今回は「カルマン渦」について解説していきます。

「カルマン渦」は、はく離と呼ばれる現象の一種で、流体力学を学習すると目にする用語です。「カルマン渦」の理論を用いて説明することができる身近な現象は非常に多い。記事の中でも、実際の事例と結びつけながら、説明していく。ぜひとも、この機会に「カルマン渦」の知識を身につけてくれ。

塾講師として物理を高校生に教えていた経験もある通りすがりのぺんぎん船長と一緒に解説していきます。 

ライター/通りすがりのペンギン船長

現役理系大学生。環境工学、エネルギー工学を専攻しており、物理学も幅広く勉強している。塾講師として物理を高校生に教えていた経験から、物理の学習において、つまずきやすい点や勘違いしやすい点も熟知している。

カルマン渦に関係する身近な現象とは?

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多くの人が、二重跳びという縄跳びの技に挑戦した経験があると思います。二重跳びをすると、素早く動いているロープからビュンビュンという音がきこえてきますよね。実は、このビュンビュンという音は、カルマン渦に起因するものなのです。他に、台風などで強い風が吹いているときに電線からビュンビュンという音がきこえてくる現象も、同様の説明ができます。

また、カルマン渦は騒音の原因になることもありますよ高速で走行する新幹線のパンタグラフからは、非常に大きな騒音が生じます。パンタグラフとは、新幹線の屋根の上にある部品のことです。さらには、カルマン渦発生の周期と物体の固有振動数が一致してしまい、共振により物体が壊れるといった事例もあります。実際、1940年にアメリカでおきたナローズ橋の崩壊は、この現象が原因でした。

カルマン渦について詳しく学ぼう!

流体のはく離

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まずは、流体のはく離という現象について学びましょう。ここでも身近な現象から考えます。水道の蛇口から出てくる水で、ボールを洗うところを想像してみましょう

初めに、水道の蛇口をわずかにひねり、チョロチョロと出てくる少量の水でボールを洗うとどのようになるかを考えてみましょう。このとき、ボールに当たった水は、ボールに沿って流れます。そして、水はボールの下側にまわり込みますよね

一方、水道の蛇口を大きくひねり、勢いよく出てくる水でボールを洗うとどうなるでしょうか。ボールに当たった水は、途中までボールに沿って流れたあと、ボールの表面から離れていきます。つまり、水はボールの下側にまわり込むことができません

このように、流体が物体の表面から離れてしまう現象を、はく離といいます。また、この例からもわかるように、流速が大きくなるとはく離がおこりやすくなるのです。

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はく離の様子は変化する!

ここでは流体の流速とはく離の種類の関係について述べます。無限遠から流れてくる一様流に対して垂直に円柱状の物体を置いたという状況を考えてみましょう

一様流の流速が極めて小さい場合は、どのようになるでしょう。先ほどのボールの例と同じように、流体は円柱表面に沿って流れます。この状態から徐々に流速を大きくしていくことを考えましょう。流速がある一定の値を超えると、流体ははく離を起こします。このとき、円柱の下流側には、上下に対称的な渦が生じるのです。この渦のことを双子渦といいますよ。

さらに流速を大きくしていくと、上下の渦が交互に下流方向へと放出されていくようになります。この交互に放出される渦が、カルマン渦なのです。この状態から、さらに流速を大きくすると渦は不規則に放出されるようになり、流れの様子は乱れていきます。カルマン渦が生じるためには、流体が速すぎても、遅すぎてもいけないのです。

カルマン渦が生じる条件

カルマン渦が生じる条件

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カルマン渦が生じるためには、流体が速すぎても、遅すぎてもいけないということを先ほど学びました。しかしながら、この表現の仕方では物理学的に曖昧すぎます。そこで、カルマン渦が生じる条件を定量的に表現してみましょう。

ここでは、流体力学で頻繁に登場するレイノルズ数を用いて、条件式を作ります。レイノルズ数というは、慣性力と粘性力の比を表す無次元数で、Re=UL/νと表すことができますよ。Uは代表速度、Lは代表長さ、νは動粘性係数です。円柱状の物体を一様流が垂直に横切る場合は、一様流の流速が代表速度円柱の直径が代表長さになります。動粘性係数は、各流体に対して、固有の値をとりますね

一般的に、レイノルズ数が50から200までの範囲にあれば、カルマン渦が生じると考えられています。ただし、この条件は目安です。流体に影響を与えうる条件が変化することで、微妙にレイノルズ数の範囲がずれることがあります。

