酸とアルカリを水に溶かした時の性質の違いってわかるか?

昔の科学者アレーニウスは水に溶けて〇を出す物質が酸で、△を出す物質が塩基だと定義している。この〇と△がずばりイオンなんです。

今回は酸とアルカリについて「イオン」に注目して、化学実験を生業にしてきたライターwingと一緒に解説していきます。

ライター/wing

元製薬会社研究員。小さい頃から化学が好きで、実験を仕事にしたいと大学で化学を専攻した。卒業後は化学分析・研究開発を生業にしてきた。化学のおもしろさを沢山の人に伝えたい!

1.酸とアルカリ

image by iStockphoto

皆さんは酸と言われて何を思い浮かべますか?身近にある食酢やクエン酸は酸ですね。塩酸、硝酸、硫酸は実験室でよく使う酸なので、ご存じの方もいらっしゃるかもしれません。

酸性の水溶液は酸っぱい味がします。さらに金属を溶かす性質があるのです。小学校では青色リトマス紙を赤くする実験をしたかもしれません。これらは酸性の水溶液の特徴です。

ではアルカリ性と言われたら、どんなものがあるでしょう?アンモニア水や石けん水は身近なアルカリ性の物質ですね。

アルカリ性の水溶液は少し苦い味がします。そして赤色リトマス紙を青くする実験をしたかもしれません。また、中性からアルカリ性になるときには、フェノールフタレイン溶液を赤紫色に変色させます。これらはアルカリ性の水溶液の特徴です。

1-1.酸と塩基の定義

1-1.酸と塩基の定義

image by Study-Z編集部

では、酸・アルカリとはどのような物質のことでしょうか?

1884年にアレーニウスという科学者が水に溶けて水素イオン(H+)を出す物質を酸水酸化物イオン(OH)を出す物質を塩基と定義しました。この定義は水溶液中に限られており、他の溶媒中や気体について説明ができません。

そこで、ブレンステッドとローリーという科学者が水素イオンを放出する物質を酸水素イオンを受け取る物質を塩基と定義しました。この二つの定義はとても近い意味ですが、ブレンステッド・ローリーの定義で他の溶媒中や気体の酸塩基反応を説明できるようになったのです。

酸・アルカリとイオンについて説明する時は、主にアレーニウスの定義で説明しますが、ブレンステッド・ローリーの定義もあわせて覚えておきましょう。

1-2.アルカリ性と塩基性

ここでアルカリ性と塩基性という2つの言葉の違いを説明します。

塩基性とは2つの物質を比較して、より酸性が弱いほうを塩基性と呼ぶものです。つまり同じ物質であっても比較対象が違えば酸にも塩基にもなりえます。

これに対してアルカリ性というのは基準が水であり、水より酸性が弱いことをアルカリ性と呼ぶのです。水はpH7なのでこれよりpHが高いものはアルカリ性ということですね。

アルカリ性は水溶液の性質を示す言葉ですが、塩基は水溶液以外でも使います。アルカリ性よりも塩基性の方が少し概念が広いのです。

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2.酸と塩基の電離式

物質がイオンに分かれることを電離といい、水に溶けると電離する物質を電解質といいます。アレーニウスの定義によると、電離して水素イオンを出すもとが酸でしたね。

同じ酸のなかでも、例えば塩酸は電離して水素イオンを1つ出しますが、硫酸は電離して水素イオンを2つ出します。水素イオンを1つ出す酸を1価の酸、水素イオンを2つ出す酸を2価の酸というのです。

この水素イオンをいくつだすのか(=何価の酸であるか)はイオン式を用いて、電離の様子を表した電離式を書くとわかります。では、酸の電離式をいくつか書いて価数を比べてみましょう。

2-1.酸の電離式

HCl → H+ + Cl

塩酸は水素イオン1つと塩化物イオン1つに電離します。それなので1価の酸であるといえますね。

CH3COOH ⇔ H+ + CH3COO

酢酸は水素イオン1つと酢酸イオン1つに電離します。酢酸の4つの水素のうち電離できるのは1番右端の水素だけと決まっているのです。酢酸は1つの水素イオンを放出する1価の酸といえます。⇔なのは酢酸は弱酸で一部の分子しか電離せず、反応が左向きにも進むことを表しているのです。本当は→と←を上下に重ねて書きます。

H2SO4 → 2H+ + SO42-

硫酸は水素イオン2つと硫酸イオンに電離するので、2価の酸です。

H2CO3 ⇔ 2H+ + CO32-

炭酸は水素イオン2つと炭酸イオンに電離します。おなじく2価の酸です。

2-2.塩基の電離式

NaOH → Na+ + OH

水酸化ナトリウムはナトリウムイオン1つと水酸化物イオン1つに電離します。それなので1価の塩基です。

Ca(OH)2 → Ca2+ + 2OH

水酸化カルシウムはカルシウムイオン1つと水酸化物イオン2つに電離します。なので2価の塩基ですね。

NH3 + H2O ⇔ NH4+ + OH

アンモニアは分子式にOHを持ちませんが、水と反応して水酸化物イオンを1つ出すので1価の塩基です。

3.電離度と強弱

3.電離度と強弱

image by Study-Z編集部

電離式を書いてわかった通り、塩酸と酢酸はどちらも1価の酸です。しかし、同じ濃度の塩酸と酢酸に同じ量のマグネシウム片を入れると、塩酸の方が激しくマグネシウム片を溶かし水素を発生します。

なぜこのような違いがあるのでしょうか。例えば同じ1価の酸でも、水溶液中で陽イオンと陰イオンが離れやすいものと離れにくいものがあります。塩酸は水溶液中でH+とClがほぼ完全に離れているのに対して、酢酸はH+とCH3COOがごく一部しか離れていないために、水溶液中の水素イオン濃度にかなりの差があるのです。

水溶液中でほぼ完全に電離している酸を強酸、一部しか離れていない酸を弱酸といいます。同様に、水溶液中でほぼ完全にイオン化している塩基を強塩基、一部しかイオン化していない塩基を弱塩基とよぶのです。

この溶解した酸や塩基の量に対する、イオン化した酸や塩基の割合を電離度といいます。同じ濃度の酸や塩基も電離度を比べることでどちらの酸(または塩基)が強いか弱いか知ることができるのです。

\次のページで「4.中和反応とイオン」を解説!/

4.中和反応とイオン

酸から生じる水素イオン(H+)と、塩基から生じる水酸化物イオン(OH)が反応して、水が生成する反応を中和反応といいます。この時に残ったイオン同士が結びついて塩(えん)を生じるのです。

これを化学反応式で表すと

HCl + NaOH → H+ + Cl + Na+ + OH → NaCl + H2O

塩酸(酸)と水酸化ナトリウム(塩基)を混ぜ合わせたとき、塩化ナトリウム(塩=えん)と水が生成します。

4-1.中和反応の化学反応式を書いてみよう

このように酸と塩基がイオンに電離して、水と塩(えん)ができるという事がわかっていれば、様々な酸と塩基が中和する化学反応式を書くことができます。

問題 硫酸(H2SO4)に水酸化バリウム(Ba(OH)2)水溶液を加えて、完全に中和した時の化学反応式を書きましょう。

まず、酸と塩基それぞれの電離式を書きます。

H2SO4 → 2H+ + SO42-

Ba(OH)2 → Ba2+ + 2OH

中和するという事はH+OHを過不足なく反応させたいのですが、この酸と塩基の電離式はH+OHの係数がそろっているので、このまま上の式と下の式を足しましょう。

H2SO4 + Ba(OH)2 → 2H2O + BaSO4

硫酸(酸)と水酸化バリウム水溶液(塩基)が完全に中和したら、水と硫酸バリウム(塩=えん)ができました。

問題 塩酸(HCl)に水酸化カルシウム(Ca(OH)2)水溶液を加えて、完全に中和した時の化学反応式を書きましょう。

まず、酸と塩基それぞれの電離式を書きます。

HCl → H+ + Cl

Ca(OH)2 → Ca2+ + 2OH

中和するという事はH+OHが過不足なく反応させたいのですが、この酸と塩基の電離式はH+OHの係数がそろっていません。そこで、酸の電離式の両辺を整数倍します。塩基のOHの係数が2なので、酸の電離式の両辺を2倍しましょう。

