この記事では「座右の銘」について解説する。

端的に言えば座右の銘とは「自らを戒める言葉」ですが、それはなにも偉人や有名人の格言、ことわざなどに限ったことではないようです。

在野の国文学研究者、長屋創を呼んです。一緒に「座右の銘」の意味や例文、類語などを見ていこう。

ライター/長屋 創

年間200冊の本を読み漁る、筋金入りの活字中毒者。日々「素敵な日本語」を探索する。座右の銘は「なんとかなる。それは、やることをちゃんとやってる人のセリフ」(『ムーミン』のミイ)

「座右の銘」の意味や例文・使い方まとめ

image by iStockphoto

今回のテーマは「座右の銘(ざゆうのめい)」です。なんとも重厚な言葉の響きと物々しい字面ですね。思わず「これは深刻な話になりそうだな」と居ずまいを正したあなた。なに、そんなに身構える必要はありません。寝っ転がって柿の種でも齧りながらリラックスして読み進んでください。

「座右の銘」とは、自分なりに設定した人生の指針、とでもいいましょうか。あるいは、世を生き抜くための道しるべ。または、みずからを時に鼓舞し時には慰藉する言葉。さらにはある意味、行動規範といっても良いかもしれません。「なんだ。やっぱり難しいこといい出したじゃないか」とムックリ身を起こしたあなた。大丈夫。これからわかりやすくお話していきます。安心して寝っ転がってください。

ああ、起き上がったついでに紅茶を淹れましょうか。紅茶と柿の種は相性抜群なんですよ。

「座右の銘」の意味は?

まずは「座右の銘」の意味について見ていきましょう。とりあえず辞書を引いてみます。

いつも自分の座る場所のそばに書き記しておいて、戒めとする文句。

出典:デジタル大辞泉(小学館)

座右に置いて毎日のいましめとする格言。座右銘。

出典:三省堂国語辞典 第七版 広島東洋カープ仕様(三省堂)

どうもなんだか堅苦しいのと、あまりに辞書的な説明なのは実際に辞書ですから仕方がないとして。

この説明からどんなイメージが湧きますか?おそらく、和室の床の間に掛けてある軸の「和を以て貴しとなす」ですとか欄間に飾られた額の「一日一善」などが頭に思い浮かんだのではないでしょうか?はい。正解。「座右の銘」とはつまりそういうものです。

少し補足しますと、「座右」は傍らのことで「ざう」とも読みます。なぜ右側なのか、左や上下ではいけないのかという疑問も非常に興味深いテーマなのですが、それはまたの機会に譲りましょう。「銘」は石碑や金属版に刻まれた文句のことです。「銘を打つ」「肝に銘じる」のように使いますね。

要するに、いつもそばに置いて(胸に刻んで)おきたい、自分にとっての大切な言葉、それが「座右の銘」です。誰かに押し付けられるものではありません。自分が感銘を受けた言葉や常日頃心掛けていたいことなど、「座右の銘」は人それぞれ。もちろん持つも持たぬも勝手です。そして、必ずしも文字で書いた言葉に限りません。自分の心の中だけに大事にしまっている言葉、それもまた「座右の銘」といえるでしょう。

人間はすぐに忘れますし、心が揺れやすくて簡単に軸がぶれたりします。常に軌道を一定に保つために自分を導いてくれるなにか、が欲しくなることがありますよね。それが先ほどの辞書にあった「戒め」。つまり「座右の銘」というわけです。

「でも、和を以てなんちゃらとか掛け軸とか、高尚な感じがしてわれわれの日常には縁がなさそうだなあ」という声が聞こえてきたような気がします。確かに「座右の銘」に、ことわざや格言、偉人や有名人の名言などが好まれる傾向にはありますね。ことわざは真理ですし、ひとかどの人物の言葉には重みがありますから、みんなにアピールする目的で使う場合には効果的です。しかし、「座右の銘」は格調高くあるべし、という決まりなどありはしません。ごく身近なことで些細でささやかで生活感あふれ出るものでもいいはずです。むしろそうあるべきだと、私は思います。その人にとっての「座右の銘」が生きたものになるために。

それではこの流れに乗って、「座右の銘」のあれこれを見ていきましょう。

\次のページで「庶民の「座右の銘」」を解説!/

庶民の「座右の銘」

我が家には床の間も掛け軸も存在しませんし、聖徳太子の話題が晩の食卓にのぼることもありません。格調などとは一番遠いところにある庶民の家庭ですが、「座右の銘」だけはあちこちに見受けられます。

