今回は「透析」について詳しく勉強していこう。

2つの溶液をある膜で仕切ったとき、片方の溶質がもう片方の溶液に混ざるように移動することを透析という。

物質の精製に利用されることも多いこの透析について化学に詳しいライターAyumiと一緒に解説していきます。

ライター/Ayumi

理系出身の元塾講師。わかるから面白い、面白いからもっと知りたくなるのが化学!まずは身近な例を使って楽しみながら考えさせることで、多くの生徒を志望校合格に導いた。

1.溶液を隔てる膜の性質

今回のテーマである透析に大きく関わるのが「半透膜」という膜(まく)です。これは異なる溶液を隔てる壁の役割としていると考えるのがいいですね。この半透膜について理解を深めるため、まずは膜の種類から見ていきましょう。

1-1.不透膜

image by iStockphoto

まずはガラスのコップを想像してみましょう。水(化合物の液体)を入れてもジュース(混合物の液体)を入れても、塩(混合物の個体)を入れても漏れることは一切ありませんよね。もし手に砂糖がついたままコップを持ったとしても、その砂糖がコップの中に染み込むなんてこともありません。(もちろんコップをこぼしたり、意図的に何かを混入されることは別ですよ。)

このように、単体・化合物・混合物、個体・液体のいずれを入れてもコップの中から外に物質が出ていくことはないでしょう。コップの外から中についても同様ですね。これが「不透膜」です。何も通さない膜ということですね。

1-2.全透膜

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続いては不透膜の反対ともいえる「全透膜」についてです。全てを通す膜と考えてみましょう。

コーヒーフィルターを例にして考えてみます。豆をフィルターに入れお湯を注ぐと、香り豊かで美味しそうなコーヒーが出来上がりますね。このとき、お湯だけでなく、コーヒーの風味となる様々な物質がお湯とともにカップに注がれているはずです。味・香り・色からもそのことがわかるでしょう。個体であるコーヒー豆はフィルターを通ることができませんが、コーヒーそのものには様々な物質が溶け込んでいます。このように大小様々な分子やイオンなど、あらゆるものを通してしまうのが全透膜と覚えておきましょう。

1-3.半透膜

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そして透析に重要なのが半分だけ通す膜「半透膜」です。不透膜が物質を通さないのは通せるだけの隙間がないから、全透膜が何でも通してしまうのは大きな隙間があるからと考えることができるでしょう。では不透膜はどうでしょうか。

不透膜の場合、小さい隙間が空いていると考えてみてください。そうすると、小さな分子やイオン化した物質は隙間を通り抜けることができますね。しかし大きな物質が隙間を通ることはないでしょう。これが「半分だけ」通すということの意味なのです。

半透膜の例としてはセロファン(セロハン)があります。さらに動植物の細胞にもこの半透膜が使われているんですよ。

\次のページで「2.半透膜と物質の移動」を解説!/

2.半透膜と物質の移動

半透膜には通れる物質と通れない物質があるということがわかりましたね。通れるかどうかはその物質の大きさによって異なります。では、溶液を半透膜に通したとき、どんな現象が起こるか考えてみましょう。

2-1.浸透

2-1.浸透

image by Study-Z編集部

液体が染みること、ある事柄が世間に広まって染みわたることを浸透といいますね。今回の「浸透」というのは、半透膜における溶媒の移動を指します。

図のように水と何かしらの水溶液を容器に入れ、その間を半透膜で仕切ったとしましょう。時間をおいて見てみると、Aの容器に入っていた水が減り、Bの容器に入っている水溶液が増えるのがわかります。このとき、Aに入っていた水分子がBの容器に移動したと考えられますね。

Aのような純水(または濃度が低い液体)と溶質の濃度が高い液体が半透膜によって仕切られている場合、濃度の低い液体から濃度の高い液体へ溶媒が移動し、濃度を同等に保とうとする力がはたらきます。このときの力を浸透圧といい、これと同じ力をBにかけることでそれぞれの濃度差を保つことができますよ。

2-2.透析

2-2.透析

image by Study-Z編集部

溶媒が移動するのが浸透であるのに対し、溶媒が移動するのが透析です。図を例に考えてみましょう。

始めはAの容器に異なる3種類の分子やイオンが入っていましたが、時間を置くことで小さな2種類の物質がBの溶液に混ざったのがわかりますね。半透膜はある一定の大きさの隙間を持っているので、その隙間を通れる物質のみが移動し、大きな物質はそのままの場所に残るということです。このように半透膜を通れるかどうかという一見単純な原理ではありますが、私たちの生活にも役立っていますよ。

