
熱化学方程式を読み解く!「ヘスの法則」について元塾講師がわかりやすく解説

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まず反応前をA、中間生成物をB、反応後をCとします。このとき、Aでは 炭素と酸素がそれぞれ存在している状態です。Bでは酸素が十分に反応せず、一酸化炭素と酸素が混在しています。Cでは酸化が進み、二酸化炭素のみ存在している様子です。
また、これらの酸化反応(燃焼)は発熱反応でした。そこで、それぞれの過程と燃焼熱を熱化学方程式で表したものが図の式です。熱化学方程式を書くときのルールとして、式は矢印ではなくイコールで結び、物質の状態を明記すること。物質1molが完全燃焼するときに発生する熱量を記載するために、通常 2C + O2 → 2CO となるところを (1)C(黒鉛) + 1/2O2(気) のようにしています。このときに必要なエネルギー量については必要に応じて覚えましょう。
A→Bにおける熱量(1)とB→Cにおける熱量(2)の合計が、反応が一度にA→Cのように進んだ場合の熱量(3)と等しいのがわかるでしょうか。化学変化に伴う反応熱は反応前後の物質の状態によって決まり、反応経路によって変化しない。これがヘスの法則です。
反応過程がどうであれ、最初の反応物と最終的な生成物が決まっていれば、反応に必要な熱量も決められた値が存在しています。そのために、複数の段階を経て反応させた場合にはそれぞれの段階の熱量の和が一段階で反応させた場合の熱量に等しくなるというわけです。このような図の書き方を覚えておくといいですね。
3.ヘスの法則による応用

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ヘスの法則が実際どんな問題に使われるかが気になりますね。では、こう考えてみましょう。
Aさんは学校が終わって家に帰っている途中です。文房具屋さんで100円のノートを3冊買い、郵便局で500円分の支払いをしました。家についたとき、財布の中には200円残っています。財布にはいくら入っていたといえるでしょうか。
とても簡単な問題ですよね。途中どこに寄り道をしたとしても、全ての過程を足せば合計がわかります。さらに、
Aさんは朝1000円を持って家を出て、学校が終わって家に帰っている途中です。文房具屋さんで100円のノートを3冊買い、郵便局で500円分の支払いをしました。家についたとき、財布の中にはいくら入っているでしょうか。
こう考えても答えは明らかでしょう。かなり簡単な例を出しましたが、ヘスの法則も考え方は全く同じです。反応熱の総和は反応の経路に関係なく、反応の最初と最後の状態だけで決まるということなのですね。
3-1.溶解熱・中和熱で解説

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最後に、水酸化ナトリウムの溶解熱と水酸化ナトリウムと塩酸の中和熱について見ていきましょう。この場合、(1)固体の水酸化ナトリウムを水に溶解して水酸化ナトリウム水溶液をつくる、(2)水酸化ナトリウム水溶液と塩酸水溶液の中和、2つの反応過程があるのがわかりますか?
水酸化ナトリウム(固体)を溶解し、水酸化ナトリウム水溶液を作る反応式から考えてみましょう。水酸化ナトリウムの溶解熱は44.5kJなので、
(1) NaOH(固)+ aq = NaOHaq + 44.5kJ
と表すことができます。水溶液、または溶媒を表すときによくaqという表現を使いますので覚えておきましょう。
続いて、水酸化ナトリウム水溶液と塩酸水溶液の中和についてです。この中和熱は56.5kJなので、
(2) NaOHaq + HClaq = NaClaq + H2O(液) + 56.5kJ
このときの生成物は、中和による塩化ナトリウムと水 H2O、そしてもともと溶媒として存在していた水 aq(物質量は不問)と考えます。これは塩化ナトリウム水溶液ができたのと同じ状態ではありますが、中和によってできた水と区別するために NaClaq + H2O のように分けて書く必要がありますよ。
では水酸化ナトリウム水溶液を作るという工程を省き、固形の水酸化ナトリウムを直接塩酸に溶解したときの反応熱はどうなるでしょうか。
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