今回のテーマは「熱伝導(ねつでんどう)」。工学関連の研究には必須の知識。実は、この「熱伝導」は「電気伝導(でんきでんどう)」、非常によく似ている。

この記事では、2つをセットで理解しておくことで、効率よく学ぶのを目的とする。理系ライターのR175と解説していきます。

ライター/R175

関西のとある理系国立大出身。エンジニアの経験があり、身近な現象と理科の教科書の内容をむずびつけるのが趣味。教科書の内容をかみ砕いて説明していく。

1.熱と電気の定義

image by iStockphoto

まずは、熱と電気の性質を見ていきましょう。熱とは原子の運動エネルギー。どれだけ激しく振動しているかの指標です。一方、電気とは?電荷の移動や相互作用によって起きる様々な現象の総称。言うなれば、プラスやらマイナスやら(電荷)のやり取り

熱、電気それぞれの伝わるプロセス

熱、電気それぞれの伝わるプロセス

image by Study-Z編集部

さて、熱や電気はどうのように伝わっていくのでしょうか?まず、熱伝導。主に固体の伝熱で見られる現象。

繰り返しますが、熱は原子の振動のこと。ある原子が熱を持っていると(振動していると)隣の原子も影響されて振動するもの。振動の激しい方(高音側)から激しくない(低音側)の方向に伝わっていきます。

一方、電気伝導とは?

電荷のやり取りのこと。プラスの電荷はマイナスの電荷と、マイナスの電荷はプラスの電荷にくっつこうとし、マイナス同士やプラス同士は退け合うもの。

例えば、ある物体の片方にプラスの電荷を近付けると、物体内のマイナス電荷はそちらに引き寄せられ、プラス電荷はそこから離れようとします。電荷の移動が起こっていますね?これこそが電気伝導の正体。

2.電気伝導の式

結論から言うと、熱伝導、電気伝導どちらも式で表すと

パワー=抵抗x流量 の形

抵抗が大きいと、熱も電気も流れにくいor流すのにパワーが必要。

まずは、電気伝導から見ていきましょう。「抵抗」というワードからピンと来る通り、電気伝導での抵抗はオームの法則で出てくる電気抵抗Rのこと。

先ほどの、パワー=抵抗x流量の式、電気ではオームの法則の式。

電圧=電気抵抗x電流

言わずとしれた公式ですね。

なぜ電圧が「パワー」なのか。

抵抗→電気抵抗、流量→電流は想像通り。

しかし、パワー→電圧。?マークがつきますね。

\次のページで「電気が流れる上でのパワー源とは?」を解説!/

電気が流れる上でのパワー源とは?

電気が流れる上でのパワー源とは?

image by Study-Z編集部

電気が流れる=電荷の移動

では、電荷が移動するためには何が必要か?例えば、イラストのA、Bの状態を見比べてみましょう。「移動可能」と記した左端の-電荷のみ自由に移動できるものとして、A,Bどちらの場合の方が右に流れやすいでしょうか。

-電荷は、+電荷とくっつきたく、-電荷と離れたいもの。

より、左側にー電荷が、右側に+電荷が多く存在するBのケースの方が移動しやすいですね。電圧とは、このようにある地点とある地点の電荷の差(電位差)のこと。つまり、電圧が電荷移動(=電気伝導)のパワー源となります。

電気抵抗R=(1/σ)(l/S)

σ:電気伝導率、 l:電気が流れている物質の長さ、 S:電気が流れている部分の断面積

電気伝導率は材質ごとに決まった値で、電気を流しやすい物質ほど大きい値、流しにくい物質ほど小さい値。また電気伝導率は、電子が物質内をどれだけスムーズに移動できるかの指標であり、結合構造によって決まりまるもの。

同じ電気伝導率でも、長さが長いほど、断面積が小さいほど電気は流れにくくなります物質内を移動していくのは、電気にとって「大変」なこと

長さが長い→大変な状態が長く続く。ゴールまで到達できる電荷が減ってしまう。

断面積が小さい→通り道が狭いから流れにくい

といったことから、電気の流量(電流)が小さくなるのです。

電気抵抗率ρ

教科書では電気伝導率ではなく、電気抵抗率が用いられることもあります。

電気抵抗率ρ=1/電気伝導率。逆数の関係。

この記事では、熱伝導との対比をわかりやすくするため、電気抵抗率の逆数である電気伝導率を用いています。

3.熱伝導の式

熱伝導の場合も、パワー=抵抗x流量の形。

熱伝導においては、

パワー→温度差

抵抗→(1/λ)・(l/S)と表されます。

λ:熱伝導率、 l:熱が流れている物質の長さ、 S:熱が流れている部分の断面積

まとめると、温度差=(1/熱伝導率)・(長さ/断面積)

熱伝導の場合、流量(=移動する熱量)は想像通りですが、抵抗(熱抵抗)とパワーに「?」マークがつきますね。

まずは、熱移動のパワー源について。

熱移動が起きる条件

熱は高温側→低温側の向きに流れるもの。逆にいうと温度差がなければ、熱の移動は起こりえません。

つまり、温度差こそ熱伝導のパワー源。

電位差と温度差

熱、電気ともどこかとどかかで「差異」がある場合に移動が起きるもの。熱伝導なら温度差、電気伝導では「電位差(電圧)」。

こう考えると、熱伝導、電気伝導、両者非常によく似ていますね。

\次のページで「熱抵抗」を解説!/

熱抵抗

熱抵抗は上述の通り、(1/λ)・(l/S)と表されます。

λ:熱伝導率、 l:熱が流れている物質の長さ、 S:熱が流れている部分の断面積

熱伝導率λは、熱の流れやすさの指標。物質を構成する原子間でどのくらい振動が伝わりやすいかの指数であり、物質の結合構造で決まります。

電気と同様、熱も物質内を渡っていくのは大変なこと。電気抵抗と同じく、断面積が広いほど、長さが短いほど抵抗が小さくなります(熱が伝わりやすい)。

4.熱伝導と電気伝導はそっくり

まず、基本式はどちらも

パワー=抵抗x流量の形で一致。

さらに抵抗の部分までそっくり

電気抵抗=(1/電気伝導率)x長さ/断面積

熱抵抗=(1/熱伝導率)x長さx断面積

どちらも長さ/断面積/定数となり、同じ形をしていることが分かります。

5.電気・熱の流れやすさ比較

例題を通して、電気伝導、熱伝導への理解を深めましょう。

電気伝導例題

電気伝導例題

image by Study-Z編集部

イラストのように、

状態A:左端に+電荷が10個(便宜上電位10とする)、右端には電荷がない(電位0

状態B:左端に+電荷が6個(電位+6)、右端に-電荷が6個(電位-6

問1:真ん中に同じ金属板を置いた場合、AとBでどちらが電流が大きくなりますか。

問2:状態Aで真ん中の金属板の厚さを2倍にすると、電流は何倍になりますか。

解答

問1

電気を流すための原動力(パワー)は、そう電位差(電圧)。状態Aでは左端が+10で右端が0ですから、電位差は10

状態Bでは、左端が+6で右端が-6なので、その電位差は12

真ん中には同じ板が挟まっているので、電気の流れやすさ(抵抗)は同じのため、状態Bの方が電流が流れやすいです。

熱伝導例題

熱伝導例題

image by Study-Z編集部

状態A:左端が+100℃、右端が0℃

状態B:左端が60℃で、右端が-60℃

問1 :真ん中の板が同じ(熱抵抗が同じ)なら、状態Aと状態Bではどちらが熱流量が多くなりますか。

問2:状態Aで真ん中の板を、断熱材に変えました。断熱材の熱伝導率は元の板の1/100とします。移動する熱量は元の何倍になりますか。計算してみましょう。

\次のページで「解答」を解説!/

解答

問1

熱伝導が起きる原動力は温度差状態Aでは左右の温度差が100℃状態Bでは120℃。真ん中の板が同じ(熱伝導率が同じ)なら、温度差が大きい状態Bの方が熱の移動が多くなります。

問2

真ん中の板の熱伝導率が1/100になると、熱抵抗が100倍、熱流量は1/100

「熱伝導」「電気伝導」単位が異なるだけで形は同じ

熱伝導、電気伝導の式はまさに瓜二つ。

熱伝導→温度差=熱抵抗x熱流量

電気伝導→電位差(電圧)=電気抵抗x電流

さらに、

熱抵抗=(1/熱伝導率)x(長さ/断面積)

電気抵抗=(1/電気伝導率)x(長さ/断面積)

セットで覚えておきましょう。

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物理

実はそっくり「電気伝導」と「熱伝導」理系ライターがわかりやすく解説

今回のテーマは「熱伝導(ねつでんどう)」。工学関連の研究には必須の知識。実は、この「熱伝導」は「電気伝導(でんきでんどう)」、非常によく似ている。

この記事では、2つをセットで理解しておくことで、効率よく学ぶのを目的とする。理系ライターのR175と解説していきます。

ライター/R175

関西のとある理系国立大出身。エンジニアの経験があり、身近な現象と理科の教科書の内容をむずびつけるのが趣味。教科書の内容をかみ砕いて説明していく。

1.熱と電気の定義

image by iStockphoto

まずは、熱と電気の性質を見ていきましょう。熱とは原子の運動エネルギー。どれだけ激しく振動しているかの指標です。一方、電気とは?電荷の移動や相互作用によって起きる様々な現象の総称。言うなれば、プラスやらマイナスやら(電荷)のやり取り

熱、電気それぞれの伝わるプロセス

熱、電気それぞれの伝わるプロセス

image by Study-Z編集部

さて、熱や電気はどうのように伝わっていくのでしょうか?まず、熱伝導。主に固体の伝熱で見られる現象。

繰り返しますが、熱は原子の振動のこと。ある原子が熱を持っていると(振動していると)隣の原子も影響されて振動するもの。振動の激しい方(高音側)から激しくない(低音側)の方向に伝わっていきます。

一方、電気伝導とは?

電荷のやり取りのこと。プラスの電荷はマイナスの電荷と、マイナスの電荷はプラスの電荷にくっつこうとし、マイナス同士やプラス同士は退け合うもの。

例えば、ある物体の片方にプラスの電荷を近付けると、物体内のマイナス電荷はそちらに引き寄せられ、プラス電荷はそこから離れようとします。電荷の移動が起こっていますね?これこそが電気伝導の正体。

2.電気伝導の式

結論から言うと、熱伝導、電気伝導どちらも式で表すと

パワー=抵抗x流量 の形

抵抗が大きいと、熱も電気も流れにくいor流すのにパワーが必要。

まずは、電気伝導から見ていきましょう。「抵抗」というワードからピンと来る通り、電気伝導での抵抗はオームの法則で出てくる電気抵抗Rのこと。

先ほどの、パワー=抵抗x流量の式、電気ではオームの法則の式。

電圧=電気抵抗x電流

言わずとしれた公式ですね。

なぜ電圧が「パワー」なのか。

抵抗→電気抵抗、流量→電流は想像通り。

しかし、パワー→電圧。?マークがつきますね。

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