今回は「セントラルドグマ」とよばれる考え方について学習していこう。

高校の生物基礎でも学習するキーワードですが、これは生物学上とても重要な概念です。DNAからタンパク質ができるまでの過程とともに、しっかりと学んでみようじゃないか。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

セントラルドグマとは?

セントラルドグマとは、生物の細胞内にある遺伝情報が「DNA→RNA→タンパク質」の順番で伝わっていく、という考え方のことをさします。

日本語に訳した中心教義中心原理などとよばれることもあるので覚えておきましょう。

image by Study-Z編集部

私たち人間の細胞内では、DNAをもとにしてRNAがつくられ、そのRNAの情報をもとにしてタンパク質がつくられます。RNAをもとにしてDNAがつくられたり、タンパク質をもとにしてRNAやDNAがつくられることは基本的になく、一方通行であるということが重要です。

また、人間以外の生物でもこの原理は基本的に当てはまることから、セントラルドグマは生物全体に共通するルールの一つである、と広く知られています。

セントラルドグマを提唱したのは?

このセントラルドグマという考え方を提唱したのは、フランシス・クリックという生物学者です。

「なんか聞いたことがある名前だな」と思った方はすごい!彼はDNAの二重らせん構造を発見した研究者の一人です。教科書でもよく「ワトソンとクリックによってDNAの構造が解明され…」という風に紹介されますよね。このクリックによってセントラルドグマが提唱されたのが1958年のことです。

DNAからタンパク質までの流れ

それでは、DNAからRNA、RNAからタンパク質ができるまでの流れを簡単にご紹介しましょう。

転写

DNAは4種類の塩基の並び方(塩基配列)によってさまざまなタンパク質の情報を記録していますが、それ自体から直接タンパク質がつくられるわけではありません。

タンパク質を合成する際は、一度RNAにその情報を写しとり、RNAの情報からタンパク質がつくられるのです。DNAからRNAを合成する過程のことを転写(てんしゃ)といいます。

\次のページで「翻訳」を解説!/

DNAはデオキシリボヌクレオチドという物質がつながった、長い鎖のようなもの。私たちの核にあるDNAは2本の鎖が水素結合によりくっついて存在しているため、二本鎖DNAなどとよくいわれますね。

2本のDNAの鎖は互いに相補的な関係といわれます。鎖をつくるデオキシリボヌクレオチドには4種類の塩基A(アデニン)・T(チミン)・C(シトシン)・G(グアニン)のいずれかが使われているのですが、これらのうちAとT、CとGが対になるような性質(相補性)があるのです。

例えば、一方のDNA鎖にAがあると、水素結合しているもう一方のDNA鎖にはTが位置することになります。

Simple transcription elongation1.svg
Forluvoft - 投稿者自身による作品, パブリック・ドメイン, リンクによる

転写が起きる場所では2本のDNA鎖の間にある水素結合が切れ、RNAポリメラーゼという酵素がはたらいて、RNAがつくられます。このRNAは"タンパク質の情報を伝える”役割があるので、特にメッセンジャーRNA(mRNA)とよばれているんです。

RNAの鎖をつくるのは、デオキシリボヌクレオチドとは少しだけ異なる、リボヌクレオチドという物質。リボヌクレオチドも4種類の塩基をもち、転写する部分と相補的な塩基がつながることになります。

ここで、チェックしておきたいのが、塩基の種類。DNAを構成しているデオキシヌクレオチドが、A・T・C・Gの4種の塩基を使っているのに対し、RNAではA・U(ウラシル)・C・Gが使われています。DNAでT(チミン)をもったデオキシヌクレオチドが置かれていたところに、U(ウラシル)をもったものが位置するようになるのです。

なお、真核生物の場合は転写の後にスプライシングという過程がはいります。スプライシングでは、タンパク質合成に必要のない部分のRNAが取り除かれるんです。

Pre-mRNA to mRNA.svg
Qef - Own work by uploader, based on the arrangement of a bitmap equivalent by TedE, パブリック・ドメイン, リンクによる

DNAの鎖のうち、タンパク質の情報になっている部分をエキソン、タンパク質合成に無関係な部分をイントロンといいます。スプライシングでは、転写したRNAの中から余分なイントロンの部分が排除されるんですね。

