今回は「美味しいものが脂肪と糖でできている」と言われる理由について詳しく勉強していこう。

ダイエットの天敵ともいわれる脂肪と糖。美味しいものほどカロリーが高いものですね。

その理由を化学に詳しいライターAyumiと一緒に解説していきます。

ライター/Ayumi

理系出身の元塾講師。わかるから面白い、面白いからもっと知りたくなるのが化学!まずは身近な例を使って楽しみながら考えさせることで、多くの生徒を志望校合格に導いた。

1.化学から見る「脂肪」と「糖」

image by iStockphoto

美味しいものはカロリーが高い!太ってしまいそう!そう思っていませんか?

そしてきっと一度は耳にしたことがあるであろう「美味しいものは脂肪と糖でできている」というパワーワード…。確かに!と納得した人も多いのではないでしょうか。

それでは実際に「脂肪」と「糖」がどういったものなのか、化学的に見ていきましょう。

1-1.脂肪

脂肪とは、いわゆる「油分」を想像してみるといいでしょう。

水に溶けにくく、クロロホルムやエーテル、ベンゼンといった有機溶媒に溶けるものを脂質といいます。この中でも常温で液体の「油」と固体の「脂」に分けられ、これらをまとめて「油脂」ということもありますね。

多くの脂質には炭素と水素が鎖状に結合した炭化水素にカルボキシル基(-COOH)と呼ばれる構造がくっついた形をしています。お酢の主成分でもある酢酸 CH3-COOH やチーズなどに含まれる酪酸 CH3-(CH2)2-COOH 、各種食用油に含まれるオレイン酸やリノール酸がその代表です。

脂肪酸は鎖状炭化水素の部分の炭素の数が多くなるほど(鎖が長くなるほど)融点が高くなり、同じ炭素数の脂肪酸で考えた場合、単結合よりも二重結合が多くなるほど融点が低くなります。これによって油と脂という違いが出るというわけですね。

1-2.糖

化学において、糖とは「多価アルコール」の酸化生成物です。まずアルコールの構造について簡単に説明すると、炭素と水素が鎖状に結合した炭化水素のうち、ある水素が水酸基(-OH)に入れ替わった構造ですね。つまり、多価アルコールとは鎖状炭化水素に水酸基を複数もつアルコールを意味しています。この構造にケトン基(-CHO)またはアルデヒド基(>C=O)を含んだ構造です。

グルコースやガラクトース、トレハロースなどはよく耳にするのではないでしょうか。糖の最小単位(加水分解によって分解されない糖)を単糖、これが2つ合わさったものを二糖、3つになると三糖といいます。

2.生物学から見る「脂肪」と「糖」

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化学において、脂肪や糖はその構造によって分類されます。中学・高校レベルではあまり複雑な構造の物質は扱いませんが「脂質 構造」「糖 構造」などで検索してみるのもいいですね。

さて、続いては生物学の観点でそれぞれ見ていきましょう。

\次のページで「2-1.脂肪」を解説!/

2-1.脂肪

脂肪は最もエネルギーを貯蓄するのに適した生体物質で、脂肪に含まれる脂肪酸がこのエネルギーの源です。

脂肪酸は体内でタンパク質と結合し、血液中を巡ることで各細胞組織に取り込まれます。その後ミトコンドリア内で大きなエネルギーを生産するのです。このとき、体内では脂肪酸の酸化が起こっています。脂肪酸の酸化には大量の酸素が必要です。そのために脂肪を消費するには時間がかかるのですが、ダイエットで脂肪を落とすには有酸素運動が効果的といわれるのにはこういったわけがあるのですね。

脂肪1gから得られるエネルギーは9kcalと高く、いざという時のために人は脂肪を体内に蓄えようとします。飢餓や飢饉を乗り越えようとする進化の結果得られた人体の仕組みといえそうです。

2-2.糖

糖も脂肪と同じくエネルギー源として用いられ、脂肪ほどではないものの、1gあたり4lcalのエネルギーとなります。

生物の授業ではデンプンの分解について勉強しましたね。デンプンは唾液中のアミラーゼという酵素のはたらきによって分解されます。このように糖は様々な酵素の働きを経て体内を巡り、エネルギーとして使われているのです。中でも脳は多くのエネルギーを必要とします。「甘いものを食べると頭がはたらく」とよく言いますが、これは血糖値(血液内の糖度濃度)を上げることで脳に栄養を送ろうとするものです。糖はいち早くエネルギーとして使われます。もちろん血糖値は高すぎても低すぎてもよくありませんよ。

