今回は冥王星と太陽系外縁天体について解説していきます。

冥王星はともかく、太陽系外縁天体については聞いたことがない人も多いと思う。それもそのはずで、太陽系外縁天体が発見され始めたのは1990代以降のことであり、つい最近まで人類はその存在を知らなかったのです。

太陽系外縁天体の発見が進んだことにより、冥王星は惑星から準惑星に変更になった。そして現在では、冥王星は人類が始めて発見した太陽系外縁天体とされている。この記事では、新しい研究分野である冥王星と太陽系外縁天体について学んで見よう。

今回は物理学科出身のライター・トオルさんと解説していきます。

ライター/トオル

物理学科出身のライター。広く科学一般に興味を持つ。初学者でも理解できる記事を目指している。

冥王星について

image by iStockphoto

冥王星は2006年まで太陽系第9惑星とされていたのですが、のちほど紹介する太陽系外縁天体に冥王星と似たような天体がいくつも発見されたことにより、現在では準惑星に分類されています。つまり冥王星は一番有名な太陽系外縁天体である準惑星となりました。準惑星というと惑星より重要ではないような気がしますが、太陽系外縁天体も重要な天体群ですので、冥王星も惑星の時と変わらず重要な天体です。

冥王星は2015年7月に探査機ニューホライズンズが比較的近距離で探査を行っていて、以前に比べると多少のことはわかっています。とはいっても、やはり地球から遠い天体であることにかわりはなく、その観測は容易ではありません。冥王星についてわかっているいくつかのことを紹介してみましょう。ついでに冥王星の巨大な衛星カロンについても簡単に触れておきます。

冥王星の基本

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NASA/JHUAPL/SWRI - http://www.nasa.gov/sites/default/files/thumbnails/image/crop_p_color2_enhanced_release.png (Converted to JPEG), パブリック・ドメイン, リンクによる

冥王星はかなり歪んだ楕円軌道をしていて、軌道長半径が約60億キロメートル、軌道短半径が約58億キロメートルです。公転周期は約248年になります。赤道面での直径が2370キロメートルで、地球の20パーセント以下、月の70パーセント以下とかなり小さい天体です。そのため質量も1.3×10の22乗キログラムと、地球の0.2パーセント程度しかありません。

他の天体と大きく違うのが軌道の傾きです。冥王星以外の惑星は大体同じ平面上で運動していて、この面を黄道面といいます。しかし、冥王星は黄道面から17度も傾いた軌道を回っているのです。このような惑星は冥王星以外存在しません。これも冥王星が準惑星に変更になった理由の一つです。黄道面より大きく傾いた軌道の天体が存在することは、太陽系外縁天体の特徴の一つになります。

ニューホライズンズによる冥王星の探査

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NASA/JHU APL/SwRI - http://www.nasa.gov/sites/default/files/thumbnails/image/15-152.png, パブリック・ドメイン, リンクによる

2015年7月に探査機ニューホライズンズが冥王星に接近し、多くの新発見がありました。その一部を紹介します。重要な点は、月よりも小さい冥王星は、地質学的活動が完全に終了した冷え切った天体だと考えられていましたが、ニューホラインズンズにより活発な地質学的活動が存在することが確認されたことです。

上記の画像は冥王星の赤道付近の画像ですが、明らかに山や平原が存在します。その他にも氷河が流れたような後も見つかっているようです。山のように見えるものは、窒素が凍った氷の海に浮いている水の氷だと考えられています。さらにひび割れのような巨大な裂け目も見つかっていて、これは冥王星の膨張による地形かもしれません。

冥王星の南極付近に大きな窪みも発見されました。2つの山の頂にあり、その裾野は100キロメートルにもおよびます。これは氷の火山のカルデラではないかという説があるそうです。氷の火山とは溶岩のかわりに、一酸化炭素や水の氷を含んだ液体窒素の混ざったものが噴出す火山になります。ちなみに、もし氷の火山だった場合、その熱源はまったくの謎です。

