今回は環形動物について学んでいこう。

分類学を学んだ人でなければ「環形動物」という言葉を聞いたことはないかもしれませんね。一体どんな特徴があるのか、どんな生き物が環形動物の仲間なのかを考えてみよう。

今回も、大学で分類学を中心に勉強していた現役講師のオノヅカユウを招いたぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

環形動物とは?

環形動物(かんけいどうぶつ)とは、環形動物門に分類される生物の総称です。英語ではannelids、もしくはsegmented wormsというのですが、このsegmented=「区切られた」という言葉は環形動物の特徴をよく表しているので、覚えておくと良いでしょう。

環形動物の特徴

環形動物には以下のような特徴があります。

・細長い体で、環状の体節がみられるものが多い

・通常体の表面はクチクラでおおわれる

・背中側に血管系(閉鎖血管系)、腹側には神経系が走る

・神経ははしご型神経系のものが多い

これらの特徴のうち、「体節」というものが環形動物の姿かたちに大きく影響しています。

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体節とは?

体節とは、動物の体の頭から尻尾にかけてみられる繰り返し構造のことを言います。

たとえば、環形動物の代表であるミミズ。皆さんはじっくりとミミズの体を観察したことがあるでしょうか?頭部と尾部を除くと、ミミズの体にはまるで小さなゴムリングがいくつも重なったような、細かい区切りがたくさんみられます。細かく区切られた小さなゴムリング、その一つ一つが体節とよばれる構造なんです。

image by Study-Z編集部

外見だけではありません。体節の繰り返し構造は体内、つまり内臓においても当てはまります。ミミズの体の各体節には、それぞれに一対の腎臓があり、神経節があり、横に伸びる血管があるのです。体節の数だけ腎臓があるなんて、びっくりしますよね。

環形動物以外ではっきりとした体節が見てとれる生き物に節足動物がいます。いわゆる昆虫や甲殻類の腹部がイメージしやすいでしょう。細長く区切られた構造が連続しているはずです。環形動物ほどの完全な反復性はありませんが、節足動物でも体節がはっきりとみられるんですね。

環形動物の分類

それではいつも通り、環形動物をさらに細かく分けた分類(下位分類)を見ていきましょう…といいたいところなのですが、残念ながら今回は代表的な環形動物の仲間とその特徴をご紹介するにとどめたいと思います。環形動物の詳細な分類は研究の途上にあり、現在考えられている分類体系も、今後修正される可能性があるためです。

ミミズの仲間

環形動物の中ではおそらくもっとも身近で、わかりやすい存在なのがミミズの仲間でしょう。

前述の通り、ミミズの体にははっきりとした多数の体節構造がみてとれます。単純な体の構造をしているように見えますが、ミミズの体は土の中という環境に適応した結果のものであり、体内には発達した血管や消化管、各種内臓がしっかりと備わっているんです。

また、ミミズの体表をよく見ると短い毛(剛毛)がたくさん生えています。この剛毛を滑り止めのように使うことで、体をどんどん前に進めることができるのです。剛毛はそれほど目立たないことから、ミミズの仲間は貧毛類というグループ名でよばれることもあります。

image by iStockphoto

畑や森林の土壌中にみられるように、ミミズの仲間は多くが陸上の土の中で暮らしています。大きさはさまざまで、数mm程度のものから数十wp_になるもの、日本以外には数mもの長さになる種もあるほどです。

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ヒルの仲間

ミミズに近い環形動物と考えられているのが、ヒルの仲間です。

ヒルは基本的に肉食性。「血を吸う生き物」というイメージが強いですが、実際のところは吸血以外の方法で食事をする種もいます。ミミズの仲間にみられたような短い毛はありませんが、体には特殊化した吸盤をもっており、これによって獲物などに身体を固定することができるんです。

image by iStockphoto

ちなみに、ミミズもヒルもほとんどは雌雄同体。有性生殖の場合は、子どもは卵から生まれます。

ゴカイの仲間

釣りの餌としてよく使われるゴカイの仲間は、環形動物のなかでも非常に多くの種が現生しています。

ゴカイ同様によく釣り餌にされるイソメやエラコ、「クリスマスツリー・ワーム」という和名が有名なイバラカンザシなどもゴカイの仲間。マイナーなところでは、チロリ、ケヤリムシ、シリス、ウミケムシなどがいます。いずれにしてもゴカイの仲間の生息地は、海中のものがほとんど。浅い海から深海、温かい海から冷たい海まで、世界に広く分布しているんです。

Aonides paucibranchiata
© Hans Hillewaert, CC 表示-継承 4.0, リンクによる

例外もありますが、基本的にゴカイの仲間には、胴体の各体節に一対の疣足(いぼあし)があります。それぞれの疣足からは束になった毛(剛毛束)がでており、この様子からゴカイの仲間のことを多毛類とよぶことがあるんです。

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ホシムシの仲間

海に住む無脊椎動物に、ホシムシという生き物がいます。もともと、ホシムシの仲間は星口動物門という別の門だと考えられていました。ところが、近年はDNAの分析結果などから、環形動物門に入れるのが適切であるとみなされることが増えています。

Golfingia.jpg
Mark Blaxter - http://xyala.cap.ed.ac.uk/mpl/work/Millport/Millport_2010/Millport_Diversity/index.html, パブリック・ドメイン, リンクによる

ホシムシの仲間にははっきりとした体節がみられません。研究者の意見によると、「ホシムシは過去に体節をもっていたが、現在残っている種はその構造が退化してしまった可能性が高い」のだそうです。

ユムシの仲間

ユムシの仲間もホシムシ同様、以前は別の門を構成すると考えられていた生き物です。研究の結果、近年は環形動物の中に属する生物であるという見方がスタンダードになっています。ユムシにも体節は見られませんが、分子レベルの分析結果が環形動物であると示しているということです。

体節がないどころか、足らしい足もない円筒形のユムシは、まるでソーセージのような見た目。初めて見る人は驚くかもしれませんが、日本では昔から釣り餌などに利用されてきました。また、地域によっては食用にされることもあります。

不思議な環形動物の世界

環形動物の特徴と、代表的な生き物たちをご紹介しました。本文中でも言及しましたが、DNAなどの分析に基いた分類の見直しにより、昔から知られていた分類体系がここ数十年でがらりと変化しています。環形動物は、その影響を強く受けている分類群の一つ。これから先、環形動物の分類体系がどのように変わっていくのかにも、ぜひ注目してみてほしいと思います。

イラスト使用元:いらすとや

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理科生物生物の分類・進化

【生物】「環形動物」ってなんだ?現役講師がさくっとわかりやすく解説!

今回は環形動物について学んでいこう。

分類学を学んだ人でなければ「環形動物」という言葉を聞いたことはないかもしれませんね。一体どんな特徴があるのか、どんな生き物が環形動物の仲間なのかを考えてみよう。

今回も、大学で分類学を中心に勉強していた現役講師のオノヅカユウを招いたぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

環形動物とは?

環形動物(かんけいどうぶつ)とは、環形動物門に分類される生物の総称です。英語ではannelids、もしくはsegmented wormsというのですが、このsegmented=「区切られた」という言葉は環形動物の特徴をよく表しているので、覚えておくと良いでしょう。

環形動物の特徴

環形動物には以下のような特徴があります。

・細長い体で、環状の体節がみられるものが多い

・通常体の表面はクチクラでおおわれる

・背中側に血管系(閉鎖血管系)、腹側には神経系が走る

・神経ははしご型神経系のものが多い

これらの特徴のうち、「体節」というものが環形動物の姿かたちに大きく影響しています。

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