化学の基礎の基礎、物質の分類はきちんと理解しているか?物質は混合物と純物質に分類でき、純物質はさらに化合物と単体に分けることができる。

ところで化学の実験によく出てくる塩酸はどれに分類されるかわかるか?今回は塩酸がどんな物質であるかその分類や性質を国公立大学大学院で化学を学んだというたかはしふみかが解説していきます。

ライター/たかはし ふみか

高校生の時は化学部に所属し、大学院では化学を専攻し新エネルギーに関する研究を行う。化学部にいた頃はエクセルの式が使いこなせず電卓で計算していたが、部活を通してデータ処理や研究発表について勉強した経験が大学で役に立った。塩酸といえば大学の学生実験で体積計算で苦労したことを思い出すリケジョ。

物質の分類のおさらい

物質の分類のおさらい

image by Study-Z編集部

まずは物質の分類についておさらいしましょう。

物質は純物質混合物に分けられます。化学式で表すことのできるのが純物質で、2種類以上の純物質が混ざった状態の物質が混合物です。純物質には1種類の元素でできた単体と、2種類以上の元素が合わさってできた化合物があります。

空気を例に考えてみましょう。空気は窒素や酸素、二酸化炭素などが混ざった混合物です。そして窒素や酸素は1種類の元素からできている分子なので単体になり、炭素と酸素が化合してできた二酸化炭素は化合物となります。物質の分類についてはこの内容を理解できればOKです。

塩酸はどれに分類される?

では塩酸は混合物、化合物、単体のどれに分類されているのでしょうか?正解は混合物。なぜなら塩酸は塩化水素の水溶液だからです。

理科の実験でおなじみの薬品瓶に入った塩酸は濃度35~37%のものが一般的ですが、用途によって他の濃度のものも販売されています。明確な定義があるわけではありませんが、35~37%の塩酸を濃塩酸と呼び、それを希釈したものを希塩酸と呼ぶことが多いです。25%以上の濃度の塩酸には発煙性があり、うっすら白い煙が上がっています。

ちなみに、10%を超える濃度の塩酸が入った製剤は劇物に指定されていて、その取り扱いには注意が必要です。家庭用の洗剤にも塩酸が入っているものがありますが、その濃度は10%以下となっています。

これを読めば塩酸が分かる!塩酸に関する知識

塩化水素の性質

上で説明したように塩酸は塩化水素の水溶液です。塩化水素は塩素と水素が化合してできた、ハロゲン化水素の1種になります。塩化水素は常温では気体の状態で、その沸点はー85℃。色は無色で水に溶けると強酸となります。刺激臭があることも塩化水素の特徴です。

アンモニアと反応して塩化アンモニウムを作り、白煙が生じます。

塩酸を作るのに欠かせない、塩化水素の作り方

塩酸を作るにはまず、塩化水素を作る必要があります。塩化水素の合成法としては以下の方法が一般的です。

\次のページで「塩酸の歴史と利用方法」を解説!/

工業的製法
工場でなどで塩化水素を大量に作る場合、まず濃い食塩水を電気分解して塩素と水素のガスを発生させます。そして塩素と水素から塩化水素を合成するのです。

H2Cl22HCl

実験室的製法
塩化水素は意外にも実験室でも簡単に発生させることができます。塩化ナトリウムと硫酸を加えて加熱すると、塩化水素が発生するのです。塩化水素は空気より重たく水によく溶けるので、下方置換法で集めます。

NaCl+H2SO4→NaHSO4HCl

塩酸の歴史と利用方法

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塩酸の歴史は古く、800年頃に食塩と硫酸から合成する方法が発見されたそうです。塩酸は医薬、農薬の合成など工業的にも幅広く利用されていますが、家庭用洗剤にも含まれています。いわゆる酸性洗剤ですね。酸性洗剤は水垢やイレの尿石を落とすのに適した洗剤ですが、塩素系洗剤と混ぜると塩素が発生してしまうので注意が必要です。

