前に「リーマンショック」について解説したのは覚えているか?そのときに出てきた「サブプライムローン」というのが実はとても重要なワードなんです。リーマンショック前後の金融問題を理解するうえで、避けては通れない。今回は、サブプライムローンについて詳しく見ていこう。

世界史に詳しいライター万嶋せらと一緒に解説していきます。

ライター/万嶋せら

会社員を経て、イギリスに渡り大学院の修士号を取得したライター。歴史が好きで関連書籍をよく読み、中でも近代以降の歴史と古典文学系が得意。実は元銀行員という経歴を活かして、今回は「サブプライムローン」について解説する。

サブプライムローンとは何か

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プライムローンについて

サブプライムローンがどういったものかを把握するためには、まず「プライムローン」について知っておきましょう。

プライムローンというのは、アメリカで優良顧客を対象に取り扱われている住宅などのローンのことです。「プライム(prime)」という英単語には「優良の、主要な」といった意味があり、そこに「貸付」を表す「ローン(loan)」という単語がついていることからも、なんとなくその意味を想像できるのではないでしょうか。

プライムローンはクレジット・ヒストリー(今までのクレジットカードの利用歴)に大きな問題がなく、定職についているなどで収入の安定しているが、住宅などを購入するときに利用するのです。貸付には審査がありますが、審査に通った人であれば通常の条件でローンを組むことができ、金利なども一般的な水準となっています。

サブプライムローンとは

では、「サブプライムローン」とはどういったものなのでしょうか。

「サブ(sub)」という英単語には「下位の、下層の」といった意味があります。つまり、サブプライムというのは優良顧客ではない人々の層と言えますね。サブプライムローンとは、プライムローンの審査に通らない人たちでも住宅ローンなどを組むことができるようにした金融商品なのです。

サブプライムローンの対象になるのは収入が少なく不安定な人や社会的信用の低い人などで、プライムローンよりも幅広い層の人々が利用できます。審査があまり厳しくない代わりに、金利が高めの水準となっているのが特徴です。

サブプライムローンの仕組み

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サブプライムローンのポイントは?

サブプライムローンを利用することで、すでに大きな借入があったり過去に延滞を繰り返したりしている人でもお金を借りることができるようになります。これを可能にするのが、サブプライムローンの仕組みにある次の2つのポイントなのです。

1つめは、通常のローンよりも金利を高く設定していること。信用力の低い人に対する貸付は金融機関にとってもリスクが大きいので、プライムローンよりも高い金利となってしまうのは当然と言えますね。

2つめは、購入した不動産を担保に入れること。お金を借りて取得した住宅を融資の担保にすることで、万が一返済が滞ったとしても、住宅を売却して返済に充てられるようにしたのです。これは、金融機関の貸し倒れを起こさないための仕組みと言えます。通常の住宅ローンでも購入した不動産を担保に入れるのは一般的なことですが、サブプライムローンの場合、これが問題を複雑にする原因となりました。そのことについては、もう少し後で見ていきましょう。

サブプライムローンの落とし穴

サブプライムローンにより、通常のプライムローンを利用できない人たちでも住宅を購入することができるようになりました。しかし、借り手にとってサブプライムローンには大きな落とし穴があったのです。

低所得者層を対象にしたサブプライムローンは、借入当初の返済額を低く押さえています。審査に通しやすくするため、初めの数年間は金利が低く設定されているからです。しかし数年後には金利が上昇し、返済額も増加するようになっています。しかも、初めの数年の間に返済があまり進んでいないため、ローン残高もほとんど減少しておらず、返済負担だけが目に見えて大きくなるのです。

収入が順調に増えるような場合には、この仕組みもあまり問題とはなりません。けれど収入が増加しない場合、借入から数年後経つと月々の返済を負担できなくなる、というような状況が生じてしまうのです。

サブプライムローンはなぜ広まり、なぜ危機をもたらしたのか

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アメリカの住宅バブル

そもそもサブプライムローンが融資残高に占める割合は、かなり低いものでした。しかし、2000年代前半にアメリカで住宅価格が大幅に高騰します。いわゆる住宅バブルです。当時は、住宅の価格はこのままどんどん上がっていくはずだという楽観的な見通しをする人がかなり多くいました。

