純粋な水はほとんど電気を流さないって知っているか?

しかし水にあるものを溶かして「イオン」を含む「水溶液」にすると、とたんに電気を流すことができるようになるんです。

今回は「水溶液」中の「イオン」について、化学実験を生業にしてきたライターwingと一緒に解説していきます。

ライター/wing

元製薬会社研究員。小さい頃から化学が好きで、実験を仕事にしたいと大学で化学を専攻した。卒業後は化学分析・研究開発を生業にしてきた。化学のおもしろさを沢山の人に伝えたい!

1.水溶液とイオン

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純水はほとんど電気を通しません。しかし、食塩を溶かした水溶液は電気を通します。

なぜこんなことが起こるのでしょうか?それは食塩を溶かした水溶液の中には「イオン」が存在するからです。

ではイオンとはいったい何なのでしょうか?

1-1.イオンとは何か

イオンとはプラスの電気かマイナスの電気を帯びた粒子のことをいいます。

例えば食塩(NaCl)を水に溶かすと、ナトリウムイオン(Na+)と塩化物イオン(Cl)に分かれるのです。

物質がイオンに分かれることを電離といいます。そして食塩(塩化ナトリウム)のように水に溶けると電離する物質を電解質ということを覚えておきましょう。

ナトリウムがイオンになるとプラスの電気を帯びること、塩素がイオンになるとマイナスの電気を帯びることは決まっています。次になぜプラスの(またはマイナスの)電気を帯びるかについて、紐解いていきましょう。

1-2.陽イオンはどうやってできる?

1-2.陽イオンはどうやってできる?

image by Study-Z編集部

ナトリウムがイオンになるとプラスの電気を帯びることは決まっていると説明しました。プラスの電気を帯びるかマイナスの電気を帯びるかは電子配置に関わってきます。

ここで周期表と電子配置を思い出してください。

ナトリウムは原子番号11で、第1族(アルカリ金属元素)第3周期の元素でしたね。電子の数は11個で、1番原子核に近いK殻には2個の電子が入り、2番目に原子核に近いL殻には8個の電子が入り、3番目のM殻には1個の電子が入ります。

最外殻に1個の電子がある電子配置は不安定で、電子を1個失って安定な電子配置になろうとするのです。この最外殻にある1個の電子(価電子)を1つ失う=マイナスの電気を1つ失う事で1価(電子1つ分)の陽イオン(プラスの電気を帯びたイオン)になります。

最外殻の電子が1個であり、1価の陽イオンになりやすいという性質は、アルカリ金属元素に共通の性質だという事を覚えておきましょう。

1-3.陰イオンはどうやってできる?

1-3.陰イオンはどうやってできる?

image by Study-Z編集部

では陰イオン(マイナスの電気を帯びたイオン)はどのようにできるのでしょうか?

塩素原子の例でいうと、塩素は原子番号17で第17族(ハロゲン)第3周期の元素でしたね。電子の数は17個で、1番原子核に近いK殻には2個の電子が入り、2番目に原子核に近いL殻には8個の電子が入り、3番目のM殻には7個の電子が入るのです。

原子は皆、とても安定している第18族(希ガス)の電子配置にあこがれています。塩素原子が希ガスと同じ安定した電子配置になるには、最外殻のM殻にもう1つだけ電子が必要です。

そこでマイナスの電気を帯びた電子を1つ、自分以外のところから持ってきて、くっつけてしまいます。そうすると電子を1つ受け取る=マイナスの電気を1つ得る事で1価(電子1つ分)の陰イオン(マイナスの電気を帯びたイオン)になるのです。

最外殻の電子が7個であり、1価の陰イオンになりやすいという性質は、ハロゲンに共通の性質だという事を覚えておきましょう。

\次のページで「2.イオン式の書き方」を解説!/

2.イオン式の書き方

原子が陽イオンになるには電子を1つ失うことが必要でした。また、原子が陰イオンになるには電子を1つ受け取ることが必要でしたね。

1つ電子を失うと1価の陽イオンになります。このことを元素記号の右上に小さく+と書くことで表します

一方1つ電子を得ると1価の陰イオンになります。このことを元素記号の右上に小さくーと書くことで表します

2-1.イオンをイオン式で表そう

1つの元素からなるイオンを単原子イオンといいます。先ほど出てきたナトリウムイオン、塩化物イオンは単原子イオンです。

ナトリウムイオンは1つ電子を失って1価の陽イオンになるので、「Na+」のように表します。本当は「Na1+」ですが価数の1は省略するのを覚えておきましょう。

1-2.では1価の陽イオンについてしか説明しませんでしたが、最外殻の電子の数が2個3個の場合は、電子を2個や3個失うこともあります。その場合は2価や3価になることもあるのです。

