理科でたびたび登場する「飽和」という言葉。これ以上~できない状態を表す。各単元で「飽和~」といった単語への解説はよく見かけるが、「飽和」という用語にフォーカスを当てた説明は中々見当たらない。

今回は、色んな分野・単元の「飽和~」の例を見ながら「飽和」に関してマスターしよう。理系ライターのR175と解説していきます。

ライター/R175

関西のとある理系国立大出身。エンジニアの経験があり、身近な現象と理科の教科書の内容をむずびつけるのが趣味。教科書の内容をかみ砕いて説明していく。

1.「飽和」の概念

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飽和とは?漢字1字ずつに分解してみましょう。

飽(ほう)→飽(あ)きるとも読む。いっぱいいっぱいのイメージ。

和(わ)→つり合っている。その状態で安定しているイメージ。

つなげると、(何かが)いっぱいいっぱいの状態で、落ち着いているという意味。この記事では、理科で登場する「飽和」状態の例を見ながら、「飽和」の概念を身に付けていきましょう。

溢れんばかりのコーヒーが注がれたコップ

理科の教科書には出てきませんが、これも飽和状態の一例。コップにコーヒーを注いでいきましょう。初めはコーヒーの量は増え続けますが、コップが満タンになると溢れ出していき、それ以降コーヒーの量は一定ですね。もう入る余地はありません。

このように「何かが最大限に達してそれ以上変化しない」状態が飽和と考えましょう。物理や化学で出てくるその他の「飽和」はもっと難しい現象ではありますが、基本的な概念は「満タンにそそがれたコーヒー」と同じ。

2.理科で登場する「飽和」の例

飽和の概念は前述の「溢れんばかりのコーヒー」で間違いないのですが、これだけでは理科としての飽和の説目にはあまりに乱暴。

ということで、以下は実際に理科の教科書に登場する「飽和」状態の例を見ていきます。どの例も、「コップから溢れんばかりのコーヒー」と同じ状態と捉えられますので、その点も確認しましょう。

\次のページで「2-1.飽和水溶液」を解説!/

2-1.飽和水溶液

まずは、飽和水溶液。液体がらみの話で、先ほどのコーヒーの例に似ていますね。水溶液とは、水に何かが溶解したもの。

例えば、塩水や砂糖水。

ちなみに、溶けている物質(上記の例なら塩)が溶質。

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ところで塩ですが、水に加えれば加えただけいくらでも溶け続けるのでしょうか?いえいえ、そんなことはありません、限度がありますね。もちろん、水を足したり温度を上げたり等条件を変えれば更に溶かすことも可能ですが、いずれにせよ上限が決まっています。このように、水に溶けられるだけ溶質(塩など)を溶かした溶液が飽和水溶液。

1字ずつ分解すると、

飽:塩が飽きるまで溶けている。
和:溶けている塩の量は変わらず一定。

コップとコーヒーに例えると

飽和水溶液の場合、水がコップ溶質がコーヒー。コップが受け入れられるコーヒーの量は決まっていて、容量以上のコーヒーが注がれると溢れていきます。水溶液の場合も同じで、水分子と結び付ける溶質の量は決まっていて、それ以上の溶質が来ても水と結びつくことなくスルー。溢れていくのと似たような状態ですね。

2-2.飽和水蒸気量

液体(または固体)はちょっとずつ気体になっているもの。

例えば、水もちょっとずつ気化(気体になること)しています。湖や池の近くなど、水辺の空気は何となく湿っているように感じますね。それは、湖や池の水がちょっとずつ蒸発して水蒸気になっているから。

空気は窒素と酸素が8:2で存在しますが、その合間を縫うように一部気体となったH2Oも気体(水蒸気)となって混ざるのです。この時、空気中に存在できる水蒸気の限界量飽和水蒸気量

3.気液平衡

3.気液平衡

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水に限らず、どんな液体少しずつずつ蒸発するもの。逆に気体から液体に戻る反応も同時に起こっています(凝縮)。

気液平衡とは、液体→気体になる「蒸発」と、気体→液体になる「凝縮」が同じスピードで起こっている状態。

\次のページで「3-1.蒸発速度と凝縮速度が釣り合う」を解説!/

蒸発

液体は分子同士がある程度まとまって存在していますが、その一番端っこは不安定。飛び出していき気体となります(蒸発)。第一層目の液体分子が消えると、今度はその下の層にいた液体分子が露出していき、以下繰り返し。このままいくと、液体分子が全部蒸発してしまうのでは?いえいえ、そうは行きません。

凝縮

反対に気体→液体に変化する反応が凝縮。蒸発した液体分子も、他の分子にぶつかるなどして、エネルギーを失うと液体に戻ってしまうもの。気体状態では分子1つ1つが自由に動けますが、それはエネルギーをたくさん持っていて初めて成り立つ状態。分子のエネルギーが小さくなると、液体になります。エネルギーが小さいと、自由に運動している元気がなくなり液体に戻るといったイメージ。

