今回は彗星について解説していきます。

今回は人類にとって馴染み深い天体現象の一つである彗星ついてみていこう。古代よりどちらかというと凶兆と見なされることが多い彗星ですが、とても美しい天体現象です。長生きすれば一度くらいは誰でも大彗星に遭遇できるでしょう。ちなみに、流星と彗星は混同しやすいので、しっかり区別できるようになっておこう。

今回は物理学科出身のライター・トオルさんと解説していきます。

ライター/トオル

物理学科出身のライター。広く科学一般に興味を持つ。初学者でも理解できる記事を目指している。

彗星について

image by iStockphoto

彗星は古代よりその存在が知られていた天体現象ですが、その正体が完全に解明されるのは20世紀に入ってからです。彗星は太陽を焦点とする放物線や楕円軌道を描く太陽系小天体で、一種の大気であるコマやコマの物資が流れ出た尾をもつのが特徴になります。ちなみに、よく間違われやすい流星は太陽系小天体が地球の大気に突入し発光したものです。流星は一瞬で消えるのに対し、彗星はすぐには消えません。彗星は箒星、流星は流れ星と呼ばれたりもします。宇宙空間に存在するのが彗星で、地球の大気に落ちてくるのが流星です。今回はこの彗星について紹介します。

彗星の基本

Comet McNaught at Paranal.jpg
ESO/Sebastian Deiries - http://www.eso.org/public/images/mc_naught34/, CC 表示 4.0, リンクによる

彗星は氷が主成分です。彗星核と呼ばれる部分が本体であり、核は砂粒や塵がまじった巨大な雪の塊になります。80パーセントほどが水、残りの20パーセントが二酸化炭素、一酸化炭素、微少成分として炭素、酸素、窒素に水素が化合した種々の物質、そして砂粒や塵といったものが構成要素です。大抵の彗星核は数キロメートルから数十キロメートルの大きさになります。

彗星の軌道はほとんが細長い楕円で、惑星の軌道を横切っていることもしばしばです。毎年数百個程度の彗星が太陽系内を通過していきますが、ほとんどは肉眼では観測できません。しかし、10年に1個程度非常に明るい彗星があらわれ、大彗星などとよばれたりします。2006年に発見されたマックノート彗星は昼間でも見えるほどの大彗星でした。

上記の画像はマックノート彗星の画像です。

彗星のコマについて

Halebopp031197.jpg
Geoff Chester - http://www.usno.navy.mil/pao/HBPIX.html, パブリック・ドメイン, リンクによる

彗星が太陽に近づくと太陽の熱で彗星核の氷が少しずつ溶けていきます。すると周りは真空ですので液体にならず、すぐに気体になって蒸発します、これは昇華と呼ばれる現象です。こうして彗星核からガスが噴出すようになり、それにつられて細かな砂塵や塵も一緒に宇宙空間に吐き出されます。そのため彗星核の周りにはぼやっとした薄いベールができ、これが彗星の頭部、あるいはコマと呼ばれる部分です。

コマの主成分は電気を帯びていない中性のガスになります。望遠鏡では緑色に見えたりしますが、これは炭素原子が2個くっついたものや、炭素原子と窒素原子がくっついた分子が発する光です。コマは非常に薄い大気とも考えられます。水素コロナはコマの最外層にある水素のガス雲のことです。

彗星の尾について

Cometorbit japanese.png
User:Fredrik - https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Cometorbit.png, パブリック・ドメイン, リンクによる

飛び出したガスの一部は電気を帯びた分子、すなわちイオンです。イオンは太陽から吹き付ける電気的な風、太陽風によって吹き流されます。このイオンの量が多いと、そのイオンが発する光が見えるようになり、これが太陽と反対側に伸びた細い尾、すなわちイオンの尾(プラズマの尾)です。イオンの尾(テイル)は太陽のほぼ反対側に直線状に伸びていきます。