陰イオンについても同様に、最外殻の電子の数が6個や5個の場合は、電子を2個や3個受け取ることもあります。その場合は2価や3価になることもあるのです。

マグネシウム(Mg)はナトリウムより原子番号が1大きく電子が1つ多いので、最外殻の電子を2個失って2価の陽イオンになります。この時は「Mg2+」のように表すのです。

一方陰イオンについては、先ほど出てきた塩化物イオンは電子を1つ受け取って1価の陰イオンになるので、「Cl」のように表します。

硫黄(S)は塩素よりも原子番号が1小さく電子が1つ少ないので、最外殻に電子を2つ受け取って2価の陰イオンになるのです。この硫黄が陰イオンになったものを硫化物イオンと言い「S2-」のように表します。

陽イオンの呼び方は「元素名」+「イオン」ですが、陰イオンの呼び方は「元素名」ー「最後の一文字」+「化物イオン」と少し複雑になるので気をつけましょう。

2-2.多原子イオンのイオン式

単原子イオンは分かりやすいですが、イオンの中には原子が結びついた形でイオンになっているものもあります。原子が複数結びついた形でイオンになっているものを多原子イオンというのです。

多原子イオンは固有の名称を持っていて、よく出てくるものは10種類くらいしかありません。価数も固有のものなのでこの機会に覚えてしまいましょう。

【 陽イオン 】

NH4+ アンモニウムイオン

H3O+ オキソニウムイオン

【 陰イオン 】

OH 水酸化物イオン

NO3 硝酸イオン

HCO3 炭酸水素イオン

CH3COO 酢酸イオン

CO32- 炭酸イオン

SO42- 硫酸イオン

PO43- リン酸イオン

3.イオン化エネルギーと電子親和力

原子は原子核(+)と電子(-)が引き合って成り立っています。

安定になりたいから電子を失ったり受け取ったりしてイオンになるというお話をしてきましたが、引き合っている原子核から電子を1つ取り去るにはエネルギーが必要です。

3-1.イオン化エネルギーとは何か

First ionization energies.png
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最外殻にある電子1個を取り去るのに必要なエネルギーを第一イオン化エネルギーといいます。

イオン化エネルギーが小さい原子は陽イオンになりやすいということです。

イオン化エネルギーは元素に固有の数値があり、上のグラフからわかるように第1族(アルカリ金属)の元素はイオン化エネルギーが小さく陽イオンになりやすいといえます。

\次のページで「3-2.電子親和力とは何か」を解説!/

3-2.電子親和力とは何か

イオン化エネルギーが小さいと陽イオンになりやすいというお話をしました。対して電気的に中性の電子が1価の陰イオンになるときに放出されるエネルギーを電子親和力といいます。

電子親和力が大きい原子は1価の陰イオンになりやすいということです。イオン化エネルギーと同様に電子親和力も元素に固有の数値があり、第17族(ハロゲン)の元素は電子親和力が大きく陰イオンになりやすいといえます。

4.イオン結合とイオン結晶

皆さんは陽イオンが電気的にプラスであることと、陰イオンが電気的にマイナスであることを学びました。ということは、陽イオンと陰イオンは近くにあったら引き合うのではないかという想像をするのは難しくないと思います。

この陽イオンと陰イオンが引き合う静電気的な引力のことをクーロン力というのです。そしてクーロン力で陽イオンと陰イオンが結びつく結合をイオン結合といいます。そしてイオン結合が集まってできた結晶をイオン結晶というのです。

4-1.イオン結晶の成り立ち

ここでイオン結晶がどのようにできるかを、塩化ナトリウムを例にとって解説しましょう。

(1)ナトリウム原子は電子を1つ失い陽イオンに、塩素原子はその電子を受け取り陰イオンなる。

(2)ナトリウムイオン(+)と塩化物イオン(-)がクーロン力で引き合う。

(3)陽イオンと陰イオンが結びつき、イオン結合する。

(4)多数の陽イオンと陰イオンが集まり、次々に結合していく。

(5)陽イオンと陰イオンが規則正しく配列した、イオン結晶ができる。

\次のページで「4-2.イオン結晶の特徴」を解説!/

4-2.イオン結晶の特徴

イオン結晶は融点が高いものが多く、塩化ナトリウムの融点は801℃と高温です。このことからイオン結合は比較的強い結合だとわかります。

しかし、同時に硬いけれど割れやすいという特徴があるのです。プラスの力とマイナスの力が引き合って結合しているところに力が加わると、プラス同士マイナス同士が反発する力に変わって離れやすくなります。

さらに、電気伝導性について大きな特徴があるのです。イオン結合している結晶は固体の状態では電気が流れません。陽イオンと陰イオンが規則正しく並んでいて動けないからです。

しかし、固体を高温で溶かすことにより陽イオンと陰イオンが動くことができるようになり、陽イオンは陰極へ陰イオンは陽極へ動くことにより電気を流します

固体を溶かすよりイメージしやすいのは、水に溶かして水溶液にした場合でしょう。イオン結晶を水に溶かし水溶液にすると、陽イオンと陰イオンが自由に動けるようになり、電気を流すのです

