希土類元素(レアアース)という言葉を、ニュースなどで見聞きしたことはないでしょうか?スマートフォン、パソコン、スピーカー、ハイブリッド自動車などの製造に欠かせない材料であり、現代の我々の生活を様々な用途で支えている元素です。

希土類のうち多くは、内部構造が奇妙なために独特な性質を生み出している。薬学部出身の主婦ライターarpeggioと一緒に解説していきます。

ライター/Study-Z編集部

高校2年生でようやく理系の勉強に着手して以来、特に化学の面白さの虜になり、薬学部へ。最近は学術業務を続ける傍ら、自分の子どもやその友達と、身近なものを使った実験を楽しんでいる。

#1 希土類元素(レアアース)とは?

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1794 年フィンランドの学者ガドリンにより、スウェーデンのイッテルビー地方で鉱物の中からイットリア(Y2O3)が発見されたのが希土類元素の歴史の始まりです。彼により「まれにしか存在しない」との意味で Rare Earth と命名されたと言われています。

1-1. 希土類元素は 17 種類

1-1. 希土類元素は 17 種類

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希土類(きどるい)元素は、17 種の金属元素の総称です。具体的には、周期表の 左から 3 列目にあたる「3 族」のスカンジウム(Sc、原子番号 21)およびイットリウム(Y、原子番号 39)に、原子番号 57 番のランタン(La)から 71 番のルテチウム(Lu)までの 15 種の元素(ランタノイド)を加えた計 17 元素を指します。

このうち 61 番のプロメチウムは天然ではほとんど存在しません。

ランタノイドのランタン(La)からガドリニウム(Gd、原子番号 64)までを、スカンジウム(Sc)と合わせて「軽希土類」類(Light rare
earth elements、セリウム族)、テルビウム(Tb、原子番号 65)からルテチウム(Lu)までを、イットリウム(Y)と合わせて「重希土類」(Heavy rare earth elements、イットリウム族)と呼びます。

1-2. 中国の産生量が多い理由

「レアアース」関連の話題というと、中国が全体産生量のうち 8 割以上のトップシェアであること、各国の新たな希土類鉱床の探査や開発、資源ナショナリズムによる価格の高騰…など、ニュースで報道された内容が思い浮かびます。

輸出規制や政策についてはさておき、なぜ中国でこれほどまで多く産生されているのでしょうか?

まず、軽希土類を含む鉱物は地球上に広く分布し、資源的には比較的豊富です。しかし軽希土類を含む鉱石には、ウランやトリウムなど、希土類元素とイオン半径が近い放射性元素が含まれることが多く、軽希土類元素の生産には放射性元素の処理の問題が付いて回るという難点があります。

一方、軽希土類に比べて資源的に希少な重希土類が主に生産されているのは、特定の気候条件や地質条件に恵まれたイオン吸着型鉱床と呼ばれる優良な風化鉱床です。高温多湿によって花崗岩などが徐々に風化する際に、風雨で放射性元素が洗い流され、重希土類のみが粘土層に吸着されて地表に残った鉱床で、放射性元素を含まず、酸による溶出によって容易に希土類元素を抽出できるという利点があります。

優良な鉱床であるイオン吸着型鉱床が中国南部に局在するという圧倒的に恵まれた地理的条件に加えて、放射性物質の処理等に関する環境基準が諸外国と異なること、労働力が確保できることなども、中国が希土類元素の生産大国となっている背景のようです。

1-3. 希土類元素の特徴

希土類 17 元素は原子の外側の電子配置が似ているため、化学的な性質が非常によく似ているのが特徴です。

希土類元素の特徴について説明する前に、まず遷移元素について復習しましょう。

元素を原子番号の順に並べ、番号が順に増えるとき、電子の数も増えていきます。電子が入る「電子殻」は複数の層に分かれており、各層にそれぞれ決まった数の「席」があり、ふつう原子核に近い内側の電子殻から順番に収まっていくのが一般的です。しかし、内部の電子殻にまだ「空席」があるのに、先に外側の電子殻に電子が入ってしまう元素のグループがあります。

周期表の中央部分(3~11 族)に位置する「遷移元素」がこれに該当し、互いに原子番号が違い、電子の数も違うのに、最外殻の電子が 1~2 個であるためお互いの化学的性質が類似しているのです。鉄や銅などが該当するのでしたね。