一方、ガスと一緒に飛び出した細かな塵は、非常に小さいため太陽の光の圧力(放射圧)を受けて、ゆるやかに反太陽方向にたなびくようです。塵の量が多いとそれらが太陽の光を反射して見えるようになり、これが塵の尾(ダストの尾)と呼ばれるものになります。塵のサイズが小さいものほど太陽の光の圧力を受けやすく、彗星の塵は小さいものから大きいものまでありますから、太い幅をもった扇型の尾ができることもあるようです。これがほうき星の名前の由来になります。

上記の画像は、彗星の運動と尾の位置関係の画像です。

\次のページで「彗星の起源について」を解説!/

彗星の起源について

Oort cloud Sedna orbit.jpg
Image courtesy of NASA / JPL-Caltech / R. Hurt Original text courtesy of NASA / JPL-Caltech - [1] [2] Splitzer Space Telescope Released Images about Sedna, パブリック・ドメイン, リンクによる

彗星は軌道の周期によって大きく2つに分類されます。周期とは同じ場所に戻ってくるまでかかる時間のことです。周期が200年以下の短周期彗星と、周期がそれ以上の長周期彗星に分類されます。短周期彗星は軌道の太陽から最も遠い点が木星や土星の軌道付近にあり、惑星の軌道と同じく黄道面に集中していて、惑星と同じ方向に公転しているのが特徴です。長周期彗星は軌道がほとんど放物線に近く、周期が無限大になるようなものもあります。二度と帰ってこない彗星も長周期彗星です。

長周期彗星はオールトの雲とよばれる太陽から約5兆キロメートルから10兆キロメートルの領域から飛んでくると考えられています。オールトの雲は太陽系の最果ての構造のようです。短周期彗星は、海王星より遠くの太陽系外縁天体が集中している、エッジワース・カイパーベルトといわれる領域から飛んでくると考えられています。太陽系外縁天体とは海王星より遠くにある天体の総称です。

上記の画像は右上が太陽系の惑星とエッジワース・カイパーベルトの位置関係、左下がオールトの雲の位置関係になります。ちなみに、左上はメインベルト(小惑星帯)の位置関係です。

チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星について

Comet 67P - flyby context.jpg
European Space Agency - https://www.flickr.com/photos/europeanspaceagency/16740683859/, CC 表示-継承 2.0, リンクによる

彗星は何度か探査機による近接探査が行われていています。その中から2015年にロゼッタ探査機が探査したチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星について紹介しましょう。この彗星は木星によって何度か軌道を変えられ、現在は太陽に最接近時の太陽からの距離が約2億キロメートルの軌道を、周期6.57年でまわっている短周期彗星です。

2つの彗星がくっついたような形をしていて、大きいほうが約4.1×3.2×1.2キロメートル、小さいほうが約2.5×2.5×2.0キロメートルほどの大きさになります。探査によって、アミノ酸のひとつグリシンや、DNAや細胞膜を構成するのにかかせないリンも発見されました。ただし、水については地球の水と重水の比率が違ったようです。

上記の画像はロゼッタ探査機が撮影したチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の画像になります。

彗星は太陽系初期物質の残骸か

彗星は太陽系初期物質の残骸か

image by Study-Z編集部

今回は彗星について紹介しました。彗星が注目される理由の一つは、太陽系の初期に形成されたと考えられていることです。太陽系の初期には彗星のコマのような物質がたくさん形成され、それが合体して惑星になったと考えられています。そのため彗星を探査すれば惑星の材料が判明するかもしれません。

さらに、彗星は太陽から非常に遠いところにずっと在ったと考えられるため、形成された当時からたいして変化していない可能性が高いと予想されることも理由です。また、2019年にはボリソフと呼ばれる太陽系外から来たとみられる彗星が発見され話題になりました。このように彗星は見た目の壮麗さだけではなく、天文学的な研究対象としても重要な天体です。

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地学宇宙理科

儚く美しき天体である「彗星」を理系ライターが丁寧にわかりやすく解説

今回は彗星について解説していきます。

今回は人類にとって馴染み深い天体現象の一つである彗星ついてみていこう。古代よりどちらかというと凶兆と見なされることが多い彗星ですが、とても美しい天体現象です。長生きすれば一度くらいは誰でも大彗星に遭遇できるでしょう。ちなみに、流星と彗星は混同しやすいので、しっかり区別できるようになっておこう。