3.栄養学から見る「脂肪」と「糖」

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最後に栄養学から脂肪と糖の違いを見ていきましょう。

3-1.脂肪

脂肪は栄養価の高いものではありますが、肥満やメタボリックシンドロームのリスクを上げてしまう栄養素でもあります。それは前述したように、脂肪が蓄積するのに向いた物質であることが1つの原因です。

こってりラーメンやチーズたっぷりのピザ、バターしみしみのトースト...どれも美味しいものですが、食べすぎはあなたのためになりませんよね。脂っぽい食品が好きという人は、食生活から見直しが必要ですね。

しかし、脂質の中には体内で生成されず食品で摂取する必要のある必須脂肪酸というものが存在します。これらは食用油や魚由に含まれることがわかっていますが、不足しがちの人はサプリ等も有効でしょう。1日に必要な摂取カロリーは年齢や身長、身体活動レベル等によって様々ですが、総エネルギーに占める割合は平均で約2~3割です。これらはインターネット上で計算することができるので、ぜひ試してみてくださいね。

3-2.糖

栄養や食品学では糖はよく炭水化物といわれます。ご飯やパン、パスタなどの主食はこれに当てはまりますね。ただし炭水化物は糖類と食物繊維を合わせたものという意味合いをもちますので、必ずしも炭水化物 イコール 糖とはいえませんよ。

糖と聞くと砂糖やチョコレートのように甘いものを連想しがちですが、米やイモ類に含まれるデンプンもこれに含まれます。体内では素早くエネルギーに変換されて消費されるため、貯蔵されている量としては少量です。(もちろん消費する以上の糖を摂取してしまった場合を除きます。)糖の摂りすぎは脂肪同様にカラダに負担をかけ、生活習慣病の原因となるものです。過不足なく摂取することが大切ですね。

\次のページで「4.キャッチコピーの真実とウソ」を解説!/

4.キャッチコピーの真実とウソ

それでは実際にこれらが味覚とどう関係しているのか見ていきましょう。

4-1.脂肪と糖でできているものは美味しく感じる

4-1.脂肪と糖でできているものは美味しく感じる

image by Study-Z編集部

味覚というのは舌にあるつぶつぶ「味蕾」で感じた信号がいわゆる味に変換されることで感じられるようになります。味には基本の五味があり、甘味・塩味・酸味・苦味・旨味です。

よくテレビなどの食レポで、美味しいものを「甘い」と表現しますよね。これはその料理の美味しさを表現するために言っているだけでなく、実際に人は甘いものを美味しいと感じるようになっているからだとも考えられます。つまり、よりエネルギーを蓄えるためにも、甘いものや脂っこいものなどのカロリーが高いものを美味しいと思うように進化したと考えてもいいでしょう。また、近年では第6の味覚脂肪味」の存在が明らかになってきました。

これらのことから「脂肪と糖でできているものは美味しい」というのは本当だといえるでしょう。

4-2.脂肪と糖でできていないものも美味しい

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しかし忘れてはいけないのはカロリーの摂りすぎです。また、「脂肪と糖からできていなくても美味しいものはたくさんある」ことは知っておくべきでしょう。

甘味や脂肪味、塩味による美味しさを補ってくれるものが「旨味」です。濃い味付けでなくても美味しく感じられる食事には「出汁」の存在がかかせません。そこに少しの酸味と苦味がいいアクセントになって、より美味しさを引き出してくれることもあるでしょう。大切なのは栄養バランスと摂取量なのです。

結局のところ「美味しいものは脂肪と糖でできている」というのは必ずしも正しいとはいえません。あくまでも「脂肪と糖でできているものは美味しく感じられる」程度で理解するのがいいでしょう。「美味しいものはカロリーが高い」のではなく「カロリーが高いものには美味しいものが多い」と言い換えてみてもいいかもしれませんね。

よくCMなどで使われるキャッチコピーには、真実と商品のPRをうまく混ぜ込んだ言葉が使われています。つまり、事実を少し誇張して伝えつつ、商品を手に取りたくなるようなメッセージを込めているはずです。そんなCM、心当たりは当たりませんか?

