今回はコケ植物についてみていこう。

コケ植物やシダ植物といった分類は、中学理科で学習する項目ですが、高校生や社会人では忘れてしまっているやつも多いでしょう。身近な植物であるコケの仲間について、改めて学んでみないか?

今回も、大学で分類学を中心に勉強していた現役講師のオノヅカユウを招いたぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

コケ植物とは?

道路の端っこや日陰、しめったところなどでよく見られるコケの仲間をまとめてコケ植物、もしくは蘚苔類(せんたいるい)といいます。英語ではbryophytes。もっと簡単にmossということもありますね。世界に8000種ほどが知られています。

コケ植物の生息地は、基本的には陸上です。乾燥した場所よりも湿った場所を好む性質があります。水辺が近かったり、日影が多く湿度が保たれやすい森林の中などではたくさんの種類が観察できるでしょう。一部の種には水中に生息するものがいますが、その数は多くありません。

コケ植物と種子植物の違い

この「コケ植物」は、一般的に花を咲かせたり樹木に成長したりする「種子植物」と大きく異なる生き物です。今回は、コケ植物と種子植物の間にある大きな違いを3つご紹介したいと思います。

#1 体の構造

皆さんご存知の通り、一般的な植物は根・茎・葉をそなえ、根から栄養や水を吸収すると同時に光合成をして生きています。地面から吸収した水を上部の葉まで届けるため、維管束という管が発達し、根から体の隅々まで水を届けられるようになっているのです。

一方、コケ植物は維管束が発達していません。そのせいもあってか、体は小型のものが多くなっています。体を固定している「根」のような部分は、種子植物同様水分などを吸収することはできますが、やはり維管束がはっきりしません。種子植物の根と似てはいますが、構造が異なるため、コケ植物の場合には「仮根(かこん)」という名前が与えられています。

image by iStockphoto

さらに、種子植物のように明確な茎や葉の区別ができない体をもつものも少なくありません。茎や葉のような構造をもつものでも、やはり種子植物の茎や葉とは異なる構造であるため注意が必要になります。

#2 繁殖方法

種子植物は名前の通り種を散布することで繁殖するのが基本ですが、コケ植物は胞子をとばして繁殖します。胞子は蒴(さく)とよばれる部分でつくられ、散布されるのです。

\次のページで「生活環」を解説!/

#3 生活環

生活環とは、ある生物の生活史、つまり生まれてから繁殖に至るまでの過程をまとめたものです。繁殖方法や、生殖に伴うDNA量の変化などが表現され、その生物のライフスタイルを理解するのに役立ちます。

コケ植物の生活環を簡単に表現したのが次の図です。

image by Study-Z編集部

私たちが普段目にするコケは、配偶体とよばれる状態のものです。配偶体は卵や精子をつくる準備をしている段階。つまりオス(雄性配偶体)/メス(雌性配偶体)の区別があるのですが、コケ植物の場合は雌雄同株のものもいれば異株のものもいます。それぞれに精子もしくは卵が成熟すると、雌性配偶体上で受精。そのまま胞子体という状態になります。

胞子体は雌性配偶体から栄養をもらいながら胞子をつくり、胞子が散布された先で出芽、新しい配偶体になるのです。

コケ植物の分類

コケ植物は大きく3つのグループに分けることができます。蘚類(せんるい)、苔類(たいるい)そしてツノゴケ類です。この3つのグループについて簡単にご紹介しましょう。

蘚類

前述の3つのグループのなかで最も多くの種が含まれているのが蘚類です。

蘚類は、茎に葉がついたような、ぱっと見はまるで種子植物のような姿をしています。葉のような部分には中心に葉脈のような軸があり、ほとんど種子植物の葉と同じように見えるんです。

このような「茎と葉」様の体の構造を茎葉体(けいようたい)といいますが、種子植物の茎や葉とはもちろん別物。種子植物にくらべたら単純な細胞の集まりからできているのですが、幼い子どもなどが見たら種子植物との違いが判らないかもしれません。

\次のページで「苔類」を解説!/

Fissidens dubius IMG 4263.jpg
HermannSchachner - 投稿者自身による作品, パブリック・ドメイン, リンクによる

蘚類の茎葉体は、直立に立ち上がるものもあれば、地面をはうようにして発達するものなど様々です。種数も多く、多様な生活様式をもったグループといえるでしょう。

ミズゴケスギゴケホウオウゴケヒカリゴケヒョウタンゴケなどが蘚苔の仲間です。これらの種の写真を見れば、蘚類が一体どのようなコケ植物を指しているのか、一目瞭然で理解していただけるかと思います。

