日本史

奈良時代の日本の仏教に戒律を伝えた「鑑真」を歴史オタクがわかりやすく5分で解説

3.授戒の儀式を行った鑑真

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戒律と鑑真の「四分律」

やっとの思いで日本にやってきた鑑真。苦難の連続を乗り越えての壮大な旅でしたが、ここで最初の目的を思い出してください。……そう、「授戒」です。お経も読めないような僧尼を簡単に増やさないために、僧侶になる儀式「授戒」を荘重なものにあらためるためにやってきたのでした。

この「授戒」で授けられる「戒律」。もう少し詳しく解説すると、戒律はそもそも生前のお釈迦様(ガウタマ・シッダールタ)が定めた弟子と信徒の心得や教団の規則のことです。「不殺生(殺してはいけない)」や「不偸盗(盗んではいけない)」など、聞いたことがありませんか?この他にもたくさんの心得があります。

鑑真の戒律は「四分律」といって、現代だと律宗がよりどころにしているものです。これは人々を、比丘(男性の僧侶)、比丘尼(女性の僧侶)、優婆塞(男性の信徒)、優婆夷(女性の信徒)の四種類に分けて、それぞれに戒律を説きました。比丘は250項目、比丘尼は348項目もの戒律があるんですよ。

「天下の三戒壇」の設立

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戒律をうけ、宣誓することで人は僧尼となりました。僧尼になることを「得度」いい、これは「仏陀の悟りの世界に渡(度)り得る」という意味です。ちなみに、日本で一番最初に得度したのは584年(飛鳥時代)の三人の女性だったんですよ。

しかし、ここで本当に重要なのは、受戒することによって仏に守護されるようになるということ。僧尼はその守護の力によって僧尼は国や人々を守り、五穀豊穣の祈りを捧げるのです。これが「鎮護国家」の思想で一番大事なところなんですね。だから、お経も読めない不心得者を僧尼にしていてはいけないんです。

さて、授戒の儀式を行う場所を「戒壇」、そのための建物を「戒壇院」といいます。鑑真は戒師として活動を始めるため、翌年の755年に平城京にある東大寺に戒壇院を建て、そのあとに九州の大宰府は観世音寺と栃木県下野市の下野薬師寺にひとつずつ戒壇院をつくりました。これらを合わせて「天下の三戒壇」といいます。

以降、日本の僧尼は「自誓受戒」で得度したあと、「天下の三戒壇」のどこかで授戒の儀式をうければ正式な僧尼と認められるようになったのです。細かく説明すると、まず自誓受戒して出家した人(この時点では見習い僧という扱い)は、その数年後に三戒壇へ行く旨を治部省へ申請します。それを治部省が太政官に届けて許可をもらったあと、三戒壇で儀式を受ければ「戒牒」という受戒の証明書がもらえました。それで国家に認められた僧尼となれるのです。こうして間に役所が入ると、いよいよ国家のための僧侶という感じがしますね。

鑑真最期の地、唐招提寺

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Saigen Jiro投稿者自身による作品, CC0, リンクによる

鑑真は仏教の他、彫刻や医薬の知識も豊富に持っていて、出し惜しみせずそれも日本人に伝えてくれます。また、戒壇だけでなく、貧民や孤児を救うため「悲田院」という施設を作ったりと、人々のためにたくさんのことをしてくれたんです。

758年に鑑真は唐招提寺を創建し、来日10年目の763年にそこで亡くなられました。鑑真の死を惜しんだ弟子の忍基は、鑑真の彫刻「乾漆鑑真和上坐像」をつくり、今でも唐招提寺に安置されています。

消えた戒壇設立の功績

ところで、当時を書き記した歴史書『続日本紀』には鑑真の記事は少ししかありません。754年に大僧都に任命されてはいますが、二年後には解任されたということだけで、「鑑真が戒壇を設立した」という記事はどこにもないんですね。この原因は、朝廷は大乗仏教の経典『梵網経』を重視していたのに対し、鑑真の「四分律」は上座部仏教の一派に伝承されたものだったからだと考えられます。

ざっくり上座仏教と大乗仏教について説明すると、「大乗仏教」は修行している僧侶が己ひとりではなく、生きとし生けるものすべてが救われるという考えです。逆に「上座部仏教」は戒律重視、修行したものだけが悟りを開き、救われるというものでした。同じ仏教でもかなり違うでしょう?宗教も行き過ぎると戦争の火種になることがありますから、淡海三船の『唐大和上東征伝』は非常に希少な史料と言っても過言ではありません。

不屈の聖人 鑑真

10年という長い間あきらめず、失明してまで日本にやってきて授戒の儀式を授けてくれた鑑真。今でこそ教科書に載る名前ですが、長い間その功績は忘れ去られていました。昭和となってから井上靖の小説『天平の甍』とその映画によって広く日本で知られることとなったのです。

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