今回は魚類について学んでいきたい。

日本は海に囲まれているだけでなく、川や池などの水環境が豊富な国です。昔から魚類は重要な食料であり、身近な生動物でもありますが、その分類について知っている人はあまり多くない。今一度、日本や世界の魚類について考えてみないか?

今回も、大学で分類学を中心に勉強していた現役講師のオノヅカユウを招いた。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

魚類とは?

魚の仲間の総称である、この魚類という言葉。なんてことのない単語に見えますが、実は分類学のうえでは少し説明が難しい言葉なんです。

昔、魚の仲間は分類単位のひとつである「魚綱」にまとめられていました。水中を泳ぎ、鰭(ひれ)をもち、鰓(えら)呼吸をする生き物…例えば、メダカやサンマ、マグロ、サメ、ヤツメウナギ、シーラカンスなどがまとめて「魚綱」にふくめられ、「魚綱」に属するものを魚類とよんでいたのです。つまり、「魚綱の生き物=魚類」。一見すると、何の問題もなさそうに見えますよね。

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ところが、発生学的な研究やDNAレベルの分類が進むにつれて、「魚綱」というくくりは正しくないものとみなされるようになりました。

生物が進化してきた道筋を系統樹を使って表現しようとすると、それまで「魚綱」とみなされていた生物群に、別の生物(哺乳類など)が含まれることがわかってしまったのです。そのため、魚綱という分類群は使われなくなり、それまでの「魚綱の生き物=魚類」という認識は、系統分類学上正確ではないとみなされるようになりました。

現在では、魚類を学術的に説明しようとすると「脊椎動物のうち、四肢動物ではないもの」という言い方になってしまいます。

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とはいえ私たちは、昔からその見た目や生態によって、「水中にすみ、鰭を持ち、鰓呼吸をする生き物=魚類」と判断しています。普段生活する上では、この考え方で困ることはありませんよね。

この記事では、昔からの認識である「水中にすみ、鰭を持ち、鰓呼吸をする生き物=魚類」として、魚類の仲間の分類をみていきたいと思います。

image by Study-Z編集部

それでは、魚類の生物はどんな分類ができるのかを見ていきましょう。

今回はわかりやすい考え方として、魚類を大きく3つのグループに分けて説明したいと思います。硬骨魚類軟骨魚類、そして無顎類です。

\次のページで「硬骨魚類」を解説!/

硬骨魚類

私たちが普段イメージする「魚」のほとんどは硬骨魚類の仲間です。骨格のほとんどが硬い骨=硬骨によってできています。また、浮袋や肺をもつという点も特筆すべきポイントです。

硬骨魚類の種類は数多く、2万5000種以上は現生するようです。生息環境も淡水から海水まで幅広く、大きさや生態も様々。皆さんは何種くらい思い浮かべることができるでしょうか?

硬骨魚類は、さらに条鰭類(じょうきるい)と肉鰭類(にくきるい)の2つのグループに分けて考えることができます。それぞれののグループについてもう少し詳しく学んでいきましょう。

条鰭類

一般的な魚の多くが含まれるのが、この条鰭類というグループです。このグループに属する魚類は、鰭条(きじょう)という硬い線状の組織によって支えられた鰭をもっています。身近な魚の胸びれや背びれをイメージしてみてください。鰭の付け根から骨のような線が鰭の隅まで伸びていますよね?それが鰭条です。

以下に、条鰭類に含まれている代表的な目をご紹介します。数が多いので、あくまで一部であることをご承知おきください。

・ダツ目 …メダカ、トビウオ、サンマなど
・スズキ目 …スズキ、アジ、タイ、ベラ、ハゼ、サバなど
・カレイ目 …カレイ、ヒラメなど
・フグ目 …フグ、マンボウ、カワハギ、ハリセンボンなど
・タラ目 …タラなど
・アンコウ目 …アンコウ、チョウチンアンコウなど
・アカマンボウ目 …リュウグウノツカイなど
・サケ目 …サケ、マスなど
・コイ目 …コイ、フナ、ドジョウ、タナゴなど
・ニシン目 …ニシン、イワシなど
・ウナギ目 …ウナギ、ウツボ、アナゴなど

どれも聞き覚えのある魚の名前ですよね。食用にする魚のほとんどは条鰭類でしょう。

これらの条鰭類とは少し離れた目にポリプテルスという魚の仲間がふくまれるポリプテルス目があります。腕鰭類ともよばれるグループです。ポリプテルスの仲間は原始的な形質を残し、かなり古い時代に地球に出現したグループと考えられていますが、現在生き残っているのは全部で17種程度。アフリカ大陸の中でも赤道直下の国々にのみ分布しています。

\次のページで「肉鰭類」を解説!/

肉鰭類

肉鰭類には、ハイギョの仲間とシーラカンスの仲間が含まれます。条鰭類と大きく異なるのは、鰭が肉質である点。まるで陸上動物の手足のように、鰭を使って動きます。

ハイギョは魚なのに肺をもつ、ちょっと変わった生き物。子どものころは鰓を持ちますが、生長するについれて肺が発達し、肺呼吸のみを行うようになります。定期的に水面から頭部を出して、酸素を補給するんです。