冥王星の大気は予想よりもかなり希薄なようですが、窒素を主成分とするため太陽の光を散乱し、地球と同じように青く輝いてることがわかりました。なんと太陽から地球より40倍も離れた冥王星にも青空が存在するようです。

冥王星の衛星カロンについて

2015年7月14日にニュー・ホライズンズが撮影。
NASA/Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory/Southwest Research Institute - http://pluto.jhuapl.edu/Multimedia/Science-Photos/image.php?gallery_id=2&image_id=323 (see also http://photojournal.jpl.nasa.gov/catalog/PIA19968), パブリック・ドメイン, リンクによる

冥王星には現在5つの衛星が知られていますが、その中でも重要な第1衛星であるカロンについて紹介します。カロンは直径約1200キロメートルと冥王星の約半分の大きさです。これは衛星としては非常に大きく、密度も冥王星とほぼ同じであるため、二つの天体の重心は冥王星の上空1200キロメートルのところにあります。そのため冥王星を連天体と見なすこともあるようです。

海王星は表面の主成分がメタンなどの氷だと考えられていますが、カロンは水の氷だと考えられています。なぜ海王星とカロンでこのような顕著な差があるのかわかっていません。ニューホライズンズの探査によって冥王星と同様クレーターが少ないことが発見され、カロンにも地質学的活動が存在する可能性がでてきました。

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太陽系外縁天体について

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NASA This SVG image was created by Medium69. Cette image SVG a été créée par Medium69. Please credit this : William Crochot - https://herschel.jpl.nasa.gov/solarSystem.shtml, パブリック・ドメイン, リンクによる

太陽系外縁天体とは海王星の軌道よりも外側を周回している天体のことです。彗星の故郷と考えられているオールトの雲を別にして、1930年の冥王星の発見以降、それより遠くの太陽系天体は発見されていませんでした。しかし、1990年代以降観測機器の向上により、冥王星より遠くの天体が続々と発見され続けています。

それにより太陽系外縁天体が多数存在することが判明しました。その中で冥王星に似たような天体が発見され、2006年に冥王星が惑星ではなく準惑星に変更されます。それに伴い冥王星型天体という分類も生まれました。現在も活発に探査が続けられている太陽系外縁天体について見てみましょう。上記の画像は太陽系外縁天体の想像図です。

太陽系外縁天体の基本

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CC 表示-継承 3.0, リンク

現在発見されている太陽系外縁天体は、太陽と地球の距離の約30倍から50倍程度の帯状の領域に集中していて、この領域をエッジワース・カイパーベルトと呼びます。海王星の引力の影響が強く、海王星の公転周期との比率が3:2から2:1の間になっているようです。冥王星のように軌道が大きく傾いていたり、細長い楕円軌道の天体が数多く存在します。

公転周期が海王星と3:2や2:1の場所にあるものが共鳴天体、カイパーベルトの中間にある海王星と特に関係のない天体が古典的外縁天体、カイパーベルトの外側にある大きく伸びた楕円軌道の天体が散乱円盤天体です。散乱円盤天体はカイパーベルト内にあったものが、なんらかの原因で外側に弾き飛ばされた天体だと考えられています。

上記の画像の緑色の点が、現在発見されているエッジワース・カイパーベルト天体です。

冥王星型天体について

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Lexicon - Based on the public domain Nasa images: Image:2006-16-d-print.jpg, Image:Orcus art.png. Source Page from 2006: http://hubblesite.org/newscenter/newsdesk/archive/releases/2006/16/image/d You can visually verify that the names and former designations of these objects match up on the image. For example: Eris, former designation 2003 UB313, Makemake, former designation 2005 FY9, and Haumea, former designation 2003 EL61. The references for the names can all be found here, at the Minor Planets Center: just type Eris, Makemake, Haumea, etc. in the box and click "get ephemerides", and beside each one is the link "show naming citation"., CC 表示-継承 3.0, リンクによる

冥王星は、似たような天体が太陽系外縁天体にいくつも見つかったことにより準惑星に変更されました。現在準惑星にはケレス、冥王星、エリス、マケマケ、ハウメアの5つが分類されています。しかし、ケレスは火星と木星の間にある小惑星帯にあり、天体としての性質も太陽系外縁天体にあるものとは少し違うようです。そのためケレスを除いた4つの準惑星を冥王星型天体と呼んでいます。

