今回は「自然毒」について詳しく勉強していこう。

毒と聞くと「何かの事件?」であったり「どうやって手に入れたんでしょう」であったり、特別な物質と考えてしまいがちですね。でも実際に毒は身近に存在しているんです。

毒物劇物取扱責任者の資格を持ち、化学に詳しいライターAyumiと一緒に解説していきます。

ライター/Ayumi

理系出身の元塾講師。わかるから面白い、面白いからもっと知りたくなるのが化学!まずは身近な例を使って楽しみながら考えさせることで、多くの生徒を志望校合格に導いた。

1.そもそも毒・毒性ってどんなもの?

今回のテーマである「自然毒」を言い換えると、「自然由来の毒」とすることができます。では、そもそも毒とはどのようなものと考えればいいのでしょうか。

毒について辞書で調べてみました。

毒:生命または健康を害するもの。特に、そのような薬物。 (広辞苑より)

つまり身体に何らかのダメージを与える物質、または死に至らしめる物質ということでしょう。英語でいうところのpoison(ポイズン)ですね。では、毒に関する英単語を見てみましょう。

image by Study-Z編集部

「poison」が毒一般を指すのに対し、毒素を意味する「toxin(トキシン)」毒液を意味する「venom(ヴェノム)」は少し意味が異なります。

トキシンというのはテトロドトキシンやボツリヌストキシンなどで耳にしたことがあるのではないでしょうか。これらは動物や植物、微生物など生物由来の毒の総称です。一方、ヴェノムは映画やゲームなどで聞いたことがある人もいるかもしれませんね。これは昆虫や爬虫類等の動物が噛んだり刺したりすることによって体内に侵入する毒です。

例えば、毒キノコの毒はpoisonでありtoxinですが、venomではありません。毒蛇の毒はpoisonでありtoxinでもあり、さらにvenomに分類されますね。しかし某アニメで有名になったクロロホルムはpoisonですがtoxinでもvenomでもありません。これは生物由来ではない毒、つまり人工毒だからです。

\次のページで「2.自然毒の種類」を解説!/

2.自然毒の種類

自然毒を英語の分類に当てはめてみると、toxinまたはvenomに分類されそうですね。ただし、自然毒というのは大きく分けて2つの分類がされます。それは「動物性自然毒」と「植物性自然毒」です。そのため、toxinの微生物由来の毒は自然毒には分類されないので注意が必要ですね。また、venomというのは動物性自然毒に分類されそうです。

では、それぞれ詳しく見ていきましょう。

2-1.動物性自然毒

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動物性自然毒というのは、昆虫を含む動物が保有している毒を意味します。その動物を食べたり、動物に噛まれたり刺されたりすることによって何らかの症状となって現れるでしょう。昆虫や爬虫類、魚介類によるものがよく知られていますね。

魚介類においてはそれらの体内でプランクトン由来の有毒成分が蓄積されることによって毒となります。昆虫や爬虫類においては、捕食や防御のために体内で毒を生成している場合も多いでしょう。

誤って食べてしまった場合、麻痺や下痢などの食中毒症状が現れます。フグに含まれるテトロドトキシンのように加熱してもその毒性が失われないものも多いので、注意が必要です。に噛まれたりに刺されることによる症状は腫れや化膿、ショック症状が挙げられます。

2-2.植物性自然毒

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植物性自然毒植物が有する毒です。動物や昆虫や鳥類などの餌とならないよう、植物なりの対策といえるでしょう。

ジャガイモの芽に含まれるソラニンやチャコニンはそれほど毒性が高くないものの、処理が甘くなりがちな調理実習では、これによる食中毒の事例が何度か報告されています。重症にはなりにくいものの、身近な植物性自然毒といえるでしょう。

また、スイセンはニラと間違えやすく、食後30分ほどで嘔吐や下痢、発熱などを引き起こします。特に球根は猛毒で、庭に植えてあるスイセンをペットが食べてしまうケースもあるようです。

きのこは毎年シーズンになると必ずといって食中毒の事例が報道されていますよね。死亡事故につながることも多々あるので、きのこ狩りの際には要注意です。

3.毒性の種類

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多種多様な毒がある中で、人体へどう影響するかも物質により様々です。簡単に毒性について見てみましょう。

\次のページで「3-1.急性毒性」を解説!/

3-1.急性毒性

急性毒性とは、毒性物質よって起こる有害な影響のうち急速な影響を指します。ある特定の物質を経口投与または経皮から数回投与された場合、短期間に複数回投与または吸入した場合に生じる毒性です。

同量投与された個体のうち、半数が死に至る用量・濃度としてmg/kgmg/m3ppmの単位で表します。半数致死用量LD50、半数致死濃度をLC50と表記することもあるでしょう。ちなみに、ラット等の小動物実験において、青酸カリの半数致死用量は5mg/kgとなっています。50㎏の人に換算するとたった250mg摂取しただけで死に至る計算になりますね。これからもわかるように、半数致死用量や半数致死濃度の数値が小さければ小さいほど毒性が高いということなのです。