苔類

コケ植物の中には茎葉体ではなく、はっきりとした茎や葉のような構造が見られないものが少なくありません。まるでべったりとしたシートのようだったり、茎や葉とは表現できないような形であったり…そのような体の構造は葉状体(ようじょうたい)とよばれます。

苔類には葉状体の構造になるものと、茎葉体の構造になるものが両方ふくまれているんです。

Preissia quadrata 280208d.jpg
Bernd Haynold - 自ら撮影, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

葉状体になる苔類の代表は、民家の庭でもよく見られるゼニゴケでしょう。理科や生物学の授業では必ずと言っていいほどその生活環を学びます。また、ゼニゴケによく似たジャゴケなども比較的よく見られる苔類です。

一方、構造が茎葉体となる苔類にはウロコゴケの仲間などがあります。苔類の茎葉体は蘚類のものとよく似ますが、葉(に見える部分)に葉脈のような主軸がみられません。

ツノゴケ類

ツノゴケ類はすべて葉状体の構造をとります。葉状体から細長い角のような胞子体をのばすため、このような名前です。蘚類や苔類に比べれば種数は多くありませんが、それでも世界で400種ほどが知られています。

同じく葉状体をとる苔類とよく似ていますが、角状の胞子体だけではなく、その体をつくる細胞や葉緑体にも違いがあるんです。

コケ植物に似た生き物

Lichen Parmotrema tinctorum P4271771.jpg
あおもりくま Aomorikuma - Original, パブリック・ドメイン, リンクによる

コケ植物と間違われやすい生き物で、地衣類(ちいるい)というものがいます。地衣類は菌類の体に藻類が入り込み、共生している生物です。

樹皮や岩の上など、コケ植物が生息するのと同じような場所でみられるだけでなく、姿も似たものが少なくないことから、昔からコケ植物としばしば混同されてきました。名前にも「~ゴケ」とつく地衣類がよくいますが、コケ植物とは異なる存在であるということを忘れないようにしましょう。

これでコケ植物の特徴は完ぺき!

近年、園芸やテラリウムブームのおかげでコケ植物への注目が増しています。小さいながらも美しいその姿を楽しみたいと、コケ植物を求める人が増えているんです。きれいに整えられたテラリウムでなくても、庭先や道端には意外とたくさんのコケ植物が生えています。種子植物との違いや、コケ植物独特の特徴をしっかり覚えて、よく観察してみてくださいね。

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理科生物生物の分類・進化

コケ植物にはどんな特徴がある?現役講師がさくっとわかりやすく解説!

今回はコケ植物についてみていこう。

コケ植物やシダ植物といった分類は、中学理科で学習する項目ですが、高校生や社会人では忘れてしまっているやつも多いでしょう。身近な植物であるコケの仲間について、改めて学んでみないか?

今回も、大学で分類学を中心に勉強していた現役講師のオノヅカユウを招いたぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

コケ植物とは?

道路の端っこや日陰、しめったところなどでよく見られるコケの仲間をまとめてコケ植物、もしくは蘚苔類(せんたいるい)といいます。英語ではbryophytes。もっと簡単にmossということもありますね。世界に8000種ほどが知られています。

コケ植物の生息地は、基本的には陸上です。乾燥した場所よりも湿った場所を好む性質があります。水辺が近かったり、日影が多く湿度が保たれやすい森林の中などではたくさんの種類が観察できるでしょう。一部の種には水中に生息するものがいますが、その数は多くありません。

コケ植物と種子植物の違い

この「コケ植物」は、一般的に花を咲かせたり樹木に成長したりする「種子植物」と大きく異なる生き物です。今回は、コケ植物と種子植物の間にある大きな違いを3つご紹介したいと思います。

#1 体の構造

皆さんご存知の通り、一般的な植物は根・茎・葉をそなえ、根から栄養や水を吸収すると同時に光合成をして生きています。地面から吸収した水を上部の葉まで届けるため、維管束という管が発達し、根から体の隅々まで水を届けられるようになっているのです。

一方、コケ植物は維管束が発達していません。そのせいもあってか、体は小型のものが多くなっています。体を固定している「根」のような部分は、種子植物同様水分などを吸収することはできますが、やはり維管束がはっきりしません。種子植物の根と似てはいますが、構造が異なるため、コケ植物の場合には「仮根(かこん)」という名前が与えられています。

image by iStockphoto

さらに、種子植物のように明確な茎や葉の区別ができない体をもつものも少なくありません。茎や葉のような構造をもつものでも、やはり種子植物の茎や葉とは異なる構造であるため注意が必要になります。

#2 繁殖方法

種子植物は名前の通り種を散布することで繁殖するのが基本ですが、コケ植物は胞子をとばして繁殖します。胞子は蒴(さく)とよばれる部分でつくられ、散布されるのです。

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