「座右の銘?なにそれ、マンガ?」とのたまう受験生の息子の勉強机には「京大合格!睡魔を制する者が受験に勝つ!」と下手くそな字で書かれた紙が貼ってあります。

冷蔵庫の扉に貼られた付箋には妻の字で「チョコ注意、そのひと口が豚になる」と標語もどきの一文が。

リビングの壁には、書道を習っている娘に書いてもらった「禁酒・禁煙」の半紙がヒラヒラ。その隣に「トマトのデュルデュルを残さないで食べる」とあるのは娘が決死の覚悟でしたためたもの。

これらすべてが「座右の銘」です。今度は「そんなのでいいの?」という声が聞こえてきそうですが、どれもこれもささやかながら「今の自分より良くなりたい」「成長したい」という前向きな思いが伝わってくる言葉ですよね。座右に置いておくにふさわしい言葉ではないでしょうか?松下幸之助翁の伝記やビル・ゲイツ語録から引っ張ってきた名文句だけが「座右の銘」ではないと、私は思います(それはそれでかまわないのですが)。

文芸作品における「座右の銘」の使い方・例文

続いて「座右の銘」が文芸作品ではどのように使われているのか、見ていくことにしましょう。いくつかの例をあげていきます。

其晩、私は父の書院へも呼び附けられて、五六枚ほど短册に書いたものを餞別として貰ひました。それは私が座右の銘にするやうにと言つて呉れたので、日頃少年の私をつかまへて口の酸くなるほど言つて聞かせた教訓を一つ一つ文字に表はして書いたものでした。(幼き日(ある婦人に与ふる手紙))

バルザックを讀む準備はわれひとの間に、すでに十分出來てゐると信ずるからである。『一日として事なき日なし』といふことを座右の銘としたゾラを今日に生かして見たい。(桃の雫)

時計のやうに正確に――これが座右の銘でもあり、生徒に説いて聞かせる教訓でもあり、また職員一同を指揮する時の精神でもある。(破戒)

父から餞別に貰った五六枚ほどの短冊、上京後の座右の銘にするようにと言って父があの几帳面な書体で書いてくれた文字、それを岸本はまだありありと眼に浮べることが出来た。(新生)

彼は読み書きの好きな和助のために座右の銘ともなるべき格言を選び、心をこめた数葉の短冊を書き、それを紙に包んで初旅の餞ともした。(夜明け前 第二部)

実はこれらの文章はすべて、島崎藤村の作品から引用したものです。「座右の銘」に余程の思い入れがあったのか、いろいろな作品の中で使用していますね。もっと探せば他にもまだまだ見つかるかもしれません。まさにミスター座右の銘。

それはともかく、例文を眺めていてひとつ分かるのは、自分ではない誰か他の人から「座右の銘」を与えられることもあるということですね。上の例文では、旅立つ人への餞別・はなむけとして贈っています。「この言葉を座右の銘にして生きていってください」と。なかなか乙な贈り物ですね。もちろん贈る相手は、肉親とか気心の知れた旧知の友人とかに限られるでしょう。あまりよく知らない人に贈ってしまうと「大きなお世話だ」と怒られます。

「座右の銘」の類義語は?

image by iStockphoto

では次に、「座右の銘」と同じような意味を持つ言葉をご紹介しましょう。

\次のページで「「人生訓」」を解説!/

「人生訓」

その名の通り、人生いかにいくべきかを教えてくれる言葉・教訓のことです。「座右の銘」より限定的で精神論的な雰囲気を感じますね。

「生活信条」

信条とはふだんから固く信じていること、です。日々生きていく上でこれだけは譲れないということ、ある意味信仰にも似たものでしょうか。

「座右の銘」の英訳は?

image by iStockphoto

「座右の銘」を英語でいうと何でしょうか。ここまで読んでくださった方の頭の中には、おそらくあれが思い浮かんだのでは?

「モットー」

もうすっかり日本語になっていますね。

mot-to

1座右銘、標語、モットー

2金言、処世術

3≪書物などの≫題句

出典:新英和中辞典(研究社)

あなたの「座右の銘」を胸に刻もう

ここまで「座右の銘」について詳しく見てきました。せっかくですから、みなさんもこの機会に自分だけの「座右の銘」を見つけてみてください。

「一念天に通ず」という古いことわざがあります。何事かを成し遂げようとする強い信念があれば思いは必ず成就する、という意味です。思考は現実化する、の元祖ですね。

「こういう人間になりたい」「こういう自分でありたい」の思いを座右の銘として胸に刻んで、折に触れて思い返せば、きっと理想の自分に近づくことができるはずです。

「座右の銘」は未来の自分の前借り。

なんだかワクワクしませんか?

