今日は三種の神器の神話について勉強していきます。三種の神器とは日本の天皇が即位する時に使われる3つの伝説の宝のことで、日本の歴史を振り返る中でも度々登場している。

例えば1185年の壇ノ浦の戦いがそれに該当しますが、この三種の神器には神話が語られている。そこで今回、三種の神器の神話について日本史に詳しいライターリュカと一緒に解説していきます。

ライター/リュカ

元塾講師で、現役のライター。塾講師とライター業に共通して「わかりやすい伝え方」に定評がある。今回は得意分野のひとつである「歴史」から三種の神器の神話をわかりやすくまとめた。

三種の神器が天皇家に伝わったいきさつ

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3つの宝・八尺瓊勾玉、八咫鏡、天叢雲剣

神話と聞くと、現代より遥か昔に語られている物語のイメージがありますが、三種の神器は現在の皇室にも関係しており、最近だと平成から令和への継承の儀でも使われています。三種の神器は文字どおり3つの宝を示しており、その宝とは「八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)」、「八咫鏡(やたのかがみ)」、「天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)」です。

分かりやすく言えば「玉」と「鏡」と「剣」、天叢雲剣は草薙の剣(くさなぎのつるぎ)と呼ばれることもありますね。これら三種の神器は日本の象徴である天皇の存在の正当性を裏付ける意味を持っており、そのため皇位継承者のみに受け渡しされています。

さて、神の宝とされる三種の神器ですが、鏡と剣においては形式と呼ばれるレプリカも存在しており、八咫鏡や天叢雲剣の形代は皇居に祀られているのです。一方それぞれの本物ですが、八咫鏡の本物は伊勢神宮、天叢雲剣の本物は熱田神宮に祀られています。

天孫降臨

では、これら三種の神器はどのようにして天皇家に伝わるようになったのか?……神話とされるその物語を語っていきましょう。かつて世界は地上界と天界が存在しており、高天原と呼ばれる天界には天皇家の祖である皇祖神・アマテラスオオミカミが君臨していました。

アマテラスオオミカミは三種の神器を所有していましたが、その孫であるニニギノミコトは地上界の国を統治するため天界より降臨、その時アマテラスオオミカミはニニギノミコトに三種の神器を授与したとされており、そのため代々の天皇が大切に保管しているのです。

また、アマテラスオオミカミは天照大神、ニニギノミコトは邇邇芸命とも呼ばれていて、このようにしてニニギノミコトが地上界に降り立った物語を天孫降臨と言います。そして降臨した場所は日向国の高千穂峰、名前から連想できるとおりこれは現在の宮崎県にある日向と高千穂です。

八咫鏡と八尺瓊勾玉の成り立ち

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姿を消した太陽神と闇に包まれた世界

次に、三種の神器がどのようにして作られたのかについての説明を神話で語っていきます。天界に君臨する皇祖神・アマテラスオオミカミが姿を消した時、光が失われて世界はに包まれました。それもそのはず、アマテラスオオミカミは皇祖神であると同時に、太陽神でもあったのです。

アマテラスオオミカミはどこに行ってしまったのか?……闇に包まれたことで探そうにも探せず、神々が困り果てていたその時、知恵の神・オモイカネは一つの策を思いつきました。その策とは鏡を作ることで、早速鏡を作る神・イシコリドメは言われたとおりせっせと鏡を作り、さらに勾玉造りの神・タマオヤノミコトが装飾として勾玉をつけます。

そしてアメノウズメノミコトが裸で踊ると、神々は盛り上がってはしゃぎ出しました。闇の中で響き渡るはしゃぎ声、「これはどうしたことか?」……闇に包まれた中で聞こえる声は嘆く悲鳴ではなく楽しむ笑いの声、「なぜ世界が闇に包まれたというのにはしゃいでいる?」とアマテラスオオミカミは不思議に思います。

知恵の神の策

アメノウズメノミコトは暗闇の中、「あなた様より素晴らしい神様が来たのでみんな喜んでいるのです!」と言いました。「さてそれはどんな神なのか?」、アマテラスオオミカミがその姿を一目見ようと洞窟から身体を乗り出すと、すかさず鏡を持った神がアマテラスオオミカミに鏡を向けます

鏡にうつる自らの姿、しかしアマテラスオオミカミは暗闇のせいでよく見えず、それが自身の姿とは気づきません。もっとよく見てみようと身体をさらに乗り出したその時、力持ちで有名な神・アメノタヂカラオに引っ張り出されてアマテラスオオミカミは洞窟から姿を現したのです

こうしてアマテラスオオミカミが再び姿を現したため世界は再び光に満ち溢れ、この時作ってアマテラスオオミカミに向けた鏡こそ、三種の神器の一つである八咫鏡だったのでした。そして鏡につけた装飾の勾玉が、同じく三種の神器の一つである八尺瓊勾玉だったのです。

