「分子間力」と聞くと、すぐに「ファンデルワールス力」を思い浮かべる者も多いのではないでしょうか。ですが、分子間力はそもそも「分子間に作用する力」のことであって、ファンデルワールス力は分子間力の1種です。改めて整理しておこう。

薬学部出身の主婦ライターarpeggioと一緒に解説していきます。

ライター/Study-Z編集部

高校2年生でようやく理系の勉強に着手して以来、特に化学の面白さの虜になり、薬学部へ。最近は学術業務を続ける傍ら、自分の子どもやその友達と、身近なものを使った実験を楽しんでいる。

#1 分子間力の定義

image by iStockphoto

分子間に作用する力で、大別して次の二つの種類がある。

その第一は、かなりの近距離においてのみ有効で、距離が遠くなるにつれて急激に減少する斥力である。(中略)分子がある程度以上近づいて電子雲の重なりが生じ、電子の交換相互作用が起こることによるものであるから、交換斥力とよばれる.この力の本質は化学結合力と同じであるが、原子価が飽和している分子の間では斥力となり、原子価が飽和していない場合(原子や遊離基など)には引力となることだけが違っている。(中略)

第二は、比較的遠距離においても有効な引力である、ファンデルワールス力、電荷移動力がこれである。このうち、ファンデルワールス力はさらに、有極性分子間にはたらく配向力と誘起力、有極性・無極性を問わずすべての分子間にはたらく分散力に分けられる。(後略)

                    -出典:森北出版「化学辞典(第 2 版)」

分子の間に働く力。通常の気体を冷やしていくと凝縮して液体になり、さらに固体になるのは、分子間に働く力による。(後略)

                    -出典:株式会社平凡社「世界大百科事典 第 2 版」

電気的に中性な分子の間に働く力で、引力と斥力がある。通常、原子も分子の 1 種と考える。引力は遠距離まで働くが、斥力は近距離のみで有効である。

引力には、双極子モーメントをもった化合物間に生じる静電引力、双極子モーメントをもった化合物が他の化合物を分極して生じる誘起効果による力、双極子モーメントをもたない分子間に働くファン・デル・ワールス力、電子供与体と電子受容体との両分子間の電荷移動力などがある。(後略)

                    -出典:ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典

\次のページで「分子間力の種類」を解説!/

#2 分子間力の種類

1. 水素結合

image by iStockphoto

電子を引き寄せる強さ、すなわち「電気陰性度」は原子の種類によって決まっています。

水分子は、1 つの酸素原子と 2 つの水素原子が共有結合したものでしたね。酸素原子の方が水素原子よりも電子を引き寄せる力が強い(=電気陰性度が高い)ため、酸素原子側はややマイナスの電気を帯び、反対に水素原子側はややプラスの電気を帯びています。さらに、2 つの共有結合部分の電子雲が最も安定する角度が 104.5 度なので、水分子は「くの字」に折れ曲がった形をしていることから、全体として極性分子となっているのでした。

さて、このような水分子が集まってできている水では、水分子はお互い、プラスとマイナスの電気を引き合って結びついています。これが「水素結合」です。

ちなみに、水分子が集まっている固体である「氷」では、全ての水分子が 4 つの水分子と水素結合で結びついて、水より隙間の多い構造となっています。それで水よりも氷のほうが比重が低く、氷が水に浮かぶのですね。

AGCT DNA mini.png
Iquo - Illustrated by the uploader, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

DNA が二重らせん構造をしているのはよく知られていますが、2 本の鎖のそれぞれ 1 本ずつは、糖、リン酸、塩基でできた構成単位が数千個つながった形をしており、一方の鎖の塩基と、もう一方の鎖の塩基が水素結合によって結ばれて二重の鎖が結びついた形になっています。DNA の材料に用いられる塩基は 4 種類のみです。アデニン(A)とチミン(T)は 2 個の水素結合で、グアニン(G)とシトシン(C)は 3 個の水素結合でそれぞれ結ばれ、それ以外の組み合わせでは結合しません。

水素結合の強さは共有結合の約 10 分の 1 と比較的弱いため、2 本の鎖が離れて、それぞれが鋳型となって複製を行うのに都合の良い力になっているとのことです。自然の仕組みは合理的で驚くことばかりですね。

2. ファンデルワールス力

2. ファンデルワールス力

image by Study-Z編集部

ファンデルワールス力の原因となるのは、主に瞬間的な電気の偏り、あるいは部分的な電気の偏りです。

例えば、水素分子や酸素分子といった同じ種類の原子 2 つから構成される分子ではイオンのような持続的な電子の偏りは生じませんが、そのような分子であっても、電子が原子核の周りをぐるぐると飛び回っているのですから、瞬間的にはたびたび電気の偏りが起きています。電子が電子殻中を自由に移動し続ける分子の姿を連続撮影するようなイメージで考えてみると分かりやすいかもしれません。