3-2.慢性毒性

慢性毒性とは、半年から1年ほどの期間にわたって連続または反復投与によって生じる毒性を指します。急性毒性に対し、長期毒性という場合もあるでしょう。医療薬や農薬の安全性の試験には、長期間にわたって人体への影響を調査する目的で慢性毒性試験が用いられています。これによって安全なものだけが市場に出回るという仕組みになっているのですね。また、数か月で発言する毒性を亜急性毒性といいます。

3-3.特殊毒性

一般毒性とは異なり、特殊な投与方法によって現れる毒性や特殊な観察法によって観察できるものが特殊毒性です。皮膚や粘膜などに炎症や爛れを起こすもの、免疫系に作用してアレルギーを引き起こすもの、発がん性・催奇形性・遺伝病の誘発などの一因となる毒性がこれに分類されます。

4.毒による影響を決める要因は?

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毒による影響を決めるのは毒性の程度だけではありません。最後に毒による影響を左右する3つの要素について見ていきましょう。

まずは当然毒性の高さです。少量でも人を死に至らしめるような強力な毒も存在します。そして摂取量、これも重要なポイントでしょう。1回に摂取するのは少量であっても、回を重ねるごとに影響は大きくなっていきます。そして忘れてはいけないのが時間です。同量の毒であっても、短期間で摂取した場合はより影響が顕著に現れることでしょう。

タバコで考えてみた場合、1本当たりの毒性はそれほど高くないものの、長期間にわたって何度も吸うことで発がん性のリスクが確認されています。また、は身近な物質ですが、短期間で大量に飲むことで水中毒の危険性がありましたね。このように、毒性の高さ×摂取量×時間で毒による影響を考えることが大切です。

\次のページで「被害者にも加害者にも成りかねない自然毒の怖さ」を解説!/

被害者にも加害者にも成りかねない自然毒の怖さ

自然毒とは、動物由来の「動物性自然毒」植物由来の「植物性自然毒」する毒のことです。これらを経口摂取したり何かしらの方法で体内に入れてしまった場合、様々な症状となって体にダメージを与えるでしょう。下痢や頭痛などの比較的軽い症状であればいいものの、最悪の場合は死に至ります。

怖いのは「自然毒」というだけあって、毒が身近に存在しているということです。蜂やクラゲに刺されないように、と対策するのもいいでしょう。きのこや山菜の貰いものは遠慮するのも自衛のためには必要かもしれません。同じく自分が採ってきたきのこが本当に食用のものかをチェックすることも大切ですよね。

ぜひこれを機会に自然毒について調べてみてくださいね。

" /> 最も身近で危険な毒「自然毒」を元塾講師がわかりやすく解説 – Study-Z
化学

最も身近で危険な毒「自然毒」を元塾講師がわかりやすく解説

今回は「自然毒」について詳しく勉強していこう。

毒と聞くと「何かの事件?」であったり「どうやって手に入れたんでしょう」であったり、特別な物質と考えてしまいがちですね。でも実際に毒は身近に存在しているんです。

毒物劇物取扱責任者の資格を持ち、化学に詳しいライターAyumiと一緒に解説していきます。

ライター/Ayumi

理系出身の元塾講師。わかるから面白い、面白いからもっと知りたくなるのが化学!まずは身近な例を使って楽しみながら考えさせることで、多くの生徒を志望校合格に導いた。

1.そもそも毒・毒性ってどんなもの?

今回のテーマである「自然毒」を言い換えると、「自然由来の毒」とすることができます。では、そもそも毒とはどのようなものと考えればいいのでしょうか。

毒について辞書で調べてみました。

毒:生命または健康を害するもの。特に、そのような薬物。 (広辞苑より)

つまり身体に何らかのダメージを与える物質、または死に至らしめる物質ということでしょう。英語でいうところのpoison(ポイズン)ですね。では、毒に関する英単語を見てみましょう。

image by Study-Z編集部

「poison」が毒一般を指すのに対し、毒素を意味する「toxin(トキシン)」毒液を意味する「venom(ヴェノム)」は少し意味が異なります。

トキシンというのはテトロドトキシンやボツリヌストキシンなどで耳にしたことがあるのではないでしょうか。これらは動物や植物、微生物など生物由来の毒の総称です。一方、ヴェノムは映画やゲームなどで聞いたことがある人もいるかもしれませんね。これは昆虫や爬虫類等の動物が噛んだり刺したりすることによって体内に侵入する毒です。

例えば、毒キノコの毒はpoisonでありtoxinですが、venomではありません。毒蛇の毒はpoisonでありtoxinでもあり、さらにvenomに分類されますね。しかし某アニメで有名になったクロロホルムはpoisonですがtoxinでもvenomでもありません。これは生物由来ではない毒、つまり人工毒だからです。

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