ストローハル数

ストローハル数

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カルマン渦は、上下の渦が周期的に放出されます。ここでは、渦発生の周波数fを式に含むストローハル数という無次元数を紹介しますね。ストローハル数は、St=fL/Uで表すことができます。Uは代表速度、Lは代表長さです。ストローハル数は、流体中に置く物体に対して固有の値を持ちます。例えば、円柱状の物体ではストローハル数は約0.2となりますよ。

したがって、この式を用いると、放出されるカルマン渦の周期を予測することができます。あらかじめ、カルマン渦の周期を知っておくことで、騒音対策を行ったり、共振による建造物の倒壊防ぐことが容易になりますね。

\次のページで「カルマン渦の発生を抑制する方法」を解説!/

カルマン渦の発生を抑制する方法

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カルマン渦は騒音の原因にもなることから、発生を抑制させなければならない場合があります。ここでは、新幹線を例にとって、解説していきますね。

かつて、高速で走行する新幹線のパンタグラフから発生するカルマン渦による騒音が問題となっていました。開発者の方は、フクロウの翼から、この問題を解決するヒントを得たのです。フクロウは、獲物を捕らえるときに、ほとんど羽の音をたてません。その理由は、フクロウの羽の細かい突起にありました。細かい突起が、乱流を作り出し、はく離が起こらなないようにしているのですね

新幹線のパンタグラフにも、同様の小さな突起を付ければよいのではないかと考えたのです。このアイデアによって、無事に騒音問題は解決されました。現在でも、様々な分野で、カルマン渦発生の抑制に関する研究が成されています。そして、新幹線の場合のように、自然界にヒントが潜んでいることも多いようですよ。

カルマン渦について理解を深めよう!

カルマン渦が関連する身近な現象は多く存在します。また、多くの設計分野において、カルマン渦が原因で起こる現象について考察する必要がありますよ。ですから、カルマン渦について理解できていれば、これらの本質的な部分が理解できるようになります。

雑学として、カルマン渦について知っていることで、損をすることは絶対にありません!ぜひ、この機会にカルマン渦について学んでみましょう。

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流体力学物理理科

カルマン渦とは?身近な事例を交えながら理系学生ライターがわかりやすく解説

今回は「カルマン渦」について解説していきます。

「カルマン渦」は、はく離と呼ばれる現象の一種で、流体力学を学習すると目にする用語です。「カルマン渦」の理論を用いて説明することができる身近な現象は非常に多い。記事の中でも、実際の事例と結びつけながら、説明していく。ぜひとも、この機会に「カルマン渦」の知識を身につけてくれ。

塾講師として物理を高校生に教えていた経験もある通りすがりのぺんぎん船長と一緒に解説していきます。 

ライター/通りすがりのペンギン船長

現役理系大学生。環境工学、エネルギー工学を専攻しており、物理学も幅広く勉強している。塾講師として物理を高校生に教えていた経験から、物理の学習において、つまずきやすい点や勘違いしやすい点も熟知している。

カルマン渦に関係する身近な現象とは?

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多くの人が、二重跳びという縄跳びの技に挑戦した経験があると思います。二重跳びをすると、素早く動いているロープからビュンビュンという音がきこえてきますよね。実は、このビュンビュンという音は、カルマン渦に起因するものなのです。他に、台風などで強い風が吹いているときに電線からビュンビュンという音がきこえてくる現象も、同様の説明ができます。

また、カルマン渦は騒音の原因になることもありますよ高速で走行する新幹線のパンタグラフからは、非常に大きな騒音が生じます。パンタグラフとは、新幹線の屋根の上にある部品のことです。さらには、カルマン渦発生の周期と物体の固有振動数が一致してしまい、共振により物体が壊れるといった事例もあります。実際、1940年にアメリカでおきたナローズ橋の崩壊は、この現象が原因でした。

カルマン渦について詳しく学ぼう!

流体のはく離

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まずは、流体のはく離という現象について学びましょう。ここでも身近な現象から考えます。水道の蛇口から出てくる水で、ボールを洗うところを想像してみましょう

初めに、水道の蛇口をわずかにひねり、チョロチョロと出てくる少量の水でボールを洗うとどのようになるかを考えてみましょう。このとき、ボールに当たった水は、ボールに沿って流れます。そして、水はボールの下側にまわり込みますよね

一方、水道の蛇口を大きくひねり、勢いよく出てくる水でボールを洗うとどうなるでしょうか。ボールに当たった水は、途中までボールに沿って流れたあと、ボールの表面から離れていきます。つまり、水はボールの下側にまわり込むことができません

このように、流体が物体の表面から離れてしまう現象を、はく離といいます。また、この例からもわかるように、流速が大きくなるとはく離がおこりやすくなるのです。

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