さて、ランタノイドは、1 つ内側どころか、その更に内側の電子殻、つまり最も外側から数えて 3 つ目の電子殻に電子が入っていく元素です。

それぞれのランタノイドは、内部の電子数は違いますが、最外殻にある電子数は同じであり、イオンになったとき最外殻にある電子の数も同じ(+3 価のイオンになる)であることから、希土類元素も遷移元素同様、化学的な性質がお互いに類似している元素のグループであると言えます。

\次のページで「希土類元素の用途」を解説!/

#2 希土類元素の用途

希土類元素は基本的な化学的性質がお互いに似ているとことから、鉱石の中から酸化物などの個々の化合物を分離精製したり、あるいは抽出した化合物を金属に還元する技術が難しく、17 種類全てが判明するまで実に 1 世紀以上かかったとのことです。

希土類元素が工業化された初期は、分離せず鉱石中の希土類金属をともに還元した合金として利用が開始され、現代では相互分離の技術が進み、磁性や光吸収などそれぞれ異なる性質を生かして様々な用途に応用されています。以下で例を見てみましょう。

2-1. ミッシュメタル

複数の希土類元素混合物の総称で、鉱石中の希土類金属や遷移元素などを一括して還元した合金状態で用いるものです。発火石や研磨粉、陶磁器の着色剤、鉄鋼の脱酸剤や脱硫剤として使用されています。

2-2. 強い磁石

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ネオジム(Nd、原子番号 60)やジスプロシウム(Dy、原子番号 66)は強い磁石の材料となっています。

ネオジム、鉄、ホウ素の化合物であるネオジム磁石は高性能のスピーカーに使用されている強力な永久磁石です。ネオジムにはランタノイドの特徴である「内部の電子殻に空席がある」ことから、原子核を取り巻く電子が存在する領域、すなわち電子雲が変形し、鉄原子の向きの変化が封じられて向きがバラバラになりにくくなります。

ネオジム磁石が利用されている一般的なスピーカーの原理は、コイルに電気信号が流れると、近傍に設置した磁石との間に反発力や吸収力が生じるという現象を利用して「音」をつくりだすというものです。

いわゆるスピーカーは勿論、ネオジム磁石が開発されるとその磁力が大きいことから、ヘッドホンやイヤホンの小型化・高性能化がもたらされました。

また、ハイブリッド車のモーターには、ネオジム磁石に同じくランタノイドであるジスプロシウム(Dy)を加えて耐熱性を高めたものが使われています。

2-3. ディスプレイ

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ランタノイドは、カラーテレビや蛍光灯などの発光材料としても使用されています。

この性質もランタノイドの特殊な内部構造に起因するものです。2 つ内側にある電子殻の電子が外部から強いエネルギーを受けて(励起され)、同じ電子殻にある「空席」に弾き飛ばされます。元の位置(基底状態)に戻る際に光を発するというわけです。

例えば、カラーテレビの赤色を出すのにユウロピウム(Eu、原子番号 63)、緑色を出すのにテルビウム(Tb、原子番号 65)が添加されています。

2-4. レンズの原料

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ランタン(La、原子番号 57)は高性能の天体望遠鏡や高級カメラなどのレンズの原料として使用されています。

光学ガラスの屈折率をコントロールするために、以前は鉛酸化物を多量に混ぜる方法がとられていましたが、鉛には有害性があるため、ランタンが現在は多く使われているとのことです。屈折率が高く光の分散が少ないという性質が利用されています。

\次のページで「ハイテク社会に不可欠な希土類元素」を解説!/

ハイテク社会に不可欠な希土類元素

希土類元素の特殊な性質によって、現代の便利な社会が様々なところで支えられているのですね。

経済ニュースなどで「レアアース」を目にしたら、ぜひ電子殻への電子の収まり方がイレギュラーであることや、化学的な性質も併せて思い出してくださいね。

" /> 「希土類元素(レアアース)」を化学好き主婦がわかりやすく解説! – Study-Z
化学無機物質理科

「希土類元素(レアアース)」を化学好き主婦がわかりやすく解説!

希土類元素(レアアース)という言葉を、ニュースなどで見聞きしたことはないでしょうか?スマートフォン、パソコン、スピーカー、ハイブリッド自動車などの製造に欠かせない材料であり、現代の我々の生活を様々な用途で支えている元素です。

希土類のうち多くは、内部構造が奇妙なために独特な性質を生み出している。薬学部出身の主婦ライターarpeggioと一緒に解説していきます。

ライター/Study-Z編集部

高校2年生でようやく理系の勉強に着手して以来、特に化学の面白さの虜になり、薬学部へ。最近は学術業務を続ける傍ら、自分の子どもやその友達と、身近なものを使った実験を楽しんでいる。

#1 希土類元素(レアアース)とは?