" /> 【慣用句】「座右の銘」の意味や使い方は?例文や類語を活字中毒ライターがわかりやすく解説! – Study-Z
国語言葉の意味

【慣用句】「座右の銘」の意味や使い方は?例文や類語を活字中毒ライターがわかりやすく解説!

この記事では「座右の銘」について解説する。

端的に言えば座右の銘とは「自らを戒める言葉」ですが、それはなにも偉人や有名人の格言、ことわざなどに限ったことではないようです。

在野の国文学研究者、長屋創を呼んです。一緒に「座右の銘」の意味や例文、類語などを見ていこう。

ライター/長屋 創

年間200冊の本を読み漁る、筋金入りの活字中毒者。日々「素敵な日本語」を探索する。座右の銘は「なんとかなる。それは、やることをちゃんとやってる人のセリフ」(『ムーミン』のミイ)

「座右の銘」の意味や例文・使い方まとめ

image by iStockphoto

今回のテーマは「座右の銘(ざゆうのめい)」です。なんとも重厚な言葉の響きと物々しい字面ですね。思わず「これは深刻な話になりそうだな」と居ずまいを正したあなた。なに、そんなに身構える必要はありません。寝っ転がって柿の種でも齧りながらリラックスして読み進んでください。

「座右の銘」とは、自分なりに設定した人生の指針、とでもいいましょうか。あるいは、世を生き抜くための道しるべ。または、みずからを時に鼓舞し時には慰藉する言葉。さらにはある意味、行動規範といっても良いかもしれません。「なんだ。やっぱり難しいこといい出したじゃないか」とムックリ身を起こしたあなた。大丈夫。これからわかりやすくお話していきます。安心して寝っ転がってください。

ああ、起き上がったついでに紅茶を淹れましょうか。紅茶と柿の種は相性抜群なんですよ。

「座右の銘」の意味は?

まずは「座右の銘」の意味について見ていきましょう。とりあえず辞書を引いてみます。

いつも自分の座る場所のそばに書き記しておいて、戒めとする文句。

出典:デジタル大辞泉(小学館)

座右に置いて毎日のいましめとする格言。座右銘。

出典:三省堂国語辞典 第七版 広島東洋カープ仕様(三省堂)

どうもなんだか堅苦しいのと、あまりに辞書的な説明なのは実際に辞書ですから仕方がないとして。

この説明からどんなイメージが湧きますか?おそらく、和室の床の間に掛けてある軸の「和を以て貴しとなす」ですとか欄間に飾られた額の「一日一善」などが頭に思い浮かんだのではないでしょうか?はい。正解。「座右の銘」とはつまりそういうものです。

少し補足しますと、「座右」は傍らのことで「ざう」とも読みます。なぜ右側なのか、左や上下ではいけないのかという疑問も非常に興味深いテーマなのですが、それはまたの機会に譲りましょう。「銘」は石碑や金属版に刻まれた文句のことです。「銘を打つ」「肝に銘じる」のように使いますね。

要するに、いつもそばに置いて(胸に刻んで)おきたい、自分にとっての大切な言葉、それが「座右の銘」です。誰かに押し付けられるものではありません。自分が感銘を受けた言葉や常日頃心掛けていたいことなど、「座右の銘」は人それぞれ。もちろん持つも持たぬも勝手です。そして、必ずしも文字で書いた言葉に限りません。自分の心の中だけに大事にしまっている言葉、それもまた「座右の銘」といえるでしょう。

人間はすぐに忘れますし、心が揺れやすくて簡単に軸がぶれたりします。常に軌道を一定に保つために自分を導いてくれるなにか、が欲しくなることがありますよね。それが先ほどの辞書にあった「戒め」。つまり「座右の銘」というわけです。

「でも、和を以てなんちゃらとか掛け軸とか、高尚な感じがしてわれわれの日常には縁がなさそうだなあ」という声が聞こえてきたような気がします。確かに「座右の銘」に、ことわざや格言、偉人や有名人の名言などが好まれる傾向にはありますね。ことわざは真理ですし、ひとかどの人物の言葉には重みがありますから、みんなにアピールする目的で使う場合には効果的です。しかし、「座右の銘」は格調高くあるべし、という決まりなどありはしません。ごく身近なことで些細でささやかで生活感あふれ出るものでもいいはずです。むしろそうあるべきだと、私は思います。その人にとっての「座右の銘」が生きたものになるために。

それではこの流れに乗って、「座右の銘」のあれこれを見ていきましょう。

\次のページで「庶民の「座右の銘」」を解説!/

次のページを読む
1 2 3
Share: