今回は胞子植物について学ぶことにしよう。

植物には数多くの種類や分類方法があり、一斉に覚えようとすると混乱しがちですね。胞子植物というグループにどんな植物が含まれているのか、今一度しっかりと確認しておこうじゃないか。

今回も、大学で分類学を中心に勉強していた現役講師のオノヅカユウを招いたぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

胞子植物とは?

胞子植物とは、名前のとおり胞子によって子孫を増やす植物のことを指します。この胞子植物と異なり、種子によって数を増やす植物は種子植物です。私たちの身近にある野菜や花は、ほとんどが種子植物でしょう。

さて、胞子で子孫を増やす生き物には以下のようなものがあげられます。

・シダ植物

・コケ植物

・藻類

・菌類

このうち、キノコやカビの属する菌類は植物の仲間とはみなされません。また、ワカメやコンブなどの藻類も胞子を使って繁殖しますが、こちらも厳密な意味では植物にふくめることができない生物のグループです。

したがって、胞子植物=「シダ植物とコケ植物」のことを指した言葉ということができます。

胞子とは?

ここで、胞子というものについて確認しておきましょう。胞子とは、生物が無性生殖をする際に散布する細胞のことです。

私たち人間をはじめとする哺乳類は、雌のもつ卵に雄のもつ精子が受精し、受精卵となることで新たな個体が生じます。これは異なる性の生殖細胞が必要となる有性生殖です。植物の場合でも有性生殖の仕組みは似たようなもので、めしべにおしべから放たれた花粉がつき、卵細胞と花粉から放出された精細胞がであうことで種ができます。

一方、異なる性別の生殖細胞を必要としない生殖は無性生殖です。胞子はそれ単体で発芽するため、無性生殖の手段の一つということができますね。

\次のページで「シダ植物」を解説!/

シダ植物

シダ植物は植物のうち、維管束があり、種子をつくらず、胞子で繁殖する植物のことです。植物体の構造としては、はっきりとした根・茎・葉の区別があり、種子植物と同じように根から水や栄養を吸い上げ、維管束を通じて葉っぱのすみずみまで輸送することができます。

シダ植物の生活環

シダ植物は繁殖するうえで、単相世代複相世代という2つの状態をとります。どのように世代交代をするのかを表したものを生活環といいますが、この生活環を知ることは植物学上とても重要なことです。

それではシダ植物の生活環を簡単に表したイラストを見てみましょう。

image by Study-Z編集部

普段の生活で私たちが目にするシダ植物の姿は複相世代とよばれる状態のものです。複相世代のシダ植物は発達すると胞子をつくります。胞子をつくる袋状の場所を胞子嚢(ほうしのう)といい、その中で胞子母細胞が成熟していくのです。

胞子ができる際には減数分裂が起き、細胞核中に含まれるDNAの量がそれまでの半分になります。ここから単相世代とよばれる期間が始まるのです。

\次のページで「代表的なシダ植物」を解説!/

胞子の準備ができると胞子嚢が破れて胞子がばらまかれます。乾燥することで自動的に胞子嚢が破けるのだそうです。

胞子は着地すると発芽し、前葉体に生長します。ちなみに、この「前葉体」というのはシダ植物に特有の呼び方。コケ植物などでは胞子から発芽したものを配偶体とよびます。なぜなら、胞子から発芽した配偶体は、卵細胞や精子といった配偶子をつくるものだから。シダ植物の場合は特別に呼び方が違うだけだと思ってください。

image by iStockphoto

さて、前葉体(=配偶体)では前述の通り卵細胞精子がつくられます。つまりオスメスの区別があるんですね。前葉体は雄株と雌株が別々に存在する(雌雄異株)場合もあれば、1つの株に雄の部分と雌の部分をもつ(雌雄同株)の場合もあります。これは種によってちがうんです。

いずれにせよ、雌性配偶体のつくる卵細胞に、雄性配偶体のつくる精子が受精することで受精卵となります。ここで単相同士の卵細胞と精子が融合しますので、受精卵中のDNA量はそれまでの2倍になりますね。受精卵以降、また複相世代にもどるんです。受精卵が成長すると胞子体になります。

代表的なシダ植物

教科書などでよく出てくるシダ植物といえば、イヌシダゼンマイワラビシノブなどでしょうか。身近なところではスギナなどもありますね。多くのシダ植物では胞子嚢を葉の裏に作りますが、スギナでは胞子を散布するための器官を別に作ります。この器官のことを私たちはツクシとよんでいるんです。

コケ植物

コケは日陰や湿度の高いところなどでよく見られる植物。こちらも胞子で繁殖しますが、シダ植物と違って維管束が発達しないという違いがあります。

種子植物やシダ植物で「根」や「茎」とよぶ器官には維管束がありますが、コケ植物にはみられません。このため、コケ植物にみられる「根」や「茎」は、種子植物やシダ植物の「根」や「茎」とは基本的に別物とみなします。例えば、コケ植物の地面側に生え、体を地面に固定している根のようなものは、根ではなく仮根という名前でよぶんです。

コケ植物の生活環

コケ植物も繁殖のために単相世代と複相世代という2つの状態をとります。生活環をみてみましょう。

image by Study-Z編集部

こちらもシダ植物と大きく異なる点なのですが、私たちが日常で目にするコケ植物は基本的に単相世代、すなわち配偶体とよばれる状態のものです。1つの細胞核内にふくまれているDNA量は複相世代の時の半分。シダ植物における前葉体同様、胞子が発芽し、生長することで生じます。

image by iStockphoto

配偶体ですので、やはり雄雌の区別があり、それぞれが精子もしくは卵細胞をつくります。雌雄異株の種もあれば、雌雄同株の種もあるようです。

卵細胞が受精すると、そこから胞子体がはえてきます。胞子体の先には胞子の入った袋ができますが、コケ植物の場合はこれを胞子嚢ではなく蒴(さく)とよぶんです。蒴のなかでは減数分裂により胞子ができ、また単相世代にもどっていきます。

代表的なコケ植物

コケ植物は大きく3つのグループに分けて考えることができます。蘚類(せんるい)、苔類(たいるい)、ツノゴケ類です。

蘚類はまるで茎と葉から構成されているような茎葉体(けいようたい)というタイプの配偶体をつくります。スギゴケシッポゴケのような、ふさふさした雰囲気のコケが多いです。

image by iStockphoto

苔類には、茎葉体タイプの配偶体をつくるものに加え、茎と葉がはっきりしないような構造の配偶体をつくるものがふくまれます。茎と葉の区別が不明瞭な配偶体は、葉状体というタイプです。よく見るゼニゴケウロコゴケなどがふくまれます。

ツノゴケ類はいずれも葉状体タイプの配偶体。胞子体がまるで角のような形をしていることからツノゴケという名前をもちます。

胞子植物のまとめ

胞子植物の種類やその生態についてご紹介しました。DNA量によって分けられる複相や単相という世代、そしてそれらの世代交代を表現する生活環は、定期考査などでもよく出題されますのでしっかり覚えたいところです。

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理科生物生物の分類・進化

【生物】「胞子植物」ってなんだ?現役講師がさくっとわかりやすく解説!

今回は胞子植物について学ぶことにしよう。

植物には数多くの種類や分類方法があり、一斉に覚えようとすると混乱しがちですね。胞子植物というグループにどんな植物が含まれているのか、今一度しっかりと確認しておこうじゃないか。

今回も、大学で分類学を中心に勉強していた現役講師のオノヅカユウを招いたぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

胞子植物とは?

胞子植物とは、名前のとおり胞子によって子孫を増やす植物のことを指します。この胞子植物と異なり、種子によって数を増やす植物は種子植物です。私たちの身近にある野菜や花は、ほとんどが種子植物でしょう。

さて、胞子で子孫を増やす生き物には以下のようなものがあげられます。

・シダ植物

・コケ植物

・藻類

・菌類

このうち、キノコやカビの属する菌類は植物の仲間とはみなされません。また、ワカメやコンブなどの藻類も胞子を使って繁殖しますが、こちらも厳密な意味では植物にふくめることができない生物のグループです。

したがって、胞子植物=「シダ植物とコケ植物」のことを指した言葉ということができます。

胞子とは?

ここで、胞子というものについて確認しておきましょう。胞子とは、生物が無性生殖をする際に散布する細胞のことです。

私たち人間をはじめとする哺乳類は、雌のもつ卵に雄のもつ精子が受精し、受精卵となることで新たな個体が生じます。これは異なる性の生殖細胞が必要となる有性生殖です。植物の場合でも有性生殖の仕組みは似たようなもので、めしべにおしべから放たれた花粉がつき、卵細胞と花粉から放出された精細胞がであうことで種ができます。

一方、異なる性別の生殖細胞を必要としない生殖は無性生殖です。胞子はそれ単体で発芽するため、無性生殖の手段の一つということができますね。

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