高校の化学の分野で出てくるヘンリーの法則って知っているか?

1803年にイギリスのウィリアム・ヘンリーという化学者が、気体の溶解と圧力の関係を定義したんですが、とにかく苦手な人が多い理論なんです。

今回はその「ヘンリーの法則」について、化学実験を生業にしてきたライターwingと一緒にわかりやすく解説していきます。

ライター/wing

元製薬会社研究員。小さい頃から化学が好きで、実験を仕事にしたいと大学で化学を専攻した。卒業後は化学分析・研究開発を生業にしてきた。化学のおもしろさを沢山の人に伝えたい!

1.気体が溶媒に溶ける

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気体が溶媒(水など)に溶けるところを想像したことがありますか?気体は固体と違ってほとんどが目に見えないため、溶ける様子を思い浮かべることが難しいですよね。

しかし気体が水などの溶媒に溶けて溶けている気体がまた空気中に気体として戻るという現象は、日常身の回りでも起こっています

気体を溶かした液体といって一番身近な物質は、炭酸飲料かもしれません。通常状態より高い圧力で多い量の気体(二酸化炭素)を溶かした液体は、炭酸飲料として様々な風味がついた商品が売られています。

気体が溶媒に溶けるということが、何となく想像できたでしょうか?

1-1.溶解度とは何か

まず、溶解度とはなんのことでしょう?溶解度とは一般的に水100gに対して最大限溶かすことのできる溶質の質量(g)のことをいいます。

つまり、一定量の溶媒に対してどのくらい溶けるかを表したものです。溶かす物質のことを溶媒溶ける物質のことを溶質、溶質と溶媒を混合して均一になったものを溶液といいます。

そして、温度と圧力が違えば溶解度は変わるのです。

1-2.気体と固体の温度による溶解度の変化

みなさんは熱い紅茶に砂糖を溶かしたことがありますか?同じ量の砂糖を同じ量のアイスティーに溶かそうとしても溶けにくいですよね。固体は溶媒の温度が高くなると溶けやすくなるのです。

しかし固体とは逆で、気体の溶解度は温度が高くなるにつれて少なくなります。

固体の場合は、溶媒分子の熱運動が激しくなって結晶構造を壊すため、温度が高くなると溶けやすくなるのです。しかし気体の場合は、熱運動が激しくなることで、溶媒分子と気体分子の結合力が弱くなります。

そのため、温度が高くなると溶けにくくなるのです。

\次のページで「2.ヘンリーの法則」を解説!/

2.ヘンリーの法則

気体が溶媒に溶けるという現象が大体わかったところで、今回のテーマであるヘンリーの法則についてお話しましょう。

ヘンリーの法則とは気体の溶解に関する法則であり、水に溶けにくい気体について成り立つ法則です。つまり、アンモニアや塩化水素などの水に簡単にたくさん溶けてしまう気体には成り立たないので、注意しましょう。

2-1.ヘンリーの法則(質量またはモル数について)

2-1.ヘンリーの法則(質量またはモル数について)

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まずヘンリーの法則の1番目である、溶ける気体の質量(またはモル数)と圧力の関係について解説しましょう。

「一定温度の下で一定量の溶媒に溶ける気体の質量(または物質量=モル数)は、その気体の圧力に比例する。」

これは具体的にはどういったことでしょうか?

例えば水の入った容器の上の空間に、水に溶けにくい気体がある状態を想像してください。この状態で、上から圧力を1かけると、水に溶けにくい気体が1個溶けたとします。次に上から圧力を2かけると、圧力を1かけたときより2倍多くの気体、つまり2個溶けるという事です。そして、3倍の圧力がをかけると、水に溶けにくい気体が3個溶けます。

なんとなくイメージができたでしょうか?

2-2.ヘンリーの法則(体積について)

2-2.ヘンリーの法則(体積について)

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次にヘンリーの法則の2番目である、溶ける気体の体積と圧力の関係について解説しましょう。

「一定温度の下で一定量の溶媒に溶ける気体の体積は、その圧力で一定となる。」

圧力に比例するのか一定なのか、先ほど学んだことと矛盾するような文言で混乱してしまいますよね。しかし、この2つの文章は同じことを言っているのです。

では体積と圧力の関係を考えてみましょう。気体の体積は圧力を加えると、押し固められて小さくなります。2倍の圧力が加われば体積は1/2になるのです。

先ほどの例でいうと、気体に2倍の圧力が加わっているということは、水に溶けた気体そのものは押し固められて体積が半分になっています。繰り返しになりますが、圧力を2倍にすると気体の体積は1/2になるのです。

体積が半分になった気体が2倍の量溶けているので、溶けた気体の体積は一定という事になります。

2-3.気体の状態方程式について

なんとなく分かったような分からないような、変な感じがする方もいらっしゃるかもしれません。では、ヘンリーの法則を気体の状態方程式を使って解説していきましょう。

気体の状態方程式とは、高校の化学で学習する、理想気体の圧力と体積とモル数と温度の関係を方程式で表したものになります。

一定量の気体について温度が一定なら、圧力と体積は反比例するというボイルの法則と、一定量の気体について圧力が一定なら、絶対温度と体積は比例するというシャルルの法則を基に組み立てた方程式です。

