材料を引き延ばしたとき、簡単に破断されずに柔軟に延ばすことが出来る性質を「延性」といい、特に金属に共通して見られる。この性質を引き起こす、金属に特徴的な原子の結合について学習していこう。

薬学部出身の主婦ライターarpeggioと一緒に解説していきます。

ライター/Study-Z編集部

高校2年生でようやく理系の勉強に着手して以来、特に化学の面白さの虜になり、薬学部へ。最近は学術業務を続ける傍ら、自分の子どもやその友達と、身近なものを使った実験を楽しんでいる。

1. 延性の定義

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まず、今回のキーワードである「延性(えんせい)」について、辞書で言葉の定義を見てみましょう。

ちなみに、延性(および展性)は可塑性の一つであることを念頭にお読みください。

可塑性とは外力を加えて変形させ、外力を除くと元の寸法に戻らず変形する物質の性質のことで、元の寸法に戻る性質は弾性とよびます。

塑性の一種で、材料の延ばしやすさをいう。これを示すもっとも一般的な方法は、断面形状一定の丸棒や板の試験片を軸方向に一定速度で引っ張り、破壊後の延び量で示すことである。純金属は一般に延性が大きい。(以下略)

   ー小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)

材料が破壊に至るまでに変形しうる塑性ひずみ量をいう。このためには変形方法、試験片を定義しなければ数値的な比較ができない。(中略)丸棒試験片の場合は、直径が2~3mmから20~30mmの場合は幾何学的に相似の試験片ならば相似則が成立するので、数値的な比較も可能である。(以下略)

   ―森北出版「化学辞典(第2版)」

2. 金属に共通する代表的な性質

Atom(ver.2018.06).jpg
iseri - http://www.chiba-kc.ac.jp/user/~iseri/siryo/atom.pdf, CC 表示-継承 4.0, リンクによる

「金属」を周期表で見るとどのあたりにあるか、改めて復習してみましょう。

図の黄緑色の部分がいわゆる金属元素です。元素全体の約8割!意外と多いと感じられる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

金属に共通する性質にどのようなものがあるか、すぐに思い浮かびますか?主に以下の4つが挙げられます。

\次のページで「3. 金属結晶の構造」を解説!/

1) 展性・延性をもつこと

2) 熱・電気の良導体であること

3) 特有の金属光沢をもつこと

4) 水溶液中で陽イオンになること

今回のキーワード「延性」が出てきましたね。展性と一緒にまとめて「展延性」とよばれることも多くあります。

上記に加え、水銀を除く金属は常温で固体であることも併せて覚えておきましょう。

3. 金属結晶の構造

金属の性質である「延性」そのものを説明する前に、まず金属結晶の構造について見てみることにしましょう。

単体金属は多数の原子が規則正しく、格子状に非常に密集して並んでいます。

・面心立方格子構造

FCC crystal structure.svg
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図は面心立方格子構造といい、単位格子の各頂点および各面の中心に原子が位置する構造です。

面心立方格子構造をとる単体金属は多く、アルミニウム、カルシウム、鉄、ニッケル、銅、金、銀、白金、鉛などが該当します。

・体心立方格子構造

BCC crystal structure.svg
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こちらは体心立方格子構造といい、立方体形の単位格子の各頂点と中心に原子が位置する構造です。

リチウム、ナトリウム、カリウム、鉄などが該当します。

\次のページで「・六方最密充填構造」を解説!/

・六方最密充填構造

HCP crystal structure.svg
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六方最密充填構造は、一般に正六角柱で表します。充填率は面心立方格子構造と等しいのですが、別の構造です。

この構造をとる金属には、マグネシウム、チタン、コバルト、亜鉛、ジルコニウムなどがあります。

4. 金属結合と電子

一般に、原子が孤立しているときは、電子は原子核の周囲に存在していますよね。

金属結晶では、各原子が密集しているため、以下のようなことが起こります。

・自由電子とは

・自由電子とは

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先述のとおり、金属結晶では多数の原子が規則正しく格子状に密集して並び、お互いの複数の電子殻が重なり合ってつながっています。つまり、陽イオンとなっている原子の周りを、マイナス電荷をもった電子(自由電子)が、つながった電子殻を伝って自由に原子間を移動できるのです。

自由電子の存在は、金属の性質における大きなポイントですので、しっかり押さえておきましょう。

・展延性と自由電子

金属では、周りの電子殻を伝って自由電子が自由に移動しているため、外部から加わった力によって原子の並びが動いた際に、原子核の周りを取り囲む自由電子も動くため、原子間の結合が切れることなく、ずれることができるのです。

・展延性以外の金属の性質と自由電子

電気の伝導性

金属が、固体でも電気を通すことはご存知ですよね。これはマイナスの電荷をもった自由電子が動きまわれるため、陰極から陽極へ電荷を運ぶことができることにより、電流が流れるのです(※電子の流れと電流の流れとは逆ですので注意してください)。

熱の伝導性

また、多くの金属で熱をよく伝導しますが、これも自由電子のはたらきによります。熱の伝道は電子や原子が振動し、その運動エネルギーとして伝わりますよね。自由電子を持たない物質では、原子の振動が隣接する他の原子へと徐々に伝わることで熱を伝えるのに対し、金属では自由電子の振動でも熱を伝えることができるのです。

金属光沢

えっ、金属光沢も自由電子のはたらきがあるのかと思いませんでしたか?これも実は、入射した可視光が自由電子によって吸収・再放出されることで金属全体が反射しているように見えている現象なのですよ。

どの性質も、「自由電子」をキーワードにすると覚えやすいですね。

5. 延性の利用

主な金属を延性の大きい方から順に並べると、白金、鉄、ニッケル、銅、アルミニウム、亜鉛、スズ、鉛です。

延性を利用してどのようなものが作られているか、改めて考えてみると、細い銅線や針金から、さらには太くて長いワイヤーロープなど、金属を引き延ばして使っているものが沢山思い浮かぶかと思います。

中でもワイヤーロープはクレーンや送電線、ロープウェイなどで使われ、適切な強度を備えていることがが不可欠ですよね。

一般に、合金は単体金属の結晶構造に比べて硬くなり、展延性が低下しますが、鋼鉄を引き延ばすと一方向に材料の構造を整い、より強度が増すという性質があります。引き延ばして強度を増したワイヤーを寄り合わせて、その寄り合わせたワイヤーを更に寄り合わせて太いワイヤーロープを作っていくことで、同じ断面積の1本のワイヤーに比べて強度を倍以上に増すことが出来るそうですよ。

\次のページで「延性とは、金属等が破壊せず延びることのできる性質」を解説!/

延性とは、金属等が破壊せず延びることのできる性質

金属に力を加えたときに壊れず柔軟に変形できる理由は、多数の原子が「自由電子」によって結びついているためであることを学習しました。

延性が一番大きい金属は金、次いで銀、白金、鉄、ニッケルです。別記事「展性」と合わせて押さえておいてくださいね。

" /> 金属の「延性」ってどんな性質?化学好き主婦がわかりやすく解説! – Study-Z
化学無機物質理科

金属の「延性」ってどんな性質?化学好き主婦がわかりやすく解説!



材料を引き延ばしたとき、簡単に破断されずに柔軟に延ばすことが出来る性質を「延性」といい、特に金属に共通して見られる。この性質を引き起こす、金属に特徴的な原子の結合について学習していこう。

薬学部出身の主婦ライターarpeggioと一緒に解説していきます。

ライター/Study-Z編集部

高校2年生でようやく理系の勉強に着手して以来、特に化学の面白さの虜になり、薬学部へ。最近は学術業務を続ける傍ら、自分の子どもやその友達と、身近なものを使った実験を楽しんでいる。

1. 延性の定義

image by iStockphoto

まず、今回のキーワードである「延性(えんせい)」について、辞書で言葉の定義を見てみましょう。

ちなみに、延性(および展性)は可塑性の一つであることを念頭にお読みください。

可塑性とは外力を加えて変形させ、外力を除くと元の寸法に戻らず変形する物質の性質のことで、元の寸法に戻る性質は弾性とよびます。

塑性の一種で、材料の延ばしやすさをいう。これを示すもっとも一般的な方法は、断面形状一定の丸棒や板の試験片を軸方向に一定速度で引っ張り、破壊後の延び量で示すことである。純金属は一般に延性が大きい。(以下略)

   ー小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)

材料が破壊に至るまでに変形しうる塑性ひずみ量をいう。このためには変形方法、試験片を定義しなければ数値的な比較ができない。(中略)丸棒試験片の場合は、直径が2~3mmから20~30mmの場合は幾何学的に相似の試験片ならば相似則が成立するので、数値的な比較も可能である。(以下略)

   ―森北出版「化学辞典(第2版)」

2. 金属に共通する代表的な性質

「金属」を周期表で見るとどのあたりにあるか、改めて復習してみましょう。

図の黄緑色の部分がいわゆる金属元素です。元素全体の約8割!意外と多いと感じられる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

金属に共通する性質にどのようなものがあるか、すぐに思い浮かびますか?主に以下の4つが挙げられます。

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