Queensland Lungfish (Neoceratodus forsteri).jpg
不明 - http://opencage.net/pics.e/large_1151.asp, CC 表示-継承 2.5, リンクによる

「両生類みたいだな」と思ったあなたは鋭い!ハイギョの仲間の一部が進化して両生類になり、爬虫類や哺乳類といった四肢動物につながっていったと考えられています。

シーラカンスも、古生代の地層から良く似た化石が出てくるほど歴史の長い生き物ですが、現在も生き残っているのはわずか2種。1938年に生きている個体が発見されたときには世界中の研究者が驚きました。魚類の進化を研究する上では欠かすことのできない存在です。

軟骨魚類

軟骨魚類は、全身の骨が軟骨によって形成されている魚の仲間です。サメの仲間やエイの仲間が該当します。魚類の中でも比較的原始的なグループと考えられていて、古生代シルル紀の地層からもその痕跡が見つかっているほど。骨以外にも硬骨魚類と大きく異なる特徴がいくつもあり、興味深い分類群となっています。

無顎類

ヌタウナギの仲間とヤツメウナギの仲間は、まとめて無顎類とよばれることがあります。名前の通り“顎が無い”ことが特徴的な魚類であり、その口の形から円口類ともいわれるグループです。骨は軟骨質であることから、昔は軟骨魚類の中にふくまれていましたが、現在はそれぞれが独立した生物群としてみなされています。

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Loki austanfell - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

無顎類は魚類の中で最も原始的な生き物であり、生物の進化を考える上では欠かすことのできない存在です。無顎類よりも進化した生物は顎をもちます。顎をもった生物は、獲物を効率よく捕食できるようになったり、自分より大きなエサをかみちぎるなどの動作ができるようになりました。つまり、顎の登場によって食べられるもののバリエーションが増え、食う・食われるの競争が激化していったのです。無顎類と顎のある生物の間には、生物進化の道筋における大きな岐路が存在しているといっても過言ではないでしょう。

\次のページで「魚類とは一口にいうものの…」を解説!/

魚類とは一口にいうものの…

簡単そうに思えて意外と奥が深い”魚類”の分類。今回は大まかなグルーピングをご紹介しましたが、興味のある方はぜひ魚図鑑を買って眺めてみてください。魚類は太古のものが化石として現れることもありますので、古生物関係の書籍を見るのも楽しくなりますよ。

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理科生物生物の分類・進化

【生物】「魚類」ってなんだ?現役講師がさくっとわかりやすく解説!

今回は魚類について学んでいきたい。

日本は海に囲まれているだけでなく、川や池などの水環境が豊富な国です。昔から魚類は重要な食料であり、身近な生動物でもありますが、その分類について知っている人はあまり多くない。今一度、日本や世界の魚類について考えてみないか?

今回も、大学で分類学を中心に勉強していた現役講師のオノヅカユウを招いた。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

魚類とは?

魚の仲間の総称である、この魚類という言葉。なんてことのない単語に見えますが、実は分類学のうえでは少し説明が難しい言葉なんです。

昔、魚の仲間は分類単位のひとつである「魚綱」にまとめられていました。水中を泳ぎ、鰭(ひれ)をもち、鰓(えら)呼吸をする生き物…例えば、メダカやサンマ、マグロ、サメ、ヤツメウナギ、シーラカンスなどがまとめて「魚綱」にふくめられ、「魚綱」に属するものを魚類とよんでいたのです。つまり、「魚綱の生き物=魚類」。一見すると、何の問題もなさそうに見えますよね。

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ところが、発生学的な研究やDNAレベルの分類が進むにつれて、「魚綱」というくくりは正しくないものとみなされるようになりました。

生物が進化してきた道筋を系統樹を使って表現しようとすると、それまで「魚綱」とみなされていた生物群に、別の生物(哺乳類など)が含まれることがわかってしまったのです。そのため、魚綱という分類群は使われなくなり、それまでの「魚綱の生き物=魚類」という認識は、系統分類学上正確ではないとみなされるようになりました。

現在では、魚類を学術的に説明しようとすると「脊椎動物のうち、四肢動物ではないもの」という言い方になってしまいます。

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とはいえ私たちは、昔からその見た目や生態によって、「水中にすみ、鰭を持ち、鰓呼吸をする生き物=魚類」と判断しています。普段生活する上では、この考え方で困ることはありませんよね。

この記事では、昔からの認識である「水中にすみ、鰭を持ち、鰓呼吸をする生き物=魚類」として、魚類の仲間の分類をみていきたいと思います。

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それでは、魚類の生物はどんな分類ができるのかを見ていきましょう。

今回はわかりやすい考え方として、魚類を大きく3つのグループに分けて説明したいと思います。硬骨魚類軟骨魚類、そして無顎類です。

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