翻訳

必要な情報が転写されたmRNAからタンパク質がつくられる過程を翻訳(ほんやく)といいます

翻訳で活躍するのが、リボソームとよばれる細胞小器官です。ここへmRNAがたどり着くと、その塩基配列に対応したアミノ酸が運ばれてきます。アミノ酸を運んでくるのは、トランスファーRNA(tRNA)という小さなRNA。翻訳するmRNAの塩基に相補的な配列をもったtRNAが選ばれることで、mRNAの情報に従ったタンパク質がつくられていくのです。

\次のページで「セントラルドグマの例外」を解説!/

image by iStockphoto

mRNAは、3つの塩基が1つのタンパク質に対応する情報になっています。それぞれの3つの塩基の組み合わせをコドンといい、それぞれのコドンがどのタンパク質を指定しているのかは解明済みです。

以上のように、DNAからタンパク質がつくられるまでには転写と翻訳という2つのステップが必要になります。いずれのステップにも、DNAやRNAのもつ塩基の相補性が利用されているのが面白いですよね。

セントラルドグマの例外

「すべての生物に共通する基本原理」として広く受け止められてきたセントラルドグマですが、研究が進展するにつれて例外といえる現象が発見されました。

セントラルドグマのいう「遺伝情報の流れ」に反し、RNAの情報をもとにしてDNAをつくる生物がいます。それが、レトロウイルスとよばれるウイルスの仲間です。

ウイルスのなかには、DNAではなくRNAによって遺伝情報を伝えているものがおり、それらをRNAウィルスといいます。RNAウイルスの仲間であるレトロウイルスは、自身のRNAから逆転写酵素によって二本鎖DNAを生み出すことができるのです。

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何のためにレトロウィルスはDNAを合成するのでしょうか?その理由は、レトロウィルスの生存戦略にあります。レトロウイルスは合成した二本鎖DNAを、感染した細胞のDNAに侵入させることで、自分の子孫を宿主につくらせるのです。

「セントラルドグマ」についてはこれでばっちり!

今回はセントラルドグマに加え、DNAからタンパク質がつくられるまでの過程も簡単にご紹介しました。このたった一つの流れが「すべての生物に共通である」なんてすごいことだと思いませんか?

高校生以上の皆さんは、セントラルドグマという言葉の意味だけでなく、転写や翻訳、DNAやRNAについても説明できるようにしておきましょう。

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理科生物細胞・生殖・遺伝

セントラルドグマとは?転写・翻訳の過程も合わせて現役講師がわかりやすく解説

今回は「セントラルドグマ」とよばれる考え方について学習していこう。

高校の生物基礎でも学習するキーワードですが、これは生物学上とても重要な概念です。DNAからタンパク質ができるまでの過程とともに、しっかりと学んでみようじゃないか。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

セントラルドグマとは?

セントラルドグマとは、生物の細胞内にある遺伝情報が「DNA→RNA→タンパク質」の順番で伝わっていく、という考え方のことをさします。

日本語に訳した中心教義中心原理などとよばれることもあるので覚えておきましょう。

image by Study-Z編集部

私たち人間の細胞内では、DNAをもとにしてRNAがつくられ、そのRNAの情報をもとにしてタンパク質がつくられます。RNAをもとにしてDNAがつくられたり、タンパク質をもとにしてRNAやDNAがつくられることは基本的になく、一方通行であるということが重要です。

また、人間以外の生物でもこの原理は基本的に当てはまることから、セントラルドグマは生物全体に共通するルールの一つである、と広く知られています。

セントラルドグマを提唱したのは?

このセントラルドグマという考え方を提唱したのは、フランシス・クリックという生物学者です。

「なんか聞いたことがある名前だな」と思った方はすごい!彼はDNAの二重らせん構造を発見した研究者の一人です。教科書でもよく「ワトソンとクリックによってDNAの構造が解明され…」という風に紹介されますよね。このクリックによってセントラルドグマが提唱されたのが1958年のことです。

DNAからタンパク質までの流れ

それでは、DNAからRNA、RNAからタンパク質ができるまでの流れを簡単にご紹介しましょう。

転写

DNAは4種類の塩基の並び方(塩基配列)によってさまざまなタンパク質の情報を記録していますが、それ自体から直接タンパク質がつくられるわけではありません。

タンパク質を合成する際は、一度RNAにその情報を写しとり、RNAの情報からタンパク質がつくられるのです。DNAからRNAを合成する過程のことを転写(てんしゃ)といいます。

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