塩酸を使った実験

ここで塩酸を使う実験を紹介していきます。

イオン化傾向と塩酸  水素の発生

金属の反応しやすさはイオン化傾向で決まります。イオン化傾向が大きく反応しやすい金属は空気中でも酸化されますが、イオン化傾向が小さいほど酸化されづらくなるのです。金属はそのイオン化傾向によって塩酸と反応できるものや、濃塩酸と濃硝酸を3:1で混合した王水にのみに溶ける金属などがあります。

イオン化傾向は電池や金属の析出を理解するのに大切な単元のひとつです。機会があればぜひ、実験に挑戦してみてくださいね。

アルカリ性を中性に、中和滴定

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塩化水素はひとつの分子からひとつの水素がでる、1価の酸です。酸である塩酸は、アルカリ性の溶液を中和させることができます。中和滴定は高校化学で行われる定番の実験のひとつで、中和に必要な酸やアルカリの量や濃度の求める問題や、中和滴定に用いるのに適切な指示薬に関する問題などは良くテストや入試にも頻出です。特に濃度計算などは受験だけでなく、大学での実験にも必要なのできちんと理解してくださいね。

楽しく安全に実験するために気を付けたい!実験するときのポイント

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ここで実験をするときの注意や、塩酸がかかったときの対処方法をご紹介します。実験を行う時は以下の事に気を付けましょう。

\次のページで「もし塩酸がかかったら」を解説!/

白衣を着用し手袋をすること、必要に応じてマスクや保護ゴーグルをつける(危険な薬品が肌や服につくのを防ぐため)

長い髪は結ぶ(薬品についたりして危険だから)

机の上に不要なものは置かない(器具や薬品瓶を倒したり割れたりして危険だから)

実験の手順を確認してから始める(手間取ってしまい、失敗しやすくなる)

ひとりではやらない(事故が起きたときに気付いてもらえ、素早く対処できるから)

もし塩酸がかかったら

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実験を始める前に操作手順と使う薬品がかかってしまったときの対処方法は必ず確認しましょう。もし塩酸がかかってしまったら、以下の応急措置をすぐに行ってください。

目に入った:大量の水で15分以上洗浄し、てすぐに眼科医の診断を受ける

服や皮膚にかかった:すぐにかかった服などを脱ぎ、かかった部分を大量の水で十分すすぐ。痛みや腫れなどの異常があれば速やかに病院で診察を受ける。

飲んでしまった:すぐに口の中を大量の水で洗浄し、病院に行く。無理に吐かせたりしない。

蒸気を 吸入してしまった:すぐに空気の新鮮な場所に移動し、休息したのちに病院に行く。

実験を行う前に使用する薬品の性質に知りたい人は「使用する薬品名(塩酸など) MSDS」と検索してみてください。MSDSとは安全データシートのことです。MSDSには薬品の性質や保管方法、かかってしまった時や火災になったときの対処方法が書かれています。特に化学系に進んで学びたい人は、ぜひ自分の目で薬品の性質を確認するようにしてください。

塩酸だけじゃない!化学の教科書に登場する酸性物質

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ここで改めて酸性の定義をおさらいしましょう。
酸性は次のように定義されています。

アレニウスの定義  水中で水素イオンHを生じるもの 

ブレンステッド・ローリーの定理 水素イオンHを他の物質に与えるもの

酸性の特徴として酸っぱい、リトマス試験紙を赤にするといったものがあります。pHは1〜6になりますね。
酸性の性質はアルカリ性の特徴と合わせて覚えましょう。

詳しくはこちらの記事をどうぞ。

\次のページで「硝酸」を解説!/

硝酸

分子式:HNO3

分子量:63g/mol

無色の液体で、光や熱で分解してNO2を生じる

強酸で、強い酸化作用を持つ

硫酸

分子式:H2SO4

分子量:98.08g/mol

2価の酸

濃硫酸は不揮発性、脱水性を示す粘性のある無色の液体

濃硫酸は加熱すると強い酸化力を持つが、希硫酸は酸化力を持たない

酢酸

分子式:CH3COOH

分子量:60.05g/mol

アセトアルデヒドを酸化することで合成でき、アルコールを摂取すると体内でアルコール→アセトアルデヒド→酢酸と代謝される

強い刺激臭があり、食酢にも3~5%含まれている

塩酸は混合物だった!

