今回は「人工透析」について詳しく勉強していこう。

人工透析とは、透析の原理を人体に応用したものです。日本にも多くの透析患者がいるのを知っているか?

人工透析が担うはたらきとその仕組みを化学に詳しいライターAyumiと一緒に解説していきます。

ライター/Ayumi

理系出身の元塾講師。わかるから面白い、面白いからもっと知りたくなるのが化学!まずは身近な例を使って楽しみながら考えさせることで、多くの生徒を志望校合格に導いた。

1.透析とは

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まずは透析とは何かというところから知っていきましょう。詳しくは化学における透析についての記事で確認してみてくださいね。

異なる2種類の溶液を半透膜が仕切っていると考えてみます。半透膜というのはある一定の大きさ以下の分子やイオンのみを透過させる、ごく小さな隙間のある膜のことです。この膜を通し、溶媒が移動する場合を浸透、溶質が移動する場合を透析といいます。通常この移動は同時に起こる場合が多いのですが、真核生物の細胞膜やミトコンドリアのない外膜といった生体膜のように移動する物質や方向を限定する半透膜もあるのです。

人体でも様々な細胞・組織において半透膜が使われていて、今回のテーマである「人工透析」はこの原理を応用していますよ。

2.腎臓のはたらき

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人工透析について解説する前に、腎臓のはたらきについて見ておきましょう。「なぜ腎臓?」と思う人こそ、要復習ですよ。

2-1.体内の老廃物をろ過する

腎臓のはたらきとしてまず思い浮かぶのは「尿をつくる」ということではないでしょうか。腎臓は人体におけるフィルター的な役割をもち、老廃物をろ過してくれる器官です。

血液が腎臓の中の糸球体という部分を通り、きれいな血液は再び血管へ、不純物としてフィルターを通り抜けてしまったものは次の段階へ進みます。そこでも再度必要なものと不要なもののチェックがされ、最終的に不要となったものが尿となるのです。

尿が泡立ったり(タンパク質が含まれている)、赤っぽくなったり(血が混ざっている)、通常はフィルターを通り抜けないはずの物質が尿に混ざってしまうことがあります。これは腎臓がうまく機能していないことの1つのサインですよ。

\次のページで「2-2.血圧の調整」を解説!/

2-2.血圧の調整

腎臓は尿をつくるまでの過程で、不要物として排出する水分と塩分の量を調節することができます。これによって血圧の調整が可能です。つまり、高血圧(水分と塩分が多い状態)のときは排出量を増やし、低血圧(水分と塩分が少ない状態)のときは排出量を減らすということですね。また、腎臓は血圧を調節するホルモンの分泌にも関わっています。

腎臓機能の低下により摂取した水分がきちんと排出されなくないことで出てくるのがむくみです。一時的な水分の摂りすぎやホルモンバランスの乱れによるものもありますが、長く続く場合には注意しましょう。

2-3.血液をつくるのを助ける

腎臓は赤血球を増やすためのホルモンをつくっています。水分の排出量によって血液そのものの量を調節するとともに、赤血球をつくり出すことによって、生命活動の維持に大きく貢献しているということですね。

この働きが十分でない場合、貧血という症状として現れるでしょう。このホルモンを注射によって得ることでも治療できますが、ゆっくりと病状が進行するために自覚することが難しい貧血でもあります。

2-4.ビタミンDの活性化

丈夫な骨や歯のためにはカルシウムが必要ということは聞いたことがあるでしょう。では、カルシウムの吸収にはビタミンDが必要不可欠であることは知っていましたか?ビタミンDは体内によって活性型ビタミンDという変化(活性化)します。これには腸からのカルシウム吸収を促進したり、血液に入ったカルシウムを骨まで運んでくれるはたらきがあるのです。腎臓はそんな活性型ビタミンDをつくってくれる器官ということですね。

腎臓機能が低下することで活性型ビタミンDがつくられないということはカルシウムが十分に吸収されないということです。その結果骨からカルシウムが溶け出してしまい、最終的にはスカスカな骨(骨粗しょう症)になってしまうでしょう。

3.人工透析の役割

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さて、いよいよ人工透析の解説に入りますよ。ここで重要なのは、人工透析は腎臓のはたらきを人工的に行うことによる治療だということです。

\次のページで「3-1.人工透析を必要とする人」を解説!/

3-1.人工透析を必要とする人

すでにお気づきの通り、人工透析を必要とするのは腎臓がうまく機能しなくなった人です。

・腎炎や腎結石、腎臓がんのように腎臓自体の病によるもの

・糖尿病や高血圧、動脈硬化など、全身に関わる病によるもの

・交通事故等による腎臓の損傷によるもの

これらの中でも近年最も多いのが糖尿病による腎不全、糖尿病性腎症だといいます。

3-2.人工透析の方法

3-2.人工透析の方法

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方法は大きく分けて2つです。

1つ目の血液透析は、血液を透析液に通して循環させることで不必要な物質を取り除く方法を用います。特定の医療施設において週に2,3回、1回に約4時間かけて全身の血液を浄化するのが一般的です。透析患者のほどんどがこの方法を用いています。病院で全ての準備・治療をしてくれるため、自分で何かするという負担はありません。

