

2018年末時点では世界中に3790万人ものHIV陽性者がいるといわれており、日本でも2018年中には1000件以上の新規報告がありました。

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感染経路

感染経路

image by Study-Z編集部

HIVの主な感染源となるのは、血液、精液、膣分泌液、母乳などの体液です。これらが粘膜や傷口に直接触れると、そこからHIVが侵入します。

HIV感染には大きく分けて3つの経路があるといわれていますので、それぞれを確認しましょう。

性行為による感染

もっともわかりやすいのは性行為による感染ではないでしょうか。HIV感染の原因の実に8割以上が性行為によるものだといわれています。

性行為中、相手のからだの粘膜や傷口に精液や膣分泌液などが触れることで、HIVが侵入する可能性があるのです。コンドームを使用するなど、安全な性行為をするように心がければ、一方がHIV感染者であっても相手への感染の確率をぐっと減らすことができます

血液による感染

HIV感染者の血液が傷口などから入ってしまうことでおきます。日常生活でこういった場面はなかなかありませんが、輸血や医療行為中の事故などが可能性として挙げられるでしょう。

基本的に、輸血用の血液は2種類のHIV検査を受けたものが使われていますが、2013年には検査をすり抜けてしまった血液が輸血に使われる事故がありました。

image by iStockphoto

また、あってはならないことではありますが、麻薬や違法ドラッグを使用する際の注射針の使いまわしなどによる感染も生じています。

血液を経由して侵入、感染する病原菌はHIVだけではありませんので、親しい間柄であっても他人の血液をむやみに体内に入れないよう注意しましょう。

母子感染

母親がHIVをもっている場合、生まれる子どももHIVに感染してしまうことがあります。出産時に母親の血液にまみれたり、誕生後に母親から母乳をもらうことでHIVが侵入してしまうのです。

しかしながら、これらの行為を避けるため、帝王切開で出産したり、人工乳での哺育を選べばHIV感染した母親でも元気な赤ちゃんを産める可能性があります。

妊娠初期に行われるHIV検査がしっかりと行われるようになった最近では、母子感染の割合が0.5%以下にまで下がっているんです。

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HIVに感染してからエイズが発症するまで

HIVに感染してからの症状は、時間とともに刻々と変化します。どのような変化が現れるのか、簡単にご説明しましょう。

感染初期(急性期)

HIVに感染しても、すぐ身体に異変が起きるわけではありません。感染後1~4週間ほどたつと、風邪やインフルエンザのような症状が現れます。

発熱やのどの痛み、疲労感、リンパ節の腫れなどです。しばらくするとこれらの症状は治まってしまうことが多く、「風邪だったのかな?」で済ませてしまう人もいるでしょう。

この期間のことを感染初期、もしくは急性期といいます。体内では感染したHIVが急速に増殖。症状が治まるころには、HIVの量もピーク時より少なくなります。

無症侯期

感染初期を超えると、しばらくは何の症状も現れなくなります。この期間を無症侯期というのですが、症状が出ないだけでHIVは体内に存在したままです。ここから長い時間をかけてHIVはまた少しずつ数を増やしていきます。

無症侯期の長さはヒトによって差があるようです。2年ほどの人もいれば15年ほどにもわたる人もいます。また、人によっては疲労感や発熱、貧血などの軽い症状が現れることもあるのだそうです。

エイズ発症

HIVの増殖とともにヘルパーT細胞が減り、健康であれば感染しにくいような病原菌に感染してしまう日和見感染症や、重大な疾患などの症状が現れるようになります。

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厚生労働省では、エイズの基準を「HIVに感染していること」「特定の23の疾患のうちのいずれかが認められること」としています。

“23の疾患”にあげられているのは、カンジダ症などの真菌が感染することで起きる疾患や、単純ヘルペスウイルス感染症などのウイルスが原因となる疾患などです。

この状態になって初めて、「エイズが発症した」というようになります。HIVの感染=エイズというわけではありませんので、注意しましょう。

エイズの治療

昔は“不死の病”というイメージが強かったエイズですが、近年は薬の研究開発が進んでいます。エイズの治療とはすなわちHIVの増殖を抑えることです。

抗HIV薬を飲むことによって、HIVの増殖をある程度抑えることができます。早期に発見し継続的に服薬すれば、HIVに感染していない人と変わらないくらい健康に長生きできるんです!

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image by iStockphoto

とはいえ、ヒトの身体から完全にHIVを除去する方法はまだ見つかっていません。完ぺきなHIVの除去を目指し、現在でも治療方法の研究が行われています。

正しい知識で身を守る

昔から、「エイズといえば代表的な不死の病」として恐れられてきました。しかしながら今回ご紹介した通り、HIVに感染しないための対策方法がひろまり、エイズになってからの治療法なども発展しつつあります。正しい知識のもとに十分に注意して生活すれば、自分の身を守ることができる、という点は知っておいてくださいね。

イラスト使用元:いらすとや

" /> エイズ(AIDS)について改めて知ろう!現役講師がわかりやすく解説! – Study-Z
理科生物細胞・生殖・遺伝

エイズ(AIDS)について改めて知ろう!現役講師がわかりやすく解説!

今回は「エイズ(AIDS)」について学んでいきます。

保健体育の授業などでも一度は習う「エイズ」ですが、時間がたつにつれて忘れてしまうことも多いでしょう。どんな病気なのか、感染経路や治療法にはどんなものがあるのか、常識のひとつとして改めて確認したい。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

エイズとは?

エイズ(AIDS)は、「Acquired Immuno-DeficiencySyndrome」の頭文字をとった言葉。日本語では後天性免疫不全症候群(こうてんせいめんえきふぜんしょうこうぐん)と表されます。

“後天性”とつきますので、「生まれつき(先天性)ではなく、あるとき生活の中で生じた」病気です。エイズはHIVというウイルスに感染することによってひきおこされます。

HIV

HIV「Human Immunodeficiency Virus」の略で、日本語に訳したヒト免疫不全ウイルスという名前でもよばれます。遺伝情報のコードされているRNAをもつ、レトロウイルスとよばれるタイプのウイルスです。

HIVは体内に侵入すると、免疫反応の要となるヘルパーT細胞にとりつきます。ヘルパーT細胞は白血球の一種で、免疫反応の際にとても重要な役割を果たす存在。HIVに感染したヘルパーT細胞細胞は、HIVが増殖する時に破壊されてしまうため、どんどん数を減らしていきます。

すると、免疫反応がうまく進まなくなり、普段めったにかからないような病気になったり、軽く済むはずの症状が重くなったりしてしまうのです。

このような、HIVに感染することが原因でさまざまな疾患が生じる病気をエイズとよんでいます。

患者数

HIVの生態は少しずつ解明されてきましたが、現在でもこのウイルスへの感染者や、エイズを発症する人は増え続けています

2018年末時点では世界中に3790万人ものHIV陽性者がいるといわれており、日本でも2018年中には1000件以上の新規報告がありました。

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