今回は、真菌と細菌、そしてウイルスの違いを紹介しよう。

風邪などの感染症や、病気の原因となる可能性もある真菌、細菌、ウイルスですが、同じようなものとしてとらえている人が多いのではないでしょうか?それぞれがどんな生物なのか学び、違いを説明できるようになろう。

生物学が専門の現役現役講師であるオノヅカユウを招いたぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

真菌・細菌・ウイルスはどれくらい“違う”のか?

日本では昔から「目に見えないレベルの大きさで、人間の生活に影響(主に悪い影響)を与える微生物」をまとめてばい菌とか雑菌などとよび、ひとくくりにしてきました。幼いころに「ばい菌がつかないように」とか「雑菌が入る」などのように注意されたものの、具体的にはどんな生物であるのかまではわからずじまい、という方も多いと思います。

“菌”という言葉のつく真菌と細菌、そして細菌と混同されがちのウイルスという生き物は、まるで異なる生き物です。どれくらい異なるのかといえば、「ドメインレベルで異なります」と答えることができます。

ドメインとは?

生物の分類方法について、少しだけご紹介しましょう。

この地球上で見つかったあらゆる生物は、研究者によって名前が付けられ、他の生物との類縁関係に基づいて分類されています。例えば、ネコ(イエネコ)は近縁なリビアヤマネコやスナネコとともにネコ属というグループをつくり、ネコ属は近縁な属とともにネコ科というグループをつくり…というふうに。“属”、“科”といったまとまりは分類階級とよばれ、近いもの同士をまとめてより大きな分類階級をつくっていきます。

種 < 属 < 科 < 目 < 綱 < 門 < 界 < ドメイン

ドメインとは、現在提唱されている分類階級ではもっとも大きなものです。生物全体は3つのドメインに分類できると考えられており、これは『3ドメイン説』などともよばれます。

ドメインの1つ下の“界”には、動物界や植物界などの分類群がありますが、異なるドメインに属するということは、「動物界と植物界の間よりも大きな違いをもつ」ととらえられますよね。とにかく、ものすごく違う、というイメージをもってほしいのです。

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image by Study-Z編集部

それでは、ドメインという考え方を踏まえたうえで、真菌・細菌・ウイルスについて簡単に解説していきたいと思います。

真菌

真菌は、真核生物ドメインの菌界に属している生物の総称です。真核生物ドメインには、細胞に細胞核がある生物たちが丸ごとふくまれています。つまり、私たちヒトをはじめとした動物や植物などと同じグループを形成している仲間といえるでしょう。

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菌界という分類群には、キノコカビの仲間もふくまれています。つまり、普段食事で食べるシメジやシイタケも真菌の一種、といっても間違いではありません。また、食品加工などにも利用される酵母も菌界に属する真核生物なんです。

真菌が原因の病気

真菌が原因となる病気はまとめて真菌症とよばれます。

身近なところでは、一般に「水虫」とよばれる白癬(はくせん)があげられるでしょう。白癬は白癬菌とよばれる真菌の仲間によって生じる皮膚病です。

ほかにも、カンジダ属の真菌によるカンジダ症や、クリプトコッカス属の真菌によるクリプトコッカス症などがあります。

細菌

細菌は、細菌ドメインに属している生物の総称です。英語ではBacteria(バクテリア)といいますが、この言葉は日本でも普通に使われるようになっていますよね。

細菌ドメインと真核生物ドメインの間にある大きな違いが細胞核の有無です。遺伝情報を担うDNAがむき出しの状態で細胞内に納められており、このような細胞でできた生物は原核生物とよばれます。細胞核という大きな構造物がないため細胞のサイズが小さく、その大きさは真核生物の1/10以下のものが多いです。

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中学校や高校で覚えるべき細菌類といえば、大腸菌藍藻(シアノバクテリア)などでしょうか。また、納豆菌やヨーグルトをつくるのに使う乳酸菌なども細菌の仲間です。

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細菌が原因の病気

大腸菌は名前通り私たちの大腸に存在する細菌ですが、一部には血液などに侵入することで疾患の原因になるものや、強い毒性を持つものがいます。そのように、ヒトの体に悪い影響を与える可能性がある大腸菌のうち、特筆すべきものをまとめたのが病原性大腸菌というグループです。時折ニュースを騒がせる食中毒の原因O-157などがこれにあたります。

また、同じく食中毒の原因として名前をきくサルモネラ菌やボツリヌス菌も細菌の一種です。コレラの原因となるコレラ菌、赤痢の原因となる赤痢菌なども細菌に当たります。

ウイルス

最後にウイルスですが、ウイルスはどのドメインにも属していません

研究者によってとらえ方は様々ですが、「ウイルスは生物ではない」と考える人は多くいます。その原因は、ウイルスの構造と生態にあるんです。

真核生物や細菌の体は、細胞膜に包まれた細胞でできていますが、ウイルスの体はカプシドというたんぱく質でできた殻によってできています。『からだが細胞でできている』というのが生物の特徴のひとつであるため、ウイルスを含めてよいのかは微妙なところです。

Rotavirus Reconstruction.jpg
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また、生物は種内での有性生殖や、分裂などの無性生殖によって、自分の遺伝子を受け継いだ個体を増やすことができますが、ウイルスにはそれができません。ウイルスは自分以外の生物の細胞に寄生して遺伝情報をうちこみ、寄生対象に自身の増殖をさせます。自分の体内でタンパク質やエネルギーをつくることができないため、分裂などで繁殖することができないのです。

他にもウイルスには独特の特徴があり、知れば知るほど、私たちの認識する“生物”というものから離れた存在であることがわかります。

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ヘルペスウイルスの電子顕微鏡写真
Photo Credit: Content Providers: CDC/ E. L. Palmer - This media comes from the Centers for Disease Control and Prevention's Public Health Image Library (PHIL), with identification number #2171. Note: Not all PHIL images are public domain; be sure to check copyright status and credit authors and content providers., パブリック・ドメイン, リンクによる

とはいえ、遺伝情報を担う物質は生物も利用しているDNAやRNAであることや、同じ遺伝情報をもつ個体を増やすための活動をしていることなどは、生物と共通した点ともいえます。そのため、ウイルスを「非生物」として断定せず、「生物学的存在」だとか「非細胞性生物」などと考える研究者もいるんです。

ウイルスが原因の病気

冬に多くの人が罹患するインフルエンザ。高熱や激しい痛みを伴うつらい疾患ですが、この原因となるのはインフルエンザウイルスです。インフルエンザウイルス内にもたくさんのタイプがあることから、1度り患して免疫ができても、別のタイプのインフルエンザウイルスが感染することがあります。

他にも、食中毒を引き起こすウイルスであるロタウイルスやノロウイルスが有名ですね。ほかにも、口にできものができる口唇ヘルペスを引き起こすヘルペスウイルス、B型肝炎などが良く知られる肝炎ウイルスや、狂犬病の原因になる狂犬病ウイルスなどもあります。

真菌・細菌・ウイルスの違い、わかりましたか?

ひとくちに「ばい菌」といっても多様な生物が含まれている可能性があること、お分かりいただけたかと思います。感染症にかかった場合には病院などの医療機関で検査をしてもらい、診断を受けなくてはなりません。原因となっている生物が何かを想定しなければ、適切な治療方法が見いだせないのです。体調が悪いな、と思ったら深刻な状態になる前にお医者さんに相談しましょう。

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理科生物生物の分類・進化

真菌・細菌・ウイルスの違いは?現役講師がさくっとわかりやすく解説!

今回は、真菌と細菌、そしてウイルスの違いを紹介しよう。

風邪などの感染症や、病気の原因となる可能性もある真菌、細菌、ウイルスですが、同じようなものとしてとらえている人が多いのではないでしょうか?それぞれがどんな生物なのか学び、違いを説明できるようになろう。

生物学が専門の現役現役講師であるオノヅカユウを招いたぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

真菌・細菌・ウイルスはどれくらい“違う”のか?

日本では昔から「目に見えないレベルの大きさで、人間の生活に影響(主に悪い影響)を与える微生物」をまとめてばい菌とか雑菌などとよび、ひとくくりにしてきました。幼いころに「ばい菌がつかないように」とか「雑菌が入る」などのように注意されたものの、具体的にはどんな生物であるのかまではわからずじまい、という方も多いと思います。

“菌”という言葉のつく真菌と細菌、そして細菌と混同されがちのウイルスという生き物は、まるで異なる生き物です。どれくらい異なるのかといえば、「ドメインレベルで異なります」と答えることができます。

ドメインとは?

生物の分類方法について、少しだけご紹介しましょう。

この地球上で見つかったあらゆる生物は、研究者によって名前が付けられ、他の生物との類縁関係に基づいて分類されています。例えば、ネコ(イエネコ)は近縁なリビアヤマネコやスナネコとともにネコ属というグループをつくり、ネコ属は近縁な属とともにネコ科というグループをつくり…というふうに。“属”、“科”といったまとまりは分類階級とよばれ、近いもの同士をまとめてより大きな分類階級をつくっていきます。

種 < 属 < 科 < 目 < 綱 < 門 < 界 < ドメイン

ドメインとは、現在提唱されている分類階級ではもっとも大きなものです。生物全体は3つのドメインに分類できると考えられており、これは『3ドメイン説』などともよばれます。

ドメインの1つ下の“界”には、動物界や植物界などの分類群がありますが、異なるドメインに属するということは、「動物界と植物界の間よりも大きな違いをもつ」ととらえられますよね。とにかく、ものすごく違う、というイメージをもってほしいのです。

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