なんとも奇妙奇天烈な表現で、不思議なインパクトのある慣用句です。ここでしっかり意味を学んで、学校や仕事の場でどんどん使っていこう。
100%文系ライターの長屋創を呼んです。語彙力アップに一役買ってくれること請け合いです。
ライター/長屋 創
国文学大好きライター。なかんずく修辞法には人一倍関心がある。ことわざや慣用句にも詳しい。最近のマイブームは泉鏡花と筋トレ。
「木で鼻を括る」の意味や語源・使い方まとめ
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私は「木で鼻を括る(くくる)」という慣用句を初めて目にしたとき、「やれるもんならやってみろ」といった意味で使うのだろうなと直感しました。「何。アルトバイエルンをタコさんウインナーにして食べたいだと?なんと罰当たりな。木で鼻をくくれ!」のように。ご心配なく。すぐに辞典を引いて、間違いに気が付きました。それにしても、「どうだ。意味わからんだろう」といわんばかりの、ちょっと不思議な言葉ですよね。いったいどんな意味で、どんな由来があるのでしょうか。
それでは早速「木で鼻を括る」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。
「木で鼻を括る」の意味は?
「木で鼻を括る」には、次のような意味があります。
ひどく無愛想にもてなす。木で鼻をかむ。 「 - ・ったような挨拶(あいさつ)」
出典:大辞林 第三版(三省堂)
受け答えなどが非常に無愛想で、そっけない形容。「木で鼻を括ったような挨拶」
出典:新明解国語辞典 第五版(三省堂)
そっけない態度をとる。
出典:三省堂国語辞典 第七版 広島東洋カープ仕様(三省堂)
非常に無愛想な態度、そっけない様子、ぶっきらぼうな物言い、といった意味ですね。例えば、舞台挨拶でインタビュアーに質問を受けた女優が「…別に」と答えているシーン、などを思い浮かべていただくとわかりやすいかもしれません。国会における官房長官の答弁を想像してもいいでしょう。
当然の疑問ですよね。それではリクエストにお応えして「木で鼻を括る」の語源および由来について、お話ししましょう。
「木で鼻を括る」の語源は?
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「木で鼻を括る」の「くくる」とは、もともと「こくる」でした。「こくる」が「くくる」と誤用され、それが定着して一般化したものです。本来は「木で鼻をこくる」だったわけですね。では、「こくる」とはなにか。「こする」という意味です。つまり、木で鼻をこする。といっても、立木の幹に鼻をこすりつけるわけではありません。木の枝など棒状のもので鼻をこするのです。どういうシチュエーション?それ。「鼻水の処理作業中」以外に考えようがないでしょう。
整理しますと、「(紙ではなく)木製の棒状のもので鼻水処理のために鼻の下をこすっている」様子が「木で鼻を括る」となります。
実際にやってみましょう。木の枝を用意してください。なければ、すりこ木や麺棒でも結構。それもなければ、割り箸でいいです。用意できましたか。次に、鼻水を垂らしてください。垂らしましたか。では、用意したものを鼻の下にあてがって。そのまま、右あるいは左にスライドさせます。3回行ってください。そして、指で残留具合を確認します。程度に応じて、手順を繰り返してください。
どうですか?難しいし気持ち悪いし痛いし情けないし、ですよね。割り箸がささくれ立っていようものなら、激痛で顔は苦悶にゆがんでいることでしょう。心の中は「なんでこんなことをせにゃならんのだ」というやるせない思いでいっぱいのはずです。さあ、そこで鏡を見てください。見るのです。そこに映ったあなたの顔。そう。その不機嫌極まりない顔こそが「木で鼻を括ったような顔」です。さらに一言「…別に」と呟いてみてください。完璧です。
以上が「木で鼻を括る」の語源でした。
「木で鼻を括る」の由来は?
遡って江戸時代、紙というものは大変な貴重品でありました。なかでも、鼻をかんだりするための柔らかいちり紙などは特に貴重です。ですから、大きな商家では丁稚などの奉公人にはちり紙の使用を許しませんでした。基本的に金持ちというのはケチ、いや始末屋ですからね。そのため、使用人たちは鼻水を拭くのに不本意ながらも木の棒を使っていました。これが「木で鼻を括る」合理的理由です。
更にいうなら、主やその家族たちはちり紙を使っているのに使用人たちには棒で鼻をこすらせる、その冷淡な心持ちやそっけない様子、人間味の感じられない態度が「木で鼻を括る」の意味形成につながっていると考えるのは穿ちすぎでしょうか。
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