2HCl → 2H+ + 2Cl

これで、H+とOH-の係数がそろったので、酸と塩基の電離式を足して水と塩をつくりましょう。

2HCl + Ca(OH)2 → 2H2O + CaCl2

塩酸(酸)と水酸化カルシウム水溶液(塩基)が完全に中和したら、水と塩化カルシウム(塩=えん)ができました。

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「酸」とは水素イオンを出す物質で、「塩基」とは水酸化物イオンを出す物質のこと

1884年アレーニウスが、酸は水に溶けて水素イオンを出す物質で、塩基は水に溶けて水酸化物イオンを出す物質と定義しました。

酸・塩基がイオンに分かれて(電離して)水素イオン・水酸化物イオンをいくつだすのかを価数と言います。

物質が電離する様子を、イオン式を用いた電離式を書いて表すと、価数と酸か塩基かを知ることができるのです。

また中和の化学反応式も、酸と塩基の電離式をもちいて水素イオンと水酸化物イオンの係数を合わせることで、スムーズに書くことができます。

" /> 「酸」と「アルカリ」が出す「イオン」について元研究員がわかりやすく解説 – Study-Z
化学

「酸」と「アルカリ」が出す「イオン」について元研究員がわかりやすく解説

酸とアルカリを水に溶かした時の性質の違いってわかるか?

昔の科学者アレーニウスは水に溶けて〇を出す物質が酸で、△を出す物質が塩基だと定義している。この〇と△がずばりイオンなんです。

今回は酸とアルカリについて「イオン」に注目して、化学実験を生業にしてきたライターwingと一緒に解説していきます。

ライター/wing

元製薬会社研究員。小さい頃から化学が好きで、実験を仕事にしたいと大学で化学を専攻した。卒業後は化学分析・研究開発を生業にしてきた。化学のおもしろさを沢山の人に伝えたい!

1.酸とアルカリ

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皆さんは酸と言われて何を思い浮かべますか?身近にある食酢やクエン酸は酸ですね。塩酸、硝酸、硫酸は実験室でよく使う酸なので、ご存じの方もいらっしゃるかもしれません。

酸性の水溶液は酸っぱい味がします。さらに金属を溶かす性質があるのです。小学校では青色リトマス紙を赤くする実験をしたかもしれません。これらは酸性の水溶液の特徴です。

ではアルカリ性と言われたら、どんなものがあるでしょう?アンモニア水や石けん水は身近なアルカリ性の物質ですね。

アルカリ性の水溶液は少し苦い味がします。そして赤色リトマス紙を青くする実験をしたかもしれません。また、中性からアルカリ性になるときには、フェノールフタレイン溶液を赤紫色に変色させます。これらはアルカリ性の水溶液の特徴です。

1-1.酸と塩基の定義

1-1.酸と塩基の定義

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では、酸・アルカリとはどのような物質のことでしょうか?

1884年にアレーニウスという科学者が水に溶けて水素イオン(H+)を出す物質を酸水酸化物イオン(OH)を出す物質を塩基と定義しました。この定義は水溶液中に限られており、他の溶媒中や気体について説明ができません。

そこで、ブレンステッドとローリーという科学者が水素イオンを放出する物質を酸水素イオンを受け取る物質を塩基と定義しました。この二つの定義はとても近い意味ですが、ブレンステッド・ローリーの定義で他の溶媒中や気体の酸塩基反応を説明できるようになったのです。

酸・アルカリとイオンについて説明する時は、主にアレーニウスの定義で説明しますが、ブレンステッド・ローリーの定義もあわせて覚えておきましょう。

1-2.アルカリ性と塩基性

ここでアルカリ性と塩基性という2つの言葉の違いを説明します。

塩基性とは2つの物質を比較して、より酸性が弱いほうを塩基性と呼ぶものです。つまり同じ物質であっても比較対象が違えば酸にも塩基にもなりえます。

これに対してアルカリ性というのは基準が水であり、水より酸性が弱いことをアルカリ性と呼ぶのです。水はpH7なのでこれよりpHが高いものはアルカリ性ということですね。

アルカリ性は水溶液の性質を示す言葉ですが、塩基は水溶液以外でも使います。アルカリ性よりも塩基性の方が少し概念が広いのです。

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