2つ目の方法は腹膜透析です。これは1日に複数回透析液をお腹に入れ、腹膜を介して不純物を取り除く方法となります。月に数回の通院は必要ですが、自身でできることをメリットだと思う人もいるでしょう。要介護の患者への治療法としては不向きです。

治療を適切に受けずにいると合併症や他の臓器障害へのリスクが高まります。病状や患者本人の希望に合った治療法を相談することが大切です。

3-3.透析患者になることでの制限

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血液透析では週2,3回、毎回4時間近くもの時間をかけて透析を受けることになります。拘束時間が長いために、好きなときに行きたいところへ行けるという自由はなくなってしまうかもしれませんね。

また、透析によって体内の不純物ろ過ができるとはいえ、食事制限などの自己管理を怠るわけにはいきません。常に腎臓が機能してくれているときとは異なり、いくら食事に気を付けていても体に不純物を溜めてしまうことになります。前回の透析から時間が経つに伴い、体調の変化として現れるのも負担になりそうですね。

定期的に治療を受ける必要があるので、精神的・金銭的な負担が大きいというのが透析治療の辛さでしょう。

腎臓のはたらきを担う人工透析

腎臓体内の不純物ろ過や血液の生成など、生命活動に欠かせない大切な役割を担っています。この腎臓のはたらきが失われる、または不十分になった際に腎臓の代わりにそれらを行ってくれるのが人工透析です。

血液を一度体外に取り出し、透析機器によって不純物を取り出した後に体内へ戻す血液透析。腹腔内に溜めた透析液を出し入れすることで血液のろ過を行う腹膜透析。人工透析には大きく分けてこの2つがありますが、前者を用いた治療が一般的でしょう。そのため人工透析というワードそのものが血液透析を指す場合があります。いずれにしても本来体内で絶えず行われている透析を人工的に行うのですから、定期的で継続的な治療を受けることが必要不可欠なのです。健康であることの幸せを知り、自らそれを保とうとする努力をしなければなりませんね。

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血液の透析!化学の視点から「人工透析」について元塾講師がわかりやすく解説

今回は「人工透析」について詳しく勉強していこう。

人工透析とは、透析の原理を人体に応用したものです。日本にも多くの透析患者がいるのを知っているか?

人工透析が担うはたらきとその仕組みを化学に詳しいライターAyumiと一緒に解説していきます。

ライター/Ayumi

理系出身の元塾講師。わかるから面白い、面白いからもっと知りたくなるのが化学!まずは身近な例を使って楽しみながら考えさせることで、多くの生徒を志望校合格に導いた。

1.透析とは

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まずは透析とは何かというところから知っていきましょう。詳しくは化学における透析についての記事で確認してみてくださいね。

異なる2種類の溶液を半透膜が仕切っていると考えてみます。半透膜というのはある一定の大きさ以下の分子やイオンのみを透過させる、ごく小さな隙間のある膜のことです。この膜を通し、溶媒が移動する場合を浸透、溶質が移動する場合を透析といいます。通常この移動は同時に起こる場合が多いのですが、真核生物の細胞膜やミトコンドリアのない外膜といった生体膜のように移動する物質や方向を限定する半透膜もあるのです。

人体でも様々な細胞・組織において半透膜が使われていて、今回のテーマである「人工透析」はこの原理を応用していますよ。

2.腎臓のはたらき

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人工透析について解説する前に、腎臓のはたらきについて見ておきましょう。「なぜ腎臓?」と思う人こそ、要復習ですよ。

2-1.体内の老廃物をろ過する

腎臓のはたらきとしてまず思い浮かぶのは「尿をつくる」ということではないでしょうか。腎臓は人体におけるフィルター的な役割をもち、老廃物をろ過してくれる器官です。

血液が腎臓の中の糸球体という部分を通り、きれいな血液は再び血管へ、不純物としてフィルターを通り抜けてしまったものは次の段階へ進みます。そこでも再度必要なものと不要なもののチェックがされ、最終的に不要となったものが尿となるのです。

尿が泡立ったり(タンパク質が含まれている)、赤っぽくなったり(血が混ざっている)、通常はフィルターを通り抜けないはずの物質が尿に混ざってしまうことがあります。これは腎臓がうまく機能していないことの1つのサインですよ。

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