天叢雲剣の成り立ち

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天界を追放されて地上界に降り立った神

太陽神・アマテラスオオミカミが姿を消して世界が闇に包まれた天の岩戸事件、そもそもアマテラスオオミカミが姿を消したのはスサノオノミコトの行いが原因でした。そのため、スサノオノミコトは天の岩戸事件後に天界である高天原を追放され、地上界へと降り立ちます。

降り立った先は出雲大社で有名な出雲、そこでスサノオノミコトはクシナダヒメと名乗る美しい女性と出会いました。美しいクシナダヒメを愛したスサノオノミコト、永遠の愛を誓って結ばれることを望んだスサノオノミコトでしたが、クシナダヒメの口から語られたのは残酷な事実だったのです。

「私はもうすぐ死ぬ。なぜならこの地にいる大蛇・ヤマタノオロチの生贄になってしまうからです」……クシナダヒメを生贄にする儀式など許せない!そこでスサノオノミコトはヤマタノオロチに対して果敢に立ち向かい、戦い末ヤマタノオロチの退治に成功したのでした。

ヤマタノオロチから見つかった剣

スサノオノミコトがヤマタノオロチの身体を切り刻む時、なぜか自分の使っていた剣が突然折れてしまいます。大蛇の怪物と言えど、神が扱う神聖な剣がこうも簡単に折れるはずはなく、不思議に思ったスサノオノミコトは切り刻んだ部分を探ってみることにしました。

そして見つかったのが天叢雲剣。スサノオノミコトはこれをアマテラスオオミカミに献上して、愛するクシナダヒメと結婚することができたのです。そして、スサノオノミコトはクシナダヒメと共に出雲の地・須賀にて永代幸せに暮らしていったのでした。

こうして、アマテラスオオミカミの元に揃った八咫鏡と八尺瓊勾玉と天叢雲剣の3つの宝物、これらは三種の神器として扱われるようになったのです。ちなみに、ヤマタノオロチのいる場所の上には常に雲が成っていたそうで、「天に雲が成っている怪物から見つかった剣」ということで、天叢雲剣と命名されました。

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レプリカの存在と祀られた場所の意味

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アマテラスオオミカミの意思と命令

神話で成り立っている八尺瓊勾玉、天叢雲剣、八咫鏡の三種の神器にレプリカが存在するのは酷く現実的で、神話の面影を消し去っているように思えます。実は、三種の神器のレプリカを作ることになった理由も歴史の物語として存在しているのです。

日本の第10代天皇である崇神天皇は、実在した可能性のある最初の天皇。三種の神器のうち天叢雲剣と神体の宿る八咫鏡は、崇神天皇によって皇居から別の場所に移されて祀られることになりました。様々な地を経て最終的には伊勢の国で祀られることになりますが、これはアマテラスオオミカミが望んだ意思とされています。

とは言え、ニニギノミコトがアマテラスオオミカミから三種の神器を授与された際、これらは皇居に置くよう命令を受けていました。そこでレプリカを作り、レプリカを皇居で祀ることにしたのです。つまり、アマテラスオオミカミの意思と命令の両方を守るには二つの神器が必要で、そのためレプリカを作ったということになります。

ヤマトタケルノミコトの東征

こうして伊勢で祀られるようになった本物の方の八咫鏡と天叢雲剣、このうち天叢雲剣は後に日本の皇族・ヤマトタケルノミコトによって熱田神宮で祀られることになります。景行天皇の子だったヤマトタケルノミコトは、ある日関東の蝦夷(反逆部族)を征伐せよとの命令を受けました。

そして征伐に向かう途中、叔母の倭姫のいる伊勢神宮に立ち寄ると、倭姫はヤマトタケルノミコトに天叢雲剣を持たせたそうです。天叢雲剣は草薙の剣とも呼ばれていますが、これはヤマトタケルノミコトの草を薙いで窮地を脱したエピソードからその名前が付けられました。

草薙の剣の効果のためか征伐は成功、そして愛知で出会ったミヤヅヒメと結婚したヤマトタケルノミコトは草薙の剣をミヤヅヒメに預けます。しかし、草薙の剣を手放したヤマトタケルノミコトは次の征伐では失敗して死亡、ミヤヅヒメはヤマトタケルノミコトから受け取った草薙の剣を大切に祀り、それが熱田神宮の起源となりました。

一度は失われた天叢雲剣

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壇ノ浦の戦いの結末

三種の神器のうち、実は天叢雲剣のレプリカは失われています。1185年の壇ノ浦の戦い、この戦いでは源氏に追い詰められた平家一門が京都を追い出された際、平家の血を引く安徳天皇と三種の神器を一緒に連れて京都を離れる一幕がありました。

