今回学んでいくのは、相同器官、相似器官、痕跡器官です。

中学や高校の授業では、生物の進化などを学習するときにみられる用語ですが、良く似た言葉がいくつか出てくるため混同してしまうやつも少なくないな。それぞれの言葉の意味をしっかり押さえ、違いが分かるようにしよう。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

相同器官とは?

相同器官(そうどうきかん)とは、「もともと同じものであったのに、現在は異なる形や機能に変化した器官」のことです。

生物が進化し種が分かれていく中で、生息している環境や暮らし方に合わせ、器官の形も変わっていきます。相同器官は、生物の進化を考えるうえでとても重要なヒントになるのです。

相同器官の具体例

ヒトの手とアシカのヒレ

私たち人間の手は5本の指をもち、鉛筆をつかったりスマートフォンを操作したりなどの細かい作業をすることができます。腕の骨も長く、何かを運んだり、力を入れて自分の身体を支えることもできますね。

一方、同じ哺乳類でもアシカやオットセイなどの海生ほ乳類はどうでしょう?前脚は鰭になっており、細かな作業は不得意ですが泳ぐのには適した形態です。腕は長くないですが、水をかいたり上半身を支える力強さがあります。

両者はまるで異なる形をしていますが、ヒトとアシカの共通の祖先では同一の前肢でした。ヒトとアシカが分岐してからそれぞれの進化の過程で形が特殊化していったのです。

ほかにも、イヌの前脚やウシの前脚、コウモリの翼などもこれらと同じ相同器官ということができます。

image by iStockphoto

また、哺乳類よりも以前に分岐した生物群も含めて考えることもあります。たとえば、鳥類の翼やカエルの前脚、ワニやトカゲの前脚、魚の胸びれなども、ヒトの手やアシカのヒレと相同器官の関係にある、ということができるのです。

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サボテンの棘とエンドウの巻きひげ

植物でよく例に上がるのが、サボテンの棘(とげ)とエンドウの巻きひげです。サボテンの鋭い棘も、エンドウが支柱に巻き付くのに利用する巻きひげも、茎が形を変えたものだと考えられています。

相似器官とは?

相似器官(そうじきかん)とは、「もともと別の器官だったのに、同じような形や機能をもっているもの」のことをいいます。

“似”という言葉が入っていますよね?「“似ている”けれども別の器官」です。相同器官との違いをしっかり覚えましょう。

地球上にはさまざまな生物がいますが、系統的に大きく離れているにも関わらず相似器官をもっているものがしばしば見られます。環境に合わせて異なる生物種が進化した結果、たまたま形状や機能が似てしまうことがあるのです。

このように、異なる生物のグループが似たような姿かたちに進化していくことを収斂進化(しゅうれんしんか)といいます。相似器官は収斂進化の結果といっても過言ではありません。

相似器官の具体例

チョウのはねと鳥の翼

image by iStockphoto

チョウのはねも鳥の翼も、基本的には空を飛ぶために使われる器官です。どちらも空気を受けるため広い面積をもち、飛翔の際には上下にはばたかせます。

しかしながら、鳥の翼が前述の通り哺乳類でいうところの前肢が変化したものであるのに対し、チョウを含めた昆虫類のはねは表皮が起源になっていると考えられているんです。もともと別のものであった、ということですね。

魚の背びれとイルカの背びれ

魚類の背中にある背びれは、水中で体を安定させるために重要な役割を果たしています。水中を高速で泳ぐ哺乳類であるイルカのなかまにも背びれがありますが、これは魚類の背びれとは異なる起源のものです。

水中での移動に適するよう進化した結果、背中にひれをつけるというしくみに落ち着いていったのでしょう。

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ジャガイモの芋とサツマイモの芋

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ジャガイモとサツマイモ。どちらも私たちの生活にとって身近な「芋」ですが、実はその起源は大きく異なっています。

ジャガイモの芋は茎がでんぷんを蓄えたもの。そしてサツマイモは根がでんぷんを蓄えたものなんです。どちらも栄養たっぷりですが、それぞれ異なる器官が発達した結果といえるんですね。

痕跡器官とは?