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1794 年フィンランドの学者ガドリンにより、スウェーデンのイッテルビー地方で鉱物の中からイットリア(Y2O3)が発見されたのが希土類元素の歴史の始まりです。彼により「まれにしか存在しない」との意味で Rare Earth と命名されたと言われています。

1-1. 希土類元素は 17 種類

1-1. 希土類元素は 17 種類

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希土類(きどるい)元素は、17 種の金属元素の総称です。具体的には、周期表の 左から 3 列目にあたる「3 族」のスカンジウム(Sc、原子番号 21)およびイットリウム(Y、原子番号 39)に、原子番号 57 番のランタン(La)から 71 番のルテチウム(Lu)までの 15 種の元素(ランタノイド)を加えた計 17 元素を指します。

このうち 61 番のプロメチウムは天然ではほとんど存在しません。

ランタノイドのランタン(La)からガドリニウム(Gd、原子番号 64)までを、スカンジウム(Sc)と合わせて「軽希土類」類(Light rare
earth elements、セリウム族)、テルビウム(Tb、原子番号 65)からルテチウム(Lu)までを、イットリウム(Y)と合わせて「重希土類」(Heavy rare earth elements、イットリウム族)と呼びます。

1-2. 中国の産生量が多い理由

「レアアース」関連の話題というと、中国が全体産生量のうち 8 割以上のトップシェアであること、各国の新たな希土類鉱床の探査や開発、資源ナショナリズムによる価格の高騰…など、ニュースで報道された内容が思い浮かびます。

輸出規制や政策についてはさておき、なぜ中国でこれほどまで多く産生されているのでしょうか?

まず、軽希土類を含む鉱物は地球上に広く分布し、資源的には比較的豊富です。しかし軽希土類を含む鉱石には、ウランやトリウムなど、希土類元素とイオン半径が近い放射性元素が含まれることが多く、軽希土類元素の生産には放射性元素の処理の問題が付いて回るという難点があります。

一方、軽希土類に比べて資源的に希少な重希土類が主に生産されているのは、特定の気候条件や地質条件に恵まれたイオン吸着型鉱床と呼ばれる優良な風化鉱床です。高温多湿によって花崗岩などが徐々に風化する際に、風雨で放射性元素が洗い流され、重希土類のみが粘土層に吸着されて地表に残った鉱床で、放射性元素を含まず、酸による溶出によって容易に希土類元素を抽出できるという利点があります。

優良な鉱床であるイオン吸着型鉱床が中国南部に局在するという圧倒的に恵まれた地理的条件に加えて、放射性物質の処理等に関する環境基準が諸外国と異なること、労働力が確保できることなども、中国が希土類元素の生産大国となっている背景のようです。

1-3. 希土類元素の特徴

希土類 17 元素は原子の外側の電子配置が似ているため、化学的な性質が非常によく似ているのが特徴です。

希土類元素の特徴について説明する前に、まず遷移元素について復習しましょう。

元素を原子番号の順に並べ、番号が順に増えるとき、電子の数も増えていきます。電子が入る「電子殻」は複数の層に分かれており、各層にそれぞれ決まった数の「席」があり、ふつう原子核に近い内側の電子殻から順番に収まっていくのが一般的です。しかし、内部の電子殻にまだ「空席」があるのに、先に外側の電子殻に電子が入ってしまう元素のグループがあります。

周期表の中央部分(3~11 族)に位置する「遷移元素」がこれに該当し、互いに原子番号が違い、電子の数も違うのに、最外殻の電子が 1~2 個であるためお互いの化学的性質が類似しているのです。鉄や銅などが該当するのでしたね。

さて、ランタノイドは、1 つ内側どころか、その更に内側の電子殻、つまり最も外側から数えて 3 つ目の電子殻に電子が入っていく元素です。

それぞれのランタノイドは、内部の電子数は違いますが、最外殻にある電子数は同じであり、イオンになったとき最外殻にある電子の数も同じ(+3 価のイオンになる)であることから、希土類元素も遷移元素同様、化学的な性質がお互いに類似している元素のグループであると言えます。

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