プラスチックの容器に熱湯を入れたら、容器が溶けて変形。そんな経験はないでしょうか。

「なぜわざわざ、すぐ溶ける材料を使うんだ?」実は変形させやすいのがメリットの1つ。すぐ変形する=自由自在に形を作れると言える。

このような、熱によって軟化する樹脂「熱可塑性樹脂」についてR175と解説していく。ちなみにこの記事では樹脂≒プラスチックと考えよう。

ライター/R175

関西のとある理系国立大出身。エンジニアの経験があり、身近な現象と理科の教科書の内容をむずびつけるのが趣味。教科書の内容をかみ砕いて説明していく。

1.自由自在に形を作れる不思議な材料

image by PIXTA / 46740795

加熱すると柔らかく、軟化してドロドロした状態になり、冷やすと固まる樹脂(プラスチック)のことを「熱可塑性樹脂」といいます。

柔らかい状態にすれば、自由自在に形を変えられるのが特徴。

1-1.プラスチックの加工~切削~

image by PIXTA / 45671996

プラスチック(樹脂)を好きな形に加工したい。どのような方法があるでしょうか。

作りたい形状より大きい素材から、余分な部分を削り取ってしまえば、目的の形状が得られますね。それが「切削」という加工方法。旋盤やボール盤などの工具を使って、綿密に削り取っていきます。

image by Study-Z編集部

コップを切削で作る場合

まず、円柱の樹脂素材を準備します。
コップ内部はまるまる削ってさようなら。仮に素材が直径50mm、高さ100mmとして、そこから厚みを2mmだけ残して削りコップを作ったとしましょう。

素材の体積は、25x25x3.14x100=196250[mm^3]

くり抜く部分は直径46mm、高さ98mmの円柱。体積は23x23x3.14x98=162784[mm^3]

コップの体積は、196250-162784=33466[mm^3]

捨てる部分162784mm^3。コップの体積の4.9倍も捨てている計算。もったいないですね。貴重な樹脂なら尚更痛手。

1-2プラスチックの加工~成形~

1-2プラスチックの加工~成形~

image by Study-Z編集部

最初から好きな形に作れたらいいですね。粘土やスライムのように自由自在に形を変えられるものを金型によって成形し、それをそのまま固めたい。それを実現するのが射出成型や押出成形といった加工方法。

そこで用いられる材料が「熱可塑性樹脂」。可塑性とは「力を加えて変形させたとき、永久変形を生じる物質の性質」。力を加えて変形させたら「変形させた通りの形状」となり「そこから元に戻ろうとはしない」。簡単に言うと、「自由自在に形を変えられる状態」。

つまり熱をかけると、「さまざまな形に変えられる」状態に。ドロドロと流動性を持ってますので、金型に入れてやれば、型通りの形になります。

常温ならかっちり固まっている物体が液体のようになるのは不思議。なぜドロドロ状態になるのでしょうか。

2.熱可塑性樹脂の特徴

2.熱可塑性樹脂の特徴

image by Study-Z編集部

樹脂とは高分子で出来ているもの。
高分子とは、原子が長く結合している分子。某銀行CMフレーズのように、本当に「長~い」糸のような構造
 
温度が低い=原子の運動が静かな状態だと、糸と糸強めの接着剤でくっついていると考えましょう。引っ張ろうが押そうが糸はなかなか動いてくれません、固体の状態です。

温度を上げると、原子の運動が激しくなるため、高分子の糸1本1本が動きやすい状態に。
糸と糸のつながりは弱い状態です。(あまり効かない糊でくっついていると思ってください。)
糸は自由に動けるため、押したり引いたりして自由に形を変えられます。液体のような状態です。

この状態で型に流し込めば、自由気ままに流れ込んでくれるもの。型の奥底まで充填されえるように、圧をかけることもあります。

\次のページで「3.金型への初期投資」を解説!/

熱可塑性樹脂とは

加熱すると柔らかくなる樹脂型に流し込んで形を作ることが出来る。切削加工と違い、加工も必要ないし樹脂使用料も少なくてすむ。ただ、一つ落とし穴がある。

3.金型への初期投資

樹脂も無駄にしないし、加工時間も要らないし最高。でも落とし穴があります。

 

3-1.金型が高いこと

一度成形形状を決めてから設計変更すると金型作り直しの必要が出てくる場合もあります。高くてやってられません。
切削なら、「一旦作ってみよう」が通じますが、成形はそうはいきません。本当にその金型形状でいいのか綿密に議論してから製作に進みます。なので、立ち上げるのに時間がかかるもの。

まずは、切削で試作品を作り問題ないことを確認してから、金型を作り成形で作ります。

3-2.量産しないと損

せっかく高い金型を作っても、それで成形する数が少ないなら結局高く付きます。大量生産が決まっていないと金型は作りません。

4.成形によるコストダウン

あなたは樹脂加工メーカーの工場長です。以下条件のとき、切削、成形どちらで製造した方がコストが抑えられますか。判断してください。

・樹脂の単価が¥2,000/kg
・製品1個あたり樹脂使用量が成形なら200g、切削なら500g。
・年間販売量が 500個
・金型費用が100万円。
*金型費用は製品単価に上乗せして1年間で回収。今回、年間500個生産するので、100万円÷500個=¥2,000/個、1個あたり¥2,000金型費用回収代として製品単価に上乗せします。
・切削加工費 ¥1,000/個

前述の場合は切削と成形どっちがコストを抑えられますか?
(1)切削の場合のコスト
樹脂代

切削の場合、製品1個当たりの樹脂消費量が500gなので、樹脂のコストは¥2,000x0.5=¥1,000

加工賃は¥1,000

よって製品1個当たりの製造コストは樹脂代+加工賃=¥1,000+¥1,000=¥2,000
(2)成形の場合のコスト
樹脂代

成形の場合は製品1個あたりに200g樹脂を消費するので、樹脂のコストは¥2,000x0.2=¥400

金型費用分

前述の通り、製品1個当たりの金型費用回収分は¥2,000。

よって成形の場合の製造コストは樹脂代+金型回収費=¥400+¥2,000=¥2,400。

あらま、成形の方が高くついてしまいますね。

では、何個以上売れば成形の方が安くなりますか?