痕跡器官(こんせききかん)とは、「相同器官とみなされる器官のうち、現在は痕跡程度にしか残っていないもの」のことを指す言葉です。

進化の過程で不要になり、退化してしまった器官などがあげられます。「相同器官とみなされる器官のうち」とありますので、ある生物種で独自に進化し、その後退化してしまったような器官には当てはまりません。

また、退化の程度もさまざまで、無くなってしまいそうなほど小さくなったものもあれば、消えはしない程度に縮小してしまったものもあります。

痕跡器官の具体例

ヒトの尾骨

ヒトの尾骨

image by Study-Z編集部

私たちのおしりのあたりには、数個の骨がつながった尾骨(びこつ、または尾てい骨)があります。尾骨は、過去に尻尾の骨だったものが退化した痕跡器官です。

見た目からは判断できないくらい小さくなってしまいましたが、生活する中で周辺が痛んだり、転んでしりもちをつけば骨折することもあります。

ヒトの犬歯

犬歯は前歯から奥歯の方へ数えて3番目のところにあり、八重歯などともよばれる歯です。人間の犬歯は他の歯とそれほど大きさが変わりませんが、イヌやネコ、猿などの歯を見ると犬歯は特に大きく、鋭くとがった形をしていることがわかります。

image by iStockphoto

犬歯はもともと肉を切り裂くために使う大きな歯だったのですが、ヒトでは犬歯がかなり小さくなりました。これも痕跡器官のひとつといわれることがあります。

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クジラの腰骨

みなさんはクジラの全身骨格のイラストをみたことがあるでしょうか?クジラはご存知の通り海での生活に適応した哺乳類であり、後ろ脚を失っています。

全身骨格を観察してもその骨を見つけることはできませんが、よくみると後ろ脚のあったであろうあたりに小さな骨が残っているのです。これは後ろ足がついていた腰骨が小さく退化したものと考えられています。

科学館などでクジラの全身骨格が展示されているのを目にする機会があれば、ぜひ探してみてください。

さまざまな器官について考えてみよう!

相同器官・相似器官・痕跡器官の違いがおわかりいただけましたでしょうか?

今回上げた例以外にも、さまざまな生き物で相同器官・相似器官・痕跡器官は見られます。大きく異なる生物の間に似ている点を見つけた時、それがどのようにして生まれたのかを考えてみましょう。生物を観察するのがぐっと面白くなりますよ!

中学理科の勉強をしている皆さんは、それぞれの例をしっかり覚え、テストなどに生かしてくださいね。

イラスト使用元:いらすとや

" /> 相同器官・相似器官・痕跡器官の違いは?現役講師がわかりやすく解説! – Study-Z
理科生物生物の分類・進化

相同器官・相似器官・痕跡器官の違いは?現役講師がわかりやすく解説!

今回学んでいくのは、相同器官、相似器官、痕跡器官です。

中学や高校の授業では、生物の進化などを学習するときにみられる用語ですが、良く似た言葉がいくつか出てくるため混同してしまうやつも少なくないな。それぞれの言葉の意味をしっかり押さえ、違いが分かるようにしよう。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

相同器官とは?

相同器官(そうどうきかん)とは、「もともと同じものであったのに、現在は異なる形や機能に変化した器官」のことです。

生物が進化し種が分かれていく中で、生息している環境や暮らし方に合わせ、器官の形も変わっていきます。相同器官は、生物の進化を考えるうえでとても重要なヒントになるのです。

相同器官の具体例

ヒトの手とアシカのヒレ

私たち人間の手は5本の指をもち、鉛筆をつかったりスマートフォンを操作したりなどの細かい作業をすることができます。腕の骨も長く、何かを運んだり、力を入れて自分の身体を支えることもできますね。

一方、同じ哺乳類でもアシカやオットセイなどの海生ほ乳類はどうでしょう?前脚は鰭になっており、細かな作業は不得意ですが泳ぐのには適した形態です。腕は長くないですが、水をかいたり上半身を支える力強さがあります。

両者はまるで異なる形をしていますが、ヒトとアシカの共通の祖先では同一の前肢でした。ヒトとアシカが分岐してからそれぞれの進化の過程で形が特殊化していったのです。

ほかにも、イヌの前脚やウシの前脚、コウモリの翼などもこれらと同じ相同器官ということができます。

image by iStockphoto

また、哺乳類よりも以前に分岐した生物群も含めて考えることもあります。たとえば、鳥類の翼やカエルの前脚、ワニやトカゲの前脚、魚の胸びれなども、ヒトの手やアシカのヒレと相同器官の関係にある、ということができるのです。

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