では、二酸化炭素分子ではどうでしょう。2 つの酸素原子が 1 つの炭素原子に共有結合していますが、水分子のように「くの字」に折れ曲がった形ではなく、3 つの原子は直線的に並んで、炭素原子の両端から酸素原子がそれぞれ電子を引き寄せている形ですね。炭素原子の電子は正反対の方向から引き寄せられているのですから、分子全体としては電気の偏りはないと見ることができますが、部分的には電気の偏りが生じているということです。このような分子同士がお互いに十分に接近した時にも、引力が生じます。これもファンデルワールス力と呼ばれているのです。

電気の偏りは、近接した周囲の分子にも影響を及ぼしていくので、結果として分子間に引力が働きます。

なお、物理領域に重なる話になりますが、ファンデルワールス力が大きくなる条件もこの機会に整理しておきましょう。

1) 分子量が大きい(電子を引き寄せる電荷の量が多い)

2) 分子の表面積が大きい(分子同士が接近したときにファンデルワールス力を形成できる領域が広い)

3) 極性が強い 

3. 静電引力(とファンデルワールス力)

image by iStockphoto

水蒸気やドライアイスなどの気体を冷やして、気体から液体、そして固体となるとき、構成している分子はお互いに引き合う力によって結合しますが、この引力は何に起因しているのでしょうか。

水分子が作る氷の場合は、水分子同士の間に働く静電引力によります。酸素原子が、近接する別の水分子の水素原子から電子を引き寄せようとする力です。

分子全体として極性がないとみなされる水素分子がつくる液体水素や、二酸化炭素分子から構成されるドライアイスの場合は、ファンデルワールス力によると分類されます。

\次のページで「分子間力は強固ではないものの、重要な役割を果たしている」を解説!/

分子間力は強固ではないものの、重要な役割を果たしている

分子間力は比較的弱い力ですが、物質の三態変化や DNA の複製にとっては非常に都合の良い、絶妙な引力の強さということもできそうです。

普段の生活の中で取り立てて意識することはない力ですが、元をたどるとすべてが電気的な偏り、電子の引き寄せ合いに起因するというのも、興味深いですね。

" /> 「分子間力」を化学好き主婦がわかりやすく解説! – Study-Z
物理理科電磁気学・光学・天文学

「分子間力」を化学好き主婦がわかりやすく解説!

「分子間力」と聞くと、すぐに「ファンデルワールス力」を思い浮かべる者も多いのではないでしょうか。ですが、分子間力はそもそも「分子間に作用する力」のことであって、ファンデルワールス力は分子間力の1種です。改めて整理しておこう。

薬学部出身の主婦ライターarpeggioと一緒に解説していきます。

ライター/Study-Z編集部

高校2年生でようやく理系の勉強に着手して以来、特に化学の面白さの虜になり、薬学部へ。最近は学術業務を続ける傍ら、自分の子どもやその友達と、身近なものを使った実験を楽しんでいる。

#1 分子間力の定義

image by iStockphoto

分子間に作用する力で、大別して次の二つの種類がある。

その第一は、かなりの近距離においてのみ有効で、距離が遠くなるにつれて急激に減少する斥力である。(中略)分子がある程度以上近づいて電子雲の重なりが生じ、電子の交換相互作用が起こることによるものであるから、交換斥力とよばれる.この力の本質は化学結合力と同じであるが、原子価が飽和している分子の間では斥力となり、原子価が飽和していない場合(原子や遊離基など)には引力となることだけが違っている。(中略)

第二は、比較的遠距離においても有効な引力である、ファンデルワールス力、電荷移動力がこれである。このうち、ファンデルワールス力はさらに、有極性分子間にはたらく配向力と誘起力、有極性・無極性を問わずすべての分子間にはたらく分散力に分けられる。(後略)

                    -出典:森北出版「化学辞典(第 2 版)」

分子の間に働く力。通常の気体を冷やしていくと凝縮して液体になり、さらに固体になるのは、分子間に働く力による。(後略)

                    -出典:株式会社平凡社「世界大百科事典 第 2 版」

電気的に中性な分子の間に働く力で、引力と斥力がある。通常、原子も分子の 1 種と考える。引力は遠距離まで働くが、斥力は近距離のみで有効である。

引力には、双極子モーメントをもった化合物間に生じる静電引力、双極子モーメントをもった化合物が他の化合物を分極して生じる誘起効果による力、双極子モーメントをもたない分子間に働くファン・デル・ワールス力、電子供与体と電子受容体との両分子間の電荷移動力などがある。(後略)

                    -出典:ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典

\次のページで「分子間力の種類」を解説!/

次のページを読む
1 2 3
Share: