金を打ち延ばして作られた「金箔」を見たことがあるでしょう。金属を叩いたとき、簡単に破壊されずに変形する性質を「展性」という。この性質を引き起こす、金属に特徴的な原子の結合について学習していこう。

薬学部出身の主婦ライターarpeggioと一緒に解説していきます。

ライター/Study-Z編集部

高校2年生でようやく理系の勉強に着手して以来、特に化学の面白さの虜になり、薬学部へ。最近は学術業務を続ける傍ら、自分の子どもやその友達と、身近なものを使った実験を楽しんでいる。

1. 展性の定義

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今回の主題である「展性(てんせい)」について、辞書で言葉の定義を見てみましょう。

加圧によって破壊することなく、箔(はく)(フォイル)のように平面に広げられる性質。金、スズ、銅、アルミニウムのように金属には展性のよいものが多くある。延性とあわせて展延性ということもある。(以下略)

   ー小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)

打撃または圧延により、破壊することなく平面的に広げられる性質。一般に展性に富む物質には軟らかいものが多い。金、スズ、アルミニウムなどはそれぞれ箔(はく)として広く実用に供されている。

   ―森北出版「化学辞典(第2版)」

2. 金属の性質

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iseri - http://www.chiba-kc.ac.jp/user/~iseri/siryo/atom.pdf, CC 表示-継承 4.0, リンクによる

「金属」を周期表で見るとどのあたりにあるか、復習してみましょう。

図の黄緑色の部分がいわゆる金属元素です。全体の約8割!意外と多いと感じられる方もいらっしゃるかも知れませんね。

それではまず、金属に共通する性質を見てみましょう。主に以下の4つが挙げられます。

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 1) 展性・延性をもつこと

 2) 熱・電気の良導体であること

 3) 特有の金属光沢をもつこと

 4) 水溶液中で陽イオンになること

「展性」が出てきましたね。

上記に加え、水銀を除く金属は常温で固体であることも併せて覚えておきましょう。

2-1. 金属結合と自由電子

2-1. 金属結合と自由電子

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一般に、原子が孤立しているときは、電子は原子核の周囲に存在していますよね。

金属結晶では多数の原子が規則正しく、格子状に非常に密集して並んでおり、お互いの複数の電子殻が重なり合ってつながっています。つまり、陽イオンとなっている原子の周りを、マイナス電荷をもった電子(自由電子)が、つながった電子殻を伝って自由に原子間を移動できるのです。

金属では、自由電子の動きによって熱や電流を伝えることが可能であったり(熱伝導・電気伝導)、また入射した可視光が自由電子によって吸収・再放出されることで金属全体が反射しているように見えたり(金属光沢)します。

自由電子の存在は、金属の性質における大きなポイントです。

2-2. たたかれると薄くのびる理由

Kinzoku999.jpg
利用者:Babi Hijau - 自作 ※キモチワルイぶつぶつにしかならなかった。グラフィックに長けた方に作成、差し替えをお願いしたい。, パブリック・ドメイン, リンクによる

図は、外部の力が加わった際の、イオン結合と金属結合に起こる差異です。

イオン結合の物質では通常、外部から力が加わって原子の並びにずれが生じた場合、静電反発が起こって、砕けてしまいます。

これに対して金属では、原子の並びが動いた際に、原子核の周りを取り囲む自由電子も動くため、原子間の結合が切れることなく、ずれることができるのです。

\次のページで「2-3. 展性の大きな金属」を解説!/

2-3. 展性の大きな金属

Kanazawa Gold Factory.jpg
Eckhard Pecher - 投稿者自身による作品, CC 表示 2.5, リンクによる

展性の最も大きな金属は「」です。

金属を叩きのばして作る箔がどこまで薄くできるかには文献により諸説ありますが、金沢の金箔職人さん達が叩いて作る金箔は薄さ0.01マイクロメートル(1万分の1ミリメートル)程度の厚みとされています。重さ約2gの金を、畳1枚分まで延ばすことができるそうです!

主な金属を展性の大きい方から順に挙げると、金、銀、鉛、銅、アルミニウム、スズ、白金、亜鉛、鉄、ニッケルとなります。

3. 実用例

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以上で見てきたように、金属は特徴的な結合(金属結合)により、展性を持っています。展性の大きな金属は、その性質を活かしてさまざまな場面で応用されていますので、一緒に見ていきましょう。

3-1. 金・銀

金や銀は特にその美しさで古来より人気があります。展延性により自在に変形ができるため、貴金属のアクセサリーとして非常に多く使われていますよね。

金は万年筆のペン先にも使われています。これは成形しやすい展延性、インクに対する耐薬品性、そして紙との摩擦に耐えうる強度を兼ね備えているからだそうです。

銀は展延性に加え、腐食・酸化しにくい、融解点が非常に高い(961.8度)、他の貴金属より入手しやすいなどの理由から、工業用・電気関連に多く使われています。例えば、自動車のリアウィンドウに貼ってある電熱線にも銀が使われているそうですよ。

3-2. 鉄

鉄はその入手と加工のしやすさから、鉄器時代より道具を作る用材として重宝されています。現在では、人間が利用している全金属の9割を占めるとのことです。

鉄に合金元素を加えて鋼とすることで、更に目的に適した強度に調節し、機械や建造物の構造用部材など幅広く使われているのはご存知の通りかと思います。

先述した、展性の起こる仕組みを思い浮かべてください。異種の金属を加えると、元の純粋な金属であったときと比べて、外部からの力に応じて生じる結合面のずれはどうなるでしょうか?

一般的に、合金ではずれが抑えられて変形しにくくなります。つまり展性は下がり、硬度を上げることが出来るため、様々に応用できるのですね。

3-3. アルミニウム

アルミニウムの比重は2.7。鉄(7.8)や銅(8.9)の約1/3という軽さです。展延性に優れるほか、他の金属に比べて腐食しにくく、融点が低い(660.3度)ため、使用後の製品を溶かして再生できるという利点もあります。

日本アルミニウム協会のホームページによると、本邦での主な用途は約4割が輸送用機械の製造、次いで約1割がアルミサッシなどの建築用途だそうです。

また、アルミニウム製のお鍋やアルミ箔(ホイル)を思い浮かべる方もいるのではないでしょうか。展延性を持つことに加え、軽くて丈夫かつ熱伝導性に優れているという特性が、調理の場面でも便利に使われてきた所以です。

※上記はほんの一例です。ご承知の通り、金属は非常に多くの種類があり、そして実用化されています。

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展性とは、金属等を打撃/圧延した際に、破壊せず平面的に広げられる性質

金属に力を加えたときに壊れず柔軟に変形できる理由は、多数の原子が「自由電子」によって結びついているためであることを学習しました。

展性が一番大きい金属は金、次いで銀、鉛、銅、アルミニウムです。別記事「延性」と合わせて押さえておいてくださいね。

" /> 金属の「展性」ってどんな性質?化学好き主婦がわかりやすく解説! – Study-Z
化学無機物質理科

金属の「展性」ってどんな性質?化学好き主婦がわかりやすく解説!



金を打ち延ばして作られた「金箔」を見たことがあるでしょう。金属を叩いたとき、簡単に破壊されずに変形する性質を「展性」という。この性質を引き起こす、金属に特徴的な原子の結合について学習していこう。

薬学部出身の主婦ライターarpeggioと一緒に解説していきます。

ライター/Study-Z編集部

高校2年生でようやく理系の勉強に着手して以来、特に化学の面白さの虜になり、薬学部へ。最近は学術業務を続ける傍ら、自分の子どもやその友達と、身近なものを使った実験を楽しんでいる。

1. 展性の定義

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今回の主題である「展性(てんせい)」について、辞書で言葉の定義を見てみましょう。

加圧によって破壊することなく、箔(はく)(フォイル)のように平面に広げられる性質。金、スズ、銅、アルミニウムのように金属には展性のよいものが多くある。延性とあわせて展延性ということもある。(以下略)

   ー小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)

打撃または圧延により、破壊することなく平面的に広げられる性質。一般に展性に富む物質には軟らかいものが多い。金、スズ、アルミニウムなどはそれぞれ箔(はく)として広く実用に供されている。

   ―森北出版「化学辞典(第2版)」

2. 金属の性質

「金属」を周期表で見るとどのあたりにあるか、復習してみましょう。

図の黄緑色の部分がいわゆる金属元素です。全体の約8割!意外と多いと感じられる方もいらっしゃるかも知れませんね。

それではまず、金属に共通する性質を見てみましょう。主に以下の4つが挙げられます。

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