塩酸は中学理科からおなじみの酸性の代表格ですね。塩酸は塩化水素の水溶液であり、混合物なのを意外に感じる人もいるでしょう。問題を解くときは注意してくださいね。

実験で塩酸を含め薬品を使うときは要注意です。指導者の指示をよく聞くことはもちろん、自分でも薬品や実験手順についてしっかり勉強し楽しく実験しましょう。

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化学

3分で簡単「塩酸」は「化合物」?それとも「 混合物」?元家庭教師が徹底わかりやすく解説!

化学の基礎の基礎、物質の分類はきちんと理解しているか?物質は混合物と純物質に分類でき、純物質はさらに化合物と単体に分けることができる。

ところで化学の実験によく出てくる塩酸はどれに分類されるかわかるか?今回は塩酸がどんな物質であるかその分類や性質を国公立大学大学院で化学を学んだというたかはしふみかが解説していきます。

ライター/たかはし ふみか

高校生の時は化学部に所属し、大学院では化学を専攻し新エネルギーに関する研究を行う。化学部にいた頃はエクセルの式が使いこなせず電卓で計算していたが、部活を通してデータ処理や研究発表について勉強した経験が大学で役に立った。塩酸といえば大学の学生実験で体積計算で苦労したことを思い出すリケジョ。

物質の分類のおさらい

物質の分類のおさらい

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まずは物質の分類についておさらいしましょう。

物質は純物質混合物に分けられます。化学式で表すことのできるのが純物質で、2種類以上の純物質が混ざった状態の物質が混合物です。純物質には1種類の元素でできた単体と、2種類以上の元素が合わさってできた化合物があります。

空気を例に考えてみましょう。空気は窒素や酸素、二酸化炭素などが混ざった混合物です。そして窒素や酸素は1種類の元素からできている分子なので単体になり、炭素と酸素が化合してできた二酸化炭素は化合物となります。物質の分類についてはこの内容を理解できればOKです。

塩酸はどれに分類される?

では塩酸は混合物、化合物、単体のどれに分類されているのでしょうか?正解は混合物。なぜなら塩酸は塩化水素の水溶液だからです。

理科の実験でおなじみの薬品瓶に入った塩酸は濃度35~37%のものが一般的ですが、用途によって他の濃度のものも販売されています。明確な定義があるわけではありませんが、35~37%の塩酸を濃塩酸と呼び、それを希釈したものを希塩酸と呼ぶことが多いです。25%以上の濃度の塩酸には発煙性があり、うっすら白い煙が上がっています。

ちなみに、10%を超える濃度の塩酸が入った製剤は劇物に指定されていて、その取り扱いには注意が必要です。家庭用の洗剤にも塩酸が入っているものがありますが、その濃度は10%以下となっています。

これを読めば塩酸が分かる!塩酸に関する知識

塩化水素の性質

上で説明したように塩酸は塩化水素の水溶液です。塩化水素は塩素と水素が化合してできた、ハロゲン化水素の1種になります。塩化水素は常温では気体の状態で、その沸点はー85℃。色は無色で水に溶けると強酸となります。刺激臭があることも塩化水素の特徴です。

アンモニアと反応して塩化アンモニウムを作り、白煙が生じます。

塩酸を作るのに欠かせない、塩化水素の作り方

塩酸を作るにはまず、塩化水素を作る必要があります。塩化水素の合成法としては以下の方法が一般的です。

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