3.透析の利用法とは

実際に透析はどのように利用されているのかを見ていきましょう。

\次のページで「3-1.物質の精製」を解説!/

3-1.物質の精製

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大きな物質は半透膜を通さないという性質を使うことによって可能になるのが高分子化合物の精製です。高分子化合物とは分子量の大きい物質のことで、たくさんの原子や元素が集まって構成するタンパク質などに見られます。中学レベルで習うような化学式や構造がわかりやすい物質とは異なり、複雑な成り立ちをしている物質です。

このような物質は分子1つ1つが大きくなり、半透膜の隙間には入ることができません。求める高分子化合物にその他の小さな分子などの不純物が入っている場合、半透膜を用いて精製することで不純物を取り除くことができるのです。

3-2.人工透析

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腎臓は体内の老廃物を排出してくれる器官です。それが腎臓表や腎不全などにより腎機能が低下することによって様々な障害や合併症を引き起こす可能性があります。人工透析はその治療法の1つとして、病院等の施設で行われていますよ。

自分自身で処理できず、老廃物の溜まってしまった血液を体外に取り出し、透析器によって不要な物質、余分な物質を除去したうえで体内に戻すという方法です。一度人工透析が必要と診断されると、一生付き合っていかなくてはなりません。食事制限や塩分摂取量等、常に自己管理が必要になる辛い闘いになります。そうならないよう、健康的な生活と定期的な健康診断を受けることが大切ですね。

高分子化合物の精製法としての透析

透析とは、溶液を半透膜に通すことである一定の大きさ以下の分子やイオンを取り除くことのできる精製法です。小さな物質ほど半透膜にある小さな隙間を通り抜けていきます。つまり、逆を言えば大きな分子(高分子化合物)などはその隙間を通れずに溶液中に残るということですね。これを利用して溶液を精製することができるのです。

また、様々な病気の治療に用いられている「人工透析」は、透析の代表的な応用と言えるかもしれません。これについては別の記事で詳しく説明していますので、ぜひご覧くださいね。

" /> 溶質が半透膜を通り抜ける「透析」を元塾講師がわかりやすく解説 – Study-Z
化学

溶質が半透膜を通り抜ける「透析」を元塾講師がわかりやすく解説

今回は「透析」について詳しく勉強していこう。

2つの溶液をある膜で仕切ったとき、片方の溶質がもう片方の溶液に混ざるように移動することを透析という。

物質の精製に利用されることも多いこの透析について化学に詳しいライターAyumiと一緒に解説していきます。

ライター/Ayumi

理系出身の元塾講師。わかるから面白い、面白いからもっと知りたくなるのが化学!まずは身近な例を使って楽しみながら考えさせることで、多くの生徒を志望校合格に導いた。

1.溶液を隔てる膜の性質

今回のテーマである透析に大きく関わるのが「半透膜」という膜(まく)です。これは異なる溶液を隔てる壁の役割としていると考えるのがいいですね。この半透膜について理解を深めるため、まずは膜の種類から見ていきましょう。

1-1.不透膜

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まずはガラスのコップを想像してみましょう。水(化合物の液体)を入れてもジュース(混合物の液体)を入れても、塩(混合物の個体)を入れても漏れることは一切ありませんよね。もし手に砂糖がついたままコップを持ったとしても、その砂糖がコップの中に染み込むなんてこともありません。(もちろんコップをこぼしたり、意図的に何かを混入されることは別ですよ。)

このように、単体・化合物・混合物、個体・液体のいずれを入れてもコップの中から外に物質が出ていくことはないでしょう。コップの外から中についても同様ですね。これが「不透膜」です。何も通さない膜ということですね。

1-2.全透膜

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続いては不透膜の反対ともいえる「全透膜」についてです。全てを通す膜と考えてみましょう。

コーヒーフィルターを例にして考えてみます。豆をフィルターに入れお湯を注ぐと、香り豊かで美味しそうなコーヒーが出来上がりますね。このとき、お湯だけでなく、コーヒーの風味となる様々な物質がお湯とともにカップに注がれているはずです。味・香り・色からもそのことがわかるでしょう。個体であるコーヒー豆はフィルターを通ることができませんが、コーヒーそのものには様々な物質が溶け込んでいます。このように大小様々な分子やイオンなど、あらゆるものを通してしまうのが全透膜と覚えておきましょう。

1-3.半透膜

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そして透析に重要なのが半分だけ通す膜「半透膜」です。不透膜が物質を通さないのは通せるだけの隙間がないから、全透膜が何でも通してしまうのは大きな隙間があるからと考えることができるでしょう。では不透膜はどうでしょうか。

不透膜の場合、小さい隙間が空いていると考えてみてください。そうすると、小さな分子やイオン化した物質は隙間を通り抜けることができますね。しかし大きな物質が隙間を通ることはないでしょう。これが「半分だけ」通すということの意味なのです。

半透膜の例としてはセロファン(セロハン)があります。さらに動植物の細胞にもこの半透膜が使われているんですよ。

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