したがって、現在冥王星型天体と呼ばれるものは冥王星、エリス、マケマケ、ハウメアの4つです。エリスは冥王星とほぼ同じサイズの天体で、黄道面より44度の傾いた軌道を約560年で公転しています。ハウメアは28度ほど傾いた楕円軌道を約282年で公転していて、大きさが2000×1500×1000キロメートルと歪な形状をしているようです。マケマケは直径約1500キロメートルで、22度ほど傾いた軌道を公転し周期は約307年になります。

上記の画像は比較的大きな太陽系外縁天体と月、地球の比較画像です。この画像では上の段の4つが冥王星型天体になります。

2014MU69について

2014 MU69のグレースケール画像[1][注 1]
NASA/Johns Hopkins Applied Physics Laboratory/Southwest Research Institute, National Optical Astronomy Observatory - https://www.nasa.gov/sites/default/files/thumbnails/image/ultima-thule-1-ca06_022219.png, パブリック・ドメイン, リンクによる

冥王星を探査したニューホライズンズは、他の太陽系外縁天体にも接近探査をしていて、それが上記画像の2014MU69と呼ばれる天体です。全体の直径は31キロメートルほどで、直径約19キロメートルと約14キロメートルの二つの天体が結合した形をしています。太陽から約66億キロメートルのところを公転していて、周期は約300年です。

太陽系外縁天体にはめずらしくかなり円に近い軌道で、黄道面に対してもそれほど傾いていません。そのような理由から古典的外縁天体であると考えられているようです。二つの天体がくっついたような形をしていますが、昔は二つの天体は完全に分離していて、その二つの天体が徐々に近づいていき合体したと考えられています。

太陽系のフロンティア

太陽系のフロンティア

image by Study-Z編集部

冥王星と太陽系外縁天体は、現在の人類にとって太陽系の最前線です。人類にとって太陽系はここまで広がったとも言えるかと思います。もちろんエッジワース・カイパーベルトで終りではなく、どうやらその先にも比較的大きな天体が存在しいるようです。このように、宇宙自体の観測も徐々に遠くに伸びていますが、太陽系の観測も同じようにより遠くへ広がっていっています。

つまり人類の地図は現在も日々更新されているということです。どこまでいけるのかは誰にもわかりませんが、今しばらく人類の地図は広がり続けるでしょう。

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地学宇宙理科

「冥王星」と「太陽系外縁天体」を理系ライターが丁寧にわかりやすく解説

今回は冥王星と太陽系外縁天体について解説していきます。

冥王星はともかく、太陽系外縁天体については聞いたことがない人も多いと思う。それもそのはずで、太陽系外縁天体が発見され始めたのは1990代以降のことであり、つい最近まで人類はその存在を知らなかったのです。

太陽系外縁天体の発見が進んだことにより、冥王星は惑星から準惑星に変更になった。そして現在では、冥王星は人類が始めて発見した太陽系外縁天体とされている。この記事では、新しい研究分野である冥王星と太陽系外縁天体について学んで見よう。

今回は物理学科出身のライター・トオルさんと解説していきます。

ライター/トオル

物理学科出身のライター。広く科学一般に興味を持つ。初学者でも理解できる記事を目指している。

冥王星について

image by iStockphoto

冥王星は2006年まで太陽系第9惑星とされていたのですが、のちほど紹介する太陽系外縁天体に冥王星と似たような天体がいくつも発見されたことにより、現在では準惑星に分類されています。つまり冥王星は一番有名な太陽系外縁天体である準惑星となりました。準惑星というと惑星より重要ではないような気がしますが、太陽系外縁天体も重要な天体群ですので、冥王星も惑星の時と変わらず重要な天体です。