P V = n R T

P は圧力(atm)、V は体積(L)、n はモル数(mol)、R は気体定数(0.082)、T は絶対温度(K)を表しています。

気体の状態方程式が苦手な方でも、理想気体(分子自身の体積と分子間力を無視した仮想の気体)において、この法則が成り立つのだと思っていただければ、この後の説明も理解できるはずです。

2-4.気体の状態方程式とヘンリーの法則

では、ヘンリーの法則(体積について)「一定温度の下で一定量の溶媒に溶ける気体の体積はその圧力で一定となる。」について、気体の状態方程式を使って考えてみましょう。

PV = nRT を変形すると V = nRT / Pとなります。ここで圧力を 2 倍にしてみると体積 V の所に 2 n(mol)の気体が集まってくるのです。V = 2n RT / 2P = nRT / P ということですね。体積 V は圧力によらないことがお分かりいただけたでしょうか?

溶媒に溶ける気体の体積は一定でも、質量(または物質量)は圧力に比例するということです。

\次のページで「2-5.混合気体の場合」を解説!/

2-5.混合気体の場合

溶解度が小さい気体同士の混合気体では、それぞれが独立して溶けます。

例えば、酸素と窒素の混合気体が水に溶けるとき、酸素は酸素のみが存在する場合と同じように溶け、窒素は窒素のみが存在する場合と同じように溶けるのです。

つまり溶ける量は混合気体の場合、お互いの影響を受けないと考えます。

ヘンリーの法則とは気体の溶ける量と圧力の関係を表した法則

ヘンリーの法則とは気体の溶ける量と圧力の関係を示した理論で、溶媒に溶けにくい気体にのみ成立する法則です。

気体の質量と物質量(モル数)については「一定温度の下で一定量の溶媒に溶ける気体の質量(または物質量=モル数)は、その気体の圧力に比例する。」と定義されています。

そして、気体の体積については「一定温度の下で一定量の溶媒に溶ける気体の体積は、その圧力で一定となる。」という定義です。

この2つの理論は一見矛盾しているように見えますが、実は同じことを言っています。

気体の体積は圧力が 2 倍になると 1 / 2 になります。それなので圧力が P の時に V だった体積は、圧力が 2 P になると 1 / 2 になり、そこに n モルの気体が集まっているため、体積は一定でも質量及び物質量は比例するのです。

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化学

気体の溶ける量と圧力の関係「ヘンリーの法則」を元研究員がわかりやすく解説

高校の化学の分野で出てくるヘンリーの法則って知っているか?

1803年にイギリスのウィリアム・ヘンリーという化学者が、気体の溶解と圧力の関係を定義したんですが、とにかく苦手な人が多い理論なんです。

今回はその「ヘンリーの法則」について、化学実験を生業にしてきたライターwingと一緒にわかりやすく解説していきます。

ライター/wing

元製薬会社研究員。小さい頃から化学が好きで、実験を仕事にしたいと大学で化学を専攻した。卒業後は化学分析・研究開発を生業にしてきた。化学のおもしろさを沢山の人に伝えたい!

1.気体が溶媒に溶ける

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気体が溶媒(水など)に溶けるところを想像したことがありますか?気体は固体と違ってほとんどが目に見えないため、溶ける様子を思い浮かべることが難しいですよね。

しかし気体が水などの溶媒に溶けて溶けている気体がまた空気中に気体として戻るという現象は、日常身の回りでも起こっています

気体を溶かした液体といって一番身近な物質は、炭酸飲料かもしれません。通常状態より高い圧力で多い量の気体(二酸化炭素)を溶かした液体は、炭酸飲料として様々な風味がついた商品が売られています。

気体が溶媒に溶けるということが、何となく想像できたでしょうか?

1-1.溶解度とは何か

まず、溶解度とはなんのことでしょう?溶解度とは一般的に水100gに対して最大限溶かすことのできる溶質の質量(g)のことをいいます。

つまり、一定量の溶媒に対してどのくらい溶けるかを表したものです。溶かす物質のことを溶媒溶ける物質のことを溶質、溶質と溶媒を混合して均一になったものを溶液といいます。

そして、温度と圧力が違えば溶解度は変わるのです。

1-2.気体と固体の温度による溶解度の変化

みなさんは熱い紅茶に砂糖を溶かしたことがありますか?同じ量の砂糖を同じ量のアイスティーに溶かそうとしても溶けにくいですよね。固体は溶媒の温度が高くなると溶けやすくなるのです。

しかし固体とは逆で、気体の溶解度は温度が高くなるにつれて少なくなります。

固体の場合は、溶媒分子の熱運動が激しくなって結晶構造を壊すため、温度が高くなると溶けやすくなるのです。しかし気体の場合は、熱運動が激しくなることで、溶媒分子と気体分子の結合力が弱くなります。

そのため、温度が高くなると溶けにくくなるのです。

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