住宅バブルの影響で、サブプライムローンの残高も膨らんでいきます。住宅価格が上がり続けている状況では、サブプライムローンの仕組みも特に問題とはなりません。もしも借り手が返済ができなくなった場合でも、借入時と比べて値を上げた分の住宅価格を再び担保に組み込んで、新たに借入をすることができるからです。実はこのような方法を使うことで、低所得者層でも次々にサブプライムローンが利用できるようになっていたのですね。「購入した不動産を担保に取る」という一般的なことがある意味でサブプライムローンのポイントと言える背景には、このような事情がありました。

もちろん冷静に考えるとリスクがあるのですが、当時はそのような運用が続いていたのです。サブプライムローンは、危険性が正しく認識されないまま増え続けていきました。

住宅バブルの崩壊

しかし当然、住宅価格の上昇は永遠には続きません。2000年代の半ばごろにはバブルが沈静化し、アメリカの住宅価格は下落に転じました。

住宅価格が下がると、所有している住宅の価格上昇分を再び担保に入れて新たに借入をするというようなテクニックも使えなくなります。また、下落した住宅価格よりも借入残高の方が大きいため、不動産を売ったところでローンを完済することはできません。そのため、月々の返済負担に苦しみ自己破産に陥る人も出てきました。

返済が滞るのは、金融機関にとっても好ましくない状況です。サブプライムローンを大量に貸し付けていた金融機関は、不良債権の増加により経営が厳しい状況となっていきました。

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サブプライムローンが大規模な問題になったわけ

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証券化されていたサブプライムローン

住宅バブルの崩壊によるサブプライムローンの不良債権化は、それだけでも大きな問題です。しかし事態をより深刻にしたのは、サブプライムローンが証券化されて世界中に拡散していたという事実でした。

証券化とは、簡単に説明すると金融機関などが債権を第三者に売却することです。つまり今回の場合、サブプライムローンを取り扱っている金融機関がその返済を受ける権利を他者に譲ること、と言えるでしょう。こうすることにより、不特定多数の人がサブプライムローンを含む証券に投資できるようになります。

サブプライムローンは証券化され、様々な金融商品に組み込まれていました。しかし、サブプライムローンが不良債権化したため、サブプライムローンが組み込まれた金融商品の価値が急激に低下してしまったのです。これが引き金となって、世界中を巻き込んだ金融危機が発生しました。

なぜサブプライムローンは証券化されたのか

サブプライムローンはどうして証券化されたのでしょうか?それは、サブプライムローンがそもそもリスクの高いものだからです。信用力の低い人々を対象にしたローンなので、焦げ付きの恐れも当然高いはず。金融機関にとって、サブプライムローンの証券化はリスクを回避するための手段だったのです。

サブプライムローンはほかの様々な金融商品と組み合わせて再証券化され、金融商品として出回りました。そこには、サブプライムローンのようにリスクの高い商品だけでなく、リスクの低い安全な商品も組み込まれます。このように細分化して様々な商品と組み合わせることで、出来上がった金融商品の本当のリスクが見えにくくなるのです。

実際、住宅バブルが崩壊して焦げ付きが生じ始めるまで、サブプライムローンの組み込まれた多くの金融商品は高い格付けを得ていました。世界中の投資家が、危険性を正しく認識しないまま高リスクの金融商品に投資をしていたのです。

リーマンショックはサブプライムローン問題が引き起こした

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破綻に追い込まれたリーマン・ブラザーズ

リーマンショックとして知られるリーマン・ブラザーズの倒産は、その後世界を大不況に陥れた引き金を引いた出来事として広く認識されています。リーマン・ブラザーズが破産申請をしたのは2008年のこと。ちょうど、サブプライムローンが大きな問題になっていた時期と重なります。

リーマン・ブラザーズはアメリカ有数の投資銀行で、不動産関連の金融商品を数多く扱っていました。もちろん、そこにはサブプライムローンも含まれます。そのため、住宅価格の下落に端を発したサブプライムローン問題の影響を被ってしまったのです。巨額の負債を負い経営が立ち行かなくなったリーマン・ブラザーズは破産。金融不安がアメリカから世界中に広がり、世界経済に大きな打撃を与えました。

サブプライムローン問題とリーマンショックは、このように密接に関わっていたのです。

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世界金融危機が発生

サブプライムローン問題がリーマン・ショックを引き起こし、そして世界金融危機が生じました。株価が暴落し、為替が乱高下し、金融市場は不安に陥り、新興国からは資金が流出し、不況により失業者が増加し、消費は冷え込み…と、世界中を不況に陥れた金融危機。これは、第二次世界大戦の間接的な原因ともなった世界大恐慌にも例えられるほどインパクトの大きいものでした。

その後、国際協調や金融政策などのかいもあり、国際社会は比較的短期間でこの金融危機から立ち直ったと言われています。しかし、世界の様子を大きく変えた出来事であることに変わりはありません。また、当時仕事を失った人の中には今も苦しい生活を余儀なくされている人が数多くいるのも事実。サブプライムローンが金融市場を超え、世界中に大きな影響を残したのです。

サブプライムローン問題は世界中を巻き込んだ!

低所得者層や社会的信用の低い人々を対象にしていることからもわかる通り、サブプライムローンはリスクの高いものでした。そしてそのリスクは巧妙に隠され、サブプライムローンの組み込まれた金融商品が金融市場に安全商品として出回っていたのです。アメリカの住宅価格高騰に支えられ、しばらくの間は問題が表面化することはありませんでした。しかし、バブルの崩壊によってその影響は瞬く間に広がってしまいます。リーマンショックから始まった世界金融危機が、その結果でした。

サブプライムローンは一見すると、低所得の人々でもマイホームという夢を実現できる画期的な手段かもしれません。しかし実際のところは、金融機関が儲けを得るために適切な審査を経ることもなく利用されていたのです。サブプライムローン問題は金融機関に多大な影響を与えたばかりか、身の丈に合わない夢を見てしまった人々の生活も壊れてしまいました。

世界レベルでも、個人レベルでも、一連の金融問題を引き起こした「サブプライムローン問題」が残した爪痕は大きかったのです。

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アメリカの歴史世界史歴史独立後

金融市場を混乱させた「サブプライムローン」を元銀行員がわかりやすく解説

前に「リーマンショック」について解説したのは覚えているか?そのときに出てきた「サブプライムローン」というのが実はとても重要なワードなんです。リーマンショック前後の金融問題を理解するうえで、避けては通れない。今回は、サブプライムローンについて詳しく見ていこう。

世界史に詳しいライター万嶋せらと一緒に解説していきます。

ライター/万嶋せら

会社員を経て、イギリスに渡り大学院の修士号を取得したライター。歴史が好きで関連書籍をよく読み、中でも近代以降の歴史と古典文学系が得意。実は元銀行員という経歴を活かして、今回は「サブプライムローン」について解説する。

サブプライムローンとは何か

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プライムローンについて

サブプライムローンがどういったものかを把握するためには、まず「プライムローン」について知っておきましょう。

プライムローンというのは、アメリカで優良顧客を対象に取り扱われている住宅などのローンのことです。「プライム(prime)」という英単語には「優良の、主要な」といった意味があり、そこに「貸付」を表す「ローン(loan)」という単語がついていることからも、なんとなくその意味を想像できるのではないでしょうか。

プライムローンはクレジット・ヒストリー(今までのクレジットカードの利用歴)に大きな問題がなく、定職についているなどで収入の安定しているが、住宅などを購入するときに利用するのです。貸付には審査がありますが、審査に通った人であれば通常の条件でローンを組むことができ、金利なども一般的な水準となっています。

サブプライムローンとは

では、「サブプライムローン」とはどういったものなのでしょうか。

「サブ(sub)」という英単語には「下位の、下層の」といった意味があります。つまり、サブプライムというのは優良顧客ではない人々の層と言えますね。サブプライムローンとは、プライムローンの審査に通らない人たちでも住宅ローンなどを組むことができるようにした金融商品なのです。

サブプライムローンの対象になるのは収入が少なく不安定な人や社会的信用の低い人などで、プライムローンよりも幅広い層の人々が利用できます。審査があまり厳しくない代わりに、金利が高めの水準となっているのが特徴です。

サブプライムローンの仕組み

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