冥王星は2015年7月に探査機ニューホライズンズが比較的近距離で探査を行っていて、以前に比べると多少のことはわかっています。とはいっても、やはり地球から遠い天体であることにかわりはなく、その観測は容易ではありません。冥王星についてわかっているいくつかのことを紹介してみましょう。ついでに冥王星の巨大な衛星カロンについても簡単に触れておきます。

冥王星の基本

Pluto-01 Stern 03 Pluto Color TXT.png
NASA/JHUAPL/SWRI – http://www.nasa.gov/sites/default/files/thumbnails/image/crop_p_color2_enhanced_release.png (Converted to JPEG), パブリック・ドメイン, リンクによる

冥王星はかなり歪んだ楕円軌道をしていて、軌道長半径が約60億キロメートル、軌道短半径が約58億キロメートルです。公転周期は約248年になります。赤道面での直径が2370キロメートルで、地球の20パーセント以下、月の70パーセント以下とかなり小さい天体です。そのため質量も1.3×10の22乗キログラムと、地球の0.2パーセント程度しかありません。

他の天体と大きく違うのが軌道の傾きです。冥王星以外の惑星は大体同じ平面上で運動していて、この面を黄道面といいます。しかし、冥王星は黄道面から17度も傾いた軌道を回っているのです。このような惑星は冥王星以外存在しません。これも冥王星が準惑星に変更になった理由の一つです。黄道面より大きく傾いた軌道の天体が存在することは、太陽系外縁天体の特徴の一つになります。

ニューホライズンズによる冥王星の探査

15-152-Pluto-NewHorizons-HighResolution-20150714-IFV.jpg
NASA/JHU APL/SwRI – http://www.nasa.gov/sites/default/files/thumbnails/image/15-152.png, パブリック・ドメイン, リンクによる

2015年7月に探査機ニューホライズンズが冥王星に接近し、多くの新発見がありました。その一部を紹介します。重要な点は、月よりも小さい冥王星は、地質学的活動が完全に終了した冷え切った天体だと考えられていましたが、ニューホラインズンズにより活発な地質学的活動が存在することが確認されたことです。

上記の画像は冥王星の赤道付近の画像ですが、明らかに山や平原が存在します。その他にも氷河が流れたような後も見つかっているようです。山のように見えるものは、窒素が凍った氷の海に浮いている水の氷だと考えられています。さらにひび割れのような巨大な裂け目も見つかっていて、これは冥王星の膨張による地形かもしれません。

冥王星の南極付近に大きな窪みも発見されました。2つの山の頂にあり、その裾野は100キロメートルにもおよびます。これは氷の火山のカルデラではないかという説があるそうです。氷の火山とは溶岩のかわりに、一酸化炭素や水の氷を含んだ液体窒素の混ざったものが噴出す火山になります。ちなみに、もし氷の火山だった場合、その熱源はまったくの謎です。

冥王星の大気は予想よりもかなり希薄なようですが、窒素を主成分とするため太陽の光を散乱し、地球と同じように青く輝いてることがわかりました。なんと太陽から地球より40倍も離れた冥王星にも青空が存在するようです。

冥王星の衛星カロンについて

2015年7月14日にニュー・ホライズンズが撮影。
NASA/Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory/Southwest Research Institute – http://pluto.jhuapl.edu/Multimedia/Science-Photos/image.php?gallery_id=2&image_id=323 (see also http://photojournal.jpl.nasa.gov/catalog/PIA19968), パブリック・ドメイン, リンクによる

冥王星には現在5つの衛星が知られていますが、その中でも重要な第1衛星であるカロンについて紹介します。カロンは直径約1200キロメートルと冥王星の約半分の大きさです。これは衛星としては非常に大きく、密度も冥王星とほぼ同じであるため、二つの天体の重心は冥王星の上空1200キロメートルのところにあります。そのため冥王星を連天体と見なすこともあるようです。

海王星は表面の主成分がメタンなどの氷だと考えられていますが、カロンは水の氷だと考えられています。なぜ海王星とカロンでこのような顕著な差があるのかわかっていません。ニューホライズンズの探査によって冥王星と同様クレーターが少ないことが発見され、カロンにも地質学的活動が存在する可能性がでてきました。

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