(1)切削のコストは上記と同じ¥2,000
 
(2)成形の場合のコストは樹脂代+初期費用/生産量
この式からも生産量が増えるほど、コストが下がることが確認できますね。
 
生産量をmと置いて方程式を立ててみます。
成形による製造コスト=¥4,00+¥1,000,000/m
 
コストが切削>成形になるためには、2,000>400+1,000,000/m
これを解くと、m>625。
 
よって、625個以上作れば成形の方が安くなります。

熱可塑性樹脂とコストダウン

熱可塑性樹脂温度を上げると、流動性を持つので型を使った成形が出来るもの。
大量生産だと成形により製品単価を低くできます。
初期費用が高くてつくため少量だと、高くついてしまうので注意が必要です。

" /> 溶かして使ってコストダウン「熱可塑性樹脂」のメリットを理系ライターがわかりやすく解説 – Study-Z
化学

溶かして使ってコストダウン「熱可塑性樹脂」のメリットを理系ライターがわかりやすく解説

プラスチックの容器に熱湯を入れたら、容器が溶けて変形。そんな経験はないでしょうか。

「なぜわざわざ、すぐ溶ける材料を使うんだ?」実は変形させやすいのがメリットの1つ。すぐ変形する=自由自在に形を作れると言える。

このような、熱によって軟化する樹脂「熱可塑性樹脂」についてR175と解説していく。ちなみにこの記事では樹脂≒プラスチックと考えよう。

ライター/R175

関西のとある理系国立大出身。エンジニアの経験があり、身近な現象と理科の教科書の内容をむずびつけるのが趣味。教科書の内容をかみ砕いて説明していく。

1.自由自在に形を作れる不思議な材料

image by PIXTA / 46740795

加熱すると柔らかく、軟化してドロドロした状態になり、冷やすと固まる樹脂(プラスチック)のことを「熱可塑性樹脂」といいます。

柔らかい状態にすれば、自由自在に形を変えられるのが特徴。

1-1.プラスチックの加工~切削~

image by PIXTA / 45671996

プラスチック(樹脂)を好きな形に加工したい。どのような方法があるでしょうか。

作りたい形状より大きい素材から、余分な部分を削り取ってしまえば、目的の形状が得られますね。それが「切削」という加工方法。旋盤やボール盤などの工具を使って、綿密に削り取っていきます。

image by Study-Z編集部

コップを切削で作る場合

まず、円柱の樹脂素材を準備します。
コップ内部はまるまる削ってさようなら。仮に素材が直径50mm、高さ100mmとして、そこから厚みを2mmだけ残して削りコップを作ったとしましょう。

素材の体積は、25x25x3.14×100=196250[mm^3]

くり抜く部分は直径46mm、高さ98mmの円柱。体積は23x23x3.14×98=162784[mm^3]

コップの体積は、196250-162784=33466[mm^3]

捨てる部分162784mm^3。コップの体積の4.9倍も捨てている計算。もったいないですね。貴重な樹脂なら尚更痛手。

1-2プラスチックの加工~成形~

1-2プラスチックの加工~成形~

image by Study-Z編集部

最初から好きな形に作れたらいいですね。粘土やスライムのように自由自在に形を変えられるものを金型によって成形し、それをそのまま固めたい。それを実現するのが射出成型や押出成形といった加工方法。

そこで用いられる材料が「熱可塑性樹脂」。可塑性とは「力を加えて変形させたとき、永久変形を生じる物質の性質」。力を加えて変形させたら「変形させた通りの形状」となり「そこから元に戻ろうとはしない」。簡単に言うと、「自由自在に形を変えられる状態」。

つまり熱をかけると、「さまざまな形に変えられる」状態に。ドロドロと流動性を持ってますので、金型に入れてやれば、型通りの形になります。

常温ならかっちり固まっている物体が液体のようになるのは不思議。なぜドロドロ状態になるのでしょうか。

2.熱可塑性樹脂の特徴

2.熱可塑性樹脂の特徴

image by Study-Z編集部

樹脂とは高分子で出来ているもの。
高分子とは、原子が長く結合している分子。某銀行CMフレーズのように、本当に「長~い」糸のような構造
 
温度が低い=原子の運動が静かな状態だと、糸と糸強めの接着剤でくっついていると考えましょう。引っ張ろうが押そうが糸はなかなか動いてくれません、固体の状態です。

温度を上げると、原子の運動が激しくなるため、高分子の糸1本1本が動きやすい状態に。
糸と糸のつながりは弱い状態です。(あまり効かない糊でくっついていると思ってください。)
糸は自由に動けるため、押したり引いたりして自由に形を変えられます。液体のような状態です。

この状態で型に流し込めば、自由気ままに流れ込んでくれるもの。型の奥底まで充填されえるように、圧をかけることもあります。

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