今回は物理学科出身のライター・トオルさんと解説していきます。

ライター/トオル

物理学科出身のライター。広く科学一般に興味を持つ。初学者でも理解できる記事を目指している。

彗星について

image by iStockphoto

彗星は古代よりその存在が知られていた天体現象ですが、その正体が完全に解明されるのは20世紀に入ってからです。彗星は太陽を焦点とする放物線や楕円軌道を描く太陽系小天体で、一種の大気であるコマやコマの物資が流れ出た尾をもつのが特徴になります。ちなみに、よく間違われやすい流星は太陽系小天体が地球の大気に突入し発光したものです。流星は一瞬で消えるのに対し、彗星はすぐには消えません。彗星は箒星、流星は流れ星と呼ばれたりもします。宇宙空間に存在するのが彗星で、地球の大気に落ちてくるのが流星です。今回はこの彗星について紹介します。

彗星の基本

彗星は氷が主成分です。彗星核と呼ばれる部分が本体であり、核は砂粒や塵がまじった巨大な雪の塊になります。80パーセントほどが水、残りの20パーセントが二酸化炭素、一酸化炭素、微少成分として炭素、酸素、窒素に水素が化合した種々の物質、そして砂粒や塵といったものが構成要素です。大抵の彗星核は数キロメートルから数十キロメートルの大きさになります。

彗星の軌道はほとんが細長い楕円で、惑星の軌道を横切っていることもしばしばです。毎年数百個程度の彗星が太陽系内を通過していきますが、ほとんどは肉眼では観測できません。しかし、10年に1個程度非常に明るい彗星があらわれ、大彗星などとよばれたりします。2006年に発見されたマックノート彗星は昼間でも見えるほどの大彗星でした。

上記の画像はマックノート彗星の画像です。

彗星のコマについて

Halebopp031197.jpg
Geoff Chester – http://www.usno.navy.mil/pao/HBPIX.html, パブリック・ドメイン, リンクによる

彗星が太陽に近づくと太陽の熱で彗星核の氷が少しずつ溶けていきます。すると周りは真空ですので液体にならず、すぐに気体になって蒸発します、これは昇華と呼ばれる現象です。こうして彗星核からガスが噴出すようになり、それにつられて細かな砂塵や塵も一緒に宇宙空間に吐き出されます。そのため彗星核の周りにはぼやっとした薄いベールができ、これが彗星の頭部、あるいはコマと呼ばれる部分です。

コマの主成分は電気を帯びていない中性のガスになります。望遠鏡では緑色に見えたりしますが、これは炭素原子が2個くっついたものや、炭素原子と窒素原子がくっついた分子が発する光です。コマは非常に薄い大気とも考えられます。水素コロナはコマの最外層にある水素のガス雲のことです。

彗星の尾について

飛び出したガスの一部は電気を帯びた分子、すなわちイオンです。イオンは太陽から吹き付ける電気的な風、太陽風によって吹き流されます。このイオンの量が多いと、そのイオンが発する光が見えるようになり、これが太陽と反対側に伸びた細い尾、すなわちイオンの尾(プラズマの尾)です。イオンの尾(テイル)は太陽のほぼ反対側に直線状に伸びていきます。

一方、ガスと一緒に飛び出した細かな塵は、非常に小さいため太陽の光の圧力(放射圧)を受けて、ゆるやかに反太陽方向にたなびくようです。塵の量が多いとそれらが太陽の光を反射して見えるようになり、これが塵の尾(ダストの尾)と呼ばれるものになります。塵のサイズが小さいものほど太陽の光の圧力を受けやすく、彗星の塵は小さいものから大きいものまでありますから、太い幅をもった扇型の尾ができることもあるようです。これがほうき星の名前の由来になります。

上記の画像は、彗星の運動と尾の位置関係の画像です。

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