電解質を溶かした「水溶液」中に存在する「イオン」とは原子が電子を失ったり電子を得たりして電荷を帯びた物質のこと

水に電解質を溶かして水溶液にすると、陽イオンと陰イオンに電離します。

安定した電子配置になりたくて、電子を放出しプラスの電荷を帯びた粒子を陽イオンといい、電子を受け取ってマイナスの電荷を帯びた粒子を陰イオンというのです。

イオンはイオン式といって、元素記号の右上に小さく価数と+かーをつけることにより表します。

陽イオンになりやすい元素のイオン化エネルギーは小さく、陰イオンになりやすい元素の電気親和力は大きいです。

陽イオンと陰イオンが結びついた結合をイオン結合といい、イオン結合がたくさん集まってできた結晶をイオン結晶といいます。イオン結晶を水に溶かすと電離し、陽イオンが陰極へ陰イオンが陽極へ移動することにより、電気を流すのです。

" /> 電気を流す「水溶液」の中には「イオン」がある?元研究員がわかりやすく解説 – Study-Z
化学

電気を流す「水溶液」の中には「イオン」がある?元研究員がわかりやすく解説

純粋な水はほとんど電気を流さないって知っているか?

しかし水にあるものを溶かして「イオン」を含む「水溶液」にすると、とたんに電気を流すことができるようになるんです。

今回は「水溶液」中の「イオン」について、化学実験を生業にしてきたライターwingと一緒に解説していきます。

ライター/wing

元製薬会社研究員。小さい頃から化学が好きで、実験を仕事にしたいと大学で化学を専攻した。卒業後は化学分析・研究開発を生業にしてきた。化学のおもしろさを沢山の人に伝えたい!

1.水溶液とイオン

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純水はほとんど電気を通しません。しかし、食塩を溶かした水溶液は電気を通します。

なぜこんなことが起こるのでしょうか?それは食塩を溶かした水溶液の中には「イオン」が存在するからです。

ではイオンとはいったい何なのでしょうか?

1-1.イオンとは何か

イオンとはプラスの電気かマイナスの電気を帯びた粒子のことをいいます。

例えば食塩(NaCl)を水に溶かすと、ナトリウムイオン(Na+)と塩化物イオン(Cl)に分かれるのです。

物質がイオンに分かれることを電離といいます。そして食塩(塩化ナトリウム)のように水に溶けると電離する物質を電解質ということを覚えておきましょう。

ナトリウムがイオンになるとプラスの電気を帯びること、塩素がイオンになるとマイナスの電気を帯びることは決まっています。次になぜプラスの(またはマイナスの)電気を帯びるかについて、紐解いていきましょう。

1-2.陽イオンはどうやってできる?

1-2.陽イオンはどうやってできる?

image by Study-Z編集部

ナトリウムがイオンになるとプラスの電気を帯びることは決まっていると説明しました。プラスの電気を帯びるかマイナスの電気を帯びるかは電子配置に関わってきます。

ここで周期表と電子配置を思い出してください。

ナトリウムは原子番号11で、第1族(アルカリ金属元素)第3周期の元素でしたね。電子の数は11個で、1番原子核に近いK殻には2個の電子が入り、2番目に原子核に近いL殻には8個の電子が入り、3番目のM殻には1個の電子が入ります。

最外殻に1個の電子がある電子配置は不安定で、電子を1個失って安定な電子配置になろうとするのです。この最外殻にある1個の電子(価電子)を1つ失う=マイナスの電気を1つ失う事で1価(電子1つ分)の陽イオン(プラスの電気を帯びたイオン)になります。

最外殻の電子が1個であり、1価の陽イオンになりやすいという性質は、アルカリ金属元素に共通の性質だという事を覚えておきましょう。

1-3.陰イオンはどうやってできる?

1-3.陰イオンはどうやってできる?

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では陰イオン(マイナスの電気を帯びたイオン)はどのようにできるのでしょうか?

塩素原子の例でいうと、塩素は原子番号17で第17族(ハロゲン)第3周期の元素でしたね。電子の数は17個で、1番原子核に近いK殻には2個の電子が入り、2番目に原子核に近いL殻には8個の電子が入り、3番目のM殻には7個の電子が入るのです。

原子は皆、とても安定している第18族(希ガス)の電子配置にあこがれています。塩素原子が希ガスと同じ安定した電子配置になるには、最外殻のM殻にもう1つだけ電子が必要です。

そこでマイナスの電気を帯びた電子を1つ、自分以外のところから持ってきて、くっつけてしまいます。そうすると電子を1つ受け取る=マイナスの電気を1つ得る事で1価(電子1つ分)の陰イオン(マイナスの電気を帯びたイオン)になるのです。

最外殻の電子が7個であり、1価の陰イオンになりやすいという性質は、ハロゲンに共通の性質だという事を覚えておきましょう。

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