\次のページで「脂肪と糖は美味しく感じやすい!?」を解説!/

脂肪と糖は美味しく感じやすい!?

脂肪や糖はどちらも生体維持に欠かせないものであり、カラダが欲しているものです。また、味覚にも大きく関係していて、甘味や脂肪味として美味しさを感じさせるものでもあります。そのために、脂肪や糖が含まれているものは美味しいと感じられるのです。

ただし、これはあくまでもその傾向があるということであり、全ての食品がそうだとはいえません。美味しいものは脂肪と糖でできているというより、脂肪と糖でできているものが多いというのが真実でしょう。脂肪と糖でできていないものにも美味しいものはたくさんありますよね。キャッチコピーとして有名になったこのフレーズですが、どこまでが本当で、どこからが誇張やウソなのかを見極めることが大切です。賢い消費者になるための知識として、科学を活用してみるのもいいでしょう。

最近は糖質制限がブームになっていたり、根拠のないダイエットが流行っていたりしますよね。健康な体作りのためにも、普段の食事を見直すきっかけになれば幸いです。

画像引用:いらすとや

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化学

美味しいものは「脂肪」と「 糖」でできている?その理由を元塾講師がわかりやすく解説

今回は「美味しいものが脂肪と糖でできている」と言われる理由について詳しく勉強していこう。

ダイエットの天敵ともいわれる脂肪と糖。美味しいものほどカロリーが高いものですね。

その理由を化学に詳しいライターAyumiと一緒に解説していきます。

ライター/Ayumi

理系出身の元塾講師。わかるから面白い、面白いからもっと知りたくなるのが化学!まずは身近な例を使って楽しみながら考えさせることで、多くの生徒を志望校合格に導いた。

1.化学から見る「脂肪」と「糖」

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美味しいものはカロリーが高い!太ってしまいそう!そう思っていませんか?

そしてきっと一度は耳にしたことがあるであろう「美味しいものは脂肪と糖でできている」というパワーワード…。確かに!と納得した人も多いのではないでしょうか。

それでは実際に「脂肪」と「糖」がどういったものなのか、化学的に見ていきましょう。

1-1.脂肪

脂肪とは、いわゆる「油分」を想像してみるといいでしょう。

水に溶けにくく、クロロホルムやエーテル、ベンゼンといった有機溶媒に溶けるものを脂質といいます。この中でも常温で液体の「油」と固体の「脂」に分けられ、これらをまとめて「油脂」ということもありますね。

多くの脂質には炭素と水素が鎖状に結合した炭化水素にカルボキシル基(-COOH)と呼ばれる構造がくっついた形をしています。お酢の主成分でもある酢酸 CH3-COOH やチーズなどに含まれる酪酸 CH3-(CH2)2-COOH 、各種食用油に含まれるオレイン酸やリノール酸がその代表です。

脂肪酸は鎖状炭化水素の部分の炭素の数が多くなるほど(鎖が長くなるほど)融点が高くなり、同じ炭素数の脂肪酸で考えた場合、単結合よりも二重結合が多くなるほど融点が低くなります。これによって油と脂という違いが出るというわけですね。

1-2.糖

化学において、糖とは「多価アルコール」の酸化生成物です。まずアルコールの構造について簡単に説明すると、炭素と水素が鎖状に結合した炭化水素のうち、ある水素が水酸基(-OH)に入れ替わった構造ですね。つまり、多価アルコールとは鎖状炭化水素に水酸基を複数もつアルコールを意味しています。この構造にケトン基(-CHO)またはアルデヒド基(>C=O)を含んだ構造です。

グルコースやガラクトース、トレハロースなどはよく耳にするのではないでしょうか。糖の最小単位(加水分解によって分解されない糖)を単糖、これが2つ合わさったものを二糖、3つになると三糖といいます。

2.生物学から見る「脂肪」と「糖」

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化学において、脂肪や糖はその構造によって分類されます。中学・高校レベルではあまり複雑な構造の物質は扱いませんが「脂質 構造」「糖 構造」などで検索してみるのもいいですね。

さて、続いては生物学の観点でそれぞれ見ていきましょう。

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