安徳天皇は廃位を迫られて源氏に追われる身、しかし三種の神器がなければ皇位継承はできません。このため、安徳天皇が皇位についていることを望んだ平家一門は、皇位継承を妨げるために三種の神器を持ち出したのです。しかし、平家一門に既に勝機はなく、壇ノ浦の戦いには平家は源氏によって滅亡させられます。

安徳天皇はまだ8歳の子供、とは言え源氏に捕らわれたしまえば処刑は免れず、そのため母は「海の下にも都はあります」と諭すと、三種の神器と共に入水して自ら命を絶ちました。こうして、三種の神器は壇ノ浦の戦いにて一度は海の中に沈んでしまったのです

天叢雲剣の行方

海に沈んだ三種の神器を必死に探す源氏、その甲斐あって八咫鏡と八尺瓊勾玉は何とか発見できました。無事発見されて皇居へと戻された八咫鏡と八尺瓊勾玉、しかしその一方で天叢雲剣だけはどうしても見つからず失われてしまったのです

これには一説も語られており、元々ヤマタノオロチが持っていた天叢雲剣は、海に投げ出された時にヤマタノオロチが再び天叢雲剣を取り戻し、それを竜宮城に安置したと記される書物もあります。つまり、天叢雲剣は持ち主の元にかえっていったという解釈となる説です。

とは言え、天叢雲剣が失われたままの三種の神器、本来なら全て揃っていなければ皇位継承は不可能。しかし、安徳天皇の崩御によって皇位について後鳥羽天皇は三種の神器を揃えることなく皇位継承を行い、その後順徳天皇の時代に伊勢神宮より送られた剣を改めて天叢雲剣として祀ることになりました。

三種の神器の神話は一通り把握しておこう!

三種の神器の神話は、一つの物語として一通り把握しておきましょう。神話全てがズラリと出題されることはないですが、神話の理解は三種の神器の理解につながります。

例えば「なぜ天叢雲剣は草薙の剣とも呼ばれているのか?」、「なぜレプリカが存在するのか?」……これらの答えは神話の中で語られており、物語だからと言って無視すると全く理解できなくなるのです。

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日本史歴史

天界と地上界が舞台となる壮大な神話「三種の神器」について元塾講師が分かりやすく5分でわかりやすく解説

今日は三種の神器の神話について勉強していきます。三種の神器とは日本の天皇が即位する時に使われる3つの伝説の宝のことで、日本の歴史を振り返る中でも度々登場している。

例えば1185年の壇ノ浦の戦いがそれに該当しますが、この三種の神器には神話が語られている。そこで今回、三種の神器の神話について日本史に詳しいライターリュカと一緒に解説していきます。

ライター/リュカ

元塾講師で、現役のライター。塾講師とライター業に共通して「わかりやすい伝え方」に定評がある。今回は得意分野のひとつである「歴史」から三種の神器の神話をわかりやすくまとめた。

三種の神器が天皇家に伝わったいきさつ

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3つの宝・八尺瓊勾玉、八咫鏡、天叢雲剣

神話と聞くと、現代より遥か昔に語られている物語のイメージがありますが、三種の神器は現在の皇室にも関係しており、最近だと平成から令和への継承の儀でも使われています。三種の神器は文字どおり3つの宝を示しており、その宝とは「八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)」、「八咫鏡(やたのかがみ)」、「天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)」です。

分かりやすく言えば「玉」と「鏡」と「剣」、天叢雲剣は草薙の剣(くさなぎのつるぎ)と呼ばれることもありますね。これら三種の神器は日本の象徴である天皇の存在の正当性を裏付ける意味を持っており、そのため皇位継承者のみに受け渡しされています。

さて、神の宝とされる三種の神器ですが、鏡と剣においては形式と呼ばれるレプリカも存在しており、八咫鏡や天叢雲剣の形代は皇居に祀られているのです。一方それぞれの本物ですが、八咫鏡の本物は伊勢神宮、天叢雲剣の本物は熱田神宮に祀られています。

天孫降臨

では、これら三種の神器はどのようにして天皇家に伝わるようになったのか?……神話とされるその物語を語っていきましょう。かつて世界は地上界と天界が存在しており、高天原と呼ばれる天界には天皇家の祖である皇祖神・アマテラスオオミカミが君臨していました。

アマテラスオオミカミは三種の神器を所有していましたが、その孫であるニニギノミコトは地上界の国を統治するため天界より降臨、その時アマテラスオオミカミはニニギノミコトに三種の神器を授与したとされており、そのため代々の天皇が大切に保管しているのです。

また、アマテラスオオミカミは天照大神、ニニギノミコトは邇邇芸命とも呼ばれていて、このようにしてニニギノミコトが地上界に降り立った物語を天孫降臨と言います。そして降臨した場所は日向国の高千穂峰、名前から連想できるとおりこれは現在の宮崎県にある日向と高千穂です。

八咫鏡と八尺瓊勾玉の成り立ち

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