3-1.蒸発速度と凝縮速度が釣り合う

水蒸気(気体の水)が少ないときは、蒸発するスピードが凝縮するスピードより速い。蒸発速度>凝縮速度なので、水蒸気が増えていきます。やがて水蒸気が増えてくると、他の水蒸気が邪魔で蒸発しにくくなり、蒸発速度は低下

一方水蒸気が多いと、水蒸気同士の衝突などにより、エネルギーを失いやすい状態になり、水蒸気→水(液体)なる凝縮が増加。最初は、蒸発速度>凝縮速度だったのが、凝縮速度が徐々に蒸発速度に追いつき最後には同じに。

蒸発速度=凝縮速度ということは、水蒸気の量は変わりません。それ以上増えることなくキープしていると言えますね。

3-2.気液平衡は「飽和」状態

気液平衡は水蒸気の量が最大に達しそれをキープしている状態、飽和状態です。そして、水蒸気の最大量が飽和水蒸気量

コップから溢れるコーヒーに例えると、空気が「コップ」に、水(水蒸気)が「コーヒー」に相当。蒸発した水蒸気として空気中に存在する分が、コップ内のコーヒーで、凝縮して液体に戻る分が溢れている分とイメージしましょう。

4.飽和脂肪酸

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続いては分野がガラッと変わって、有機化学の話。飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸。ここでも「飽和」が登場。

脂肪酸は、端っこがCOOHで表されるカルボニル基、残りの部分RにはC、Hが結合した構造。ひたすらCH2、CH2が続いていたり、どこかで炭素同士が二重結合していたり色々。Rの部分の構造の違いによって、脂肪酸の種類が決まる。

Rの部分で炭素の二重結合が1つもないのが「飽和」脂肪酸、二重結合が1つでもあれば「不飽和」脂肪酸。

4-1.二重結合がない=飽和となるのはなぜ?

Oleic-acid-skeletal.svg
パブリック・ドメイン, リンク

炭素の二重結合があるということは、そこに水素を付加させることが可能。一方で、二重結合がないと、それ以上水素を付加させることはできない。炭素が結合しきっている状態です。水素の付加が上限に達し、それ以上増えない=「飽和」のコンセプトに当てはまりますね。

コーヒーが溢れるコップに例えると

コーヒーが水素で、コップが炭素に相当。二重結合があるうちは、炭素に水素を付加させることができますが、全て結合しきってしまうと付加できません。付加しようとしても、水素は溢れてしまいますね。

\次のページで「上限に達してキープしていれば飽和状態」を解説!/

上限に達してキープしていれば飽和状態

以上、飽和とはいずれの例においても「上限に達してそこから変化なし」というコンセプトに当てはまります。

水に溶けられる塩の量、空気中に存在できる水蒸気の量、炭素に付加できる水素の量。いずれも上限があり、上限に達している状態に「飽和~」というネーミングがついているのです。

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化学物質の状態・構成・変化理科

「飽和」とは?飽和の概念を理系ライターがわかりやすく解説

理科でたびたび登場する「飽和」という言葉。これ以上~できない状態を表す。各単元で「飽和~」といった単語への解説はよく見かけるが、「飽和」という用語にフォーカスを当てた説明は中々見当たらない。

今回は、色んな分野・単元の「飽和~」の例を見ながら「飽和」に関してマスターしよう。理系ライターのR175と解説していきます。

ライター/R175

関西のとある理系国立大出身。エンジニアの経験があり、身近な現象と理科の教科書の内容をむずびつけるのが趣味。教科書の内容をかみ砕いて説明していく。

1.「飽和」の概念

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飽和とは?漢字1字ずつに分解してみましょう。

飽(ほう)→飽(あ)きるとも読む。いっぱいいっぱいのイメージ。

和(わ)→つり合っている。その状態で安定しているイメージ。

つなげると、(何かが)いっぱいいっぱいの状態で、落ち着いているという意味。この記事では、理科で登場する「飽和」状態の例を見ながら、「飽和」の概念を身に付けていきましょう。

溢れんばかりのコーヒーが注がれたコップ

理科の教科書には出てきませんが、これも飽和状態の一例。コップにコーヒーを注いでいきましょう。初めはコーヒーの量は増え続けますが、コップが満タンになると溢れ出していき、それ以降コーヒーの量は一定ですね。もう入る余地はありません。

このように「何かが最大限に達してそれ以上変化しない」状態が飽和と考えましょう。物理や化学で出てくるその他の「飽和」はもっと難しい現象ではありますが、基本的な概念は「満タンにそそがれたコーヒー」と同じ。

2.理科で登場する「飽和」の例

飽和の概念は前述の「溢れんばかりのコーヒー」で間違いないのですが、これだけでは理科としての飽和の説目にはあまりに乱暴。

ということで、以下は実際に理科の教科書に登場する「飽和」状態の例を見ていきます。どの例も、「コップから溢れんばかりのコーヒー」と同じ状態と捉えられますので、その点も確認しましょう。

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